『マナナの料理は美味しいですもー!』に殺意を覚える監視の2名 作:気力♪
「結局不寝の番だよ……」
日が昇り、それに伴いウロボロス一行も支度を始めた。
側で寝ているのは目を覚さない。よほど疲れていたことは理解できるが、それにしたって緩みすぎている。私を聖人かなにかと勘違いしていたりするのだろうか?
「そろそろ起きろー」
ブレイドを棒状に変えて突く。反応は鈍い。反射で一撃を放ってくるような輩ではないらしい。何度死ぬかと思ったか分からんぞゴンドウめ。
むくりと眠そうに体を起こした。この……己を二号と呼ぶガキがどんなに倒錯しているのかは知らないが、これからどこに向かうかくらいは聞いておくべきだろう。
「ぶっちゃけどうでもいいんだけど、アンタこれからどうするの? コロニーに帰る?」
「……わからない。コロニーと連絡は、取れない。七号の事も、感じられない。なんで私が生きているのかも、分からない」
「やっぱ行くアテ、ないんだ」
「うん」
どうにも、コイツのコロニーは潰れたらしい。どこもかしこも戦場なのだから不思議ではないが、コイツのことを不憫だとは思う。
「あんたは、ケヴェスだよね。近くのコロニー……コロニー4だっけ? に行けばいいんじゃない?」
「否定します。二号のいたコロニー0は特殊なコロニーで、ケヴェス軍にも存在は知られていません。それに……」
と言い淀む彼女。特殊部隊という事なら、ケヴェス兵の暗殺なんぞもやっていたのだろうか? あのステルス性能を持ったレウニスならそれは可能だ。だからこそ、思わず溢れてしまう。
「……めんどくさ」
と言うとショックを受けたようだ。私を救い主だとかに勘違いなんぞしてるからだ。
「私はアイツらを見なきゃならないからもう行くよ。達者でやんなよ、アンタも」
そう告げて去ろうとすると、服の端を掴まれる。警戒していたが、普通に反応できなかった。分かっていたが、この娘にすら私の実力は劣るらしい。数合わせでもなければウロボロス候補生(補欠)に選ばれなかったのは、伊達であって欲しかった……
「あの、二号は……どうしたら?」
「アンタが決めれば? アンタは今誰からも命令されないでいい、自由って奴なんだから」
「自由って、何? 二号は知らないよ、そんなの」
そんな事は私も知りはしない。けれどなにか言わなければこのまま掴まれたままで、こいつの機嫌が悪い方に転がればあまり愉快な事にはならないだろう。
「……『自らを
「二号の好きに……」
……本当に、どの口が言うのだろうか。先祖からの怨念じみたモノによって戦いを強いられたロストナンバーズに、リイド家の誇りとやらを守れと命じられて押し込まれた私なんかが。
そんな事を考えていたモノだから、口から一つの同情の言葉ががこぼれ落ちてしまった。
「やる事ないならちょっと手伝ってよ。人手が足りなくて仕事押し付けられてるの、今」
「……わかった。自由ってのは分からないけど、分かりたいって思ったから」
私がまごついている間にコイツはついてくる事を決めてしまったらしい。
シティへバレた時のリスクはこの際考えない。私はこの娘に勝てないから、目撃者を排除するというのは不可能なのだから。
同行者が増えることによるリスクは被発見率の向上。ただしこれはあのレウニスの透過迷彩があればお釣りがくるレベルで問題ない。
食料についても、一人が監視している最中に調達を行う事で、解体食料よりは美味しいメシにありつける。
問題はそれなりにあるが、監視任務を続けてシティから離れた暮らしを続けるには同行を認める方が無難だ。
改めて考え直しても、問題は無視できる程度のものでありそうだ。
「で、アンタ。名前は?」
「ないよ」
「なら二号ってのは何さ。製造番号?」
「この鉄騎兵二号機のパイロットだから、二号って呼ばれてた」
「じゃあ二号。さっさと行くよ。ウロボロス連中はどこ行くか想像つかないんだから」
「あなたの、名前は?」
「私はシャナイア、好きに呼んだら?」
現在、ウロボロス連中はアグヌスのコロニーとやり合っている。
高度に組織化され、目的のために柔軟に動けるあの軍略は噂に名高い『コロニーイオタ』だろう。
軍務長の名は『ニイナ』。“コレペディアカードシステム*1”を考案した女傑だ。そのシステムの有用さから、ケヴェス側にもコピーシステム*2が使われている。
尚、シティではシティ外に情報が流れないようにフィルタリングをかけての使用に留まっているが、それだけでも資材の循環効率が倍増したという結果がある。
末恐ろしい女、というのが素直な印象だ。
「シャナイア、これがあなたのコレペディアカード?」
ウロボロス一行がイオタの主力部隊の一つを打ち倒した所で、二号が声をかけてきた。話の流れで私のコレペディアカードを見たらしい。
『瞳』には私の設定したコレペディアカードの情報が映されている。
今私が求めているモノとして設定されているのは、食器と調味料だ。*3
「シャナイアって、意外と食べることしか考えてない?」
「……この任務押し付けられた時、手元に最低限のものしかなかったんだよ」
「本当に?」
「嘘ついてどうすんのさ。それよか、アンタも作っといたら?」
「二号の、欲しいものを?」
「そこの……鉄騎兵? ガタが来てるんでしょ? なら交換パーツとか書いときなって。ケヴェスと接触した時に、運が良ければ分けてもらえるかもよ?」
「けど、二号は」
「それに、アンタのコロニーの仲間が生きてたら、アンタのカードを見つけるかもよ? 期待は薄いケドさ」
そんな言葉を信じたのか、コレペディアカードに欲しいパーツと一つのコメントをつけて流していく。
……当然ながら反応はない。コレペディアカードは、一定期間内に瞳を合わせた相手同士のみで情報アクセスができるモノなのだから。
コレペディアカードの使用許した理由は二つ。二号がメビウスに見つかったのならばそこで休んでいるウロボロス共に押し付けて、コレペディアカード関係の執政官を始末できるだろうから。
正直私の存在がバレるのは仕方がないと思っている。なにせウロボロス一行には『グレイ』というシティ在住で若くて腹黒い奥さんを持っている爺さんがしれっと混ざっているのだから。
あのスーパークッキングノポンの飯を食っている所に銃口を向けなかった私を褒めて欲しい。私を褒める人は誰もいないけれども
「……っと二号、もう少し下がるよ。ウロボロスがコロニーに仕掛けるみたい」
「彼らの目的は? コロニーを制圧してどうするのかわからないんだけど」
「コロニーイオタの追撃を止められるから、かな? あそこの高度な連携から逃げ回ってたら他のコロニーの狩場に放り出されるって事を恐れたんだと思うよ」
他にも、コロニーイオタの物流を味方につけられたのなら親ウロボロスコロニー郡として一つの勢力にできるから、といった目論みもあるだろう。ウロボロスたちの参謀をやっているタイオンという男は、かなり頭が切れるのだから。平時では割と情けないだけだけれもも。
眼前にて、メビウスの一人である執政官のイーが切り刻まれるのが見えた。
コロニーイオタとウロボロスとの戦闘はコロニーイオタ側によるメビウスの騙し討ちにて集結したようだった。
そして、それぞれが未来に進むだの区切りつけるために食事を取っていた。
『カワトリ肉のコルガリ焼き』
あれがコロニーイオタの名物料理のようだった。
カワトリ肉、つまりフラミーなどの川にいる水鳥の肉を、タレなどに漬けてからこんがりと焦げ目がつくくらいに焼いて作る肉料理だ。
ある程度保存食の加工の工程と被らせているようで、遠方から輸送された肉でも美味しくできるようにされているように思える。
「「た、食べたい……」」
だが、まだ耐えられる程度だ。空きっ腹に響くほどの暴力的なものなどはない。
今日は肉を食べようと心に決めたその時、『できましたもー!』と悪魔からの呼び声が響き渡る。
彼女は、コロニーイオタのキッチンを借りて、インスピレーションを受けた料理を早速作り始めたようだった。
そして、その肉汁が作り出す芸術は私たちの食事(なんか適当な肉を適当に塩で食べるモノ)とは一線を画している。
あれは、アルマだ。
アルマの肉の上質な部分に、スキートの蜜をはじめとした甘めな材料で作ったタレをかけ、バジルとランカを添えたもの。
控えめに言って美しい。気取ってなどいない自然体の肉料理でありながら、食欲を掻き立てる肉とソースの凄まじい匂いを撒き散らすアレは紛れもなく兵器だ。
「シャナイア、アレ盗ってきていいよね⁉︎」
「それよりアルマを狩りに行くよ。存在をバラせない以上、アレを食べるには自分で作るしかないからねぇ!」
そういう事になり、鉄騎兵を監視カメラとして置いておいて、私と二号はアルマを狩ってアレを作ろうとう動き出した。
尚、たまたま目の合った凶暴すぎるアルドン(らしき何か)*4をどうすることもできず、私たちはスキートの蜜だけを持って逃げ帰ったのだった。
シャナイアに若干の余裕があるように見えるのは、エックスちゃんとエンカウントしていない事とシティ(家)に関係するしがらみから遠く離れた場所にいるからです。