『マナナの料理は美味しいですもー!』に殺意を覚える監視の2名 作:気力♪
「二号はなんだか大変なモノを見逃したような気がするよ……」
「巻き添えで死にたかったら好きにしたら? 鉄騎兵の中のモノさえ置いていってくれたら何にも文句言わないから」
「いや、あの巨神大決戦の方じゃなくてね?」
といった会話があったのは少し前、敵方の鉄巨神が唐突に仲間割れを始めた時あたりの話だ。何か大事な事を見過ごした気がしないでもない。*1
現在位置はケヴェスキャッスル周辺。大剣の大地がもう間も無くなのでそろそろ
話を聞く限り、連中はいつのまにか*2にキャッスルから逃亡した奴と接触し、
黒い霧の消滅反応を遠くで起こす超兵器らしいので、大体のモノはソレで消し飛ぶだろう。
……ただ正直、キャッスル規模の砲撃なら当たると死ぬのは変わらないので過剰に恐れるのもどうかとは思う。恐ろしい兵器ではあるけれども。*3
とはいえ、そんな事は『今キャッスルから隠れて破壊工作しようとしていた筈なのに、ケヴェスのコロニーに正面から殴りかかってるウロボロス達』という現実に比べれば些事だろう。
褐色の女傑*4が先頭に立っているが、アイツの事を『軍務長』とか読んでる奴がいる気がする。
彼女の堂々とした振る舞い方から見るに、ウロボロスの思想に惑わされて反旗を翻した訳ではないのだろう。……つまり
「どういう事?」
「さぁ?」
さっぱり分からないけれど、他人同士が勝手に争っているのはそんなに悪くない見せ物なのでのんびりと観戦していはいる。
「お、また
「ねぇシャナイア、あれってダウンしてから叩きつけるまでの時間が短いほど威力が大きくなるの知ってる?」
「聞いたことあるようなないようなって所? 私そういうコンボ繋げるのやった事ないし」*5
熟練部隊になるほどコンボが早く繋がるのはそちらのほうがダメージが多いからだろうか? というのはどうでもいい事。個人任務が多くなった*6私にはあまり関係はない事だろう。
さてさて、ウロボロスたちの正面突破は止まらない。コロニー11の精兵達は(主に女傑によって)千切られ投げられて吹き飛んでゆく。
ウロボロス連中は同族意識からかあまり殺しはしていないが、女傑の方は躊躇いなく致命傷まで叩き込んでいく。その度に治癒エーテルでどうにか命を繋いるいるのは割と不思議な光景だ。
……近寄りたくはないけれど、あの『アシェラ』という女は見ていてとても面白い。そしてそれ以上に振り回されてワタワタしているウロボロスは見ていてとても愉快だ。
こういう風に争っている兵士達を無価値かつ面白い
「シャナイア。あれって楽しいの?」
「ぶっ飛ばしてる側は楽しいでしょ。好きに勝手に力を振り回して、しかもそれに手応えがあるんだから」
「けど、やられてる方も笑ってる。あの人とか死ぬ一歩手前なのに」
二号の言葉を聞いて、ぶっ飛ばされている方の顔も見てみる。なんだか『やりきった』感を漂わせている兵士が多かった。え、怖。
「……よし、分かんない。理解しようとすることすら無駄だよ。アイツらはびっきりに頭イカれた戦闘狂、私たちみたいなその場しのぎで生きるクズとは精神性が違うんだよ。多分」
「なんかああ言う人は初めてみたかも。かなりの希少種?」
「アンタはそんな事言えるほどたくさん人を見てないでしょうが。……シティにもああいうのは少ない*8けどさ」
今更ながらではあるが、この戦いを見て二号が『楽しそうだからシャナイアと殺し合おう!』なんて思ったらたらどうしよう。
生後4年経ってない奴に殺しあうことが楽しいとかそういう価値観を魅せつけないで欲しい。アレを楽しめるのは異常者だけで、二号も私も異常者ではない。
……もしやコレが『子供に悪いものを見せようとしない親』の気持ちなのではないか? と思う。
二号は私の子供ではないし、なんなら仲間でもない。距離感を間違えているただの兵士。間違えてはならない。
私と同じで『自由に生きる』が分からない、兵士なのだ。
「……ねぇシャナイア、私たちもちょっと
「……遊び感覚でんなこと言うな。2秒で死ぬよ、私が」
「えー?」
「ブレイド出すなって。危ないんだよ」
間違えたら、こんなじゃれあいで傷を負うことになるからねぇ……痛い。
異常者の振る舞いを真似しても、異常者達のように強くはなれない。
奴らの用に好きに死ねとは誰でも口に出せる。けれど『己は好きに死ぬ』と心に決めて貫き通せる者がどれだけいるのか。
少なくとも他人の不幸を笑っている小さい人間にも、考える事を放棄して今の楽しさに溺れている奴にも不可能だ、とは言い切れる。
私らみたいは普通の人間は恐怖で震えて、あんな『強い生き方』なんてできる訳がないのだから。
コロニー11での戦闘は終結し、ウロボロス達は旅立った。
流石に正面突破はやめたのか、コロニーの解放と共に逃げるように先に進んでいる。一応隠れるつもりはあるようで、キャッスルの裏からロープスライドなどで回り込んで侵入するらしい。
とはいえ長距離移動なので途中で休息は挟む。いつも通り、楽しそうな食事と共に。
「さてさて! きてしまいましたねシャナイアさん! マナナ’sキッチンのお時間が!」
「……二号、そんなにあのドレッシングに味をしめたの?」
「もちろん! あんなに美味しいのは生まれて初めてだもん! 何事もやってみるもんだよね!」
昨日、不幸な事故*9で私たちの荷物の中に紛れ込んでしまったマナナ印のドレッシングはちょびっとだけ残っている。ので、食事は美味しく食べられると踏んでいた。
……当然、甘い考えだった。
「煮込み料理だとッ⁉︎」
「シャナイアどうしよう! ブレイドで誤魔化せるのってフライパンくらいだよ! 今から煮込むための鍋は作れない!」
「そうだ! レウニスの装甲を曲げれば!」
「レウニスの装甲だとあんまり熱が通らなかったじゃん! ケヴェスもアグヌスも一緒だよそう言う所は!」
私たちの調理は基本的にあるものと拾ったもので騙し騙しでやっている。
なので基本的にスープ類は水筒に熱いもの*10を入れてやってたり、フライパンをブレイドの盾部分で代用していたりする。
つまり、鍋はない。(作ろうと試行錯誤したが、レウニスの装甲は案外鍋には使えなかった。エーテルを逃す構造だからか火があんまり通らないのだ)
鍋の中にアルマの熟成サーロインを入れて! 長時間じっくりコトコト煮込む類の料理など! できるわけがない!
「どうしよお腹空いてきた! もうお肉焼いて食べようよ!」
「そもそも肉は無いよ! 前手に入ったの*11は保存できなくて、埋めるしかなかったんだよ!」
「やっぱり、鉄騎兵に冷蔵庫が有れば!」
「そうだね私もそう思う! アンタの命で動く冷蔵庫の是非はともかくさぁ!」
潜ませた声でギャーギャーと言い合う。割とよくある私たちのコミュニケーションで、被発見リスクを爆増させる馬鹿な行為だ。
そんな風に馬鹿をしたくなるほど、人間は食欲に支配された生物なのだろう、多分。
まぁ、馬鹿話は置いておく。どうせあるものを食べるしか無いのだし。(ケヴェス軍のお膝元で、野生の食える生物など存在しないエリア。一応モルクナで食べれるものは調達はしたので食事は抜きではない」
「そういや、シティの連中がやらかすの何時だったかな?」
「確かシティってシャナイアのコロニーだよね?」
「……そんなこと言ったっけ?」
「コロニー0にいた頃、そんな感じの奴らを殺せって命令されてたから。シャナイアってケヴェスもアグヌスも嫌いみたいだから、そうなんじゃないかな? って」
……今更ながら無視してきたツケが来る。
二号はその場のノリで生き方も死に方も無視できる人間だけれども、決して馬鹿ではない。
ぬるま湯の関係をなぁなぁて続けてきたが、そろそろはっきりさせておくべきなのだ。終わりは、もうすぐ来るのだから。
「……ウロボロス達の監視任務ってさ、そろそろ終わるんだ」
「大剣の大地はもうすぐだもんね」
「だけど、アンタをシティには連れて行きたくないよ、私は。任務終わりで回収される時が、お別れ」
「……シャナイアは、私を連れて行ってくれないの? 私が嫌いだから?」
「……嫌いじゃ、ない」
「だけどアンタをシティに連れて行ったらお互いに嫌な目にしか合わない。私は無駄な罰を受ける事になるし。鉄騎兵から降ろされて、弱った所を殺される事になるの、アンタは」
「それが、シティ? ウロボロス達が目指してる所?」
「現実逃避が趣味の爺さん婆さんが幅を利かせて、夢想主義の気狂いが兵士を束ねた所。メビウスに直接支配されてはないだけで、やっぱり地獄だよ」
「そんなところに、シャナイアは居たいの?」
「他で生きていけるほど、強くないんだよ。私は」
もしどこかに逃げ込める場所があるのなら、逃げ出したい。けれどそんなモノはどこにもないので、死にたくないならどこかのコミュニティに帰属するしかない。
「私のことじゃなくて、アンタの事。ウロボロス連中に解放されたコロニー。あの辺のどっかなら転がり込めるんじゃない? コロニー30とかなら鉄騎兵を持ち込めば良い待遇になれるでしょ」
「……その後は?」
「アンタの『自由』だよ。今まで通りね」
その日はそんな会話を最後にした。二号が『自由』を選べない事など、理解できているのに。
翌日は、ロストナンバーズによるキャッスル急襲がある。ウロボロスが
私は、先行して対空防御に変化がないかを見る役割だ。増員の可能性もある以上、仲良しこよしの二人旅はここまで。そうしなければ二号を排除しなくてはならなくなる。
「……殺されておけばよかった、かな」
────人間には、いつだって投げ出す権利が残されている。その先の全ての幸福と引き換えに、今感じている不幸や苦しみから逃げ出す選択肢が、たった一つだけ。
ただしそれは途方もなく恐ろしく、選ぼうと思って貫けるような『強い奴』でない私には、それすら選べないけれど。