日輪の剣士   作:紅椿_

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出来るだけ週一で投稿したかったんですが、やっぱり無理でした。
諦めてのんびり自分のペースで書いていくことにしました。


第参話:刀鍛冶

 晴れて鬼狩りとなった晴哉は先程の女中の案内で屋敷のすぐ傍にあるという刀鍛冶の里に出向いていた。

 温泉と藤の花の匂いが漂う中、里の奥まった場所にある里の長の家を訪ねる。

 

「ようこそいらっしゃった、お客人。儂はこの里の長の透鉄(とうてつ)(はがね)。よろしゅう」

「私は晴哉という。新たに鬼狩りに加わった為、刀を打ってもらいに来た」

 

 ひょっとこの面を被った護衛であろう二人の男に挟まれて座る、これまたひょっとこの面を被った小柄な男。

 

「うむ、産屋敷様より聞いとるよ。お客人、神職の生まれだったそうだね」

 

 頷く晴哉に、突然立ち上がった透鉄が思わぬ速さで距離を詰めてきた。

 思わぬ突撃だったが、予め見えていた晴哉は敵意はないと放置を決め込む。

 突き出したひょっとこの口が晴哉に触れそうになる程に近づいて、その朝焼けの瞳を覗き込まれる。

 そのくりぬかれた目ん玉の部分から黒々とした透鉄の瞳が見れる。

 

「ああ、以前の話ではあるが」

「いいや、いいや、以前の話であろうと何だろうとその身体に流れる血は変わらん!天照大御神に仕える神職の生まれに、朝焼けの目。不思議な雰囲気を纏っておるが、なにはともあれ実に縁起が良い!」

 

 興奮冷めやらぬままに透鉄は晴哉の肩を掴んだ。

 慌てて護衛が引き留めようとするが、もう遅い。

 

「お前の日輪刀は儂が打ってやろう!!」

「長!!?」

「貴方が打つって、柱の方々の刀はどうするのですか!」

「柱のも打ってこいつのも打てばいいだろう!!」

 

 刀鍛冶の里は完全な実力主義であり、刀鍛冶たちの中でも一番刀を打つのが上手い者が里の長となる。

 長は古来より、柱と呼ばれる九人の実力者の刀を打つことを義務付けられていた。

 代々柱の為だけに刀を打ち、柱以外の侍の刀を打つことはこれまでなかった。

 

「そんな事は今まで一度も……!前代未聞ですぞ!!」

「うるせェ!!前代未聞が何だってんだ!変化がなけりゃあ進化なんぞねェんだよ!!!」

 

 産屋敷家が抱える刀鍛冶たちは相当な実力者たちの集まりなのだが、揃いも揃って個性的な面々で、一度決めてしまえばどれだけ止めようとも抑えようのないほどに暴走する。

 そんな刀鍛冶たちを纏めているのが長である透鉄であり、彼の言うことには誰も逆らわない。

 しかし、そんな個性的な面々の中でも一等個性的で、一度決めてしまえば何があっても言うことを聞かないのも透鉄である。 

 ついでに言えばこの透鉄、今でこそ落ち着いている(様に見える)が若い頃は荒れに荒れており、〝刀狂いの鋼〟と呼ばれる程だった。

 

「こいつの刀は俺が打つんだ!!」

 

     ☆

 

 二人の護衛を呆れさせるほどに駄々をこねた透鉄は、とうとう晴哉の日輪刀を打つことを承諾させた。

 そも、里で一番偉いのは透鉄だから誰にも透鉄を無理やり止める権利などは持ち合わせいないのだがそれは置いておいて_

 

「すまんかったな。恥ずかしいとこを見せた」

「いや、気にしなくていい。それ程までに私の刀を打ちたいと思ってもらえたのだから」

「やはははは。ああ、そうだ。日輪刀の詳しい話を聞かせてやろう」

 

 目には目を、歯には歯を、蕎麦の話は蕎麦屋に聞いて、刀の事は刀鍛冶に聞かねばな、と分かるようで微妙に分かりずらい事を言いながら透鉄は立ち上がった。

 どうやら日輪刀の事を話しながら里を案内してくれるらしい。

 

「日輪刀の話は誰にどんなもん聞いた?」

「頸を斬ることで陽光以外に唯一鬼を殺せる刀だと、東郷殿から」

「そかそか、日輪刀は太陽に一番近く、一年中陽の射す〝陽光山〟という山で採れる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石という日光を吸収した特殊な鉄で作られる」

 

 あの遠くに見える山のてっぺんが陽光山だと、南に指された先を見る。

 はるか遠くに、雲ひとつかからない天までそびえ立つような山があった。

 

「陽光をたっぷりと浴びた玉鋼はなぁ、取って暫くしても暖かいんだ」

 

 透鉄は〝刀狂い〟の名に恥じぬ程のうっとりとした顔で陽光山を見詰めた。

 〝刀狂い〟は刀のみならず、刀をつくる鉄やその鉄の取れる山にすらも熱を上げているらしい。

 

「まぁ、そんな鉄でできた刀で頸を斬ることのみが陽光以外で唯一鬼を殺せる方法だ」

 

 晴哉と透鉄は並んで歩き、その後ろを二人の護衛が続く。

 刀鍛冶の里は長の透鉄を筆頭に変わり者が多いが、その刀に対する情熱は確かなものだ。

 そこかしこにひょっとこの面を着けた者がおり、刀やおそらく玉鋼であろう鉄を手に井戸端会議を繰り広げている。

 

「儂らは鬼を殺すことは出来ん。だがお前さん達が儂らの打った刀を手に夜々戦ってくれることが、儂ら刀鍛冶にとっての誇りなんじゃ」

 

 里に住む刀鍛冶の大半は、長い間産屋敷家に仕えてきた者たちだ。

 だが決してそれだけではない。

 鬼の被害を受けた者が全員侍になれる訳でもなく、泣く泣く刀鍛冶になった者もいる。

 

「昔はな、己で刀を振れんことが、己で鬼を殺せん事が許せんかった」

 

 透鉄もその一人だ。

 鬼の岩のように硬い頸を斬るには、身長も、筋肉も、才能も、何もかもが足りなかった。

 

「先代の御館様が人には必ず役割があると言うたんじゃ。儂には鬼の頸は斬れん。だがお前さんらの様な者の手伝いは出来る」

 

 それが儂の役割だ、と言った透鉄はひょっとこの面を被っていてもわかるほど優しい目をしていた。

 

 鬼狩りたちは刀鍛冶たちの願いを背負って鬼を狩る。

 刀鍛冶たちは鬼狩りたちの覚悟を背負って日輪刀を打つ。

 何方も片方だけでは生きてはいけないのだ。

 

「……」

 

 晴哉は何かを言おうとして、口を閉じた。

 幸運にも体格に恵まれ、鬼狩りとなることの出来た晴哉には透鉄の気持ちは分からない。

 そもそも透鉄は晴哉の慰めの言葉など求めてはいないのだろう。

 

「どうかしたか?」

「いや……私は、貴方のような人に刀を打ってもらえて幸運だと」

 

 苦し紛れの言い訳だろう。

 きっと透鉄も晴哉が言いかけたのはそんなことでは無いとわかっていたはずだ。

 

「あったりまえだろ、馬鹿野郎。この透鉄鋼様にお前のような新米が刀を打ってやるなんてそうそうないんだからな!」

 

 それでも、何も気づいていないフリをしてくれる貴方は、本当に優しい人なのだろう。

 

     ☆

 

「さて、そろそろ玉鋼を選んでもらうとしよう」

 

 里の案内が終わるころにはもうすっかり日が傾き、地面に長い影を落としていた。

 まるでその時を読んだかの様なタイミングで小さな影が駆け寄ってくる。

 

「お師匠様、玉鋼の支度が出来ました」

「おう、丁度いいな。晴哉、コイツは(いこい)。儂の弟子だ」

「…どうも、鬼狩りのお侍さま。鋼塚憩です」

 

 師匠である透鉄に諭されて名乗りはしたが、憩は決してよろしくとは言わず、まるで見定める様にじっとりと晴哉を見ていた。

 人によっては見下されている様にも見えるその態度は憩なりの抵抗だった。

 代々柱にしか刀を打たない師匠でもある里の長が、柱ではない_それも新入りの_者に刀を打つというのだ。

 透鉄が認めたとしても自分は認めない、そう憩は思っていた。

 

「姓は捨てた故ないが、名は晴哉という。どうぞよろしく頼む、鋼塚殿」

 

 そんな憩の態度にも腹を立てることなく、晴哉は始終穏やかだった。

 こんな些細な事で腹を立てるような器の小さな男なら堂々と相応しくないと言ってやろうと思っていた。

 だがしかし、これではまるで己の方が小さな男みたいではないか。

 憩は面の中でひっそりと顔を顰めた。

 

「さ、行くぞ」

 

 憩の思いを知ってか知らずか、そう言ってさっさと歩き始めた透鉄を晴哉と憩、更にその後ろを二人の護衛が追う。

 目当ての場所はそう遠くはなく、透鉄はすぐにとある蔵の前で足を止めた。

 熱気で満ちていた鍛冶場とは全く違い、静かでひんやりとした空気が漂っている様にも感じる。

 里の中で見たどの蔵よりも大きく、正面には頑丈で重たげな扉が鎮座している。

 その扉を二人の護衛がゆっくりと開いていく。

 

「どや、凄いだろ」

 

 蔵の中には、数百、千にも届くほどの大量の玉鋼が納められていた。

 晴哉は透鉄に導かれてその圧巻の景色の中に足を踏み入れた。

 大きいもの、小さいもの、光を反射するほどに透き通るものや濁ったものなど、一つとして同じものはない。

 

「この中から一つ、選んでみろ。直感で選ぶも良し、一つ一つ吟味して選ぶも良しだ。どれだけ悩んでもいい。それがこれからお前の相棒になるんだからな」

 

 晴哉は数百もの玉鋼の中から己の直感と眼を信じ、たった一つの玉鋼を選び取った。

 拳三つ分程の大きさの、澄んだ空気の中に一房の朧雲のかかった様な玉鋼だった。

 晴哉の選んだ玉鋼を見て、透鉄は満足気に笑った。




原作と同じように玉鋼という言葉を使ってますけど、この時代ではまだ玉鋼とは呼ばれていなかったらしいです。
なんて呼んでたんだろう…?
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