[悲報]中世で書いた黒歴史ノートが、次現代に転生したら予言書扱いされてた 作:山田太郎2号機
予言。それは浪漫。
辞書によると、予言とは『ある物事についてその実現に先立ち予め言明する事』とあり、予言書とはつまりそれを記した書、もしくは媒体を指す。例を挙げると、あのノストラダムスやらマヤ文明やらが残したとかいうアレの事だ。
ただ予言を聞く分には浪漫溢れる話だし、何なら悪い予言でない限り幾らか的中すると良いな、と期待もする。しかし悲しいかな、実際は案外その実在が危ぶまれているのが現状だ。
先程のノストラダムスの予言を例に挙げると、ある章にて彼は、1558年6月というかなり明確な時代を指定した上で、その時代に生きているとする“アンリ二世”に向け手紙を遺した。そして実際の1558年、当時のヴェロア朝フランス王の名は“アンリ二世”。――成る程、これだけ聞けば確かに大予言だ。
だが驚くなかれ、その第二序文が追加で収録された『ノストラダムス予言集』が初めて出版されたのは、予言と同年の1558年の事である。他にも、現在においてノストラダムスが明確な日付まで指定している予言の文章は、実は彼の死後、増補という形で突如詩集に加えられたものが殆どだった。そうなると本当に彼自身によって書かれたものか、疑問に思わざるを得ない。ちなみに実際に生前に出版されたのは一部の百詩編と息子へ宛てた手紙だけとされ、その詩編に書かれる予言は、その尽くが何時かも分からない遠い未来としか分かっていなかったという。
故に、彼が参考にしたと思われる文献も多数明らかになった現在では、彼の詩集は“予言書“という立ち位置から、百科事典的精神に基づく“科学詩”の一種であるとして考察されている。
本題に戻ろう。
要は彼らの主張が予言と呼ばれるのは、大抵が後世による書き足しか、彼らの残した文の一部が結果的に現代迄に世界中で起こった事件のうち、幾つかを思わせる描写になっていたからだ。別に数千年も前から、何年の何月何日にこういう事が起こる、とピタリ言い当てていた訳ではない。
時代によっては割と本気で信じられていたかもしれないが、今や21世紀。何でも機械と電気、インターネットで解決出来る時代において、彼らの予言を与太話以上に捉える人はもういないだろう。
予言とは即ち、後世の人がこじつけた空想の一種。それが世間の回答だった。
しかし、もしその認識を覆すほど明確に物事を言い当てた予言書が見つかったらどうだろうか。
出来事のみならず、将来出てくるであろう技術、文明、国の詳細等、当時知るはずも無い情報が事細かに記され、しかもその尽くが的中した文書が、本当にあったとしたら? そしてそれが迫り来るいくつかの大災害すら予言していたら?
これは、一人の男がその限りなく予言書に近い文書を求め、その内容の真実を追う話――
――ではなく。
生前適当書いた黒歴史ノートが現代になって今さら見つかったものだから、それが世に出回る前にどうにか消し炭にしてしまおうと頑張る男の記録である。
・・・
「先生、マジに見つかった資料ってこれだけなんですか」
「無い。仕方ないだろう、お前も彼がマイナーな部類だって承知の上で、卒論のテーマに選んだんだろうに」
そうやって渡されたのはぺらぺらの紙束。数枚しか無いその中身は何かの書籍のコピーなようで、印刷で若干薄黒くなった紙面にはけったいな文字がつらつらと書かれている。
卒論のため、数日前からこの教授にはある詩人の作品や関連資料がないかお願いしていたんだが、結果がこれは流石に聞いてない。
聞けばこれが教授の所有する彼の作品全てとのこと。おかしい、これじゃ10作にさえ届かない。
前世が本人ということで、その記憶を元に卒論適当書いて、あとは色々楽してやろうと一応引用元だけ捜したら、まさかの材料が圧倒的に不足していた。こんな状態で適当書こうものなら根拠不十分で書き直し、最悪テーマ替えだ。どちらだろうと、今さらやっても地獄なのは明白。
「にしたって少なすぎません? 作品だって俺が覚えてるだけでもこの倍は――」
「倍?……多分他の人の作品とごっちゃにしてると思うぞ、それ。彼の発表した作品は、渡した資料ので全部だ」
「……え?」
「
そう語る教授の顔は真面目そのもので、とても嘘をついているようには思えない。
――ということはマジか。本当にこれしか無いのか。
「えぇ……」
正直割とショックだった。確かに当時から人気は皆無に等しかったけど、まさか現代でもそう変わらない評価とは。『向日葵』を描いた彼のように死後爆発的な人気を、なんて高望みはしないけど、時代と共にちょっとくらいは……なんて思ってたら、まさかの発表作の殆どが闇に葬られてる始末である。
いや、にしたって残った作品が本一冊どころか一章分の文量以下って――あ。
「……どうした? 今度はやけに落ち込んで」
「……いや、一度あんだけイキリまくって痛い目見ておいて、まだ何か調子乗ってた自分がいたのが恥ずかしいというか何というか」
「? 何言っとんだお前は」
――そうだ。考えてみればあの時代、先の革命で多少減りはしたが、それでも詩人物書きはごまんといた。
やれ宗派がどうのと規制が厳しくなったのもあの時期だ。時代の変化と同期の目覚ましい躍進の陰で筆を折った才人も少なくない。この作品群にしたって今こうして残っているだけまだマシだ。
……というかあの時嫌と言うほど自分の非才を知っておいて、まだ調子づける余裕があったとは、俺。
当時の俺をぶん殴りたい。何が“現代知識とかいうチート持った自分なら余裕で無双ッスわwww”だ。中世物書きの表現力ナメんなボケ。全く恥ずかしいったらありゃしない。おまけに散々両親に迷惑掛けまくって、挙句最後には――
「……先生、急に死にたくなってきたんで近くに樹海あったら教えてくれませんか。ちょっと行って吊ってきますんで」
「……いや、数少ない研究生をみすみす見捨てるほど私も腐ってないぞ」
「ハハ、冗談ッスよ。――ところで先生、近くのホームセンターって何処ですかね。ちょっと室内でサンマ焼きたくなって」
「おし今ココにいるゼミの奴全員ロープ持って集合。コイツ椅子に縛り付けろ」
その日俺は教授と他のゼミ生にふん縛られ、一日研究室に閉じ込められた。なんと夜中は教授と二人きり(監視)、わあなんてロマンチック。
教授。俺とアンタの性別が逆なら確実に捕まってますぜ、アンタ。
「先生、何時になったら開放してくれるんですか」
「馬鹿お前、ウチの研究室から自殺者なんて出てみろ。指導責任とか問われるのは私だぞ。それもこのクソ忙しい時期に」
「義務教育でもなし、大学側が適当に流すんじゃないですか」
「それでも若手相手だと色々言われるんだよ。色々」
そう言って溜息をつく姿は何とも哀愁漂う。界隈だと結構著名な人だと聞くが、やはり学壇で女性、それも若いと来れば相応に大変らしい。
――というか俺の心配じゃなくて自分の心配してたのか。文系の教授は教師に非ずとは良く言ったものだが、この人も例外じゃなかった。教師失格だ。
「……ん? 先生、それ」
やる事もないので取りあえず首を回して研究室の本棚を眺めていると、ふと彼女の持つ手の資料に目が行った。
「? どうした」
「いや、ちょっとその、先生が持ってるやつに何となく既視感が」
「ん、コレか? いや、しかしそれは……」
「や、既視感って言っても、多分気のせいだと思うんですけど。……あー、もしかしてそれって、発表前で伏せてる論文だったり?」
「や、違う、私の研究じゃない。それに見られたところで全く問題ないんだが……」
教授の歯切れが珍しく悪くなる。何時もはどんな質問にも要領よく伝えてくれる人なので、ここまで言い淀むのは珍しい。
本当に『なんかそんな気がしないでもない』レベルのふわっとした既視感だけど、そこまで言い淀まれると無性に気になるのが人のサガ。座りっぱなしで暇だったのもあり、もうちょっと踏み込んでみる事にする。
「じゃあ何ですか、それ」
「いや、その。……誓って言うが、私は全ッ然信じてないからな?」
「はあ」
なんかよく分からん前置きをされたので、とりあえず心底馬鹿にしたような相槌を打ったら引っぱたかれた。割と痛い。その拍子に床に散らばる件の資料。――成る程、知りたきゃ拾って読め、と。
これ見よがしに溜息をつきながら紙を集め、ごちゃごちゃになったページを整理する。見たところ俺が昼に受け取ったものと同じく、何かの古い文書のコピーらしい。
「知り合いから送られてきてな。最近ヨーロッパの民家で見つかった、作者も版元も解らん奇書だそうだ。曰く、内容は予言書らしい」
「予言書」
「ああ。で、そいつ曰く――その、本物? じゃないかって言っててな」
「……ッハ」
「や、私は信じてないぞ? ……でも、ソイツも冗談を言う性格じゃないし、どうも気になってな。こうして写しを送って貰ったんだが――恥ずかしながら全然読めん」
「確かにボロボロですね。日に焼けてインクが掠れてるし、何より字が下手過ぎる」
「いや下手ってお前――もしかしてコレ、読めるのか」
「え。……あぁいや、他の作家の手紙とかに比べると何となくそう見えたというか。ホラココとか、よく分かんなくて最早毛玉みたいな字してますし」
「あー……成る程」
危ない。つい口が滑ったけど、何とかごまかせたので良し。現代の筆記体程度ならともかく、400年前の文法やら単語やらが入り混じる走り書きを、普通一介の大学生如きが理解出来るはずも無いからな。
とはいえ何となく文字は分かっても、今や生粋の日本人な俺では内容まではもう殆ど分からない。さっきの既視感はやっぱり気のせいだったらしい。
これ以上持っていても仕方ないので、さっさと元のページ順に拾い集める。元から枚数は無かったので、あと残ってるのは表紙のコピーだけだ。
「っしオッケー。これで最、ご――」
だが、ちょっと気になって表紙のタイトルを頑張って読もうとしたのがマズかった。
「え」
一瞬思考が止まる。だが考え直し、いやいやまさかと首を振った。
多分訳し間違えたんだ。もしくは疲れて見間違えたか――
「…………。」
「おいどうした。そんなチラシの中にNHKの請求見えた時みたいな顔して」
よく分からない事を抜かす教授は無視し、ミミズもこんな絡まり方しないレベルのヘッタクソな文字の訳をもう一度し直すが、意味は変わらない。
その書かれた文を、かつて俺は見た事があった。というか俺は、この題名をした本を一冊知っている。
――あっるぇえ? てか改めて見たら何かもの凄く見覚えのある字だぞぉ?
「……先生」
「何だ」
「先生の知り合いの方って、この題名について何か言ってましたか」
「え? ――ああ。字の癖が強いのと、当時のどの言語の文法からも異なる法則で書かれているから解読は難航してるらしいが、ひとまず題名だけは分かったと言っていたな。えっと確か――
――“私の頭の中の記録”」
拝啓、天に召します我らが父よ。
いくら信徒への試練って言ったって、人が昔ノリで書いたイキリこじらせ黒歴史ノートを数百年越しに他人に見せちゃうのは流石にやり過ぎやしませんか。
・主人公
転生者。どっかしら平行世界の現代→中世→現代と、都合三度目の人生を謳歌中。
クズなので中世に転生時、現代知識で凄え作品バンバン書いてやるぜええええと現代の名作を多数パクって作品を出した結果、時代に合わないのと表現力の圧倒的不足により見事に干された。それが割とトラウマで卑屈になり、二度目の現代では割とまとも。でも自業自得。
・教授
女性。若い。美人。ついでに彼氏募集中。
以上。