メギャンッ!!
特徴的な擬音。だが、その音を気にしたものは居なかった。彼の目の前で怯える男ですら、『それ』が握られた右手に目を向けることはなかった。
「ゆ、許してくれぇ!」
「そーゆー訳にゃぁ行かねぇなぁ、お前を殺せなかったら首が飛ぶのは俺の方だ」
西部劇に出てくるガンマンのような風貌をした男。しかし、彼の両の手は空いていた。
「オメーに恨みはねえが……ま、俺のためにも死んでくれや」
そう言い放ち、銃のように曲げた右手を突き付ける。
「ま、待ってくれ!娘が、娘がいるんだ!」
「……」
ガンマンは右手を額に突き付けたまま、動かない。
突き付けられた方の身としては何刻もたっているかのように冷汗が噴き出る。
数分のうちに、続きを促されているのだと悟った男は、少しずつ口を開いた。
「ら、来月の頭が娘の誕生日なんだ、そこにある箱の中身はその時に渡すプレゼントなんだ……」
「……へえ、ならその箱を開けるんだな。ただの誕生日プレゼントなら、開けても問題は無ェはずだよな?」
「あ、あぁ……おまえが開けてくれ、これがカギだ」
男はポケットから鍵を取り出し、ガンマンに見せる。
ガンマンは少し考えた末に、男から鍵を受け取った。
「そうかい……因みに、俺は知ってるぜ?」
「……何をだ?」
ガンマンは窓に掛けられたカーテンを開けた。外からは小さい明りが部屋に差し込む。時間としては早朝のようだった。
ガンマンは朝日が昇る方向をじぃっと見つめて右手を掲げた。一般人には知覚できない『ソレ』が握られた右手を。
「お前に娘は居ないってことをよォ」
肘を曲げて衝撃を殺す体勢。それと同時にガンマンと朝日を遮っていた一枚の透明なガラスが音をたてて玉砕する。
その光景に、一度は怯えた男だったが、傍らに落ちていた夥しい数の死体の中からライフルを構えてガンマンの方を向きなおす。
「テメェ、コケにしやがって!俺の仲間も全員死んだ!そのツケはあの世で払ってもらうぜェッ!!ギャァハハハハハアァァッッ!!!」
アイアンサイトを覗き込む男。その男が脳漿を自身の正面にぶちまけることになったのは、その数瞬後であった。
「俺のはよォ、弾丸だって『スタンド』なんだぜェ~っ……尤も、お前に理解できる要素も、脳ミソも残ってねぇだろうがな」
ガンマンは男に振り替えることも無く、男の持っていた鍵とケースを抱えて、部屋を出た。
──────
「これか?依頼の物は……」
「恐らくな。これ以外にそれらしきモンは見てねえよ」
「そうか。よくやってくれた……やはり君は優秀だな、ホル・ホース君」
ガンマン、男の名はホル・ホース。裏の世界では良く知れた顔だった。何せ、本名で裏の世界を渡り歩く男は、どこの国を見てもただ一人だけであった。
ということを抜きにしても、暗殺の腕が立つと、その界隈では広く知られていた。
「じゃあな」
「ああ、また」
二人の間柄は特別親しいわけではなかった。契約が切れた今、ホルホースの歩みを止めるものは居なかった。
これが、殺し屋としてのホルホースだったのだ。
店を出たホルホースを真上に位置する太陽が照らした。真昼の太陽を覗き込んだが、すぐに痛くなり目を伏せる。
「しっかし、
そんな彼は、仕事が無くなり、時間を持て余しているように、路上に座り込みその事件とも呼べるものを思い出した。
三年前、──
ホルホースは三つの時計を腕に巻き、仕事をしていた。
ラジオを聞けば、たまに空条承太郎の名前が出てくる。今は海洋学者となり、SPW財団とも親密な関係のようだった。
受ける仕事は大抵が用心棒。もし俺が殺したなんざ承太郎が聞いてしまえば、あのDIOを殺した『
それを想像するだけで玉が縮み上がっちまうように体が震える。
なので、更生したわけでもないが殺しをすることは今では殆どなくなっていた。
そんな風に護衛をしながら日々カネを稼いでいたホルホースだったが、ある日地面に取り込まれ、気づいたらイタリアに居たのだ。
ぶっ飛んだ話だが、スタンドがやったと思えば何ら不思議にも思えてこなくなる自分が怖い、そう思い眉をひそめたホルホースはイタリア市街を散策、出来なかった。
ホルホースの戸籍が無かったからである。そしてホルホースはアメリカにSPW財団、何より空条承太郎が存在していないことを確認していた。
故に彼はカネを稼ぐため、もう一度殺し屋をすることに決めたのだ。
そんな彼だが三年も殺しをし続け、今となっては賞金首が掛けられるほどになってしまった。
しかしホルホースはそう悲観しなかった。
「『スタンド』を知るのは俺だけ……承太郎やDIOのようなパワーのスタンドじゃあ無くても、一般人に見えねぇなら負けねぇぜ」
ホルホースは既にこの世界がスタンドのいた元の世界とは別の世界であると悟っていた。
「どこ行くかなぁ。あの承太郎を生み出した日本に行くのも悪くねぇな、ガールフレンドでも作ってよォ!」
──────
「この風貌、恐らくホルホースと思われます」
「姿を
「現在の居場所は延空木前です。近くには四名のサードが居ますが、如何しますか」
楠木司令、と呼ばれた人間はデスクに肘を突きながら目を画面から落とす。
(ホル・ホース、年齢不詳の大男……情報は少なく、コイツとやりあった死体は全員銃弾をぶち込まれている……にもかかわらず、
「待機だ。国外ではブラックリストだが、この国で犯罪を犯したわけではない以上裁くことは出来ない」
「了解しました。ミカの方には」
「伝えろ」
「畏まりました」
受話器を手に取る秘書ををぼんやりと眺め、すぐさま目下の資料に目を落とす。
戸籍が無いため暗殺者になった可能性大。そう記されている。
そう、この世界にホルホースの戸籍はない。いくら裏の世界で自身が本名だと言おうがそれを馬鹿正直に信じる純粋な人間は裏社会には存在しなかった。
再度目線を上げる。
このDAにおける情報戦の心臓と言える人工知能「ラジアータ」が映し出す画面に、ホルホースが空港を降りる際の映像を流していた。
その映像は東京支部、リコリコの方へも流される。
(いくら世界最高峰のガンマンであろうと、得物が『銃』であるうちは、千束には勝てん。暗殺の取引をしたその時が、ホルホース。お前の最後だ)
──────
小さな和室で一人の黒人が立ち上げたパソコンを、その部屋に居た五人が眺めていた。
画面に映るのはテンガロンハットをかぶった大男。どうやら空港の係員と揉めているみたいだ。
「これが、あのホル・ホース……?」
「知ってるのたきなー!?」
「少し前に……あぁ、そのころにはリコリコに来てたんでしたっけ、千束は」
「へぇ~!本部で話になってたの?」
「いえ、京都支部に居た頃に少し話になりまして……なんでも、凄腕のガンマンらしいです」
「えぇ~っガンマン!?こんな時代にも居るんだ!凄いねたきな!」
「そういう話ではありません」
たきなと呼ばれた黒髪の少女は、今一度思考に陥る。
「確かに西部劇とかに出てきそうな見た目ではありますが……」
「本部が言うからには間違いないんだろう。さ、今回は目を通すだけだ。本来なら今は営業時間、10分開けただけでも客には迷惑だ。さぁ、戻るぞ」
黒人の男がそういうと、解散し、各々が自分の位置に戻る。そうして今日も平和に、喫茶リコリコは人々に笑顔をお届けするのであった。
「いらっしゃいま──」
「よォ、邪魔するぜ」
渦中の男が現れるまでは、平和だった。
「日本の喫茶店ってこんな感じなんだなァ」
今日は日本の観光ついでに美味い珈琲が飲めるって評判の店に来ちまった。まぁ、金はたんまりある。一月ぐらいなら楽しく遊べそうだぜ。
仕事もすりゃあ日本に長期滞在だって出来るだろうが、あのぶっ壊れた平和の象徴とやらを見てたら、そんな気も起きねぇな。
適当にカウンターに構えられた椅子に座る。
「いらっしゃいませ。メニュー表です。何にされますか」
……オイオイ新人かぁー?随分固いじゃねぇ……オオッ、これが本場の大和撫子……四、五年後が楽しみだ……って、そうじゃねぇ。
「ホットのアメリカンコーヒーとこの、クリームゼンザイってやつを」
「……畏まりました」
しっかし、看板娘二人ともカワイーねぇ、五年後またここに来るかなァ。五年後もやってる保障なんてねぇけどよ。
そんなことを考えながら恐らく配膳しにいった看板娘を目で追いかけて、ふとカウンターの奥を見る。
和服に袖を通した黒人だ。俺的に見れば若干アンバランスな感じがしなくもないが、普段から着こなしているんだろうか、さして違和感はない。
(日本が好きな外国人ってのは多いからなぁ)
むしろ喫茶店に入り込む俺の方が違和感だらけじゃねぇか。今更だが客観的に見てそう思う。
「お待たせしました。アメリカンコーヒーと、クリームぜんざいになります」
「オオッ」
コトン、とテーブルの上に置かれたアメリカンコーヒーとクリームゼンザイに目を向ける。
淹れたてのコーヒーから香るコーヒー豆のにおいが、俺の席を中心に広がっていく。
実に好い香りだ。添えられたミルクは後にして、まずはそのままコーヒーを頂く。
喉を通り抜けるさいに苦みの少ない香りが抜けていく。軽い酸味があるのも感じられる。
一通り堪能したらクリームぜんざいに目を向けるが、これは生クリームと、この白いのと赤っぽいの、一緒に食べるのか?
「赤いのは、豆か……?」
「それはあんこって言ってね、簡単に言えば砂糖水で煮たものだ。食べ方は好きにしたらいい」
どうすればいいか分からず呟いたものをカウンター越しの黒人の男に拾われた。
好きにしていいらしいので、一旦一つずつ食べてみる。生クリームとあんこは甘ったるい。甘いのベクトルが違うが、苦いコーヒーにはちょうどいいのかも知れねぇ。
この白いのに関しては、モチモチと柔らかいが、無味無臭だな。そこで理解する。確かにこの白いのだけで食うなんてごめんだが、あんこと生クリームと一緒に食えば、甘ったるい味付けに柔らかくもちっとした触感に
「コーヒーが美味え……」
これが『ワヨーセッチュウ』ってやつか。これがジャパン、流石は空条承太郎の故郷といったところか?
「……関係無ぇか」
結論にたどり着いたところで残りを食して勘定をする。
「また来るぜ」
いやー、実にいい時間だった。日本っぽいモンも食えたし、アサクサという場所で観光したら、夜は本場のスシだなァ。
──────
「「「はぁ~……」」」
「まさか、言ったそばから来るとはな」
「DAに報告すんの?」
「どうしましょう……思いのほか、普通の気さくな外国人っぽかったですけどね」
パソコンを眺めながら雑談する三人。
日も落ちて喫茶店が閉店したころに、昼間のことを思い出す。
今見返している映像と同じ帽子を被った大男が、昼に現れた。
無論、唯の外国人というわけではない。その実、DAも目をつけるほどの殺し屋。
それが、支部であるこのリコリコに現れたのだ。もう少し心構えをする時間くらい欲しいと、たきなは心の中でそう悪態をつく。
「組長さんとこに配達行くわー……え、どったの?」
「いえ、昼間の」
「ああ、ホルホースさん?考え込んでもしょうがないよそんなの。客として来てくれてる間は同じように接客するだけ、でしょ?」
「そうですけど……」
「あんたは楽観視しすぎなのよ。もう少し危機感を覚えなさいよ」
「じゃあ次ホルホースさんが来たとき「貴方危ない気がするのでー」つって銃ぶっ放すの?」
「そういうこと言ってんじゃないでしょうが!」
ミズキと千束が何時ものように言い合いを始める。その光景を見ていると、昼間の事なんか何もなかったかのように思えてくる。
「配達、行くんですよね?直ぐ支度します」
「あー大丈夫。制服がばれてるんじゃないかってクルミが」
「リコリス制服ですか?」
一体どこから、と考えるもラジアータがハッキングされたときかと納得する。
「そーそ。これなら~ぜったぁい、分かんな~い」
「私服じゃ銃は使えないぞ」
「警察に捕まっちまえ」
「んなこたぁ分かってるよ。下に着てますぅ~ホラ」
「じゃあ私もそれで」
最近は物騒な感じなので私も付いていきたかったが、却下される。
「あぁ大丈夫、たきなぁ、今日の夕飯楽しみにしてるね!行ってきまぁーす!」
扉を開けて出ていく千束。それを象徴するようにドアにつけられた鈴が鳴って、止む。
「……はぁ、取り敢えずホルホースさんの報告するかどうかの話は千束が帰ってきてからにしましょう」
「そーねー。夜中に喚かれてもうるさくて困るし。」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
凄い音を出しながら二階からクルミが降りてくる、普段の動きからは考えられないほど急いでいるのは、三人全員の目に等しく映っていた。
「はっ、はっ、見てくれ!これは銃取引の時のDAのドローン映像!殺されたのはこの4人だ!これが犯人に流出して顔がバレてたんだ!」
息を整えてクルミがタブレット内映像を拡大していく。被害を受けた四人のリコリスと同じ写真が写されていた。
「なんでそんなもんが流出してんのよ!」
「あの時のハッキングか……」
「DAもまだそのハッカー見つけられてないようです!」
「アンタの仲間じゃ無いの?さっさと調べなさいよ!」
「……」
「何よ」
「……あの時のは僕だ」
「ハァ!!?」
「っえ、どういうことだ!?」
「依頼を受けてDAをハッキングしたんだ!そのクライアントに近づくためには仕方なかったんだ」
「ちょっと!アンタが武器をテロリストに流した張本人ってワケ!?」
「それは違う!!指定の時刻にDAのセキュリティを攻撃しただけだ!」
「そ、う、ですか!お陰でショータイ不明のテロリストが?山ほど銃を抱きしめて、たきなはクビになりました!」
「もういいやめろミズキ!」
「おい、千束は?千束はどこだ!?」
「配達に行きました」
「……全部じゃないんだ」
そういうとクルミは手慣れた手つきで画面を操作して、私たちに見せる。
そこに映される千束の顔。それが意味したことを理解できなかったものは居なかった。
「ッ店長!」
「分かってる!」
「今回のは僕の失態だ……『過去』の僕が犯したミス……」
「何かないの!?今すぐ千束に伝えるだけじゃ遅いかも!」
「……そういえば!」
「オイどこ行く!?」
「千束の居場所を割り出す!それと……」
「依頼を出す……!」
──────
「アメリカで承太郎に食わせてもらったスシとは違ぇなぁ!はぁー食い過ぎちまった、さっさとホテルに戻ってチェックインしねぇと……」
美味い飯を食っていいホテルのいいベッドで寝る。イイ女が居ねぇのは残念だが、それにしたって豪華な旅行で優雅な一日だ。
タバコを吸いながらホテルに向かっている最中に、二つあるうち片方の携帯が鳴る。仕事用の携帯だ。
「あー、もしもし?仕事の話か?悪いが今は旅行中で、対応地域に居ねーんだ」
『しっている。君が日本の東京に居ることもね』
「……オメェ、何もんだ?」
「ただのハッカーだ。君に依頼をしたい。今すぐ、至急にだ!」
「オイオイ、冗談キツイぜ。今は日本でうめー飯を食ったばっかだ。あとはホテルの上質なベッドで寝るだけだってのによォー」
「……護衛依頼だ。報酬は君のサイトの……定価の10倍だ」
「じゅッ……ちょ、チョット待ってくれッ」
ホルホースにとってこの話は僥倖だった。彼が飯を食って直ぐじゃなかったら快諾していたほどには、サイコーの条件だった。
何せ彼は欲望に忠実だった。30日滞在予定の旅行の初日で予算の8%を使ってしまうほどには。
『早くしてくれッ!』
「場所は何処なんだ!?」
『僕が指示を出す!早く!!』
「だあああ分かった!分かったよ!ただしカネの振り込みは銀行じゃねぇ、現ナマだ!分かったな!」
『契約成立だ。このまま走って右手に川があるだろう!その川沿いをまっすぐだ!』
「どんくらいだ!?」
『分からん!』
「ふざっけんな!」
っくそ、受けるんじゃあなかったぜ!俺の平穏な一日が、なんでこんなことに……。
いや、ホル・ホース。今日だけだ、今日さえ我慢すれば、明日からは幸福な日本生活が待っている!ハズだ!
走り始めて少し経ったが、はっきり言ってゲロを吐きそうだ。
なんで美味いもん食ってゲロなんざ吐かなくっちゃぁならねぇんだ。
さっきまで美味いと飲み込んでいたものが腹の中で暴れまわっている。今の状態で『皇帝』は当たんのか……?
「オ"エ"ェッ」
『うわ、汚いな』
「ぶ、ぶっ殺すぞお前ェッ」
携帯から聞こえてくる言葉に思わず殺意が湧く。
息が切れて、一旦胃の中と酸素をリセットする。
今まで狭かった視界もリセットされると、夜の暗闇も途端にクリアになる。そして、その俺の視線の先には今日見た顔が居た。
「……看板娘?」
「話は後です。さぁ」
「うわっ、オイッ!」
手を引かれて走り出したと思ったらすぐに手を離される。
急な力の向きの変化に転ばないよう、昼間に見た看板娘の後をついて走るが。
(は、速ェ!)
唯の学生じゃねぇみてぇだ。
今体が重たいせいもあるんだろうが。
目の前の少女が足を止めて膝をつく。少女の前に黄色い上着のようなものと、携帯があることを確認した。
「はぁっ……!千束のポンチョとスマホが!はぁっ……」
『街中のカメラをハッキングする』
ハッキング出来るまで待っているほど愚かではない。このハッカーから求められているのは護衛というよりは、対象の生還。
任務内容は全然違うが、それでもお釣りがくる金額だ。プロとして失敗は許されねぇ。信用問題になるからだ。
プロの殺し屋に最も求められるのは如何に殺すか、いかに戦闘に強いかではない。
如何に、任務を完遂できるかだ。
信用のないやつに仕事は落ちてこない。それがこの世界だ。
「見えました!」
「ざっと、90mか、悪いが射程距離外だ。任せられるか」
「あなたっ、凄腕のガンマンじゃないんですか!?」
そういいながら銃を構える少女。
「凄腕かと聞かれればその答えは『YES』。俺の仕事を見てきた奴らならそういうんじゃないか?」
「……違うんですか!?」
「いいや?……唯の銃じゃあ無ぇんでな」
少女がなぜ銃を持っているのかなんて野暮ったいことは聞かない。殺し屋として依頼主の仲間の情報を聞くのはナシだからな。
金を貰って、貰った分だけ働いて殺す。それが俺の仕事だ。
俺は少女の射線からずれるように走る。
すると数秒後に赤服の少女に向けられた銃が弾かれる。アイツ、あの年でこんな射撃精度とはなぁ。
『彼らは誰も殺すな』
定価の十倍出す代わりの条件だそうだ。
さっき後から付け加えられて腹が立ったが、今は苛立たねぇ。
メギャンッ
右の手のひらに乗せられた
少し仕事をしていなかっただけで懐かしくなる、俺だけの『
「俺は女に手を上げる奴が世界で一番嫌いだぜッ!!」
「
銃を正面に構えて4発を速射する。
正面からの戦いは苦手だ。俺には承太郎のように銃弾を弾くことは出来ねぇし、DIOの野郎の様に避けることだって出来ない。
故に、俺の生業は暗殺。俺は自分を知っているからこそ、暗殺が仕事で、
俺の放った4発の弾丸は、それぞれ四人の片足の
さらに6発速射、それぞれ銃弾は右に大きく弧を描いて車の裏に隠れている奴らの足を打ち抜いていく。
感覚としては9ヒット。向かって右側を制圧したと考えた俺は、右側の駐車された車に肉薄し、残存戦力が無いことを確認すると遮蔽として利用し撃ち合う。
茂みの方から援護射撃も飛んでくるし、命中精度がいいのはグッド!奴らも理解したのか顔を安易に出せなくなる。
その時、後方から爆走する一台の車が護衛対象の方に接近する。そのことを確認した俺は焦って声を張り上げた。
「オイッ、あの車はなんだッ!挟み撃ちにされるぞ!」
『安心しろ、回収車だ。ホルホース、お前も早く乗れ!』
「くそッ!!」
少女二人を回収し終えた車が助手席のドアをおおっぴろに広げながらこっちに向かってくる。
あれに飛び乗れってか?冗談じゃあねえぜ!タイミングずれたら死ぬだろあんなモン!
「ウオオオオオオオッッ!!!どうにでもなりやがれコノヤロォー!!!」
ウゴッ、い、痛ェ!痛ぇが生きてるぞ!俺ッ!
「うははははァァァ──ーッ!これで大金は貰ったァァァ!!」
『足元見やがって……!その前にヤバいのに狙われてるぞ!』
「弾切れです!」
「う、うわわわわわ!」
「俺は日本でガールフレンド作るまでは死ねねーんだよッ!『
3発の弾丸。音を立てて車の防弾ガラスが割れる。
「ちょっと!何処向いて撃ってんのよ!てか本当に撃ってんの!?」
運転手の女に悪態をつかれる。それもそうだろうな。
真正面の敵を撃たなくっちゃあいけねーのに何で真横に向かって撃ってんだってな。
「だが、俺の
ギュイーンと、まるで一流の投手が投げるスライダーのように軌道を曲げる。いや、この場合はシュートか。
「どっちでもいいよなぁ?そんなことはよォ」
足、腰、頭。適正射程距離外故に
体勢を崩した男は丁度引き金を引いてしまったようでロケット弾頭俺たちの後ろで見事なまでの大爆発を起こした。
「依頼主はあんたらだったのか……」
それは、全員が一度はホルホースと顔を合わせていた。
日本に来て初めての飲食店。喫茶店リコリコで働いていた者たちであった。
「本当に助かった。ありがとう、ホルホース」
「礼を言われるほどじゃあねぇ。俺が居なくても何とかなってただろ、寧ろこんな簡単な仕事で大金が手に入んだ、安い御用だぜ」
自分に忠実なその男の言い様に、車内は安心した雰囲気に包まれた。
「日本で仕事する気は無かったんだけどなァ……ア"ッ!?」
辺りが完全に蛍光灯の光で包まれた、夜なのに明るい東京。アフリカとは環境がまるで違うな、そう思い腕に嵌めた三つの腕時計に目を向ければ、重大なことに気づくのにそう時間は掛からなかった。
「どったの?」
「ホ、ホテルのチェック時間過ぎちまった……」
────
「しっかし、明日来るはずだった店にもう戻ってくるとは思わなかったぜ」
「明日も来てくれるつもりだったの!?嬉し──いった!もうちょっと優しくしてよ!」
「すまんすまん」
「そこの突き当りの右が空き部屋ですので、ご自由にどうぞ」
「おぉ、ありがとよ」
結局ホテルに問い合わせたが俺の部屋はもう埋まってしまったらしく、上質なベッドで寝る夢は叶わなかった。
これでもまあまあ楽しみにしてたんだがなぁ。ま、過ぎたことを気にしてもしょうがねぇ。
「お帰り、大丈夫だったか?」
上から幼女が降りてくる。その脇にはタブレットが抱えられていた。
「クールーミー……そこに直れ!」
「ハイっ」
「誰だ?そのちんちくりん」
「その子が凄腕のハッカーだ」
「ハァ!?」
「あぁ、報酬の現金ならそのアタッシュケースの中だ」
マジかよ。……マジかよ……こんなちんまいのが俺に500万現金一括とか……。
「オメーさてはスタンド使いか!?」
「急に何言ってるんだお前……」
「クルミ!誰がしゃべっていいって言った!?」
「ハイ……」
「取り敢えず、俺にはオメーらに聞きたいことが沢山ある。そして、オメーらも俺に聞きたいことが沢山ある。違うか?」
俺のその問いに頷くものも否定するものもいない。各々が思案中といった面持ちだ。
「沈黙は肯定と受け取ろう。つまりだ、お互いの腹の内が分らねぇのに一緒に飯を食うのもナンセンス。俺はそう思うね」
「ハッキリ言って俺は自分の秘密について喋ってやってもいいと思ってる。ずっと隠し通すなんざ土台無理な話だしな。だが、俺だけが秘密を話すのはスジ違いだろ?」
そこで、だ。そう区切りをつけて、続ける。
「私たちにも話せ……と」
「そーゆーこった。別に理不尽な提案をしているつもりはないんだがな」
「……分かった」
「ちょっと!?そこは相談するもんじゃないの!?」
声を荒げるミズキ。気持ちは分からないでもない。なんつったって俺は裏の社会じゃそこそこ名の通る男だ。銃持ってるガキがいるような場所、どう考えても普通じゃあねぇ。お互い
「ちょっと!千束も何か言ってよ!」
「えー?でも先生がいいっていうんだからいいんじゃない?」
「んな適当な……」
どうにか援護射撃を貰いたそうなミズキだが、悲しいことに、誰もが黒人の男の味方だった。俺にとってはその方がいいんだけどねェ~。
最終的にはミズキも折れて、話し合うことになった。
承太郎とは一度だけ依頼で一緒に仕事をしています。その際に承太郎が時を止められることを知り、飯も一緒に食べました。そういう世界線だったってことでお願いします。