「アリサ、僕が先に行く。後方支援をお願い」
「了解しました」
アラガミとの戦闘を開始した少年と少女
特訓の末、以前よりも大きな力を得た少女も、特訓をし始めた頃は酷いものであった
アラガミを目にすることで、トラウマを呼び起こし、体が震えてしまう。しかし、特訓を重ねるにつれ、援護が出来るようになり、遠距離攻撃が出来るようになり、遂には近距離攻撃も出来るようになった
しかし、未だに完全に吹っ切ることはできていなかった
そんな時だ。彼女の人生を左右する、あるミッションが第一部隊へと下ったのは。
*****
『冬の夜明け』第一部隊に下った、このミッションの説明のため、ナギ、カナデ、コウタ、アリサ、サクヤの5人はロビーへと集められ、ツバキから説明を受けていた
「説明は以上だ。何か質問はあるか?」
それに対し、コウタがおずおずと手を挙げ提案する
「あの・・・アリサを今回の任務に出してあげて欲しいな・・・なんて。ほら、彼女最近がんばってるから」
「お前もか・・他の者はどうだ」
ツバキはコウタ以外へのメンバーへと確認をとる
「私は・・賛成です」
サクヤは少し悩みながらも、コウタの提案に賛成する
「うん。今のアリサなら大丈夫だと思います」
「そうね。最悪、私たちがカバーするし」
ナギとカナデも、頷きながら賛成する
「だが、今回のターゲットは『あれ』と同型の個体だぞ・・大丈夫か?」
ツバキは最後にアリサ本人へ確認する
「行きます・・行かせてください」
アリサは真っ直ぐにツバキを見つめ、そう答えた
*****
「ミッション前に、念のためもう一度、ツバキ教官の説明を確認しておきましょう」
討伐対象が確認された、贖罪の街への移動中のヘリにて、ミッションの最終確認が行われていた
『冬の夜明け』
リンドウの仇であるアラガミ───プリティヴィ・マータと名付けられた───と同型の個体であるヴァジュラが、このミッションの討伐対象である
ヴァジュラの他にも小型アラガミも確認され、乱戦になれば、難易度が上がってしまうため、警戒が必要である
カナデがヘリの中の全員を見回して尋ねる
「皆、準備はいい?行くわよ」
「おう!」
ヘリから5人の神機使いが降り立った
*****
「どう?ヴァジュラは見つかった?」
「こっちはまだだよ。サクヤさん」
「僕もコウタに同じくです」
「私もよ。まったくどこに隠れているのかしら。アリサ、あんたはどう?」
「…ごめんなさい。私のせいで…」
時はさかのぼる
途中までは順調なものだった
周囲の小型アラガミを掃討し、残すはヴァジュラ一体のみ。ヴァジュラを倒してしまえばこのミッションは無事終了となるはずだった
しかし一つ問題があった。アリサのヴァジュラに対する恐怖心が薄れていなかったことだ。追い詰められたヴァジュラは恐怖心故にひるんでいるアリサの方向への突破を試み、アリサはそれを止めることが出来なかった
「アリサ、それ以上責めるのはやめなさい。あんただけの責任じゃないんだから。それでも申し訳ないと思っているのなら、次に挽回しなさい」
「はい…あの、カナデさん。ありがとうございます」
「…別に感謝されるようなことは言ってないわ」
「お?これはツンデレ…」
「コウタ、あとで覚えておきなさい」
「ひっでぇ!」
「今のはコウタが悪いと思います」
「ちょっ、アリサ!?」
「コウタが悪いね」
「おい、ナギまで!」
「はいはい。まだ作戦中なんだからそれぐらいにしておきなさい。ヴァジュラを発見したら単独で倒そうとせずに連絡をすること。いいわね?」
サクヤが苦笑しつつそうまとめると、緊張感に包まれた静けさが場を支配する
トクンと自らの心臓の音のみが聞こえるほど静まっている戦場で、周りに目を配りながらアリサは先ほどのことを思い出していた
もう大丈夫だと思っていた
乗り越えたと思っていた
他のアラガミの目の前に立っても、戦っても大丈夫だったんだから、きっと今回もうまくいく。
そう思っていたのに…
実際はどうだ。心臓はドクンドクンと高鳴り、手は震え、戦うどころか援護すらできなかった。立っているだけで精一杯だった
もしかしたら、もう無理なのかもしれない。私は自分で思っていたよりもずっとずっと弱かったんだ
グオォォォ…
声が聞こえアリサはハッといつまにか下がっていた目線を上げる。するとビルの3階に大きな影が見える…ヴァジュラだ
怖い。無理だ。かなわない。アリサはもうすでに動くことができなくなっていた。
「あぁ、やっぱり…私って、弱い」
アリサの誰に言うわけでもない呟きが聞こえたかのようにヴァジュラがアリサの方を見る
否。ヴァジュラはアリサの手前、アリサの方へ走っている人影に狙いを定めている
「おーい!アリサ-!ヴァジュラはいたー?」
「ナ、ナギ…さん…だめ…」
しかしかすれたアリサの声はナギには届かない
「ナギさん…気づいて…ない…?」
私は…弱い。勇気も度胸も足りない。もしかしたらヴァジュラには敵わないかもしれない。だけど…だけど……
「仲間を…ナギさんを失いたくない!ナギさん!伏せて!!」
アリサはそう叫び、ヴァジュラに銃を向ける
覚悟は決まった。もう手の震えもない
ヴァジュラは既に後ろからナギに飛びかかっていた。しかしそれよりも早くアリサが放った銃弾はヴァジュラの眉間に命中し、そしてヴァジュラは狙っていた標的ーナギーを屠ることはなく事切れた
「ナギさん、私…やりました」
「おつかれ、アリサ」
アリサの笑顔は今までで一番輝いて見えた