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翌朝。アシャラ王との謁見は案外とすんなり終わった。考えてみれば当然の話ではあるが、トラブルの解決屋とも言える冒険者ギルドと国の問題共有が出来ていない訳は無かったのだ。それならヨハンが再度説明する必要があるかは分からないが、“接見を希望します。え? もう話を聞いている? ならやめますね”では通らない為、確認の意味も兼ねて一通り状況を説明した。
王は流石に都市国家連合の盟主国を統べる器があるのか、問題の大きさを過不足無く捉え、グィルと連携し事に当たると言ってくれた。話が分かる為政者で良かった、とヨハンは胸を撫で下ろす。過去……ヨハンがまだ正義感の様な一銅貨にもならないモノを持っていた頃、こういった危地で都市の上層部へ協力を打診した事はあるが、その時は冒険者ギルドで何とかしろと言われてしまったので猫から逃げる月鼠が如く逃げ出した事がある。その時は魔物の暴走……スタンピードで街は滅んだ。
因みに月鼠とは温暖な地方にしか生息しない丸くて白い球の様な鼠の事だ。球から申し訳程度に四肢が生えている。平時はその四肢でのろのろと這い回るのだが、危険が迫ると転がって逃げる。転がり始めにも大きな力が必要なわけで、それはどこから捻出しているのか気になるが、微弱だが魔力を使って初動の勢いをひねり出しているらしい。ヨハンもその説には賛同していた。連中の事をポイポイと投げて遊んでも滅多な事では死なないからである。魔力で身体能力を強化しているに違いない、というのが彼の見立てだ。
王との謁見の場を去る時、王とヨルシカの視線が交差する所には、かつてあった家族の情の残滓の様なものが仄かに香っていた様にヨハンには思えたが、実際はどうだか分からない。親というものは良くも悪くも子供の心を縛るものだ。ヨハンの母親はヨハンの中にはもう三分の一しか残ってはいないが、それでも彼女はヨハンの心を縛っている。例え姿形をもう思い出す事が出来なくなってしまったとしてもだ。心を縛る鎖が錆びてボロボロになったものか、あるいはそうではないかは当人の人生に大きく関わってくる。ヨルシカの心を縛る鎖が香油で磨かれた良き鎖であるといい、とヨハンは柄にもない事を考えていた。
なお、父親の方は喉を
しかし連中が何故この大陸に居たのか、ヨハンには今でも良くわからない。見たのはあれが初めてだった。悪魔と非常に近しい性質を持つ連中だ。呼吸をする様に術、いや、魔法を使う。つまり詠唱がない。手を伸ばす、足を曲げる、そんな感覚で魔法とやらを撃って来るのだ。だが奴等と違って本体を別の場所へ置いているという事はない。だから殺して殺せない相手ではないにせよ、一般人が必死こいて戦う様な相手ではない。ああいうのは、“特別な連中”が相手取るものだ。
だが……そもそもだが、連中は当時の勇者とやらに頭目を殺され、種族ごと果ての大陸へ押し込まれたのではなかったか。そして現在だって当代勇者がその動向を監視しているのではなかったのか。緑の使徒とやらはここ最近活発的に行動し始めたと聞いている。つまりそれは、ここ最近で何者かが緑の使徒共に余計な空気を入れたという事になる。それが魔族だという根拠なんて一つもないのだが、裏でこういう陰湿な事をやる連中というと結構限られてしまうのだ。
考えても詮無き事だ、とヨハンは思考を打ち切った。ただ、もし魔族が裏で動いているなら、それこそあの英雄大好き勇者大好きなメスガキの出番なのだが。
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謁見は無事に終わった。最初から最後までヨハンがずっと話していたけれど、それでもヨルシカと父……いや、陛下は何かを交感したのだとヨルシカは思う。同時に、彼女の中での一つの
「神っぽいなにかと戦った後は何と戦うのかなっておもってな。魔王とかだったりしてな、いや、冗句だよ冗句……」
等といっていた。本当にやめて欲しい、とヨルシカは思った。この男はヴァラクでフェンリークの話をした後、それっぽいのと戦うことになった前科がある。
鐘の音が聞こえた。まだ昼である。
「飯でも行こう。長い店以外がいいな。あそこはこの位のタイミングだと混んでいるだろう」
ヨハンがそういうので、ヨルシカは少し考えてから一軒の店を思いついた。
「なら名無しの店へいこう。少し分かりにくい場所にあるから余りお客さんは来ないんだけど、味は絶品だよ。鳥が美味しいんだ」
ヨハンが首を傾げる。店の名前が引っかかったらしい。
「店の名前がない店なんだよ。だから名無しの店。長い名前の店に反発した料理人が開いたお店なんだ。店の入口には木の板だけ立てかけてあるんだ」
いつも倦んだ目をしているヨハンが目を見開き、馬鹿じゃないのか、と言った。ヨルシカもそう思うけど、味は本当に良いのだ。