このssにはキャラ崩壊・設定捏造が多分に含まれます
ご注意ください
part11:To Be Continued
九蛇城、ハンコック自室のすぐそばにあるバルコニーにて
のぼせてダウンしたウタとハンコックが、バスローブを着せられて長椅子に寝ていた。
近くには、二人を浴場から救出したマリーゴールドが、大きな団扇で扇いでいる。
「全く…そなたのせいでエライ目にあってしもうたわ。」
「そりゃこっちのセリフだよ…。お風呂でリフレッシュするはずだったのに。」
「ふん。元はと言えば、そなたのせいじゃ。この色情狂め。」
「なにおう、それならあんたは露出狂だ。」
ダウンしてても、まだ女の闘いは続いていた。
そんな二人の様子を、微笑みの表情でマリーは見守っていた。
(良かったですね、姉様…)
…ウタは、自分達姉妹の秘密を受け入れてくれたのだ。そのことが何よりも嬉しかった。
特に姉は、口ではこう言ってはいるが、姉にとってウタはルフィとは違う形で大切な存在になりつつあった。
自分達妹と同胞たちを守るため、ハンコックは常に気を張っていた。
そんな姉にとって、ウタは唯一無二の"友"といえる存在になってくれたのだ。
…できることならば、二人揃って、いつまでもここにいてほしかった。
「…ねえ、ウタ。」
このままアマゾン・リリーに定住してくれないか、そうマリーは続けようとしたが。
「ん…なんだろ、この泣き声。」
「え?声って…。」
「なんのことじゃ?だれも泣いてなどおらぬぞ。」
「いや、確かに聞こえる…あっちの方からだ。」
そう言って、ウタはある方向を指差す。ハンコックとマリーが目を凝らして見て見ると…
「なんじゃ、あの人だかりは。」
「なにかあったのかしら…。」
遠くの方で人だかりができている。なにやらざわついてるようだ。
さらに…
ウオオォォォォン ウオオォォォォン
「…?なにか聞こえてこぬか。」
「あ、ほんとだ。ウタ、あなたが聞きとったのってこれ?」
「うん。」
ウオオォォォォン ウオオォォォォン
「なに!?なんなの、この声!すっごく不吉!」
「なんというか…夜の墓場の地の底から、亡者が叫んでいるかのような声じゃの。」
「いや何でそんな具体的なの…。」
泣き声はどんどん近づいてくる。
やがて人だかりが両端に別れ、見えてきたのは…アフロヘアー。
「…ブルック?」
「なんじゃ、泣き声の主は骸骨か。」
「でも…ただ事じゃなさそうよ、この声。」
そうこう言ってるうちに、ブルックたちがウタ達のほうに歩み寄ってくる。
その中に見慣れない人物を見つけたウタは
「………は?」
一瞬思考が停止した。
「姉さま、あれって…。」
「なんじゃ、あやつ来よったのか…ウタ!?」
我を取り戻したウタがルフィに向かって駆けだす。
履きなれない、借り物の靴とバスローブで動きづらいながらも、なんとか彼女はルフィの下にたどり着いた。
「ルフィ!!」
「おう、ウタ。着替え持ってきたぞ!」
「そ、そいつ!そいつぅっ!!」
あっけらかんとしたルフィと対照的に、慌てふためくウタ。
そのまま彼女は見慣れぬ人物…レイリーを指差した。
「そいつ!シルバーズ・レイリー!!なんでそいつと一緒にいるの!??」
「なんだウタ。お前、おっさんのこと知ってんのか「アホかぁっっ!!」ぶへぇっ!?」
この期に及んで呑気してる恋人に向かってアッパーカットを放つウタ。
そのままルフィを押し倒し、馬乗りになって襟元を掴んでガクガクと揺さぶりだす。
「なんで知らないの!?海兵見習い時代の講習でなにやってたぁっ!!」
「寝てた。」
「ちくしょう!そうだったぁっ!!」
海兵見習時代、居眠りこいては拳骨喰らってたルフィを思い出し、頭を抱えるウタ。
そんな彼女らを尻目に、ハンコックとマリーも合流していた。
「久しぶりじゃのう、レイリー。歓迎するぞ」
「ありがとう、ハンコック。いや、それにしても…ククッ…。」
ハンコックの歓待を受けるレイリー。その顔は笑いをこらえるので必死そうだ。
そんな彼をニョン婆とソニアはあきれ顔で見ている。
「ソニア姉さま、ひょっとしてルフィ…。」
「ええ、本当に気づいてないみたい…よく海兵になれたわね…。」
「アマゾン・リリーの女たちも知っておることじゃというニョにのう…。」
「ウオオォォォォン!」
「…ブルック、どうしちゃったの?」
「話すと長くなるから、今はそっとしといてあげて…。」
「う、うん、わかったわ。」
そうこうしてるうちに復帰したウタが、ルフィの耳を自分の口元まで引っ張りあげる。
「いい!この男が誰なのか、教えてあげるから!よく聞きなさい!!」
「お、おう。」
「この男の名前はシルバーズ・レイリー!冥王の異名で呼ばれる、あの"ロジャー海賊団"の副船長にしてっ!大海賊時代を創り出し、私たちの義兄であるエースをほっといて死んだクソったれのっ!ゴールド・ロジャーの右腕だった男よっ!!!」
「‥‥‥‥‥えええええぇぇっっ!!!??」
「ぷっ、くっ…ふははははははははは!!!ガープのやつめ、孫の教育にだいぶ苦労しているようだなっ!は~~はっはっはっはっは!!」
ウタから告げられたレイリーの素性に、目が(物理的に)飛び出るほど驚愕するルフィ。
そんな二人のやり取りをみて、とうとうレイリーが腹をかかえて笑い出した。
「流石はルフィ。細かいことを気にせぬ豪胆さじゃのう。」
「蛇姫、お主は…。ソニア、レイリーから話があるそうだから、応接間の準備を。マリー、茶の用意を頼めるかニョ。」
「わかったわ、ニョン婆。」
「お茶だったら、ちょうどいい茶葉が商船から手に入れたはず…。」
「あとは…これ、歌姫!」
このままでは話が進まないと判断したニョン婆はハンコックをひとまず放置し、ソニアとマリーに指示を飛ばす。
準備のために離れる二人を見送ると、彼女は未だに興奮冷めやらぬウタへと声をかけた。
「なによ!」
「お主、自分の恰好を考えよ…」
「恰好って…っ!!」
ウタはいまバスローブを纏っていたが、その状態で激しく動いた結果、彼女の姿はなんとも煽情的なものとなってしまっていた。
裾は太ももはおろか足の付け根付近までめくれ上がり、胸元ははだけて今にもまろびでそうな有様である。
自分の姿を自覚したウタは、トマトのように真っ赤な顔で両腕で胸を隠した。
「着替えを持ってきてもらったのじゃから、とりあえずお主は着替えてこい。レイリーからお主とルフィに話があるそうじゃ。」
「わ、わたしたちに?冥王が?」
「ああ、レイリーのおっさん、シャンクスと知り合いみたいなんだ!」
「‥‥え?」
いまだ押し倒したままの恋人から、かつて父親と呼んだ男の名前が出され、頭が真っ白になるウタであった。
「いやいや、すまんな。いきなり訪ねてきたというのに、茶菓子まで用意してもらって。」
「なに、わらわたちとそなたの仲じゃ。気にする必要はないぞ、レイリー。」
親しげに話すレイリーとハンコック。
場所を九蛇城の応接間に移し、彼らは円形の机を囲んで茶と菓子を味わっていた。
「しかし、驚いたぞ!まさか君たちがエースと義兄弟だったとは、世間はせま「やめて。」…!」
先ほどウタから発言された、相棒の忘れ形見を話題にだすレイリーだが、そんな彼を冷ややかな目でウタは拒絶した。
「エースの名をくちにしないで、冥王。あんたにその資格はない。そんなの私は認めない。」
「…おっさん。悪いけど、俺たちからエースの話をするつもりはねぇよ。エースが、多分嫌がるだろうからな。エースのこと知りてぇなら、本人会って聞いてくれ。」
ウタと違い、目こそいつもと同じなものの、ルフィもまた義兄の話をするつもりはない旨を伝える。
二人からの拒絶の言葉に、レイリーは深く息を吐いた。
「そうだな…。私に、彼のことを聞く資格はないだろう。すまなかった、今の言葉は忘れてほしい。」
相棒の忘れ形見に対して、何かしら負い目を感じているのか、目を伏せるレイリー。
そのまま彼は、しかし参ったな…と頭を掻いた。
「どうやら思った以上に警戒されているようだな…。今の状況で、こちらの事情を説明しても納得してもらえるかどうか…。」
ムムム、と唸るレイリー。暫くした後、彼はウタに向き合った。
「こうしよう…ウタ君。君から聞きたいことを質問してくれないか?それに私が答える形にするんだ。その方が、君たちも色々と情報を整理しやすいだろう。」
「…なんで、私なの。」
「君が一番、聞きたいことが多いだろうからな。」
そう言われ、ウタはレイリーを、シャンクスの知り合いを名乗る男を睨んだ。
今までの発言から、目の前の男が自分たちに会いに来たのは、シャンクスが絡んでいるのは明白だった。
ぎゅっ
「…!」
膝の上に置いた手を、ルフィが握った。横目で見ると、彼は力強く頷いた。
恋人の応援を受けて、ウタは意を決して質問を投げかけた。
「…ブルックは何であんなに泣いてるの「怖気づいたな、そなた。」うっさいな!あんなに泣いてるの、気になるじゃん!」
「まあ確かに、あれだけ泣かれれば気に…むしろどうやって泣いてるのじゃ。どうなっておるのじゃ、骸骨の眼は。」
ハンコックだけでなく、その場の全員がブルックの空洞の眼を見つめる。
時間が経って落ち着いたのか、嗚咽は止んだもののブルックの眼からは未だに涙がこぼれ落ち続けていた。
そのうちに観察に飽きたのか、ルフィがウタの質問に答えた。
「ウタ、ラブーンと一緒にいたクロッカスのおっさんいたろ。」
「え?ああ、覚えてるよ。それがどうしたの?」
「クロッカスのおっさん、ロジャー海賊団の仲間だったんだって。」
「…ええっ!?」
クロッカス、偉大なる航路の入り口にある双子岬で灯台守をしている老人。
ルフィとウタが海兵見習だった頃、航海術の訓練で偉大なる航路に入り、クロッカスとラブーンというクジラに出会った。
そこで、ラブーンの友人だったという海賊団と、彼らの間で結ばれた再会の約束…そしてそれが果たされなかったことなどを聞いた。
その海賊団…ルンバー海賊団の生き残りがブルックなのだが…。
「クロッカスさんが…海賊王の仲間…!」
「理由あって、彼に船医として乗り込んでもらったんだ。彼自身も、探している海賊団がいると承諾してくれてね。」
「探してる海賊団…それって!」
思わずウタはブルックの方を振り返る。
ブルックも、ようやく涙を拭い…
「はい…クロッカスさんは、我々ルンバー海賊団を探してくれていたんです…。」
ブルックが号泣していた理由、それは友を託した相手が、危険を冒してまで自分たちを探してくれていたことだったのだ。
そんなブルックを見ながら、ウタは浮かんだ疑問を呟いた。
「クロッカスさん、ルンバー海賊団は偉大なる航路から逃げ出したって言ってた…けど、ブルックと海賊船はずっと霧の海域で彷徨ってたんだよね。どうして逃げ出したって結論に至ったんだろう…?」
「…これは私の想像だが、クロッカスはルンバー海賊団は全滅したと思ったんじゃないだろうか。だがラブーンというクジラにとって、友が約束を守ろうとして死んだと伝えるよりは、約束を破ってでも生き残った、と言った方がショックが小さいと判断したんじゃないだろうか。」
「クロッカスさん…そこまでして、私たちとラブーンのことを…!」
ウタの疑問に、推論を語るレイリーとそれに感極まるブルック。
レイリーはブルックに向かいあう。
「まさかクロッカスが探していた海賊がブルック君で、しかもルフィ君ウタ君と一緒だったとは…さっきも言ったが世間は狭いものだ。…私としては、クロッカスのところに向かってほしいものだが…。」
「…自分勝手な話なのは重々承知ではありますが、ルフィさんとウタさんには恩があります。それを返さないままラブーンに会いにはいけません。…恩も返せない情けない私など、ラブーンも気づいてくれないでしょう。」
「そうか…ならば私は何も言うまい。あくまでこれは、君たちの問題だからな。」
残念そうな表情を浮かべるものの、レイリーはブルックの意志を尊重した。
ブルックの肩をルフィがポンと叩き、ウタもニッコリと笑顔を向ける。
「心配すんな!レイリーのおっさん、ブルックは必ず俺たちがラブーンのとこに連れてく!!」
「この逃亡生活を終わらせなきゃいけない理由が、また一つ増えたね。」
「ルフィさん…、ウタさん…!」
ブルックの眼窩がまたも潤む。
しかし彼はそれを拭った。ラブーンと再会する時まで、涙はとっておく…そう決意するかのように。
そして今度こそ、ウタは一番の疑問をレイリーにぶつけた。
「シャンクスとの…関係を教えて…。。」
「うむ…落ち着いて聞いてほしいんだが…。」
「私、いや我々ロジャー海賊団は…シャンクスの育ての親なのだ…。」
「………え…?」
帰ってきた答えに、ウタは絶句した。
シャンクスがロジャー海賊団の船員だったとは予想していた、だが…シャンクスはロジャー達の義理の息子であったのだ…かつての自分と同じように。
「おっさんたちが、シャンクスの親だって!?」
「ああ、赤ん坊だったシャンクスを拾ってね。海賊団の皆で育てたんだ。一人前の男に成長するとそのまま我々の仲間に加わった。」
遠い目をしながら懐かしむような口調で語るレイリー。
憧れの海賊が、海賊王の仲間であった事実にルフィは心底驚く。しかし…
「…なによ、それ。」
全員が驚く中、発せられたウタの言葉は…ゾッとするほど冷たかった。
「つまりこういうこと?あの男は、自分も拾われっ子のくせに…私を捨てたってこと?…自分は一人前になるまで育ててもらったっていうのに…。」
「…ウタ。」
言葉を発せられるごとに、ウタの顔から表情が消えていく。
そんな彼女の様子を、ハンコックは心配げに見つめた後で、ルフィの方をチラリと横目に見た。
今の恋敵を慰められるのは、この愛しい男以外ありえないと思っていたからだ。
しかしルフィはウタの方に向かずに、レイリーに話の先を促した…今最も重要なことを確認するために。
「それでおっさん。なんで俺たちに会いに来たんだ。」
「…シャンクス本人に頼まれたんだ。君たちを助けてくれ、とな。」
聞いてきたルフィではなく、ウタに向かって語り掛けるレイリー。
しかしウタは何の反応も見せなかった。ただただ無表情でレイリーの話を聞いている。
「今から数週間前のことだっただろうか…。傷だらけのシャンクスが私のところにやってきて、土下座で頼み込んできたのだ。」
「自分の娘とその恋人を、どうか助けてくれ…と。」
娘、と言われた部分でウタの肩がビクリと震えた。
恋人の様子を横目で確認しながら、ルフィは更に質問をする。
「シャンクス本人が来ないのはなんでだ?」
「今シャンクスが"四皇"と言われる大海賊になっているのは知っているかね?」
「ああ、知ってる。」
"四皇"…偉大なる航路後半、"新世界"で皇帝の如く君臨する大海賊たちの総称である。
世界政府と対等に渡り合える、驚異的な武力を持った海賊たち…その一人が、シャンクスなのだ。
「シャンクスは今…四皇の内の二人、"ビックマム"と"カイドウ"と刃を交えている。ルフィ君とウタ君、君たちを守るために。」
「シャンクスが!?なんで四皇と戦うのが俺たちの為になるんだ!!?」
「それに関しては君たちの影響力が関係している…。」
まずはルフィ君、とレイリーが指差す。
「君はその若さで王下七武海を討ち取り、砂漠の国を救った。それ以外にも数々の功績を立てている。その君を配下に加えられれば、海軍や加盟国に与える心理的影響は計り知れない…だが。」
次にレイリーはウタを指差した、より深刻な表情で。
「それ以上に標的になっているのは君だ、ウタ君。君のウタウタの能力があれば、この海全てを制圧することも不可能ではない。耳を塞げば能力が効かないという弱点も、それほど気にする必要もない。」
そこで言葉を切り、茶を飲み、真剣な表情で"ウタウタが海賊にとって、どれだけ魅力的か"をレイリーは語り続ける。
「別に君自身が敵地で歌う必要はない。スピーカー越しに歌を聴かせる、たったそれだけで相手を無力化できる。電伝虫などの道具を併用すれば、耳栓など用意させる暇もない完全な不意打ちが可能になるだろう。君自身は安全地帯で歌うだけでいい…それこそ四皇の隣で、だ。」
四皇自身が護衛を行う、それほどまでにウタの力はこの海にとって脅威なのだ。
シャンクスは、娘を"兵器"にされるのを見過ごせず、二つの四皇勢力と戦っているのだ、とレイリーは締めくくった。
「………」
話を聞き終わったウタが、言葉を発することは無かった。
ただただ、表情を消している彼女に…やっとルフィが声をかける。
「聞いたか、ウタ……良かったな!!」
いつものように周囲を照らすような、輝かくような笑顔で。
「…良かったって…なにが?」
「シャンクスが…ウタを守るために戦ってるんだ。シャンクスはウタを見捨てたわけじゃなかったってことだろ!」
「なによ、それ。そんなことで…私が喜んでるとでも思ってんの?」
「俺にはわかるぞ……ウタが喜んでるって。」
「んなわけないだろッッッ!!!」
瞬間、ウタが激昂する。
ルフィの胸倉をつかみ、そのまま殴りつけた。
「勝手に私が喜んでるなんて決めつけんなッ!なんにもわかってないくせにッ!」
「ちょっと、落ち着いて!」
「ウタっ、そこまで言わなくても…姉さまっ!?」
ウタを止めようとしたソニアとマリーを、ハンコックが制止する。
ブルックたちも、ルフィに暴行するウタを静観したままである。
「そもそもあいつが私たちを守っているのだって、自分たちが利用したいだけかもしれないじゃない。いやきっとそうだッ!自分の道具を、他人に横取りされるのが嫌なだけに決まってる!!」
怒りを吐き出し続けながら、無抵抗のルフィの顔を殴り続ける。
そのうち、ウタの眼からポロポロと涙が零れ始めた。
「あいつらは私を置き去りにしたんだ…私を愛してるはずがないんだ…愛しているんだったらッ!」
「私の十年はなんだったんだッッッ!!!」
一際強く、ルフィの顔面に拳を叩きこんでウタは止まった。
肩で息をし、涙に潤んだ瞳でルフィを睨みつける。
「ウタ。」
ルフィは何事も無かったかのように、再び笑顔で
「良かったな!!」
彼女が気づかないふりをしていた"喜び"を代弁した。
心配する必要はない、なにも怖がる必要はないのだと、そう語り掛けるように…
「~~~~ッ!ううぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
ルフィの胸に顔を押し当て、両手を彼の肩付近に、ドンドンと叩きながらウタが呻く。
その勢いも見る間に弱まり、しばらくの間彼女の嗚咽がその場に流れ続ける。
「ルフィ…。」
「うん。」
「ルフィ…。」
「うん。」
「ルフィィィ…!」
「うん。」
自分の名前を呼び始めた恋人を、ルフィはぎゅっと抱きしめた。
やがてウタが涙と鼻水でグシャグシャの顔を上げた。
「わたし…わ、わたし……。」
「シャンクスに、会いたい…!」
だけど! とウタは首を横に振る。
「どうしても、置き去りにされた日のことが忘れられない…この十年間、会いに来てくれなかったことが納得できないッ!!」
過去の記憶が、傷つけられた心が、今もウタを縛り付けている。
雁字搦めになった心に、血を吐き出しそうなトラウマに、ただただ叫び続けることしかできなかった。
「…そっか。」
ボロボロになった恋人の頭を、優しくなで続けるルフィ。
よし、と頷いた彼は…
「じゃあ俺がシャンクスのこと、ブッ飛ばしてやるよ。」
「……え?」
その場にいる全員が、ルフィの発言に耳を疑う。
あるものは四皇の一人をブッ飛ばすという荒唐無稽さに、あるものは彼にとってシャンクスが憧れの存在であることを知っているために。
「俺はずっとそうしてきただろ?ウタを傷つける奴、悲しませる奴は…俺が全部ブッ飛ばしてやる!!」
そんなとんでもないことを、当たり前のように言葉にするルフィ。
…この十年の間、ウタが見続けてきたルフィだ。
十年間、海兵として戦い続けてきたルフィだ…ウタと一緒に。
(…そうだ、そうだよ。さっきお風呂場で思い返したじゃないか。色んな人に守られたって…それに報いたいって!)
ウタの胸中に様々な人物の姿が浮かんでゆく。
海軍入隊を応援してくれたフーシャ村のみんな、自分たちを鍛えてくれた海軍の先達、一緒に訓練し正義を目指した同期たち、自分たちを慕い共に戦場を駆けた部下たち、そして…強くなって救うことができた人々。
置き去りにされてからの10年は…決して辛いだけの時間ではなかったのだ。
(例えシャンクスの真意がどうあれ‥‥私たちの10年は嘘になんかならないんだ‥‥怖がる必要なんかないんだ!)
「私も…シャンクスに会いにいく!会いに行って……強くなった私を見せつけてやる!!」
今度こそ、ウタに笑顔が戻った。
今までよりも力強く、輝かしい笑顔が…。
「…やれやれ。これでは出航を認めぬわけにはいかんな。」
肩をすくめたハンコックが、深くため息をつきながらウタの横に歩み寄ってくる。
「姉様…!」
「わかってやれ、マリー。…わらわたちがアマゾン・リリーに戻ってきたとき、わらわたちの母様はもうどこにもいなかった……。」
ウタの肩に手を置き、支えるようにそっと力を込めて。
優し気なまなざしで、ハンコックは妹たちに言い聞かせる。
「だがウタの父親はまだこの海にいる。こやつはまだ間に合うのだ。…送り出してやろうではないか。」
「ハンコック‥‥。」
「迷うな、ウタ。会いたい時に会いに行かねば会えなくなる…それがこの海じゃ。」
もはや、ルフィとウタの船出を見送る…そんな空気であったが、それに待ったをかける男がいた。
レイリーである。
「ウタ君、それにルフィ君。もう一つ、君たちに話しておきたいことがある…私に頼み込みに来た時のシャンクスの様子だ。」
レイリーから話を切り出され、全員が一旦席に着く。
先ほどまでの自分を思い返したのか、ウタの顔はいささか赤く染まっていた。
「大分参っていた様子だった…。四皇同士の激突で負った負傷もそうだが、それ以上に精神的に追い込まれているように見えたよ…。」
そう口にするレイリーの表情は暗い。
思い返すのは、ボロボロの姿で自分に土下座してきた義息子ともいうべき男。
「なぜこんなことに…、夢をかなえてくれたと思っていたのに…、そうしきりに呟いていたよ。」
そこまで言うと、レイリーは懐に手を入れると…紙切れのようなものを取り出した。
「それって…"命の紙(ビブルカード)”?」
「なんだそれ?」
「いや、海軍で習ったでしょ「寝てた。」それはもういい! ビブルカードってのはね…。」
命の紙(ビブルカード)…人間の体組織、爪や髪から造り出されるもので、そのもとになった人物のいる方角に動くという特殊な紙である。
対象が生きている限り、燃焼などで消失することもない。
偉大なる航路では、ログポースとならび指針として用いられる道具である。
「このビブルカードはシャンクスのものだ。君たちを連れていくためのものだな。ついでに言うと君たちを探し出せたのも、ウタ君のビブルカードのおかげだ。」
「えっ…私の、ビブルカード?」
「君が子供の頃にシャンクスが造ったらしい。ビブルカードは相手の状態によってはそのサイズを変える。これで君の安否の確認をする目的もあったのだろう。」
シャンクスのものだというビブルカードを机の上に置くと、そのビブルカードはズズズ、とひとりでに動き始めた。
「この方角に…シャンクスが……。」
その方角へと、ウタが目を向ける。
ウタの記憶のなかで、今もシャンクスは背中を向けている。その背中が、自分が望めばすぐ届くのだ。
「もしも、もしもだ。シャンクスが君たちを会えば…あいつは、君たちを自分のナワバリに閉じ込め二度と海には出させないだろう。」
「……え?」
「シャンクスが、俺たちを…!?」
レイリーから告げられた言葉に、ルフィとウタは唖然とする。
二人の中でシャンクスという男は、なによりも自由を重んじ、愛する男だったからだ。
決して他人を閉じ込めるような人間ではなかった。
「それ程に君たちを心配しているということだ。…この世界そのものが、君たちの敵といってもいいのだからな。」
レイリーはルフィとウタに目線を向ける。
その眼は、どうする?…と選択肢を示していた。
シャンクスに会い、そのまま籠の中の鳥になるか、それとも…
「俺はそんなの嫌だ。俺は…俺たちは、この海を駆けまわってみんなを助けてまわる…海兵だ!!」
「わたしもそう思ってる。それに‥‥そんなシャンクス、私は見たくない…!」
拒絶の言葉を口にする二人。
その反応を予想していたのであろう、レイリーは満足そうに頷いた。
「話を要約するとこうだ…。君たちはシャンクスに会いたい…だが、今のままでは双方望まぬ結果になってしまう。そこでだ…二人とも、私のもとで修業してみるつもりはないかね?」
「「ええっ!?」」
レイリーからの突然の提案に驚くルフィとウタ。
まさか、海賊王の右腕を務めた男が自分たちを、しかも海兵に修業をつけたいというのだ。
「どうして…なんで、私たちにそこまで…。」
「…君たちのことは、シャンクスと会うたびに聞かされていてね。私からしたら他人のようには思えないんだよ。…なによりも、ウタ君。君を放っておけないんだ。」
「え?」
どこか申し訳なさそうな表情を浮かべるレイリー。
その顔は、とても"冥王"と恐れられる男とは思えないものであった。
「かつて赤ん坊のころから育てた男が、同じように赤ん坊を拾い育て…そして捨てた。」
「…!」
「理由あってのことだと思ってはいる。思ってはいるが、到底許されることではない。シャンクスの育ての親の一人として、君の力になりたいんだ。」
レイリーは立ち上がり、ウタとルフィに向かって頭を下げた。
その姿は海賊王の右腕ではなく、苦悩する一人の"父親"であった。
「お、おい。おっさん…。」
「レイリー、あなたがそこまでする必要は…。」
「いや、これは私自身の望みでもあるんだ。どうか老い先短い老いぼれの望みを叶えると思って、君たちに修業をつけさせてくれないか…。」
ウタはチラリと横目でルフィを見たが、ルフィはじっとウタを見つめるだけだった。
レイリーの言葉は自分に向けられている、これは自分が決めなければいけないことだとウタは気づいた。
「レイリー…私たちは海兵。海賊に鍛えてもらうなんてもってのほか…って言いたいところだけど。」
椅子から立ち上がったウタは、レイリーの傍へと歩いていく。
世界から追い立てられる立場になっても、自分たちは海兵だという自負を持ち続けていることを口にするも…。
「手段を選んで、人々を守れるほど…私たちは強くない!」
海賊に襲われている人々…それだけではない、今のウタ達の境遇に苦悩している人々が大勢いることはウタにもわかっていた。
彼らを救うにはウタもルフィも、あまりにも力が足りなかった。
「だから‥‥私たちの方からお願いします。私たちを…鍛えてください!!」
ウタは自分の中のこだわりを一時捨てた…自分たちの身を案じてくれている者たちのために。
「ありがとう…私も、教えれる限りのことを君たちに授けよう。」
顔を上げるレイリー、その顔には晴れ晴れとした笑顔があった。
女ヶ島から北西にあるルスカイナ島。
かつてはこの島にも文明があったが、過酷な大自然との競争の末に滅んだという…。
その島に、レイリーとルフィとウタ、そしてブルックの四人だけがいた。
「サンキューな、ブルック。俺たちに付き合ってくれて。」
「早くラブーンに会いたいだろうに…ごめんね。」
「気になさらないでください!お二人の力になると言ったのに、私が一番弱いんですから!骨身を惜しまず頑張ります、ヨホホ!!」
ルフィとウタの修行に、ブルックも随伴したいと申し出てきたのだ。
ウタの力になってくれるのなら、とレイリーも快諾した。
「それにしても凄かったですねぇ。さっきのレイリーさん。」
「うん、あんなデッカイ象も倒しちゃうなんて。」
「あんだけデカイと、ギア3使っても倒せねぇだろうなぁ。」
先ほど見せたレイリーの実力の一端に、三人は感嘆の言葉を漏らす。
彼が言うには、三人が力を合わせても勝てないような動物たちが、ざっと300体はいるとの話であった。
「早く力つけねぇと、あいつら食えねぇなぁ…。」
「いや問題はそこじゃないでしょ…。このままじゃ夜も眠れないよ。」
「ヨホホ、一番弱い私が一番食べられてしまう危険が!」
「「食えるとこドコだよ!!」
「ヨホ~~、スカルジョーク!!」
雑談しながら、ある場所を目指して歩く三人。
やがて一つの樹木の前にたどり着いた。
「ここだね、レイリーが安全だっていった場所。」
「なんでも、ここだけ動物たちが近寄らないとのことで。」
「んじゃ、俺はこの麦わら帽子を…。」
樹木の前にある石の上に、自身の宝物ともいうべき麦わら帽子を置くルフィ。
ここに来るまでの間に、それぞれの大切な物を、ここに安置することを話し合ったのだ。
三人揃って、修業を完遂するという願掛けとして…。
「私は…これにしよっかな。」
そう言ってウタは、何重にも折りたたみ紐で結んだ羊皮紙を懐から取り出した。
「おい、ウタ。それって…!」
「ルフィ、今だけは私の思い通りにさせて…。きっとこれは、私が向き合わなきゃいけない問題だから。」
「‥‥わかった。でも、俺にできることがあったら言ってくれよな!」
「うん!!」
見覚えのある楽譜が取り出されたことに反応するルフィだったが、それをウタが制止する。
ウタの決意に、ルフィもひとまず引き下がることにしたようだった。
「それでは、私はこれを…」
「ええっ!?頭が割れたぁっ!!?」
「スゲェ、ビックリ箱みてぇだな!」
突如自分の頭を横に割り(?!)、その中に手を突っ込むブルック。
彼の奇行に、ウタは驚き、ルフィは目を輝かせる。
取り出されたのは一つの音貝(トーンダイアル)であった。
「これは私にとっての"命の唄"。死の間際に、仲間たちと行った演奏と歌が録音されています。霧の海の中で、最後まで正気でいられたのはこれのおかげです。ですが…。」
音貝をそっと樹木の根元に置くブルック。
空洞のはずの眼窩には、決意の光が灯っているかのように感じられた。
「元々これは、ラブーンに"我々は笑って冒険を終えた"と伝えるためのもの!必ず彼に再会するという誓いの意味で、私はこれを手放します!これを持つに相応しい力をつけるまで…!」
「…そのためにも強くならなきゃね。一緒に!」
「よし、レイリーのオッサンのところにいこうぜ!!」
「駄目だよ、ルフィ!今から鍛えてもらうんだから、これからはこう呼ばなきゃ…。」
「おお、来たな。準備はいいかね。」
安全地帯から少し離れた、開けた場所でレイリーがウタ達を待っていた。
三人は彼に駆け寄ると…
「「「これからよろしくお願いします!レイリー教官!」」」
まさかの"教官"呼びに、一瞬あっけをとられるも…
「あっはっはっはっはっは!よせ、よせ。そんな畏まった呼び方をするのは。そもそもこれは私の方から頼み込んだことなのだからな!」
「じゃあ、どう呼べばいいかな?」
鍛えてもらう以上、呼び捨てするには遠慮があるウタが尋ねる。
レイリーは、少し照れ臭そうに頬を掻くと
「君たちにとって私は他人だろうが…私にとっては、孫のように思えてね。老人として扱ってくれて構わんよ。」
その言葉にウタとルフィは顔を見合わせる。そして
「「よろしくお願いします!レイリーじいちゃん!!」
「はっはっは!じいじと呼んでくれてもいいぞ!!」
「ヨホホ、これからお世話になります!」
こうして、海兵と歌姫そして歌う骸骨は一時、世界からその足跡を消す。
彼らが表舞台に現れるのは、二年の年月を要することになるのであった………。
To Be Continude