小学校に入学したと思ったら戦国時代に飛ばされていました・・・死にそう
「終わった……」
そう呟いたウマ娘の名前はロンメル……15歳
6月の未勝利戦でスリーアウト(3戦連続9着以下)が成立してしまい2ヶ月間の出走停止処分がURAから通達された
これに伴いトレーナーからチームの除籍を言い渡され途方に暮れていた
「くよくよしていても仕方がない。少し走ろうか」
トレセン学園のコースはチームに所属していないと使うことができないのでロンメルはロードワークを行う
雨がしとしとと降り始め国道を走りながらどうすれば勝てるのかを考えていると……ピカッと辺り一面が光に包まれた
ゴロゴロドゴーン
雷がロンメルに直撃
ロンメルはここで本来ならば死という永遠の眠りにつくハズであった……しかし三女神様は安らぎを与えることはせずにロンメルに試練を与えた
天文18年6月(1549年)
ロンメルが気がつくと家の中に居た
「ここは……」
「ひぃ! だ、誰だ……よ、妖怪だぁ!」
「妖怪?」
目の前には怯える男女がおり、男は裕福そうな見た目で、女性も小綺麗な着物を着ている
怯えた男は刀を持ち出して斬りかかろうとしてきたが、ロンメルは怯えながらも話をしようとどこの犬養首相だよという説得で刀を向けられながらもとりあえず話し合いとなった
混乱も一周回ると冷静になる心理である
「私から名乗ります……ウマ娘名をロンメル、名前は砂山東狐(すなやま とうこ)と言います。15歳です!」
「平野長治……妻のお鈴だ」
「ここは何処で何年でしょうか?」
「尾張の国、津島だ。天文18年の春過ぎだ」
ロンメルは尾張の国という昔の地名と目の前の男女の服装、家の作りからここが昔の日本であると仮定した
「ウマ娘という種族をご存知ありませんか?」
「ウマ娘だ? 知らねぇな……妖怪にも種類があるのか?」
「妖怪って……いや、妖怪で良いです。私は東京という場所からやって来まして、気がついたらここに居たのです」
「東京? 東の京だぁ? 聞いたこと無いな」
「妖怪(ウマ娘)と人間が共存する場所でして……雷にみまわれた際にここに来てしまったかと」
「……そのしっぽ本物か? 動かしてみろ」
ロンメルはしっぽを左右に振り、本物であることをアピールする
「こちらからあなた方に危害を加えるつもりはありませんのでどうか刀を納めてはくれませんか」
男はゆっくりと納刀するが、いつでも抜刀できる体勢で構えている
とにかくロンメルは自身が安全であることをアピールし、とにかく媚びた、土下座した、すがり付いた
この三連コンボにさすがに平野も害は無いと思ったのか話を詳しく聞くことにした
「とりあえず迷い人ということは理解した。ウマ娘なるものは聞いたことが無いが、役に立つというのならば置いておいても良い。まず現状を話そう」
天文18年といえば管領の細川晴元が三好長慶による反乱により京から将軍を連れて逃亡、三好家による畿内統治が始まり、尾張では約20もの織田家による分裂統合が発生しており、守護大名の斯波氏の権威が失墜して以来尾張は蠱毒の様な形相であったが、津島を抑えていた織田弾正忠家の織田良信・信定父子、現当主の織田信秀と代を重ねるごとに勢力を増し、その武力で美濃の斎藤家、三河の松平家、駿河の今川家と渡り合う勢力に成長していた
のだが、信秀の息子信長がうつけ者(馬鹿)で歌舞いて城下を練り歩き、親衛隊の武家の次男や三男達を周りに侍らせて歩くものだから今後の織田家は暗いと思われると言われた
津島十五家と呼ばれる名家であり、津島の商業を支えていた者の1人が平野長治であり、妻は十五家筆頭の堀家の娘といえばこの人がどれだけ偉いかわかるだろう
分かりやすく言うと知事が斯波氏でその部下が織田家
津島十五家は地方の大企業で平野はそのグループ会社の社長みたいなイメージ
で文字は昔の文字過ぎて読めないが、四則算特に九九を暗算できる事は評価された
この時代九九ができれば数学者扱いで、それだけで食っていける技能である
それにウマ娘であるロンメルは人の何倍ものパワーがあり、人の何倍も速く走れる、物を運べることを大きく評価された
「凄いな流石妖怪だ……武芸の方は何かあるかな」
「いや、平和な時代だったので身に付けていません」
「なるほど……なら小者として食事は食わせるし、家の店でしっぽや耳を隠して働いてもらおうか。武芸は私が教えよう」
ということで働く代わりに雑用や帳簿の計算をやることになった
他の小者達にも紹介され、怯えられながらも仕事を一緒にしていくこととなる
ロンメルが戦国時代に来て1ヶ月が経過した
まず髪の色が金髪なので墨で黒く塗り、耳を頭巾で隠し、しっぽも服を工夫して着ることで隠していた
他の小者達からやることを教わりつつ、私からは四則算を教える
ついでに平野様に頼んで算盤を作ってもらった
算盤が有れば更に大きな計算を素早くできるし、ロンメルも算盤を小学生の頃習っていた為地面に設計図を書いて平野様に見せると直ぐに有用性を理解して竹や木材で職人に作ってもらった
平野様曰く
「良い拾い物をした」
とのこと
平野様から文字の読み書きや槍の扱い方を教わるが、ロンメルはどうやら武芸に関しては天賦の才があったらしくみるみると吸収し、奥方に薙刀も教わったが1ヶ月で2人よりも強くなっていた
ウマ娘のパワーが有ればこそであり、技量はまだまだであるが、力押しで勝てる為、試合稽古ではなく素振りを見てもらいダメ出しするやり方に変わる
そして一番驚いたことは馬という生物に出会った事だ
平野様の所でも飼育されている馬はウマ娘をそのまま動物に落とし込んだ生き物であり、良い馬を持つのは一種のステータスだと言われ、移動、合戦、開墾、引き荷と生活に欠かせない動物であると紹介された
逆に平野様は私が馬を見たこと無いことに驚いていたが……
平野様の付き添いとして町に出ている時、信長様の御一考と遭遇した
馬に乗って瓢箪片手に町中を確かに練り歩いている
町行く人々は道を開けて通りすぎるのを待つ
するといきなり1頭の馬と私が目が合うとその馬が暴れ始め、乗っていた主人を落として私に向かってくる
「東狐!」
「……うせろ!」
私は右手を前にして威圧すると馬は大人しくなり、私にすり寄ってきた
「お帰りなさい」
そういうと馬は主人の元に戻っていった
その様子を見ていた信長が興味を持ったらしく
「娘、名を何と言う」
と聞いてきた
「ロンメル……東狐とも言います」
「ロンメル……ずいぶん歌舞いた名だ! 気に入った! 名を覚えたぞ」
そう言って信長様は何処かへ行ってしまった
平野様はこの光景を見て肝が冷えたと……
平野様からお使いを任されたのが信長様に名前を覚えられてから1ヶ月後のこと
京まで荷車を引いて針を売り、そのお金で染料の茜や茶を購入し、それを大湊で売って更にそのお金で紅花や伊勢海老を買えるだけ買って戻ってくるように言われた
お金は2貫を渡された(約20~30万円)
これは小者として2ヶ月働いた賃金とも言われ、これをいかに増やせるかで商才を見極めようという平野様のお考えであり、ロンメルは裏側に気がつくとどれだけ稼げるか頑張ってみることにした
まず津島の座で針を買えるだけ買い込み、美濃経由で京を目指す
道中関所があったのでそれを山道の獣道を高速で移動し迂回、針が荷なので束ねて背中の籠の中に居れておけば大丈夫な為空の荷車を引きながら近江の目加田の座に到着
針を一部売却し、酢と味噌、麹を荷車に積んで購入してまたダッシュ
で、酢、味噌、麹を各々樽に入れて運搬
そのまま京の座に到着して針を含めてこれら全てを売却
京は応仁の乱にて廃れており、座で茜と茶葉を購入したら石山までダッシュ
石山の座で茜と茶葉を売却して紙を購入、それを堺にまで持っていき堺の座で紙を売却
堺の座で銅を購入したら山道を通って大湊にまで運ぶ
道中山賊と思われる集団に遭遇したが、荷車を引いても私の脚力の方が勝りそのまま突破、大湊に到着したのがその日の夜だったので宿で一泊し、大湊の座で銅を売却して紅花や伊勢海老を購入
伊勢海老は生なので売るなら急がなくてはならないので、海産物が高く売れる京までダッシュ
昨日あった座の店主に今度は伊勢海老と紅花を売り付ける
「生きた海老とは……何処のだ?」
「大湊の海老です」
「大湊!? 昨日の今日で行ける距離じゃねぇだろ」
「協力者が居まして3人係で手分けして買い物をして道中で落ち合い、各々の物資を交換して売っているのですよ」
「お、おうそうか……生きた立派な海老だから1匹100銭でどうだ!」
「200銭!」
「125銭!」
「175銭」
「150銭!」
「まいど!」
樽から大量の伊勢海老を出し売却すると紅花と合わせて50貫まで化けた
座の店主に茶葉をあるだけ買いたいと言って50貫分の茶葉を購入して、それを再び大湊まで運び込む
大湊の座の店主に京の座の店主同様に驚かれたが、茶葉を購入してもらい、伊勢海老と紅花を買って津島に戻る
「おつかれさん、どうだった色々回ってみて」
「京の廃れ具合は凄まじいですが、堺に行ってみましたら凄く栄えていました。石山の町も凄かったです」
「今日仕入れてきてくれた伊勢海老と紅花を差し引いてお駄賃は30貫だ。俺なりに色々と考えたんだがお前をここで縛り付けておくより色々日ノ本を巡って見聞を広げた方が良いと思う。荷車はやるからその30貫を元手に色々試してこい」
平野様はそう仰った
僅か2ヶ月、されど2ヶ月……平野様はお古の武具も譲ってもらいいつでも戻ってきて良いからと言われロンメルは放浪の旅に出る
各地で転売を繰り返しながら資金を稼ぎ、鹿児島まで移動するのだった
天文18年8月