永禄3年(1560年8月)
領の引き継ぎが進み、ロンメルや小作人、家臣達はロンメルの旧領は来年には没収となることによりひとまず新天地鳴海城への下見に参った
「思っていた通り……焼け野原か」
合戦により田畑は青田刈りや放火の被害にあい周辺地域の住民は食い物に困る始末
信長様から貰った褒美で頂いた金銭で兵糧米や薩摩芋を大量に購入し、ボロボロになった城の改築の人夫として雇い、彼らに食事と僅かながらの給金を与えることをこの時計画し、
「城か……とりあえず色々試したり重臣方に聞いたりしながら改築していくしかないな」
ロンメルは忘れているかもしれないが元々はトレセンの学生である
そんな彼女に城作りのノウハウなんか無い為、重臣方に聞いてみたところ丹羽殿が手伝ってくれることとなった
「まずどのような城にしたいか教えてはくれぬか? そこまで大きな城でもないので詰め込みすぎると城として機能しなくなるぞ」
「はい、なので色々と考えてみたのですが、私は鉄砲隊を組織しているので鉄砲を上手く扱える城にしようと思います」
ロンメルは図面を広げた
まず正面口は緩やかな坂の上に門と垂直に曲がる様にもう一つ門を置き坂の横に鉄砲と矢を放てる矢倉を設置し門と門の間に鉄砲窓を設置する
「本当は石垣にしたいが高いから土を盛って壁は土壁にして屋根を置くことで火縄銃が雨で撃てないのを防ごうかと……矢倉も土壁で囲み粘土瓦で火矢で燃えないようにしようかと」
「結構な値になるぞ」
「入り口は仕方ないと割り切ります。南北の入り口はこれでいこうかと」
ロンメルが丹羽に説明したのは本当に偶々であるが枡形門と呼ばれるキルゾーンを作り出す恐ろしい門で鉄砲が主流となる戦国末期に流行るのだが、それを先取りした形となる
「堀は空堀で6メートルくらいでしょうか……本当は水堀にしたいですが増水した時に城が飲み込まれてしまうかもしれないので」
「あぁ、やめておいた方が良かろう」
「二の丸に向かう道に馬出しも作って二の丸内に鉄砲工房と馬小屋や武器庫を作り、本丸に屋敷と食糧庫、倉を幾らか作る感じでしょうか」
「それなら問題なかろう。ちなみにどれぐらいの兵を詰めさせられる予定だ?」
「最初の改築で2500、再改築で5000を詰められる様にしたいですね」
「再改築とな?」
「はい。5つの旧砦を連結させて海まで続く町一体型の城になれば良いなと考えています」
「町一体型……大規模な工事となろうな」
「まぁ今川が弱体化しているうちに強化させなければ東の守りとして私が居るので……3年後には着工したいですね」
「資料は俺にも回してくれ。俺も城を作る時の参考にしたいゆえに」
「勿論です」
「しかし難しい場所の城を任されたものじゃな鳴海の町や周囲の村は先日の合戦でほぼ壊滅しておるゆえにろくに税の取り立てもできぬぞ」
「もとより今年の税は期待してませんよ」
ロンメルが手に入れた領土1万石の領土の内訳は鳴海城下町、小さな港、6この村となる
まずロンメルは村や町の代表を集め開口一番にこう言った
「私は妖怪であるゆえに既存の物から外れた行いもするがまずは町や村を建て直すために今年の税は無税とする。食糧もなんとかする。変わりに町では楽市を実施するが徳政令の禁止と学校の設置を約束しよう。町から借りた金は必ず返す。人材を育成して商家を増やす……来年以降も商いに対しての税は低くし、今川方からの荷に税をかけたりもしないと約束しよう」
町の衆は驚いた
楽市の実施により他方から商人がやって来るのは痛いが、織田学校から輩出される優秀な人材の噂は今川方でも聞こえており、それが町にできれば学生やその家族を相手にした商売もできるし、徳政令の禁止は借金の踏み倒しを防げるので信用商売において商人にとっては大きなメリットである
更に今川方からの荷税をかけないというのは今川領内から織田領内に物を売るときに大きなメリットであり、商人達は鳴海の地を経由すれば大きな利益を得られることが確定しているも同然であった
今川は戦力的には先の合戦で衰えたが文化力は栄えている尾張に並んでおり、味噌や塩、鰹や鰯等の海産物、茶等の特産品に芸術品が多くそれらを転売するだけでも大きな利益となることは明らかだった
「農村は人夫や道具を出す故に早急に田畑の回復に勤め、私の旧領で成功した農法を伝授した者達(小作人達)を代官として送る。彼らに農法を良く聞き、道具の使い方に慣れるように。今年は無税とするが来年は3割、再来年以降は4割を税とする。今年の冬は食べ物がなくて困るだろうから城の改築の手伝いを申し付ける。食事と僅かではあるが給金も出す」
村長達もざわつく
今の時代税は安くても5分、高いと8分というところもあるのだがそれを4分とずいぶんと安くしてくれるという発言に歓喜の声をあげる
更に冬場の人夫にも給金がつくということで喜びを表した
「私も現地に赴き開墾作業を手伝ったりするゆえによろしく頼む」
とロンメルは商人や農民達に頭を下げた
妖怪、しかも城主が1農民、商人に頭下げるのは前例が無いことで彼らを驚かせた
「とにかく私は鳴海の地を授かった以上鳴海の地を発展させる使命がある。新参だがこの地に住む皆に力を貸してほしい」
この言葉の後言った事を紙に書き起こして血印をロンメルは押し、誓約書とした
翌日から小作人達を各農村に派遣し、ロンメル各地を回って村の衆に挨拶をしていった
始めて妖怪を見た彼らは一様に驚くが、要望を親身に聞くその姿勢に心を許していった
ロンメルは津島、熱田、清洲だけでなく石山や本願寺まで出向いて資金集めと商人集めに奮闘した
平野様や津島十五家の皆さんな熱田衆はロンメルの事をよく知っていたのですぐに承諾、清洲も一部商人が今川との転売による利益を狙って暖簾分けした店を出店
鳴海に出店しようと動いた者は現金掛け値なしを実行している元学生達が多く、ロンメルの教え子達でもあり彼らは恩返しの意味も込めて協力してくれた
一方堺や石山からは港を拡張しないとどうしようもないと言われ、鳴海に行くなら途中にある津島や熱田に寄った方が良いので利点が少ないと言われた
これを解消するためには港を大きくしなければならないが人手が足りない
ロンメルはどうしようか悩んでいると堺の商人が雑賀衆を使ってみてはどうかと言われた
傭兵集団の雑賀衆であるが紀伊の地は海にも面しておりある程度の海軍の整備も行っていた
ロンメルは雑賀衆に堺商人の紹介で面会し、雑賀衆は傭兵契約かと思っていたところ海軍衆を作り、一帯での商戦の保護、雑賀衆が鳴海で商売する際の特権も与え、家臣として働いてほしい旨を伝えた
雑賀衆は吟味した後に鈴木孫三郎という20代前半の人物を棟梁とした30名が移住することが決まる
30名の中には鉄砲鍛冶も混じっており、場内に鉄砲鍛冶屋を作ると伝えると鉄砲の有用性を理解しているようで何よりだと言われた
ロンメルには一門衆が居ない為織田学校出身者達や外部の者で家臣団を形成した
まず忍衆頭の町田半乃助、織田家鉄砲隊の副隊長であった鈴川千秋、今川義元一番槍の功績で信長から別途報奨を貰った服部一忠を重臣とし、家臣だった元学生の20名を侍大将級に引き上げ、ここに鈴木孫三郎も入る
その下に忍衆、雑賀衆(以後鳴海海軍衆)、初期の小作人達(武士に引き上げた上で算術や読み書きを教えていたので代官に抜擢、主に内政官として登用)
更に下に200名程の城兵となる
城兵達には城の改築もまだなのにいち早くできた学校に叩き込み1から鍛え直しを行う
農兵や雑兵、町にいる浪人を集めれば1000名は固いと見ている
彼らが役に立つかというと疑問だが、火縄銃よりコストの低い弩の量産ができるロンメルは弓より習熟度が低くて済む弩を使い、簡単に弓兵を増やせる利点から農民達に鹿狩りと称して弩の訓練をさせることになる
村にも害獣対策用と弩を配り、練度向上に一役買った
「村の修復で雇った人夫はそのまま城の改築と港の大型化、造船所の建築で使うとして……」
「大変です大将! 三河勢がこちらに攻めてきています」
「数は」
「100ほど、偵察か近隣を荒らすのが目的かと」
「血祭りにあげる……利家、半乃助着いてこい」
「おうよ」
「は!」
度々三河の皆さんが攻撃にやって来るが、皆殺しにしてこちらに手を出せばどうなるか教え込む
冬になると三河方から使者が来て戦っている体でにらみ合いにしてくれという文が届いた
ロンメルはこれを承諾し、以後攻めてくることはあっても相撲大会や模擬戦だけをして帰る
帰り際に酒を降るまい親睦を深めるという奇妙な関係を構築することとなる