永禄5年(1562年)
28歳となったロンメルのお腹はいままでの倍以上に膨らみ、政務に支障が出る程であった
ロンメルは政務を織田学校出身の行徳定春という者を奉行衆筆頭にし、商人達から次男以下の武士になりたい者や鳴海学校卒業者達を集め奉行衆を作り、ロンメルが政務ができない時は彼らに行政を行わせた
判事は判事衆を鳴海の地に来たときに作っていたので、織田の法に従って裁き、ロンメルが居なくても回る仕組みができていたので手を加えなかった
行政と判事が機能していたし、軍事は松平と水野が同盟状態の為増やす必要が薄く、美濃攻めの準備として週3日くらいに合同訓練を行い、それ以外の日は町の衆や村の手伝いに兵を回した
学校も混乱状態の今川から逃げてきた公家を保護し、教員に採用したりし、教養を教えて貰いながら鳴海学校も織田学校に負けじと拡張を続けた
9月になるとロンメルは5つ子のウマ娘を出産した
「妖怪様が妖怪をお産みになられた」
噂は直ぐに尾張中に響き渡り、小競り合いが続く美濃戦前を佐久間信盛と柴田勝家に任せてその日のうちに信長がすっ飛んできた
「信長様早すぎませんか? いつも翌日ですよね?」
「妖怪が産まれたと耳にしてな! どれ! 本当か」
「はい。黒髪は信長様似でしょうな。どの子も耳としっぽが有ります」
「おお! そうかそうか! 余の種では妖怪は孕まないと思っていたがロンメルの血の方が今回は勝った様だな」
「名前どうしますか? ウマ娘はそのうち天より名前を授かりますが」
「なに? 天から声が聞こえるのかお主達は」
「そういう種族故に……」
「坊主達が聞いたら卒倒物だぞ……まあ良い。馬の妖怪だから過去の名馬の名前が良かろう。長女は阿久利黒、次女は望月、三女は磨墨、四女は生食、五女は薄墨にしようぞ」
「わかりました」
「気になったのだが妖怪の場合家督はどうするのだ? 長男よりも妖怪の長女の方が強いのか?」
「いえ、妖怪でも最初に産まれた子が家督を継ぐ歴史になっていました……大昔信長様が疑問に思ったことで大陸の巨大帝国が内乱となり崩壊した事があったので妖怪……ウマ娘で有ろうと人間であろうと最初に産まれた子が家督を継ぐことになります」
「そうかそうか……黄坊も元服したら織田の名字を使わせるが将軍より貰ったお主の怪異の名字と合わせ怪異織田という分家を作るぞ。余の妖怪の子供達もお主みたいに文武に長けた立派な武将になれば良いが……いや、そうだ! 将軍にこの事を知らせよう! 将軍もお主の事を気に入っていたからその妖怪の子供にも役職をくれるかもしれぬからな」
「役職ですか? この子達に?」
「お主普段は切れ者なのにたまに世間知らずになるな……まあ良い。役職を拝命すれば武家において優位になれる。それがいままで存在しない役職であれば物差しが無く無職の者よりは確実に優位を取れ、役職を持っている者も敬意を表する。この尾張の地では信長の娘として守れるが、織田領から一歩でも出れば守ることはできない。妖怪として退治されないためにも幕臣になっておく事は重要ぞ」
確かにロンメルは幕府から怪異の名と妖怪大将の役職を貰ってから討伐しようとする輩はめっきり減った
赤ん坊のロンメルの娘達を心無い輩が襲撃してこないとも言えないので信長の提案に乗り、数名の馬廻りを連れて再び上京することとなった
社会見学と称して茶四郎から上の男どもと絶対に着いていくと言って聞かない黄衣も連れての総勢40名程が今回の上京選抜隊だ
美濃領土から行くのは今は危ないので幕府に従っている北畠氏の治める伊勢中部まで船で移動し、そこから三好の領土を通り京に居る将軍の下に行く事が決まる
鈴木孫三郎率いる怪異鳴海水軍の関船(鳴海の造船所で作られた物)で伊勢まで移動し、伊勢の北畠具教と面会が実現した
「信長殿の手紙と幕府からの手紙でこちらを通る事を知っておった故に持て成しをするためにここに呼んだ」
霧山御所にロンメル達が伊勢に到着すると北畠の家臣達に案内され、1泊させて貰えることとなった
北畠家当主の北畠具教は将軍の兄弟弟子であり、ト伝から手解きを受けていたのでロンメルにとっても兄弟子にあたる
ロンメルの事は妖怪が数年前に将軍と面会した、織田家は妖怪を従えている、数々の合戦で大手柄を立てたという断片的な情報が伝わっており、特に武勇に関してが伝わっていた
「聞いたぞ今川家臣の松井宗信殿を討ち取り鳴海の地の城主となっているらしいな。俺は商いに興味が無いが、商人達が良き妖怪領主と呼んでいたからずいぶんと慕われているらしいな」
「皆さんの力が有ってこそです」
「謙遜は良い、どれ1つ手合わせ願いたい」
「私で良ければ北畠様のお相手になれれば」
「木刀を2本用意しろ! 外にて稽古をつけてくる」
子供達に応援されるなか北畠具教様と対戦を行い、結果10本行ったが4本しか勝つことができなかった
「強いな……合戦の決まり無しであるなら俺は相討ち覚悟でなければ止められまい。将軍様が気に入るわけだ」
「北畠様は一之太刀はお使いにならないので?」
「あれは稽古で使うような物ではない。将軍様は気に入った人に使っては大怪我をされていると聞くがな……受けた事があるのか?」
「はい、前に会った時に」
「ならば良いか……もっとよく見ろ。さすれば透き通った世界に到達することができる。俺はそれこそが一之太刀だと思っている」
「透き通った世界ですか?」
「俺も極限状態の時でしか無理だ。だから稽古だと見えない。将軍様はそれが常時できるから俺よりも太刀の腕は上だな」
「ありがとうございます。鍛練を続けてみます」
「おう、励め……コツは呼吸だ」
「呼吸ですか?」
「肺に目一杯空気を取り込むのだ。上手く言えぬが無駄を省いて行けばその境地に立てるだろう」
「は!」
ロンメルは北畠具教にアドバイスを貰い、翌日には霧山御所を出発し、三好領に入る
三好領は当主の三好長慶が弟達と息子を次々に失い、憔悴から病気になっていたことで衰退気味であったが、山賊等も出ず入らずに京にたどり着いた
「将軍様お久しぶりでございます」
「おお怪異か久しぶりだな! 大きくなったな……この度は妖怪の子供が産まれたと聞いたが」
「はい、こちらに」
将軍の前に赤ん坊達を並べた
「おお、本当にそなたと同じ耳としっぽを持っておるな……他の子供は違うのか?」
「はい、私の横に居りまする息子と娘も私が腹を痛めて産んだ子でございます」
「おお、もうこの様な大きな息子達が居るのだな名をなんと申す」
「は! 黄坊でございまする。横に座るのが妹の黄衣、横に茶一、茶次郎、茶三郎、茶四郎と続きます」
「そなた年は幾つだ」
「今8つでございます」
「8つでそれだけ大きな体とは実に羨ましい」
黄坊は1年が経過して150cmほどの大きさになっていた
「黄金色の髪は母譲りというわけか……そなたは武道は嗜んでいるのか?」
「嗜む程度には母に教わり剣術と弓術を、前田利家という信長様の家臣に槍を、鈴木孫三郎に火縄銃を教わっておりまする。茶一達も同様です」
「そうかそうか! 励め」
「は!」
「本題に戻ろう……妖怪達が討伐されないように役職が欲しいとの事だったな」
「はい。お礼の品としてこちらを」
ロンメルは将軍に火縄銃50丁(生産数の増加により値下がりして1丁50万円程)を贈与した
「火縄銃か」
「はい、将軍様は武力を求めていると聞いていましたので少しでも役にたって貰えればと思いまして」
「良い。お主のできる範囲ギリギリの品というのは理解したからな……妖怪の長女の名をなんと言う」
「はい、阿久利黒です」
「ならば阿久利黒を妖怪中将、その他を妖怪四天王の役職を与える。良いな」
「はっ!」
その後将軍様と立ち合いを行い、ロンメルは尾張へと帰っていった
途中伊賀により半乃助達の出身である伊賀衆に挨拶し、人材の引き抜きをしていった
下忍20名、中忍4名を雇い、ロンメルは再び伊勢中部から船に乗って鳴海の地に戻るのだった
帰って早々にロンメルは忍び育成の村を流民や孤児で作らせ町田半乃助の所領にし、半乃助に忍びの育成と軍馬の増産を任せた