元亀元年(1570年5月)
朝倉の追撃隊1万5000を率いるのは真柄直隆という猛将と山崎吉家という知将であり、浅井が立ったことにより負け戦から勝ち戦へと変わり士気は跳ね上がっていた
猛然と進む彼らの前に夕刻ロンメル率いる決死隊が姿を現した
「妖怪大将怪異正八位下蝦夷地守護東狐論目流! 賊敵朝倉の軍とお見受けした。幕命によりお命頂戴いたす」
ロンメルがそう叫ぶとロンメルは馬よりも速く駆け出し朝倉の先頭に居た武将を愛刀影月で横一線、それに激怒した者達がロンメルに襲いかかるが懐に入られる前に斬り殺し、叩き殺し、踏み殺した
「我が名は阿久利黒! 妖怪副将阿久利黒である!」
「怪異家一門衆妖怪四天王望月!」
「同じく磨墨! 者共行くぞ!」
「同じく生食!」
「同じく薄墨!」
「「「「我ら妖怪四天王がお相手いたす!」」」」
「突撃……開始」
阿久利黒の号令で母親のロンメルに続き馬廻り衆や決死隊に参加した精鋭が突撃を開始する
「槍で牽制し、懐に入れるな!」
「甘い!」
ロンメルは槍を掴むと持ち手ごと横に投げた
すると隊列を組んでいた者達も横殴りに倒され転倒
ロンメルは奥へ奥へと進んでいく
「ひ、ひぃ! 鬼じゃ! 鬼がおる!」
「隊列を組み直せ! 妖怪といえど命は1つぞ!」
はぁはぁ……
ロンメルは全方位が敵の中身体中に返り血を浴び真っ赤に、真っ黒に染まっていた
ロンメルは息を整え集中する
鍛えぬかれた肉体はロンメルが動きたいように動いてくれる
すうぅぅっと徐々に肉体の感覚が透き通っていく
皮膚、筋肉、血管、血液の1滴に至るまで認知できているような気がする
ストンとロンメルは何かが組み合わさるような感覚を覚えた
敵が驚愕しているのだ
まるでいきなりそこに現れたかのように
糸が見える……ロンメルは糸に沿って大太刀を振るうと敵が綺麗に斬れていく
鎧が紙切れのように肉体が斬れるのだ
すうぅぅっと息をする
相手が透けて見える
白黒の世界に相手の血管や骨が見えるのだ
「これが……一之太刀……」
呼吸が乱れた瞬間にあの美しい透き通る様な世界から現実へと戻される
「撤退! 撤退せよ!」
ロンメルはそう叫ぶと朝倉の兵を吹き飛ばしながら撤退を開始する
「逃がすな! 討ち取れ!」
ロンメルや阿久利黒達の足の速さに追い付けずにロンメルと娘達は金ヶ崎に撤退に成功するが、馬廻り衆、決死隊参加した精鋭達で生き残り金ヶ崎に撤退できたのは50人にも満たなかった
ロンメル達の撤退に合わせ朝倉軍は軍を早め木ノ芽峠まで迫り、ロンメル達決死隊の被害状況が露となった
「1500じゃと」
「はい。先鋒隊とその真後ろにいた部隊が被害にあい足軽大将以上だと羽床定光、古源晴冬、亀ヶ森種森、曽田吉治、坂部甚三、高松村位、牟禮良顕、柳橋秀孝、羽柴教竜、立花一照様達がお討ち死に……士気も低下しており、逃げ出す者も出ております」
「督戦隊を編成しろ。この戦勝ち戦ぞ、逃げ出すものは斬り殺せ」
「は!」
「なかなか上手くいかぬものですな」
「あぁ、しかしあ奴らの動きからわかったが織田は逃げておる。ならば我らは速やかに金ヶ崎を奪還し、追撃せねばなるまい」
「そうですな」
真柄直隆と山崎吉家の大将2人の判断により夜間行軍を行うこととなり細い金ヶ崎へと続く道に踏み入れることとなる
「妖怪殿ご無事で」
「ああ、なんとか。これで撤退を敵が確信し、兵糧攻めは消えた。金ヶ崎城は力攻めとなるだろう……」
「軍が縦に伸びましょうな」
「既に忍衆の情報により伏兵隊及び別動隊は所定の位置に到達したとのこと……後は時の勝負」
「いやはや流石論目流殿だ」
そこに現れたのはこの場に居てはいけない斎藤家の家督を継いだ斎藤利治がそこに居た
「斎藤様なぜこんな所に!?」
「いやはや私が居れば美濃衆で多く構成されている明智隊と木下隊が勢いづくと思いましてね……結果特等席で良いものを観れましたよ」
「は、はあ……」
「私も次の突撃に参加します。どうぞ私と私の馬廻り衆をお使いください。精鋭揃いの猛者達ですので」
「ありがとうございます」
「母上!」
「どうした!」
「薄墨が矢傷を受けていて熱出して倒れた」
「臓物に傷は!」
「腕だからそれはない!」
「ならば熱湯にした水を器に入れ、それを容器ごと冷やし傷を洗い流せ! その後熱湯に着けた布で矢傷の部分を巻け」
「わかりました!」
「馬糞や尿で洗わなくて良いので?」
「そんなことをしたら死ぬわ! ちっ! 娘達は次の突撃には使えない。恐怖を覚えてしまったかもしれないから……斎藤様、次の突撃で仕留めますので頼みましたぞ」
「蝮の子として頑張りますよ」
「論目流様、急ぎ報告」
半乃助の部下の忍びが報告に現れる
「なんだ!」
「少し早いですが朝倉軍最後尾が目標地点を通過中! 朝駆けの合図を」
「狼煙をあげよ!」
伏兵隊と別動隊による同時箇所複数奇襲が始まった
ロンメルは城門をあけると明智隊、徳川隊と同時に先鋒隊に襲いかかった
「よ、妖怪じゃ! 妖怪が再び現れた!」
ロンメルが再び現れたことで再編された先鋒隊は戦わずして壊走、これに後ろに居た部隊も巻き込まれ足が止まる
側面からは伏兵隊が猛攻を仕掛け大混乱となった朝倉軍を大将2人が必死に立て直そうと奮起する
ロンメルは意識を自然体に身を任せ再び透き通った世界に突入する
白と黒の世界、前に前にと敵兵を斬り捨て進んでいく
「督戦隊! 何とかして脱走兵を持ち場に戻せ! 数はこちらが有利ぞ!」
正確には互角なのだが伏兵が少数と見破った真柄直隆は督戦隊を動か中段の部隊を混乱から立て直しかけたが
「な……妖怪だと」
目の前にロンメルが居た
ロンメルが居たことに全く気づかなかった真柄直隆は刀を抜く事なくロンメルに斬殺されてしまう
ロンメルはそのまま単独でて細長くなっていた朝倉軍を突破し、木下隊と合流してしまう
「ろ、ロンメル殿!? まさか敵陣を突破してきたのか!?」
「……」
ガクンとロンメルは膝から崩れ落ち昏睡してしまう
「者共ロンメル殿を守れ! 敵は大混乱ぞ! そのまま押し潰せ」
「真柄直隆様お討ち死に! 山崎吉家様背後も織田の兵に囲まれております」
「先鋒隊及び中段までの部隊も壊滅! 後方の部隊も戦意を喪失しております!」
「ここまでか……誰ぞ介錯を」
山崎吉家も陣中にて自害したことで朝倉軍1万5000は壊滅
生き残ったの僅かな兵は鎧を脱ぎ捨てて海から逃げようとするが、遠泳の経験など無い彼らは波に流されて次々に溺死していき玉砕という字の方が正しい事となる
朝倉はこの1万5000という大軍が大敗し、有力武将がことごとく討ち死にしたことにより後々の合戦全てにおいて影響力を大幅に低下し、滅亡の最後までこの損害を回復できずに散ることとなる
朝倉軍の大軍が1夜にして壊滅し、ロンメルが倒れたことで指揮を受け継いだ徳川家康はすぐさま撤退を指示
迅速な移動で浅井本隊が到着する前に金ヶ崎を脱出し京に撤退する
後に金ヶ崎の戦いと呼ばれるこの戦いはロンメル、木下、明智、徳川の名を天下に響かせ、木下秀吉と明智光秀は織田の有力武将へと認められ、徳川は織田に臣従していたと見られる動きから対等な同盟者と見られるようになる
そしてロンメルは大妖怪と恐れられ越後の竜、甲斐の虎、尾張の大妖怪と呼ばれるようになる
……天下の笑い者となった朝倉だが、それよりも深刻なのは浅井である
「義兄上を甘く見すぎていたか……この浅井長政一生の不覚」
織田からは対等な同盟者として見られていた浅井家は一変して将軍に刃向かう逆賊となり、朝倉も宛にできないことによりほぼ単独で巨大な織田に敵対することとなってしまう
ロンメルは一之太刀の反動で倒れ、以後倒れないように訓練を続けるのだがこの戦国の世では一之太刀を完全に使いこなすことは無かった……