ロンメルの受難   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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西上作戦 3

 元亀3年(1572年12月) 三方ヶ原

 

 鶴翼の陣中央やや左にロンメル率いる鳴海衆5000が布陣

 

 隊列は左より大久保忠世隊、榊原康政隊、ロンメル隊(鳴海衆5000がここ)、本多忠勝隊、徳川家康隊、佐久間信盛隊、石川数正隊、酒井忠次隊という布陣となった

 

 奇妙様は佐久間信盛が預かりとなり、ロンメルは津田信澄様を利行と勝成に護らせる

 

「嫌な予感がする……」

 

「母上もですか……俺もです」

 

「はは、拙者も」

 

 ロンメル、左恵、鈴木孫三郎の3名は今までに感じたことの無いような強烈な死の匂いを感じ取っていた

 

「朝倉の金ヶ崎の時もなかなかだったが……それ以上か」

 

「鉄砲隊も抜刀がすぐできるようにさせておきます」

 

「鉄砲は捨てさせろ……高いが命には変えられん……やられたな」

 

 ロンメルの目には風林火山の旗が沢山靡いているのが見えた

 

 中央に近いロンメルが見えたということは

 

「かかれ」

 

 武田軍との戦闘が既に始まっているということだった

 

 武田軍による待ち伏せであり、魚鱗の陣であった

 

「陣形を立て直せ! 後退しながらも戦線を崩すな!!」

 

 ロンメルは先頭で敵兵を斬り裂きながら大声で叫ぶ

 

 容赦なく弓や石が飛んでくるが斬り裂いた敵兵を楯に防ぐ

 

 ロンメルの相手は小山田信茂

 

 小山田の部隊に側面から本多隊が突入し、それを好機と見たロンメルは

 

「今だ押し込め!! 突撃!!」

 

 突撃を刊行

 

 全体的に徳川織田連合軍がまさかの優勢で序盤は過ぎたが

 

「突入」

 

 控えていた武田勝頼隊が本多隊の側面に突撃すると形勢が逆転

 

 武田勝頼隊はそのまま酒井隊に攻撃を行い右翼が崩れ始める

 

「不味い! 左恵!」

 

「なんでしょう!」

 

「奇妙様を安全な場所まで後退させよ! 佐久間と平手では危ない! 500連れていけ!」

 

「わかりました!」

 

 ロンメルは最前線で味方を鼓舞し続ける

 

「長槍隊前へ! 武田騎馬隊の突撃を防ぐぞ」

 

 ロンメルは馬ごと敵兵を斬り捨てる

 

 血を出血させながら暴れまわる馬の亡骸に槍隊の一部が動揺するが

 

「狼狽えるな! ここで崩れたら飲み込まれるぞ」

 

「田中義綱殿、中根正照殿、平手汎秀殿討死!」

 

「佐久間隊が撤退していきます! 右翼完全に崩れました!!」

 

「何が筆頭家老だ! 逃げ佐久間は逃げることしかできないのか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐久間隊に居た奇妙は圧倒的な武田の前に次々と討ち取られていく味方を見てなんとも言えない感覚に陥っていた

 

「これが……戦か……これが負け戦か」

 

「奇妙様ここは危険です! 直ちに我が隊と浜松まで逃げましょうぞ!!」

 

「のぉ信盛……あれだけロンメル殿が反対していた理由がよくわかった。我等は出るべきでは無かった」

 

「今はそんなことを悠長に語っている場合ではござらん!」

 

「私は織田援軍隊の大将だ。大将が一目散に逃げてどうする……左翼は崩れてはおらぬ。まず徳川家康殿が退かなければ我等は退いてはならない。例え討死したとしても」

 

「……ごめん!」

 

 佐久間は僅かな供回りと共にこの戦から撤退するという愚かな選択をしてしまう

 

 奇妙様を置き去りにして

 

 これに焦った平手殿が奇妙様を安全な場所に連れていこうと動いたところを討ち取られる

 

「皆の者大義である。元服も済んでいない若造が指揮を取るのは不安かもしれぬが尾張衆の意地を見せよ」

 

 佐久間が抜け、平手が討死したことで指揮権が宙ぶらりんになったところを奇妙様が掌握

 

 駆けつけた左恵が補佐をする

 

「なんとしても徳川家康殿が脱出する時間を稼ぐのだ!!」

 

 奇妙隊は左恵の指示のもと後退しながらも戦線を維持

 

 石川数正隊の残党を吸収し、右から挟撃してこようとする武田軍に対して尾張兵は死兵となり勇敢に戦い抜いた

 

 奇妙様が死ねばどちらにせよ信長様に全員殺される

 

 信長様と武田兵どちらが怖いかと比べられ

 

「「「信長様の方がこわいんじゃぎゃ!!」」」

 

 数で勝る武田最強騎馬隊に槍で戦い、刀で戦い、石で戦い、取れた腕を投げつけ、心臓が止まるまで彼らは誰よりも勇敢に戦い続けた

 

 

 

 

 

 

 

「右翼の崩壊が止まった……よし、これより最終突撃を行う! 狙うは信玄の首のみぞ! 我に続け!!」

 

 右翼を完全に潰すために武田の各隊がやや右に寄った隙をつき、ロンメル率いる鳴海衆による突撃が開始された

 

「いざ、参らん!!」

 

 ロンメルは誰よりも速く敵陣に突撃し、敵兵を投げ飛ばし、道を作る

 

「と、止めろ! 妖怪を止めるのだ!!」

 

「一之太刀……受けてみよ!」

 

 視界が白と黒に変わる

 

 金ヶ崎のあの時の様に

 

 違うのは後ろは味方が居ること

 

 ザザザシュン

 

 ロンメルが振り払った一撃は8人の敵兵の命を奪い、臓物が武田兵に降りかかる

 

 その一部はなんと100mも吹き飛んでいた

 

 ロンメルは止まることなく敵陣深く深くに斬り込んでいく

 

 後ろの味方はドンドン討ち取られていくがロンメルは止まらない

 

「なんとしてでも止めるのだ」

 

 小山田は叫ぶがその時既にロンメルは小山田隊を貫通し、武田信玄に向かって直行していた

 

「論目流様!! 指揮権は俺が引き継ぐ! まずは小山田隊を壊滅させるぞ!!」

 

 最古参の重臣鈴川千秋がロンメルが抜けてしまった鳴海衆を纏め、ロンメルが貫通したことにより隊列が崩れた小山田隊に鳴海衆が殺到

 

 勢いを殺された小山田隊は鳴海衆に呑み込まれてしまう

 

「これ以上乱されるわけにはいかん!」

 

 小山田隊が呑み込まれるのを見ていた横の馬場信房隊と山県昌景隊が鳴海衆を挟撃する動きに出たため

 

「挟撃されれば終わりぞ! 後退し陣形を立て直す!」

 

「しかし論目流様が孤立してしまいまする!」

 

「殿を信じろ! 中華の呂布よりも強い大妖怪ぞ! 武田ごときに止められる訳が無かろう!」

 

 その頃ロンメルは武田信玄の居る本隊中段に居た

 

「お屋形様を護るのだ! あの化物を止めよ! 鉄砲隊放て」

 

 パパパンと鉄砲隊が味方もろとも射撃するという異常事態が発生していたが、ロンメルはそれを大ジャンプで避けるとそのまま回転しながら着地、踏み込んで鉄砲隊に一瞬で近づくと数名を斬り捨て、突破する

 

「馬廻り衆! 前へ!!」

 

 信玄の親衛隊が前を塞ぎ捨て身の覚悟でロンメルを止めにかかる

 

 数分の死闘の後ロンメルはこれも突破

 

 信玄の居る陣に斬り込んだ

 

「ぬ!」

 

「ふん!!」

 

 ロンメルは名一杯踏み込み、縮地のごとく距離を詰め、信玄へ後1歩というところで

 

「お屋形様!」

 

 1人の側近が身を投げてロンメルの攻撃を防ぐ

 

 その側近はこれまでの死闘で切れ味が落ちた太刀に自身の体を巻き付けこれ以上斬れないようにし、絶命

 

 ロンメルは地面に亡骸を叩きつけるが、刃こぼれしており、今にも折れそうになっていた

 

 即座にその亡骸が持っていた刀を抜き信玄とおもしき者に一太刀浴びせロンメルは武田本隊をも貫通してどこかへ消えていった

 

「ゴホゴホ……肝が冷えたわ……真田信綱……儂の為に身を呈しての忠義助かった。松原左馬助……儂の身代わりにすまぬ」

 

 松原という影武者は信玄の言葉に涙を流しながら

 

「拙者、お屋形様の身代わりにな、れ……て……本望……でござ……た……」

 

 松原もそう言うと絶命し、信玄は影武者を犠牲に生き長らえることに成功した

 

「先程の妖怪の名をなんと申す」

 

「怪異正八位下蝦夷地守護東狐論目流ですお屋形様」

 

「そうか」

 

 信玄はロンメルをこう評価した

 

「人では到底太刀打ちできぬ怪異の武士よ。ただ一点儂の命のみを求め何重もの障害を突破し、我が半身を奪うに至る……怪力無双の怪物よ」

 

 と……

 

 ロンメルは信玄の陣を突破しそのまま走り抜け、何とか浜松まで帰還し泥のように眠った

 

 ロンメルが信玄本陣に斬り込んだことにより家康含め多くの家臣達が脱出に成功

 

 殿は本多忠勝隊が勤め、鳴海衆、奇妙隊も浜松に退却するに至る

 

 武田の損害は700……うち150がロンメルによるものである

 

 対する織田徳川連合軍の損害は4000

 

 鳴海衆も約1000人の死傷者を出す大損害を受け、更に流れ矢により織田勝成が奇妙様を守って討死するという悲劇も発生した

 

 結果3時間の合戦で織田徳川連合軍の大敗である

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