「月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾」
巨大な龍が横に広がるかのような斬撃をロンメルは
「水の呼吸 拾弐ノ型 押水濁流鉄砲水」
とロンメル最大の物量攻撃で相殺
ただし細かい傷が付けられる
(一撃一撃が今までと比べ物にならない……速度が上がった私を更に上から押し潰す気か!?)
絶体絶命のピンチ……ここでロンメルは思い出すのは信長だった……
「ロンメル、お主は複数の事をやらせると1つの事が疎かになりやすいな」
「すみません」
「よいよい、責めているわけではない……あまり完璧を求めすぎるな……勿論完璧を目指すことは良いが区切りを設けなければ無限にもがき続けるだけだぞ」
「区切り……ですか」
「あぁ、そして自分だけで完璧を求めるな。人の手を借りよ……幸いにしてお主には学校という己の手足に成りうるものが有るではないか……楽をしろとは言わぬ。全てを上手く使え」
「不器用な私にでもできますかね」
「お主が不器用ならこの世の全ての者が不器用よ……ロンメル、余の覇道に手を貸せ」
「はい!」
「完璧でなくても良い……今出きる最大限をぶつけるんだ」
漆黒に染まった腕の上から更に真っ赤な血の痣が浮き出る
血管が異常膨張した結果浮き出て見えるようになったからだ
「行くぞ黒死牟……炎、水、月の合わさりし呼吸よ!! 霸の呼吸……壱ノ型……月水爆」
ボボボと異音を奏でながら刀が通った後が爆破していく
音の呼吸に近しいものであるがそれとは違い、爆破後水滴が落ちる
その水滴が刀に付着することで更なる爆破が産み出される
それはまるで三日月の様に半円を描く
「月の呼吸 玖ノ型 降り月 連面」
前面に対しての斬撃乱れ撃ち
その攻撃が月水爆の引き起こす爆破に触れた瞬間、爆破が斬撃を伝い黒死牟を傷付ける
「霸の呼吸 弐ノ型 水導線」
刀身から僅かに飛び散る水滴が斬撃に乗り、それが導火線となって爆破が連鎖する
それは光の反射で色づき花火のように美しく爆ぜる
それが部屋全体に広がり続ける
「月の呼吸 拾ノ型 穿面斬 蘿月」
黒死牟は体を回転させ斬撃によるガードを行うことで爆破を防ぐがそれすらも爆破の糧となり、密集した斬撃により大爆発が発生する
「愚かな……爆破程度の攻撃では直ぐに再生する」
「炎の呼吸 捌ノ型 迦具土」
炎の神の名前を持つその技は爆破の炎を吸い込み刀身を引き伸ばす
その長さは8メートルを超え、大太刀の数倍の長さであり、そこからロンメルの高速の一撃が叩き込まれる
「月の呼吸 拾陸ノ型 月虹 片割れ月」
上から複数の斬撃が地面に突き刺さるように振り下ろされる連撃が迦具土を防ごうとするが、炎は形を変えながら黒死牟の首一直線にうねりながら動く
「見事……それ故にただでは死なぬ! 拾肆ノ型 兇変 天満繊月」
部屋全体を斬撃が覆う
炎をもかき消そうとする
「弐之太刀」
別名もがり笛とも呼ばれる首を落とすことに特化した技である
ロンメルはこの土壇場で一之太刀を更に昇華させた
体の動きを最適化した無駄の一切無い攻撃には殺気が存在せず
黒死牟の目には人ならざる者に見えた
それはかつて痣を出しても25を過ぎても死ななかった弟を連想するのに十分であった
「さようなら黒死牟」
首が、体が、全身が火柱を上げながら黒死牟の体を爆発的に燃やす
黒死牟は首を斬られてもなお再生しようとするが
「貴方の見せた月の呼吸11種の型は私が継承致します。どうか安らかにお眠りください」
その言葉を聞いたのか黒死牟はこれ以上再生することは無く塵となって消えていった
私には弟が居た
全く言葉を発しない弟は幼き頃母親のいつも左側にピッタリとくっつき離れようとしなかった
母親が病で死んだ時、母親の左半身が不随となっており、それを助けるために弟は母親の左側に常に寄り添っていたのだと気がついた時には嫉妬で全身が焼きつく音を聞いた
弟は私がどれ程鍛練を積んでも一本も入れることのできなかった父の配下の侍に何の鍛練もしていない弟が瞬きをする間に4撃をも与えて失神させた
刀の持ち方、構え型すら知らなかった弟がだ
弟はこの時すでに透き通る世界が見えていた
遥か高みの天才という者を私は今まで部屋の隅に追いやられ寺に出されるしかない者だと哀れんでいた私は何と滑稽なのだろうか
しかし弟は母の死と同時に家を発ちそのままの行方知れずとなった
それから10年程私は平穏な生活を続け、妻子にも恵まれた
変化が有ったのは戦場からの帰りに鬼と遭遇し、配下が殺され、私も後少しで殺される寸前に弟と再開したことだ
弟は鬼狩りとなり、過去とは比べられないほど研鑽を積み、剣の腕は更に高まり、人格者へと成長していた
私はどうしても弟の剣の腕を我が物にしたく妻子を捨て、家を捨てて鬼狩りへとなった
弟は誰にでも呼吸や剣技を教えたが、誰一人弟の日の呼吸が出きる者は居なかった
様々な日の呼吸の派生が誕生し、私の月の呼吸もその1つであった
ただ、私の月の呼吸も他の誰もできなかった
痣が出現したのはその頃だろうか
痣者が次々と現れ、鬼殺隊の戦力は日に日に高まっていった
しかし、誰も弟の域には到達できなかった
私は鍛練を続ければいつかその域に到達できるのではないかという僅かな希望と悔しい思いで懊悩としていた頃……痣者がバタバタと死に始めた
痣は寿命の前借りでしかないことがわかり、私に残された時間は残されていなかった
「ならば鬼になれば良い……鬼となれば無限の刻を生きられる」
「お前は技を極めたい。私は呼吸とやらを使える剣士を鬼にしてみたい」
「どうだ? お前は選ぶ権利がある。他の者とは違う」
私は鬼の棟梁である無惨様に頭を下げ忠誠を誓った
私の欲していた物……人を超越した肉体と僅かしか残されていなかった時間を無限の刻に変えてくれた
私はこの時弟を超えたハズだった
「お労しいや兄上」
80を超えた弟に再会した
私は信じられぬ者を見た
皆25を超えること無く死んで行くハズなのになぜこいつは死なないのだ
と思ったと同時に老いて肉体は全盛期を過ぎた老人……鬼となった私が負けるハズはないと考えていた
甘かった
老骨であれどその一撃は最盛期と何ら劣らぬ技であり、私は嫉妬した
神々に寵愛を一身に受けて生きている弟を見て憎く、そして殺気が沸いてくる
しかし私は弟の次の一撃で殺されるだろうという確信が有った
神の御技に他ならない
焦燥と敗北感で五臓六腑が捻じ斬れそうだった
次の一撃が来ることは永遠になかった
弟は直立したまま寿命が尽きて死んでいた
私は永遠の敗北者となった
勝ち続けるために鬼となったのに
このような醜い姿になってまで永遠の刻を選んだのに
私には弟の下であるという事実が覆る日が永遠に来なくなった
ロンメル……私の技を受け継いだ者だ
彼女は弟とは違う
痣を出したことで25を超えること無く死ぬだろう
その才覚は私をも超えていたが弟には及ばない
首を斬られ、燃えているのにも関わらず再生しようとする肉体
生き恥
私はただ弟の様になりたかっただけなのだ
……しかし、私は最後の最後でお前に勝った
技を継承することができた
ある時弟に私達の日の呼吸と月の呼吸は後継者が現れず継承が絶望的であるという話をしたことが有った
「兄上、私達はそれほど大それた者ではない。長い歴史のほんの一欠片……私達の才覚を上回る者がこの瞬間にも産声を上げている。彼らがまた同じ場所までたどり着くだろう」
「何の心配もいらぬ……浮き立つ様な気持ちにはなりませぬか兄上」
長い年月間で日の呼吸の直系は私が殺して途絶えたのに対してロンメル、お前のお掛けで私の技は未来に託すことができた
縁壱、私は初めてお前に勝った
……あぁいや、1人日の呼吸使いがまだ残っていたな
引き分けか……最後の最後で良い夢を見ることができた
「グフ……」
戦いの反動でロンメルは吐血し、体が自由に動かなくなっていた
「ろ、ロンメル様!!」
隠れていた隊員達がロンメルの元に駆けつけ治療を開始する
「わ、私に構うな……無惨を倒せ……」
「貴方がいなければ無惨を倒せません! 何とかして回復してください!」
「無茶言うなよ……体のリミッターを幾つもの外したんだぞ……全身内出血して痛いんだぞ」
そこへ悲鳴嶼と時透が到着する
「上弦の壱討伐見事」
「ロンメルさん大丈夫……そうじゃないね」
「悲鳴嶼さん、時透……上弦の壱は見事な武士だった……グフ」
「「ロンメル」さん!」
「2人に一之太刀の伝授をする……呼吸で目に集中するんだ……目の毛細血管の流を加速させ、瞳のレンズで光を目一杯吸収して……情報を全て取り込むことで一之太刀は開ける……世界が透き通る」
「わかった。無理をするな」
「ロンメルさん! 上弦の弐も死んだ……後は無惨だけだ」
「わかった……少しだけ休ませてくれ……回復に集中する」
「先に行く! お前達ロンメルの介護をしてやれ!」
「「「はい! 悲鳴嶼様」」」
「よし、先に行くぞ」
「悲鳴嶼さん」
「なんだ?」
「これを」
ロンメルは血が付着した笛を渡した
「上弦の壱……黒死牟が残した物です。鬼を食べて強化していた隊員が確か悲鳴嶼の継子でいましたよね? 有ったら食べさせてください。必ず力になるでしょう」
「わかった。もう良い休め」
ロンメルは悲鳴嶼達に後を託してしばしばの休みに入る