ロンメルの受難   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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死神と雪村の時間

 ロンメルは反物質生成実験において適合者であり、不適合者であった

 

 ロンメルは全身を改造されているが、上半身……特に髪に変化があるだけで、死神の様に手足が触手に変化するということは無かった

 

 しかし、内臓は別である

 

 まず心臓と肺が全集中の呼吸のトレーニングにより膨張したのを更に強化するため血管の様な触手が張り巡らされた

 

 肺と心臓の血液循環を更に上げ、呼吸を行うのに適した身体を手に入れたことになる

 

 更に言えば副心臓、副肺とも呼べる新たな臓器が作られ始めており、徐々にではあるが人間……いや、ウマ娘を止め始めていた……

 

 髪は大きく変化していた

 

 集中すると髪が纏まり弾力のある触手の様な物に変化する

 

 私と死神さんの実験を担当している柳沢主任はこれを触手と呼んだ

 

 徐々に変わっていく肉体をロンメルはいかにウマ娘の枠組みを超えない様にするか呼吸による細胞調整で微調整を繰り返した

 

「ごぼっ!?」

 

 時に拒絶反応で吐血することも有った

 

 時に寒気や熱を出すことも有った

 

 ロンメルは反物質に適応するという面では適応したが、全身の反物質化は不適合だった

 

 ロンメルはウマ娘の生命線である足だけはありのままでありたかったからだ

 

「新たなエネルギーに身を任せれば楽なのに……なぜそれを止めようとするんだい?」

 

「それが変わってしまったらウマ娘では無く化け物へと変わってしまうからねぇ……いつか私は元の世界に戻るつもりだから人外に変わってしまうのだけは避けたいんだ」

 

「髪の毛から触手を垂らしてよく言いますね」

 

「あー! また触手に変わってた!! 調整が難しいんですよ……この触手」

 

「でも使いこなせれば武器となる」

 

「それは勿論」

 

 実験開始から半年……ロンメルの体を循環し始めた反物質のエネルギーは桁外れの代謝を可能にし、その強大なパワーを受け止めるため体組織は強靭で柔軟な物質構成に置き換わる

 

 死神は全身を使って受け止める方向に進化したのに対して、ロンメルは臓器を増やすことで対応した

 

 ロンメルはウマ娘であることを辞めることだけは絶対にしたくないと抵抗し、死神はどんどん人外になるように体を作り替えた

 

 そんな2人をいつもの様に雪村先生は見守る

 

 ただ真っ直ぐこちらを向いて……雪村先生は今日も平和に笑う

 

 死神さんと雪村先生の仲慎ましい姿の前に、ロンメルはここに飛んできてしまった罪悪感と野次馬精神を抑え殺し、2人に様々な事を学んでいく

 

 死神さんからは格闘術を学んだ

 

 ロンメルは今まで刀を持って戦う事を前提にしていたが、それが無いときはウマ娘特有の怪力で戦ってきた

 

 それでは無駄が多いと死神さんは暇潰しに格闘術を教えられ、ロンメルは死神さんと毎日の様に組み手をしてもらえるようになった

 

 全集中の呼吸・常中と一之太刀による透き通る世界を見て尚、死神さんにロンメルは勝つことができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年が経過する頃にはロンメルは中学1年生レベルの問題なら解ける様に学び直し、ある程度の格闘術と触手操作術を会得した

 

 肉体はいまだに本格化はしておらず、前の世界の10分の1も肉体は成長していないが、全集中の呼吸・常中も、4種の呼吸も弱体化しているが形にはなった為よしとしよう

 

 いよいよ髪の毛が意識しないと触手が足れる様になってしまったが、鍛えれば何とかなると信じて調整を続けている

 

 死神さんと雪村先生とは更に仲良くなり、互いの生い立ち等を語り合った

 

 死神さんは自分の産まれた日も名前も無いのだと……

 

 劣悪なスラムで幼少期を過ごし、信用できる者は誰もおらず、親は子を売り、友も女も平気で裏切る

 

 正義とは汚職者達がかざす物であり、薬は廃人を作るための物、人間はゴミのように死ぬために産まれた物……そんな環境で育った死神はただ1つの真実……殺せば人は死ぬ

 

 だから死神は殺し屋になった

 

 それがたまたま天職であったのが死神の幸運だったところであり、死神も全てが全て天才であったわけでは無いが、頭の良い者は力と技で、力が強い者は知識で、両方強い者は人間的な魅力で殺していったのだと

 

「私は使い分けが上手かった……勿論その都度学習し、自分を磨いていったがね」

 

 戦闘能力だけであれば前の世界の無惨戦のロンメルの方が死神よりは強いだろう

 

 しかし、知識や技術、魅力、体の使い方等の総合能力であればロンメルよりも死神の方が圧倒的に高い

 

 それこそ無惨に匹敵すると思える

 

 ロンメルは人の身でありながら無惨に匹敵する能力とお館様の様な人を安心させる話術等の技術に素直に感服し、それと同時にこの反物質実験により人外となった際に無惨よりも数倍も厄介な化け物が誕生することに恐怖を覚えた

 

 だからロンメルは死神が暇潰しでも教えてくれる技術を貪欲に吸収したし、その思考が死神にバレていたとしてもすぐに殺されない確信が有った

 

 雪村先生が居たからだ

 

 雪村先生は外部の情報をくれるこの施設では1人しか居ない信用できる人物であり、死神雪村先生に好意を持っていた

 

 実験が進むに連れて感情が表に出るようにロンメルと死神はなっていた

 

 私はなるべく明るく過ごすことと呼吸により触手を安定化させ、死神は精神力で克服していた

 

 が、死神の感情が表に出るようになるといよいよ人を辞め始めたのだなとロンメルは感じた

 

 例えば雪村先生が少々過激な服を着てきた時前の死神なら普段と変わらない顔だったのに対して、鼻血を出しながらにやけているのを見てあぁ、感情を隠すこともできなくなったのかと変化を少し悲しんだ

 

 一方雪村先生は一応柳沢主任の婚約者となっているらしいが、実態は親の借金を肩代わりした代わりに様々なことにこき使われている奴隷の様な関係であった

 

 その為夜の8時から深夜2時までの間のロンメルと死神の監視を無償で行っているのだとのこと

 

 そして昼間は中学校の教師をしており、中高一貫校の椚ヶ丘中学の3-E組を担当しているとのこと

 

 そのクラスは劣等生が集められたクラスで、別校舎に閉じ込め本校の生徒達はE組の様にならないように頑張り、E組の生徒は差別を受けながら生活する

 

 1年生や2年生の生徒達も3年E組にならないように努力するのでやる気が継続する

 

 実に合理的だとロンメルは感じたが、同時に残酷であるとも感じた

 

 ロンメルは劣等生のウマ娘であるが武力と知略にてのしあがった過去や、種族故に差別され認められなくても最後の最後で誰よりも活躍した過去もあったので、学力だけで決められるそのシステムは残酷と同時に才能を潰してしまうのではないかと思った

 

 特に一分野に突出した天才等が埋もれてしまいかねない……

 

「ロンメルさんの考えは最もだよ。E組にも輝く才能の子はちゃんといるんだけど……私だとその子達に光を与えることはできなかったなぁ……今度新しく入ってくる子達こそ救ってあげたいと思うんだけど……柳沢さんが今年限りで教師は辞めろって……私は辞めたくないんだけどな」

 

 と雪村先生は愚痴をこぼす

 

 他にも雪村先生には自慢の妹が居るらしく役者をしていて主演ドラマや映画も既に出ている程立派な妹が居るとのこと

 

「雪村あかりが本名で、芸名は磨瀬榛名って言うんだけどね! 滅茶苦茶可愛いの! それでいて演技がとてつもなく上手くて……私の自慢の妹なんだ!」

 

 ただ写真は持ち歩かないらしく、子供から大人になる時期は皆の人目に触れずに休眠する時間が必要だから、その邪魔をしちゃいけないという雪村先生の信念故にとのこと

 

 そんな自身の事を語り合い、ロンメルがここに来て11ヶ月が経過した時

 

 ちょうど死神さんが1年この施設に捕らわれた時のこと

 

 雪村先生が死神さんに1年経過したということで人が付けるには大きすぎるネクタイをプレゼントした時のこと……

 

 月が7割消滅する事件が発生した

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