「殺処分……」
「望みを捨てずに助かる方法を探しましょう! 私に出来ることなら何でもします」
雪村先生はロンメルと死神に危機が迫っていることを命令を無視して報告してくれた
というのも柳沢主任が行っていた反物質生成実験には1つ大きな懸念が有った
生物の老化による不具合だった
細胞分裂の限界回数を超えた時……反物質生成サイクルへの影響がどうなるか
これを柳沢主任達はマウスを使って実験を行った
結果月面で行われた実験はマウスの細胞分裂が終わった瞬間、反物質生成サイクルは消滅せず、細胞を飛び出し外に向かった
結果……連鎖的に月の物質を反物質に変えていき……月の7割が反物質のエネルギーにより消し飛ばされた
その分裂サイクルを安全に停止するには分裂限界前に心臓を止めれば血液循環という反物質の流れが止まる
止まれば分裂サイクルは安全に停止する
……このままではより質量の大きい人を起点とした生成サイクルが発生し……月の7割どころではない被害が発生するだろう
その時は死神は来年の3月13日
ロンメルは来年の4月13日であった
死神が口を開く
「さようならですあぐりさん、ロンメルさん……私はここを脱出する……予定よりやや早いが計算上はこの独房を充分破れる」
「ダメ! 悪いことする気でしょ死神さん!! 私は……楽しいあなた達と一緒に居たい!!」
「死神さん諦めるのは早いんじゃ無いですか! 馬鹿な私には現時点でこの作り替えられた肉体の反物質エネルギーの解決方法に検討が付きませんがあなたが諦めなければ!」
「……もう遅い……?」
ロンメルは死神の前に立ち塞がった
「ロンメルさん? そこを退きなさい」
「貴方は優しい人だ……私は何人もの鬼と何百人もの人を殺してきたが……貴方は怪物になってはいけない人だ……だから止める……ここで!」
「良いだろう……授業を始めよう」
死神の全身が触手で覆われる
対するロンメルは呼吸を整える
両者体内に埋め込まれた自爆装置を体外に排出した
「「戦闘開始だ」」
雪村先生はロンメルと死神さんにごめんなさいと謝ると部屋から退室し、ロンメルと死神による戦闘が始まった
恐ろしい速度でロンメルの脇腹に死神の触手が鞭の様に打ち付けられる
「ぐっ!?」
ロンメルの腹部は真っ青に内出血をするが、体内の触手が損傷箇所を修復していく
「ロンメルさん、あなたの弱点は人を辞めることを留まった事だ。表面状の痛覚が生きている以上私と戦うのは痛覚の限界値を超えた瞬間に事切れるだろう」
「ぺっ……だから?」
「全身を反物質のエネルギーに適合した私には勝てないのですよ」
ロンメルも髪の触手で抵抗するが全て死神が触手によって叩き落とされる
「弱点その2……触手は精神状態で精度が変わってくる。動揺していればそれだけで触手の精度は落ちる……ロンメルさん、あなたの精神力はその年齢では別格に高い……この拷問とも呼べる実験にも耐えきり触手と適合したのだから……しかし私には敵わない」
ベベチーン
2発顔面に往復ビンタの様に触手による攻撃が入る
呼吸により痛覚の限界値は上がってはいるが、今の一瞬で頬骨の一部が欠けたらしく脳が激しく揺らされた
再生が始まっているが脳へのダメージが大きすぎた
ロンメルは動きが一瞬止まってしまう
その瞬間を見逃す死神ではなく大量の粘液がロンメルに付着し、壁に貼り付けられ、身動きができなくなってしまった
髪も勿論動かないように固定されている
「決着は着いた……諦めなよ」
「行かないで死神さん……待って……」
「悪いとは思わないよ」
ロンメルの顔にまで粘液がかけられロンメルは酸欠で意識を失った
気がついた時には施設は瓦礫の山になっていた
ロンメルは折られた頬を擦り再生している事実にいよいよ前の世界の鬼の様になってしまった……ウマ娘を辞めてしまったと後悔した
しかし、この施設の中では何かを成す事はできない
つまり弱体化し鍛え直した約11ヶ月……実験を受けなければ本当の死(転生できない)になっていた可能性を考えるとロンメルは取れる選択肢が人を辞める事しか無かった
表面上はウマ娘であることには変わらない
意識をしていれば髪も普通に見えるし、姿は普通のウマ娘でしかない
まぁこの世界でもウマ娘が居ない様なので異端ではあるが……
瓦礫を退けて死神が進んだと思われる道を進む
死神の技を受けてロンメルは自身との違いをまざまざと感じた
思えば自惚れていたのかもしれない
戦国の世も大正の世も最終的に最強になっていたから
上弦の壱を倒し、無惨と相討ちという偉業を成し遂げたことでロンメルは自身が強いと錯覚していたのかもしれないと感じた
更に実験により触手という新たな力を得たことで天狗になっていた
格闘術が未熟でも多少の不利はあるかもしれないけど……最終的には勝てるだろう
慢心、油断、驕り……知らず知らずのうちにどこか死神のことを見下していたのかもしれない
人間とウマ娘……交わることで子を成せる生物であるがウマ娘の方が力が強く足も速い……ウマ娘の歴史はウマ娘が優位に立っていた時代の方が長かった
それこそパワーバランスが崩れたのは鉄砲が普及し、戦術が確立したナポレオンの時代だ
……そんな昔話はどうだって良い
人よりウマ娘の方が優等種族である
こんな前時代的な考えを知らず知らずのうちに持ってしまっていた
それを死神により僅か数秒による決着で補正された
全てで負けている
呼吸が使えるからなんだ
一之太刀で透き通る世界が見えるからなんだ
簡単に翻弄されて負けたではないか
ロンメルの中では敗北感と感謝の念が同時に生まれていた
今気がついていなかったら更に致命的な場面でミスをしていただろう
私は弱い
弱いから努力をする
初心はそうだったじゃないか
弱いから刀を握った
傷だらけになりながらト伝先生の下で学んだじゃないか
私の本質は弱者じゃないか
それに気づかせてくれた死神には感謝するのが正当だ
「……ふぅ、よし!」
ロンメルは足を進めた
瓦礫の山を歩くとロンメルは事切れ亡くなっている雪村先生とそれを優しく抱き抱える死神の姿があった
「……死神さんが殺ったの?」
「……私が殺った様なものだ……助けられなかった」
死神さんの顔は暗くてよく見えない
「これからどうするの」
「雪村さんが亡くなる前に約束をしました」
「約束?」
「あの子達……3-Eの生徒を見て欲しいと……私のように闇をさ迷っていると」
「……」
「私は雪村さんから見ること、見られることの嬉しさを学んだ……彼女が見続けてきた生徒を私が見続けようと誓いました……私は教師になります……」
「じゃあ私はその生徒になりたい。私は弱い……強くなりたい……そして生きたい」
「約束しましょう……あなたには私の全てを託せるくらい強くすると……その代わり私を支えてください。共に雪村先生が残したクラスを」
「必ず導きましょう」
2人はこの場から離れた
死神の体にロンメルは捕まり音速で移動し、どこかの山の中に突入した
ロンメルの触手が聞いてきた
どうなりたいと
「成長したい」
と
それからロンメルと死神は新しく服を作り、新たな生活が始まる
死神の言葉は本当だろう
雪村先生は死神による何らかの事故で亡くなったのだろう
だから死神を私は信じる
目の前の黄色いタコのような生物に変わった死神を見ながら
精一杯やろう
強くなろう
成長しよう
覚えることは沢山ある
「一から学び直しだ」