異世界から来た人間でも妖怪でもない謎の奴が東方projectの世界に入り込んだお陰でかなりカオスなことになりそうです 作:くろのゆきお
若干の後悔がある!
だが、反省はしない!
光も
闇も
時も
物も
生も
死も
何もない世界
存在するのはただ一つ
己だけ
そんな世界に、ずーっといた
自分がいつからいるのか
この世界がなんなのか
そんなことを考える頭もなかった
ただそこにいるだけ
それが俺だった
ある時、変化は訪れた
なにもなかった世界に、一つ亀裂ができたんだ
その亀裂から見えたのは、こことは違う別の世界だった
そこは地球という、美しい星だった
それから、今までずーっと地球を見て回った
目に映るもの全てが新鮮で興味深かった
その中でも特に気に入ったのが人間だった
人間は面白かった
感情が豊かで、種類にバリエーションがあり、歴史の中で目まぐるしく変わっていく
見ていて飽きなかった
そして思ったんだ
“この世界に行きたい”
“人間になりたい”
そう思ったとき、一つ、人間の死体を見つけた
一向に動くことのないそれを見て
“誰も使わないのなら、自分が使おう”
そう思った時には、俺は世界の亀裂から身を乗り出していた
グポッ! ゴポッ! という水っ気のある音と共に、自分の黒く艶のある体が現れる
だが、その姿は人の形ではなく、おたまじゃくしのような、丸い頭部に尾がついた姿だった
亀裂から飛び出した勢いのまま、死体の口へと入っていく
ゾボボボボという、形容しがたい音を響かせて自分と人間の体を一体化させていく
そして、脳と神経を繋げた時だった
「ガ岔ア!! 我那UGA覇義ダ後場!! 場ガザ具尾梶ゾ!!」
当時の叫びを無理矢理言葉に起こすならこんな感じだろうか
俺は産まれて初めて痛みを知った
身体中から赤い液体がボトボトと垂れ流れていく
鼻や口は血で塞がれ、鉄の匂いと味を感じさせるだけだった
視界は真っ赤に染まって目の前すら見えない
痛みで声をあげようとする度、ゴポッ…と血が溢れた
その時の感想を言うなら、そうだな……
“不快”
そう、俺がこの世界で初めて感じたものは、“不快”だったんだ
おそらくだが、この世界の生物誕生歴上、激烈最悪阿鼻叫喚な誕生をしただろう
「アが…! ゴ…プァ!」
“この不快を失くしたい”
その気持ちに呼応したのは、我が家と呼ぶべきあの空間だった
亀裂から黒い粒子の集合体が、勢い良く放たれた
そして、俺の身体を包んだんだ
突然のことに、俺も訳が分からなくなる
だが、それがなんなのかは分かった
俺がいたあの空間“そのもの”だと
痛みがだんだんと引いていくのが分かった
出血は止まり、服に染み付いていた血の色を薄くさせていく
「はあ……はあ……」
身体は、元が死体とは思えないほど生に溢れていた
「スゥー、ハァー……スゥー、ハァー……」
息を深く吸い、ゆっくりと吐き出し、落ち着きを取り戻していく
まだ、人間の体の扱いは分からない俺だったが、死体の記憶から無意識にこの行動をとることができた
いわゆる、体が覚えていたというやつだ
そして、気付く
視覚以外の情報があることを
木々が風で動く音が聞こえる
森の中の独特の匂いが香る
土のジャリジャリとした感触が、体を伝う
聴覚、嗅覚、触覚、全てが初めてのもの
俺は、感動した
“こんな、こんな感覚が合ったなんて”
“この世界は素晴らしい”
“本当に来てよかった”
プルプルと震える手を上に挙げ、足を目一杯立てて、感動を最大限に表現した
そして、思った
“もっと色々なことを知りたい”
“人間をこの世界の全てを”
「もし、そこのお人」
新しい音が聞こえた
音のする方へと目を向ける
先程まで何もなかった筈の場所には、金色の長い髪、紫色のドレス、そして、手には日傘を持った、不思議な雰囲気を放つ人間の女……いや、おそらく人ではない何かが居た
「貴方は人間……ではないですね。 しかし、妖怪でもない…ましてや神でも」
この身体が生きていた頃の記憶のお陰で、聞こえた言葉の意味がスラスラと頭の中に入ってくる
実際、俺はなんなのだろうか?
少し考えてみるが、この身体が持つ情報では分からなかった
「……もう、少しくらいは反応してくれないと。 レディを待たせるのはナンセンスですわよ」
女のその言葉は先程のミステリアスな雰囲気を消失させ、“呆れた”といった空気を出していた
反応……こちらからも音を出せということなのだろう
試しに、先程の様に叫んでみる
「アガアア! イウアア! オオオ!」
「え、ちょっ、きゅ、急にどうしたんですか!?」
どうやら、驚かせてしまったようだ
この身体を使うのにまだまだ慣れない……もっとちゃんとするためにも練習する必要がある
とりあえず、こういう時は挨拶をするのが常識だと、身体に残る記憶が教えてくれる
そして、叫ぶのはだいぶ変であるということも
「ア、ア、ア……コ、コんに、チ、バ」
「え……こ、こんにちは…? というか、あなた喋れないの?」
「オ、オ、れ、ハジ、め、テしゃ…しゃべル し、スコシ、レンシう、ツキア…テ」
「え、えぇ……。 ま、まぁいいけど」
俺はこの世界に来て初めて会ったそいつと木の影に座り、喋る練習を、会話を始める
自分以外の存在との初めての邂逅
正直、わくわくが止まらない
どんな感じになるんだろうか
楽しみだ
ーーーー
「ア、な、アなえ、わ?」
「あなえ…? あ、名前ね。 私の名前は八雲紫っていうのよ。 貴方は?」
「おれ、ナマえ、ナい ついデ、に、ユカリ、きめて」
「え、私が決めてもいいの? まだ、会ったばかりよ? 私達」
「なまエが、ないと、おたガい、に、コまる」
「う〜ん、それもそうね。いつまでも貴方呼びってのもね」
「ダろ」
「そうねぇ、貴方、好きなこととかないの?」
「すきな、こと?」
「そう、やってて楽しいこととか、感動したこととか」
「むぅ……そう、だな ……しること」
「知ること?」
「俺は、ながい、あいだ、こことは別の、何もないところ、に、いたんだ だから、俺は、この世界、の、全てを、知ってみたい」
「へぇ……好奇心が強いのね。 何だか産まれたばかりの赤ちゃんみたい」
「実際、俺は、そんな感じだ」
「う〜ん、よし、決めた。ちょっと待ってね、地面に書くわ。 貴方の名前は…」
「名前は?」
「はい、できた。 一旺璃(いおり)、ガラスの様に純粋で、世界で一番好奇心旺盛な心持った人、という意味よ」
「……」
「あら、お気に召さなかったかしら?」
「いや、素晴らしい名前だ ありがとう」
「ふふ、どういたしまして。 それにしても随分と流暢に喋れるようになってきたわね」
「そうだな、この身体を使うのにも随分と慣れた」
「その言葉だと、やっぱりその身体は一旺璃のじゃないのね」
「ああ、これはたまたま見つけた人間の亡骸だ 記憶を見た限り、妖怪に襲われた時に仲間とはぐれてそのまま殺されたみたいだな」
「へぇ……でも、それにしては随分と健康そうな身体だけど?」
「あー……この際、全部説明しよう まずな……」
ーーーー
「それで、俺はここにいるわけだ」
取り敢えず、ここに至るまでの俺の全てを紫には話した
とはいっても、人間の体を手に入れる前までは、脳みそを持っていなかったのもあって曖昧な部分もあるが
「なるほどねぇ、一旺璃はそもそもこの世界の人じゃなかったのね。 それで、亀裂ができた時から今までずーっと地球を見て回り、人間になりたいと思った。 そして、人間の死体に宿った時に、あの亀裂から黒い霧出てきて、それが傷を治し、私に会った」
ふむふむと納得しながら、紫が俺の言ったことを要約する
「ご丁寧に全部言ってくれたな」
「ふふ、物事を記憶するのに一番いいのは繰り返すことよ。 覚えておくといいわ」
得意気に語る紫は、見た目に反して何処か子供らしいく、かわいいところがあった
見た目は大人なのに、不思議と少女の要素が気にならないのは、何かしらの定義が彼女を少女だと訴えているのだろう
何となく、この世界のことが一つわかった気がした
「うん、覚えておくよ ありがとう」
その姿を見て、微笑を浮かべながらお礼を言う
うん、感謝を伝えるのは気持ちがいいな
心の内から温かいエネルギーを感じる
人と関わるのは温かいものなんだな
「それで? 一旺璃はこれからどうするの?」
「取り敢えず、この身体の持ち主の記憶を頼りに人がいるところへ行こう思う それからは、ゆっくり考えていくさ」
「ふむ……」
紫は少し考える仕草をすると、笑顔で俺に提案をしてきた
「一旺璃、貴方、私の式神にならない?」
式神、俺が宿っている人間の身体にはそんな言葉の情報はない
「なんなんだ? その式神ってのは」
神と付くのだから神にならないか、ということか?
確かに紫は人ではない存在だと思うが、さすがに神を生み出すことができるような存在だとは思えない
まあ、神々がどうやって生まれるのかなんて知らないが……いつか知れるといいな
「式神ってのは、簡単に言えば使い魔みたいなものね。 言っちゃえば私と一緒に来ない?ってことよ 一緒にいれば私から色々教えてあげられるしね。 悪い話じゃないと思うけど」
使い魔か……別に誰かの下に就くのはいいし、紫の元で色々教えてもらうというのも面白そうだが、まずは普通に人間として生きてみたい気持ちが強い
もちろん、俺が満足した後でもいいなら全然いいんだが…
「名前を付けてもらった手前に言うのはなんだが、当分は普通に人間として暮らしたいと思ってる 紫が人間なら今すぐにでもそうしたいんだがな」
「あら、私が人間じゃないって気がついてたのね パッと見じゃわからないと思うのだけれど」
紫はこりゃ意外、といった表情をする
俺が紫を人間じゃないと思ったのは、第一印象の勘によるものも大きいが、単純に妖怪が出る森の中で人間の女が一人でいるとは考え辛い
まあ、それだけ強い人間の可能性もあるが……
「妖怪が出るところに人間の女が一人でいるのはおかしいと思ってな 半分勘だったが当たってたか」
「ええ、私、こう見えても結構凄い妖怪なの。 人間が文化を作り始めた頃には既に居たわ」
「へぇ、俺がこの世界を見始めたのとどっちが早いかな」
「んー、悔しいけど……なんとなーく、一旺璃の方が長い気がするわ」
紫はジトーッとした目を向けてくる
なんとなく掴み所が無さそうな彼女だが、意外とプライドが高そうだ
「大妖怪様の勘がそう言うなら、そうな気がするよ」
紫を微妙に立てつつ、やんわりと同意する
会話というのは不思議で、何となくとか、テキトーな感じでも相手が色々察してくたり、自分の本音が表現されてたりする
実際に俺の言葉の裏には、いつの間にか紫への信頼や好感が写し出されている
紫もそれを察してくれてるのだろう
柔らかい笑いと共に言葉を繋げてくれる
「ふふ、やっぱり一旺璃となら上手く行きそうな気がするわ。 私のしたいことが」
「紫のしたいこと?」
「ええ、ついでに聞いてくれるかしら?」
「ああ、ぜひ」
紫が語ったのは、妖怪の理想郷を作ることだった
妖怪は人から恐れられ、人は妖怪を恐れるという至極当然の関係
その関係がいつまでも続いていける場所
それが自分の作りたい理想郷だと、紫は語ってくれた
「人はいずれ妖怪のことを忘れていってしまうでしょう…。 でも、そんなのさみしいじゃない? だから残したいの。 私達、妖怪の存在を」
「存在を残したい……か 俺はまだこの世界について深くは知らないが、いいところになるような気がするよ 紫の作る理想郷は」
「……ありがとう。 なんだか、一旺璃って親みたいな安心感があるわ。 余裕のある年上の人って感じ。 一旺璃って、どれくらいの間地球を見てたの?」
「う~ん……何年かはわからないが、初めて見たときには海にしか生物はいなかったな」
「……マジ?」
「マジ」
そのまま紫は顎に手を当ててぶつぶつと何かを言い始めた
恐らく、この質問は俺の時間感覚を知るためのものなのだろう
自分で言うのもなんだが、俺はかなり長いこと地球を見ていたように思う
生物の誕生や死を幾度となく見てきた
そんな俺の時間感覚はかなりイカれてるのだろう
現に、地球でみたらかなり長いこと生きているであろう紫が汗を垂らすレベルだ
そんな紫、もとい、妖怪でも、数百年くらいはそこまで長くない
しかし、人間からすれば生涯の時間である
俺も人間として暮らすなら、時間の大切さについて考える必要があるだろうな
……それにしても、まだまだ脳ミソを手に入れたばかりだというのに、ここまで色々考えられる自分には驚く
一体俺は何なのか、それを考えるのを後の目標にでもしようか?
いや、正直どうでもいいな
というか、今、こうして色々と思考できるのが楽しい
今の俺にとっては、全てのことが新体験
全てのことが心を踊らせるイベント
今はこの楽しいことだけに視点を向けよう
「そろそろ、お別れの時間かしらね」
「ん、行くのか」
「ええ、実はこう見えてあんまり暇じゃないのよねぇ。 私、一日の半分は寝て過ごすし、冬眠もするからやらなきゃ行けないことがたくさんあるのよ」
「それはそれは……さすが大妖怪って感じだな」
「それじゃ、バイバーイ」
紫はそう言うと、目がたくさんある謎の空間に入って消えてしまった
こうして、俺と紫の出会いはアッサリと終わった
振り返ると、意外と淡白なものだったな
「よし……村に行くか」
目指す場所は、この肉体の持ち主が住んでいた村だ
記憶によると、どうやら、幼なじみの恋人が居るらしい
しかも、結婚の約束も取り付けているときた
「どうなることやらね……」
俺は森が風に揺らされる音を聴きながら、その風に流れる雲見て、この先の行く末に期待と不安を入り混ぜた
ここまで読んでくれたそこのあなた!
たぶん、なんかの神様ですよね!
本当にありがとうございます!
両手合わせて祈っときます!
では、次回もお楽しみに~