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公安局ビルを後にし、ケーキ屋へと車を走らせ、予め予約しておいたホールケーキを受け取る。
店員に"お誕生日おめでとうございます。大切な方への素敵な贈り物ですね"と声をかけられると、狡噛は困ったように頭をかいて笑みを浮かべ、何故か恥ずかしくなり、足早に店を立ち去る。
すっかり暗くなった空を見上げ、急いで自宅へと車を走らせる。
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海辺の低層マンション。
ハッキリ言って、都心の方の住居に比べれば、そこまでハイテクな最新のマンションでは無いものの、自然に囲まれ、目の前の美しい海が見える自宅はとても心地が良い。
公安局に入局し、ほぼ寝に帰るだけという状況ではあるが、穏やかなこの環境は、忙しない日々を忘れさせてくれるような、大事な場所でもあった。
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車を駐車場に停め、大量の荷物を手にすれば足早に自宅へと向かう。
今日、定時に帰ることは伝えていなければ、帰ることすら伝えていない。…むしろ、仕事の関係ですれ違っていた為、会うのは3日ぶりだった。
突然帰ってきて、どんな反応をするだろうかと、内心ワクワクと気持ちが昂っていた。家の前にたどり着けは、デバイスで鍵のロックを解除し、ゆっくりと扉を開ける。
「………」
恐る恐る入るものの、気づいていないのか出迎えも、声すら何もしない。靴を脱ぎ、リビングへと続く廊下をそっと歩けば、扉を開く。
「舞白、誕生日おめ――」
灯りのついたリビング。ソファにゴロンと寝転ぶ妹の姿。学校の課題をしていたのだろうか、傍らのガラステーブルには参考書のようなものが転がっており、眠っている本人の顔の上には開いたままの本が被せられていた。
テーブルに置かれた数冊の本。
誕生日だというのに、相変わらず本を読み、いつも通り課題を済ませ、ソファで眠っている妹。
いつもと変わらないその様子に、少し寂しい気持ちが込み上げていた。
おそらく、誕生日である今日も兄は帰ってこないだろう、と。自分の誕生日さえ、気にかけない様子の妹を少し不憫にも思ってしまう。12月はただでさえ年末ということもあり、エリアストレス警報や事件が多い月でもある為、気にかけてやれないのが現実だった。
「………」
荷物をその場に置き、妹が眠っているソファの傍らへ腰を下ろす。顔に被さった本をテーブルへ置くと、じっと妹の顔を見据える。
たった3日会っていないだけだったが、どことなく成長している気がする。自分とよく似た目元に、知的な涙ボクロ。漆黒の長い髪の毛は艶々と光を放ち、以前までは"可愛らしい"なんて言葉が似合っていると思っていたが、そうじゃないと実感していた。
あんなに小さかった妹が、もう14歳。一回り離れている分、その成長にしみじみと感慨深さが込み上げていた。
サラッと髪を撫でてやると、狡噛は何か違和感に気づく。
「…………」
「…ッ…スキあり!!!」
バッと目を開き、兄に思いっきり抱きつく形で首元に手を回す。しかし、いとも簡単に妹の体をそのまま抱きあげれば、ソファへと再び投げ下ろし、楽しそうに笑みを浮かべる妹を見下ろす。
「まだまだだな。俺をねじ伏せるなんて100年早い」
「…いけると思ったのに…残念。」
「微かに口元が緩んでた。まずはその顔に出る癖を見直すことだな。」
むぅ…、っと口元を尖らせると、ゆっくりソファから身を起こす。目の前で呆れ笑いを浮かべる兄を見上げれば、舞白は無邪気にニコニコと微笑む。
「おかえり。お兄ちゃん」
「ただいま。舞白」
兄の優しい大きな掌が、妹の頭を優しく撫でる。
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テーブルに並べられた夕飯。オートサーバーで作られた食事で味気ないとは思うものの、真ん中に置かれた可愛らしいケーキで、そんな思いは掻き消される。そもそも、久しぶりに兄と向かい合わせで食事出来ることを心の底から喜んでいた。
空になったオートサーバーの容器を片付け、真ん中に置かれたケーキに付属の5本のロウソクを立てていく。
「べつに、もうそんな子供じゃないんだし、ロウソクまでやらなくても…」
「せっかくの誕生日だ。それに、お前はまだ子供だ」
「いつまでも子供扱いしないでよねっ」
舞白はそんな事を言いつつも、満更でもないのか、灯されていくロウソクの火を見てはワクワクと気持ちを昂らせる。チラッとその様子を見ては、買ってきてよかったと、狡噛は微かに口角を上げていた。
5本全てに火が灯る。
「14歳の誕生日。おめでとう、舞白」
兄の言葉に隠しきれない嬉しさが表情に現れる。少し恥ずかしそうに唇を噛み締めるも、兄へと視線を向ける。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
その言葉の後、舞白はふぅ〜〜と息を吐けば、フワッと微かに独特なロウソクの香りが漂い、灯りが消えていく。
すると、幼い子供のように頬をほこらばせ、"14歳〜"と手を叩きながら口にするその姿。今は亡き、両親にも見せてやりたい、と密かに狡噛は心の奥底で思っていた。
「((なんとか、ここまで真っ直ぐ育ってくれた。…それだけで、こんなにも嬉しいなんてな))」
狡噛は、顔一杯に嬉しさを現わして喜んでいる様子だった。
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「お兄ちゃん。今日、よくこんなに早く帰ってこれたね?」
ケーキを口に含み、ふと時計に目を向ける。有り得ない早い帰宅に、舞白は正直驚きを隠せない。
「今日の為に、仕事を溜め込まず終わらせてたからな。それに、ギノの配慮のおかげだ。午後に1件、通報があったんだが、あいつの計らいで俺は出動しなかったよ。」
「…それに出動してたら?」
「まだ、報告書と睨めっこだろうな。」
「今頃、ノブ兄はお仕事中ってことかあ…」
パクっとケーキを口にし、視線を上に向け、仕事をしている宜野座の姿を想像する。そして、彼の優しさに、舞白も狡噛も感謝していた。
暫く他愛のない話をしていると、舞白はふと思い出したように立ち上がる。
「あ!そーだ!
…青柳さんから…これ…」
ソファの傍らに置かれた赤い箱。既に開封したのか、チェック柄のリボンが外され、包装紙も傍に置かれていた。兄の隣に腰掛け、テーブルに乗せると、箱の中身を狡噛に見せる。
「…箱?」
「もー、もっとオシャレな名前で言ってよ?ジュエリーボックス!開けるとね、オルゴールが鳴るの。」
シンプルなピンク色のボックス。ストーンや刺繍が美しく装飾されており、年頃の女の子が好きそうなデザインのボックスだった。小さなメッセージカードも添えられており、"Happy birthday!MASHIRO"と書かれていた。
「学校から帰ってきたら届いてたの。連絡したら繋がらなくて…忙しいのかな?」
「あー…、確か事件捜査で俺も暫く会ってないな。今度会ったら、俺からも礼を言っておくよ。」
まさか、青柳からも…、なんて笑みを浮かべる狡噛。それだけ、狡噛の家庭事情を分かってくれているんだろう。周りの優しさに頭が上がらない。
"そういえば"、と狡噛は呟けば、一係の執行官達から預かっていたプレゼントをテーブルへと置いていく。
少しへたった赤い小袋、ブラウンのシンプルな紙袋、人気コスメブランドの紙袋…
それぞれ、誰からの贈り物かすぐに想像がつく。
「佐々山、とっつぁん、六合塚からもプレゼントを預かってる。」
「やったー!嬉しい!」
"開けるね?"と狡噛に視線を向け、1つずつ開封していく。
「この赤い袋は佐々山さんから!…香水?かな?オシャレだな〜」
一見大人向けっぽいオシャレな小箱。パカッと箱を開けると、オシャレな小瓶が現れる。シュッと一吹き撒くと、甘くて、色っぽい香りが漂う。
「…やけに大人っぽいな…」
佐々山らしい、なんて呟くも、舞白には早すぎるような贈り物に苦笑いを浮かべる。
「この袋は…、征陸さんだ!
……これ、ずっと欲しかった村上春樹の1Q84の文庫本…」
紙の本自体が珍しい今の時代。入手困難の廃盤になった6冊の文庫本。どうやって手に入れたのか入手経路は不明だが、舞白はパラパラと捲り、大興奮している様子だった。
「これは六合塚さんだね?……
…流行りのリップグロスだ!可愛い〜!」
可愛らしい袋は六合塚からのもの。
リボンが巻かれた細長い小箱から、ラメが散りばめられた薄ピンクのリップグロスはキラキラと光に反射して、いかにも女の子が喜びそうなものだった。
「嬉しいな…。皆に、ちゃんとお礼を伝えたいな。手紙とか書いたら読んでくれるかな?忙しくて、読む暇もないか…」
「いや、喜ぶと思うぞ。」
「じゃあ、手紙書くから皆に渡してほしいな〜」
「了解だ。」
舞白は贈られたプレゼントを大切そうに袋へ戻していく。その表情は喜びに満ち溢れ、鼻歌を口にするほどだった。
それを横目に、狡噛はもう1つ、ピンク色の袋を取り出す。
「これは、俺から。…そんなシャレた物じゃないが…」
「お兄ちゃんから??なんだろ〜?今、開けていい?」
「当たり前だ。」
ピンク色の紙袋の中身を取り出すと、袋とは打って変わってシンプルな包装紙。少し重厚感もあり、なんだろう?と不思議そうに包装紙を開いていく。包装紙の中の物が分かると、びっくりした表情を浮かべる。
「……これ、最新の…」
箱から取り出したのは腕時計型のデバイス。普通はスマートフォン型が主流だが、まるで兄と同じような形をしたデバイスで、なかなか手に入りにくいと有名な最新型のものだった。
「お前が持ってる端末より優秀だ。すぐ連絡がとれた方がいいだろう?」
「…その言い方だと…、怪し〜」
デバイスを早速手首に巻き付け、じっと兄を見つめる。
「少し、手を加えてる。唐之杜に細工をしてもらった」
公安局刑事課に勤めて危険な目には何度も合ってきた。中には、身内に危害があったパターンも目にしてきた。狡噛にとって、1番の弱味でもある舞白。万が一、何か巻き込まれた時に、少しでもそれを避けるためにもと、それなりのツールを持たせたいと考えていた。
それに、いつも贈り物といえば、本ばかり。少しは変わったものをと考えた結果でもある。
「どこまで役に立つかは分からんが、ある程度のジャミングにも耐えられるように…」
「心配性だなーお兄ちゃんは…。それに、これ高かったでしょ?」
「俺の給料をナメるな。…それに、お前の身に何かあったら…」
「大丈夫だよ〜。それに、私も鍛えてるし」
14歳らしからぬ発言に無音のため息を漏らす。このように育ててしまったのは少なくとも自分の責任もあるだろうが――
「…とにかく。俺はお前の身をいつも按じてる。危険な目には合わせたくない。普通に、職に就いて…結婚して、幸せに…」
「あのー、まだ私14歳だし。そんなに心配しなくても…」
じとーーっと呆れたような、いつもの視線を向ける。兄は本気で悩む様子で、額に手を添えていた。
「だから!私はお兄ちゃんの妹なんだから。そんな心配することないよ。…ね?」
兄の背中をトントントンと叩けばクスクスと無邪気に笑みを向ける。
「それより!お兄ちゃんこそ、早く彼女の1人や2人くらい作って、私を安心させてください。もう26歳でしょ?ノブ兄にも言わないと…」
「……ったく…お前は…」
相変わらず"口達者だ"なんて呟けば、クシャクシャと妹の頭を撫で回す。
「もー!やめてよ!…子供扱いして…」
「だから、お前はまだ子供だ」
むぅっ、と頬を膨らませるも、舞白は嬉しそうに満面の笑みを向ければ、ギュッと兄に抱きつく。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
中学に入ってからは、あまり昔のように"お兄ちゃん、お兄ちゃん"とついて回らなくなった妹の行動に少し戸惑うも、狡噛はその様子に穏やかな笑みを浮かべると、ギュッと抱き返す。
「…可愛い妹だよ。お前は。」
唯一無二の存在。
ずっと2人で支え合って生きてきた2人。
舞白は、兄の胸に頬を寄せ、心臓の上に耳をつける。兄の心音が心地よく、昔からいつも胸の中で眠っていた。
そんな妹の頭に顎を乗せる。佐々山の贈った香水の甘ったるい香りが妙に鼻につく。大人になっていく妹に複雑な思いを抱えながらも、ただ健やかに、彼女の幸せを願っていた。
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夜23時半過ぎ――
なかなか眠れない舞白に一通のメッセージが届く。