バーソロミューはメカクレ歌姫を救いたい   作:寺町朱穂

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扉絵連載:ウタのニューワールド
絶対音痴戦線カルデア


 

 

 ウタの朝は遅い。

 いや、本当ならどんな行動してもいいのだが、朝が早いうちは褐色の海賊が襲来してくる。ずっと寝ているふりをしていれば、そのうちに他のメカクレサーヴァントに引き寄せられてどこかへ行ってしまうので、その隙を見計らって外に出るのである。

 

「あの海賊、どうもテンション崩されるんだよね……」

 

 ウタは自分に与えられたマイルームを出ると、ポケットに手を突っ込みながら歩き出した。

 

「悪い奴じゃないってことは分かってるの。でも、どうしても苦手なんだよね……」

 

 ついついため息を零してしまう。好意的にぐいぐいくる人物は、自分の記憶をさかのぼっても滅多にいない。ファンが近いのかもしれないが、彼らとのやり取りは基本的に画面越し。ライブ会場でファンたちと接したこともあったが、あそこまで距離を詰めてくる人はいなかった気がする。バーソロミュー・ロバーツに対しては最初の内こそにこやかに接していたが、何度も何度も来られると少しずつ怖くなり、いまでは如何に避けようかと考える始末だ。

 

「はぁ……どこに行こう」

 

 一瞬、図書館という選択肢が浮かんだが、すぐに打ち消した。もともと、あまり勉強は好きではないし、本を読む気分ではない。そこにいけば、自分が生まれる起因となった漫画本「ONE-PIECE」があるのだろうが、それを読むだけの気力はいまの自分になかった。

 

 ウタがいる場所は、彷徨海カルデアベースなるところ。

 人理焼却を乗り越え未来を取り戻したはずの人類史は、いきなり地上から白紙化されて滅亡してしまった。カルデアは異聞帯と戦いながら、自分たちの人類史を取り戻すために戦っているらしい。

 ウタが呼ばれたのは、一時「ONE-PIECE」の世界と繋がった経験があるためらしく、ウタがここで頑張らなければ、せっかく夢を託した幼馴染の活躍が描かれないまま漫画の世界が終わってしまう。それを避けるために、カルデアに手を貸すことを決めたのであった。

 

「うーん……いつか読まないといけないとは分かってるんだけどね。気が乗らないっていうか……ん?」

 

 とりあえず、少し遅いが食堂に向かおうかと足を進ませてみる。人気メニューはなくとも、なにかしら食べるものがあるだろう。そんなことを思いつつ歩いていれば、食堂の前に立ちふさがる2人のサーヴァントの姿に気づいた。

 

「あの人たち、なにしてるんだろう?」

 

 ウタが疑問を抱きながら近づくと、金髪の赤いドレスの少女とピンク色の髪をしたツインテールの少女は同時にこちらを見た。2人はウタに気づくと、待ってましたとばかりに声を張り上げるのだった。

 

「おお! ついに来たな、新しい歌姫を名乗るサーヴァントよ!」

「やっと会えたわね、アイドル候補!!」

「えっと、貴方たちは?」

 

 ウタが足を止め、2人は胸を張った。

 

「あたしはエリザベート・バートリー! カルデアで一番のアイドル!」

「余はネロ・クラウディウス! 余こそカルデアで最も善き歌声の持ち主よ!」

「ふーん」

 

 ウタは2人の挑戦的な表情を見て、少し勝気な笑みを浮かべてみせた。

 

「なるほどね……要するに、歌姫同士で仲良くしようってこと? それとも、自慢の歌で勝負ってところかな?」

「うむ! 歌姫が3人そろった。ならば、歌の勝負をするしかあるまい!」

「そうよ! 今日こそ、誰がカルデアで一番の歌姫か勝負するときよ!」

 

 エリザベートが強く宣言する。

 

「食堂に集まった豚たちにね、あたしたちの誰が一番アイドルにふさわしいか評価してもらうの!」

「うむ! 余のマスターもおるし、ステージとしては十分だろう!」

 

 ネロがエリザベートの発言に調子よく頷く。

 するど、どうしたことだろう。急に食堂側がざわつき始め、我先にといった具合でサーヴァントたちが食堂から逃げるように出始める。スプーンを口にくわえたまま逃げ出てくる者もいるくらいなので、一体何事かと首を傾げてしまった。

 

「む? マスターがおらんぞ?」

「おかしいわね。緑のアーチャーの隣に子イヌがいたはずなのに、2人ともいなくなってるわ。見間違いだったのかしら?」

 

 ネロたちも首を傾げている。

 食堂に残っている数少ないサーヴァントたちも「どうしてみんな逃げたんだ?」と言わんばかりの顔をしていた。食堂だけでない。おかしなことに、厨房のサーヴァントたちの姿も見えなかった。霊体化しているのかと思ったが、その気配も感じない。

 

「なに? 料理する人たちも歌が嫌いなわけ?」

 

 赤髪海賊団にいた頃は、厨房で働く船員たちのお手伝いをしながら歌っても怒られなかったのにな……と気軽に考えてしまう。厨房を担当するサーヴァントは歌が嫌いなのだろうか?

 

「まあよい! では、余の歌から披露するとしよう!」

「いいえ、あたしの歌よ!」

 

 マイクを取り出したのは、エリザベートの方が先だった。

 エリザベートはきらっと輝く笑顔を浮かべると、そのまま楽し気に口を開いた。

 

「極上の竜姫の調べ、命を引き換えにしてもあまりある天上の女神すら平伏す歌声よ!」

 

 ウタは初めて自分のライバルとなりうる存在に心を躍らせながら、一体どんな素敵な歌声を披露してくれるのか心を弾ませる――はずだった。

 

「恋はドラクル~優しくしてね~目覚めは深夜の一時すぎ~」

「ひぃっ!」

 

 ウタは反射的に耳を塞ぐ。

 嘘でしょ、これがカルデアの歌姫!? 私のライバルになるかもしれない相手!? と、信じられない気持ちでもう一人の対戦相手の顔を見る。おそらく、ネロも困惑しているに違いない。ところが、どうしたことだろう!

 

「むむむ……さすが、ライバル……腕をあげておる!」

 

 ネロは感心したように目を見開き、悔し気に口を開いているではないか。

 

「今夜も~貴方を監禁させて~キラッ!!」

 

 エリザベートはびしっと決めポーズをかましているが、ウタはそれどころではない。

 

「最低っ! 音痴! 最悪!!」

 

 ウタの口からは、子どもの悪口のような言葉しか飛び出してこなかった。

 

「これなら、ルフィの方がマシ!! なんで綺麗な声してんのに、そんなハチャメチャな歌なわけ!? こんなの聞かされてたら、カルデアが馬鹿になる!!」

「むぅ! ひどい言いようではないか! ならば、余の歌を聴け―!! ぼえ~~~~!!」

「ひぃっ!!」

 

 もう勝負とかそういう次元の問題ではない! ウタは耳を塞ぎながら、食堂から逃亡を試みた。

 ところがである!

 

「なになに、ランサーのあたしが歌勝負をしてるの?」

「ふんっ、それならセイバーのあたしの歌うわ!」

「ちょっと、抜け駆けは許さないわよ!」

「ラララ~歌ならあたしに任せて~」

 

 ぞろぞろとエリザベートと同じ顔をした別衣装のサーヴァントたちが、わらわらと食堂に乗り込んで来たのだ。

 

「え、なに? 同じ顔!? 増殖!? こわっ!!」

 

 ウタはもう目が回る気持ちだった。

 まったく合致していない音程かつセンスの欠片も感じられない歌詞の歌声と自分の声量のみに特化した脳をぐわんぐわん揺らすような狂気の歌声だけで精いっぱいだっていうのに、どこからどう考えてもそれと同レベルの自称歌姫たちが迫って来る。

 

「うぅ……もう我慢できないーっ!」

 

 大声で泣きだしてしまいたかった。

 子どもの頃なら、シャンクスがなんとかしてくれたはず。しかし、この世界にシャンクスはいない。いまにも泣き出してしまいそうな状況下で、つんつんっと同じくグロッキー状態になっているトットムジカが肩を叩いてきた。トットムジカにつられて顔を上げると、厨房の隙間から赤い服のサーヴァントが手招きしている。

 エリザベート軍団とネロたちは互いの歌を自慢しあうことに明け暮れていた。そのせいで、綺麗な声をしているはずに何故か阿鼻叫喚な歌声が食堂に拡散していたが、おかげさまでウタに対する注目は失せている。

 ウタは耳を塞ぎながら、赤い服のサーヴァントのもとへいそいそと駆けだした。

 

「こっちだ」

 

 赤い服のサーヴァントもこの歌は我慢ならないのか、耳栓をしていた。彼はそのまま壁を触ると、その面だけがくるっと裏返る。どうやら、ここから外に出ることができるらしい。ウタは口の動きで「ありがとう」と伝えると、そのまま急いで外に抜け出した。

 

「ふぅ……たすかった」

「君も無事で何よりだ。まさか、緊急用の裏口がこんな感じで役に立つとはね」

 

 赤い服のサーヴァントはそう言いながら耳栓をとった。

 

「貴方もね。って、自己紹介がまだだったね、私は――……」

「赤髪のシャンクスの娘、ウタであってるかな?」

「っ! シャンクスのこと知ってるの!?」

「多少だが君たちの世界の漫画ついて読んだことがある。時間があるときで構わないが、いつかシャンクスたち赤髪海賊団とのエピソードを教えてくれると嬉しい」

 

 では、私は周回に呼ばれているんでね、と赤い服のサーヴァントは去っていった。

 

「……シャンクス、結構知られてるんだな」

 

 少なくとも、シャンクスの娘を助けようとするほどには。

 ウタの認識では、赤髪海賊団は大海賊。いろいろあったので自分の中にあった大悪党のイメージは払しょくされたが、自分がいた世界の大部分の認識において、赤髪海賊団は悪い奴のはずだ。それなのに、助けたいと思えるほどに人気があるとみた。

 

 

「やっぱり、ちょっとだけ読んでみようかな」

 

 

 ウタの足は、自然と地下の図書館へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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