バーソロミューはメカクレ歌姫を救いたい   作:寺町朱穂

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カルデアの歌姫、図書館へ行く

 

 地下図書館。

 あまり読書や勉強をする気にはなれず、なんとなく足が遠のいていた場所だが、ルフィの活躍を読むためには仕方ない。数度、深呼吸を繰り返し、意を決して顔を上げる。

 

「えっと……『偉大なるアレクサンドリア恐るべきイヴァン可憐なる紫式部図書館』?」

 

 ウタは図書館の入口に掲げられた巨大看板を見上げながら首を捻る。

 

「凄い名前だけど、本当にここでいいのかな?」

 

 おそるおそる覗き込み――ウタは言葉を失った。

 

「……すごい」

 

 天井ぎりぎりまで見渡す限り本が陳列している。あまりに巨大な図書館に、エレジアの城地下深くにあった図書館を連想したが、埃っぽさはなく、静けさのなかにも落ち着いた温かな空気を肌で感じた。

 

「……よし、入ろう」

 

 あまりの本の多さに圧倒され、本題を忘れるところだった。ウタは軽く頬を叩き、図書館の扉をくぐった。

 

「あら?」

 

 ウタが図書館に足を踏み入れた途端、ゴシック調の服をまとった温和そうな美女が顔を輝かせて近づいてきたのだった。

 

「もしかして、貴方は……ウタさまでしょうか?」

「そうだけど?」

「まあ、本当に!? どうしましょう……私、貴方にお会いしたらぜひお聞きしたいことが山ほどあったのですが、いざ目の前にしてしまうと……っ!」

「……つまり、貴方も私のファン?」

 

 目の前でうろたえる美女を前に、ウタはおずおずと尋ねる。

 

「し、失礼しました。サーヴァントキャスター、紫式部と申します。この図書館の司書をしておりますので、どうかよしなに」

「ウタだよ。クラスはアルターエゴっていうのかな。こっちはトットムジカ」

 

 ウタが紹介すると、トットムジカはくるんっと一回転する。

 

「司書さんってことは、どこにどんな本があるか知ってるんだよね? 私、漫画を探してるんだけど……」

「それでしたら、そちらのコーナーにありますのでご案内しましょう」

 

 紫式部は優雅な足取りで先導してくれる。

 ウタは周りをきょろきょろしながらついていくことにした。何人かのサーヴァントが本を相手に睨めっこしたり、小さなサーヴァントが本を何冊も抱えてよたよたと歩いていたりしている。

 

「ウタさまはどのような漫画をお探しですか?」

「ONE-PIECEっていう漫画なんだけど」

 

 ウタが伝えれば、紫式部はちょっと驚いたように目を見開いた。

 

「それは……失礼ですが、すでにご存じなのでは?」

「実はほとんど知らないんだよね。ほら、ONE-PIECEって作品はルフィの冒険でしょ? 私の人生じゃないからさ」

 

 ウタは頬を掻きながら、そっぽを向く。

 

「ルフィがどんな冒険したのか全く知らないのもなーって思ったんだ。それに、もしかしたら……」

 

 シャンクスのことが出てくるかもしれない、という言葉は飲み込む。ウタはなんでもないように笑顔を浮かべると、紫式部に向き直った。

 

「知っておいて損はないかなって。歌姫活動してない間は暇だし、時間持て余しちゃうっていうか」

「そうですか……」

 

 紫式部はなにか思案するように目を閉じた。

 

「紫式部さん?」

「いえ、なんでもありません。ONE-PIECEはこちらになります」

「ありがとう……って、多ッ!!」

 

 ウタは目を丸くしてしまった。

 せいぜい20巻くらいかなーと甘く考えていたのだが、ずらっと何十巻も並んでいる。とてもではないが、一日で読める量ではない。

 

「嘘でしょ! これ全部がルフィの冒険なの!?」

 

 1から読むにしても、何日もかかってしまう。いくらルフィの冒険とはいえ、これだけの量を全部読み終えることができるのだろうか?

 

「本当にこれ全部!?」

「現時点で販売されているONE-PIECEに関する書籍は、これで全てになります」

 

 ウタが愕然としていると、紫式部は控えめに話し始めた。

 

「原作コミックだけでなく、ノベライズ版や解説本にゲームの攻略本、映画のパンフレットまで可能な限り全て揃えてありますから……とりあえず、東の海編が最初の区切りとなりますので、そこまで読んでみるのはいかがでしょう?」

「イーストブルーということは、フーシャ村か……」

 

 もしかしたら、自分が出てくるのかな? そう思うと、無性に恥ずかしさが込み上げてきたが、シャンクスたちやマキノさんといった知っている人が出てくるかもしれないと思うと、とりあえず読んでみようという気持ちが復活してくる。

 

「分かった。それ借りようかな」

「では、こちらになります」

 

 ドンっと12巻のコミックがウタの手に乗っかった。

 

「意外と重っ……」

「ですが、読み始めると時間が溶けていきますよ。怒涛の展開に頁をめくるのが大変待ち遠しくなりますし、気がつけば最終頁に到達し、次の巻に手を伸ばしていること間違いありません。終わりが近づいてしまうのは寂しいことですが……」

「なるほど……?」

 

 そういうものか、と思いながら、本を借りるとその足で自分の部屋に戻ることにした。自己評価ではあるが、自分は読書というものがそこまで好きではない。机にかじりついての勉強もどちらかといえば苦手な分類である。漫画とはいえ、12巻もある内容を読み切ることができるのだろうか。ずっしりとした重みを腕に感じながら、一抹の不安をどうしても抱えてしまう。

 

 

 

 

 が、それは完全に杞憂であった。

 

「ルフィ……ッ!! シャンクスの腕が――ッ!!」

 

 第一話の時点で大号泣。

 そういえば、エレジアで再会したシャンクスには片腕がなかったことやルフィの顔の傷が想起され、ああなんで気づかなかったのだろうと、さらに涙が込み上げてきた。もう少し、あと少しだけ、エレジアへ行く日取りが遅ければよかった。そうすれば、ルフィの顔の傷はともかく、シャンクスの片腕が近海の主に食われることはなかったかもしれない。自分がいれば、こんなことにはさせなかったという考えがどうしても過ってしまう。

 もっとも、子どもの自分がいたところで皆の加勢ができたかと問われると、唸って答えられないが……少なくとも展開は変わっていたのではないだろうか。

 

「それで、ルフィが麦わら帽子を被ってたんだね……」

 

 涙を拭い、第二話に続くページをめくる。

 

「って、ルフィが航海術なんて持ってるわけないじゃん!! あーもう! 時間は会ったのに、なんで勉強してなかったわけ!? というより、このコビーって名前……どこかで名前を聞いたことがあるような、ないような?」

 

 突っ込みを入れながら、どんどん読み進めていく。

 ページをめくっていくと、ルフィと一緒にいた友だちが次々と登場してくる。おのおのの出会いに事件があり、ドラマがあり、涙があり、笑いがあり、感動があり、迫力があり……気がつくと、最終ページまで読み終え、次の巻に手を伸ばしていた。

 

「ゾロさんって凄いな。そういえば、あの人……最初っから躊躇なく攻撃してきてたっけ」

 

 ルフィが海賊王になることを止めるため、ルフィの友だちを音符の騎士で襲ったことを思いだす。あのとき、彼が真っ先に音符の騎士を切りに行っていた。こんなにも早く交渉が決裂するとは思わず、ついイラっとしてしまったのは、ネズキノコの副作用だったのかもしれない。

 

「さてと、この変な三人組はどうなるのかなー……ん?」

 

 本を閉じ、次の巻に手を伸ばそうとした手が宙に浮く。おかしいな、と目を向ければ、積まれていたはずの本が一冊もない。代わりに、反対側を見れば、いままで読んできた本がずらりと積み上がっている。

 

「嘘っ!? もう読み終わっちゃった!?」

 

 ウタは急いで時計を見上げる。

 時間としては数時間ほど。紫式部の言う通り、どうやら一気に読みこんでしまったらしい。

 

「面白かった……けど!!」

 

 続きが読みたい。

 やっぱり、続きが読みたい!

 どうしても、続きが読みたい!!

 

「行こう、トットムジカ! 偉大なるなんとか図書館に!!」

 

 ウタはすぐに部屋を出て、図書館へと足早に向かおうとした。しかし、扉が開いたところで立ち止まる。

 

「待って。やっぱり、借りた分は一度返却した方がいいのかな? でも、読み返したいし……うーん……」

 

 一度部屋に戻るべきか、扉を超えて図書館へ急ぐべきか。

 扉を開けたまま、うーんと悩みこんだ、そのときだった。

 

「ふふん~ついにあの沖田さんが水着で登場ですよ」

 

 一人の少女が盛大な独り言を言いながら、ルンルン気分で目の前の廊下を駆けていく。あと一歩、ウタが扉を超えて前に踏み出していれば、きっと正面衝突していたに違いない。

 

「危なかった……っ!」

 

 少女の方はウタの存在に気づかず、ピストルの弾より早そうなスピードで廊下を駆け抜けていった。

 

「それにしても、あの格好……ほとんど下着じゃん。あれが水着って奴なのかな」

 

 先日の同一顔をした自称アイドルサーヴァント軍団といい、カルデアにはウタの理解を超える奇天烈なサーヴァントが多い。

 ぶつからなくて良かった、と思いつつ、とりあえず図書館へ行くことにする。紫式部に貸出期間や漫画を返すタイミングについて尋ねてみればいいだろう。ウタはそんなことを考えながら、先ほどの少女が駆け抜けていった廊下を進み始めて、しばらく進んだ頃―――。

 

 

 ガツンッ!!!!

 

 

 遥か前方で激しく何かがぶつかる音が、廊下中に響き渡る。

 

「なにかあったのかな!?」

 

 ウタも廊下を急いで駆け抜ける。すると、青いジャケットを羽織った少女が先ほどの水着の少女を見下ろしていた。

 

「あのう……一体なにが?」

 

 ウタが話しかけると、青いジャケットの少女は申し訳なさそうに振り返った。

 

「実は急いでいたもので、沖田さんとぶつかってしまい……ですが、話しかけても沖田さんの反応が……軽くぶつかったですし、見たところ怪我はなさそうですが……」

「いや、怪我がないというより……」

 

 ウタは沖田と呼ばれた水着の少女を見下ろす。

 第三者が来たというのに、彼女の反応はない。試しに、ウタは沖田の肩を軽くゆすってみたが、彼女の反応は依然としてないままだった。

 

「これは……つまり、し、死んでる!?」

 

 ガーンという効果音がつきそうなほど、青いジャケットの少女は愕然と立ちすくんでしまう。

 

「待って、おかしくない? サーヴァントってこんな簡単に死んじゃうの? 本当にちょっとぶつかっただけで!?」

「た、大変なことになってしまいました……非好戦的な原生生物の殺害となると、今年のボーナスは間違いなく減額、下手すると全額カット!?」

「いやいや、問題はそこじゃないでしょ」

「大問題です! このままでは、来月分のカップ麺も仕入れられません!」

 

 青いジャケットの少女があまりにも迫真の顔で言うものなので、ウタも押し黙ってしまう。

 

「なんとかしなければ……すみません、貴方の名前は?」

「ウタだよ」

「ウタさん、私はヒロインXX。どうか、このことは他言無用で。私はこれより沖田さんの救命措置に入ります」

 

 ヒロインXXという奇妙な名前に驚く前に、救命措置という言葉に目を見開いてしまった。

 

「この人、助けられるの!?」

「こうなった以上、ユニヴァース的科学力で救うしかありません。幸い、工房の目途はついています。あとは私のアーマーの過剰パーツで何とかなるはずです!」

 

 ヒロインXXは口早に言い切ると、沖田を軽々担ぎ上げる。

 

「アーマーって鎧のことだよね? 鎧でほとんど死んでる人の命を救えるのかな……って、もう走り出してる!? ちょっと待って!」

 

 おいていかないで、とウタもつられて走り出す。

 

 

 

 このときのウタは、まだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 これから始まる三日間の激闘を。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




個人的な妄想ですが、ウタは勉強が苦手なのかなって考えています。
ウタワールドに閉じ込めた観客たちに対し、「仕事とかしなくていいって、勉強も!」と告げていることから、仕事をする意義と同様、勉強をする意義や勉強の楽しさを知らないのかなと考えました。
解釈違いでしたら申し訳ありません……。
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