バーソロミューはメカクレ歌姫を救いたい   作:寺町朱穂

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見参! 歌姫御前試合~来襲編~

 

 結論から言えば、沖田総司は助かった。

 ヒロインXXがユニヴァース的科学力由来の改造手術を施すこと数時間、オキタ・J・ソウジとして復活することができたのである!

 ウタからすれば、ジェットエンジンを取り付けただけで息を吹き返すことができたのか、はなはだ疑問ではあったが、実際に沖田は元気な笑顔を浮かべている。まったくもって理解はできなかったが、現実を受け入れるしかなかった。

 

「汎人類史の科学力って凄いんだ」

 

 ウタは沖田とヒロインXXが笑い合う姿を眺めながら、しみじみと呟いた。ウタワールド内ではいくら死んでも蘇らせることはできるが、現実世界で亡くなってしまうと蘇生することは不可能。そう考えると、理屈は分からないが、汎人類史のユニヴァース的科学力というものは素直に凄いと思えた。

 

「でも、ジェットかぁ……ジェット……うん、いい!」

 

 ウタは大きく頷いた。

 

「ばびゅーんっと飛びあがるとか、絶対にライブ盛り上がるもん! エレジアでライブしたときだって、ファンのみんな喜んでたし!」

「そこのお嬢さん! 沖田さんとしては、ちっともよくないんですけど!」

 

 ウタが一人で羨ましがっていると、沖田からのブーイングが飛んできた。

 

「このジェットが欲しいならあげます! 幕末美少女剣士の沖田さんには必要ありません! というか、このままだとノッブや土方さんたちに笑われる!! ええ、いますぐにでも差しあげます! って、外れないんですけど!」

「そりゃそうですよ。生命維持装置内蔵してますから」

 

 沖田の困惑をよそにヒロインXXがえへんと説明書を広げてみせる。

 

「少し旧式ですが、この星の文明レベルからするとオーパーツクラスですし、頑張れば宙間戦闘もできるかもしれません。えっと、説明書によると炉心の稼働時間は、なになに……あ、ああ!!」

 

 先ほどまでの余裕たっぷりの表情はどこへやら。ヒロインXXの顔色がさあっと青ざめ、しゅんっと小さくなってしまう。そのまま、すまなそうにに声を潜めて話し始めた。

 

「も、申し訳ありません……急いでいたので説明書をよく読んでいなかったのですが、生命維持装置の稼働時間は72時間。すなわち、地球時間で3日ほどです……」

「ち、ちょっと待って! それはあんまりだよ!」

 

 気がつくと、ウタはそんなことを口走っていた。

 

「せっかく復活できたのに、たった3日しか生きられないなんて……ねぇ、なんとかならないの!?」

「そ、そうですよ! 私の命、本当に3日なんですか!?」

「説明書によるとそのようです……す、すみません。助けるつもりが、まさかこのようなことになるとは……と、とにかく、慌てないでください! こういうときこそ、カップ麺にお湯を注ぎましょう!」

 

 ヒロインXXはがたがたと震える手でカップ麺にお湯を注ぐ。

 それを見て、ウタはついつい突っ込んでしまった。

 

「いや、あなたが一番慌ててるでしょ。それに、そんなことで事態を解決する手段が思いつくなんて……」

「ひらめきました!」

「本当!?」

「聖杯! そう、聖杯です! 聖杯があればなんでもできる! たしか、いまラスベガスで行われている水着剣豪七色勝負とやらで勝ち残れば聖杯が手に入るとか!」

「「水着剣豪七色勝負!?」」

 

 ウタの声と沖田の声が重なった。

 だが、トーンまで同じだったわけではない。前者は疑問や困惑の色が強く、後者は戦に臨む前の武士のように研ぎ澄まされた声色だった。

 

「水着は分かるし、剣豪って……えっと、ミホークさんみたいな感じの人のことだよね? 水着の剣豪……本当にそれで解決できる問題なのかな?」

「……挑戦するだけの価値はあると思います」

 

 ウタが理解できないでいると、沖田が静かに口を開く。

 

「水着剣豪七色勝負に勝ち抜いて聖杯を手に入れ、この身体を治すために!」

 

 沖田は宣言するとともに走り去ろうとする。

 

「ま、待って! あたしも行く! 連れて行って!」

 

 ウタは遥か彼方に遠ざかろうとする背中に向かって、必死に叫んだ。

 

「ラスベガスとか水着剣豪とかよく分からないけど、このまま見過ごすことはできないよ!」

「……ここからは剣豪同士の戦いになってくるでしょう」

 

 沖田は立ち止まり、真剣な顔で振り返る。

 

「遊びではありません。剣豪と戦うため、幾たびの試練も乗り越えなければならない可能性があります。自分の身は、自分で守らねばならないときも出てくるはずです。……それでも、ついてきますか?」

「こう見えても、あたしって結構強いんだよ。大丈夫、足手まといにはならないから」

 

 ウタがとんっと自分の胸を叩いてみせる。そうだそうだ、と同意するように、トットムジカもくるりと回った。

 

「……いい眼をしてますね。あなた、名前は?」

「ウタだよ。こっちはトットムジカ。職業は音楽家で歌姫ってところかな」

「私は沖田総司。よろしくお願いしますね、ウタさん! トットムジカさん!」

 

 沖田も勝気に微笑むと、ウタの手を強く握った。

 

「さあ、目指すは絢爛豪華なラスベガス!! 吹っ飛ばして行きましょう!!」

 

 瞬間、ジェットエンジンが轟音を上げながら浮遊する。当然、沖田と一緒にウタの身体もふわりと浮き上がった。

 

「うわっ、とととっと」

 

 細い足が地面につかず、ふらふらと彷徨うように揺れる。ウタワールドで空を飛んだことは何度もあったが、現実世界で浮かんだ経験は久しくなかった。それこそ、赤髪海賊団のみんなと一緒に遊んだとき以来のような気がした。

 

「ウタさん、しっかり肩をつかんでくださいね!」

 

 しかしながら、思い出に浸る時間はない。

 

「う、うん!」

 

 言われるがままに沖田の白い肩をつかんだ瞬間、轟音と共に疾風がウタを包み込んだ。あっという間に、世界が右から左へ目まぐるしい速度で通り過ぎていく。振り返ると、すでに先ほどまでいた部屋の扉が遠く、瞬きをする間に豆粒サイズに縮み、すっかり見えなくなってしまった。

 

「す、すごい! 風になったみたい!!」

 

 ウタが感想を口にしたときには、管制室に到着していた。絶え間なく働いているスタッフやサーヴァントたちが水着でジェットの沖田やウタの乱入に驚くことはなく、彼女たちがレイシフトすることを咎めることもなかった。

 あとにして思えば、いまの時期は夏。

 水着のサーヴァントが夏のイベントに参陣することは珍しくなく、水着でなくても夏はサーヴァントは誰も彼も浮かれてイベント開催地へ突入することは多々起こることらしい。だから見逃されたのか、話しかける暇のなかったのか。そのあたりは定かではないが、レイシフトの光のトンネルを抜けると、そこは一面の青空が広がっていた。

 見渡す限りの青空を感じていれば、トットムジカにとんとんっと肩を叩かれる。自分の肩にへばりついていたミニサイズにピエロは下を見ろ、と手で合図を出していた。ウタは彼の指の先を見ようと眼下に視線を向け、あっと声を出してしまう。

 

「沖田さん! 下!!」

 

 ウタたちの足元には荒野のただなかに海が湧いていた。ただの海ではない。海の中心には、円形の眩い都市がそびえたっている。辺りが殺風景な荒地なだけに、美しく青々とした海の色と光り輝く異質の建造物がひときわ目を惹いた。

 

「もしかして、あれがラスベガス……っ!」

「ええ、噂のラスベガスでしょう……急降下します、舌を噛まないように気をつけて!」

 

 沖田は背中のウタに呼びかけると、ラスベガス目がけて落下する。

 風を切る音を感じながら、ウタは眼下の都市を睨みつけた。

 沖田に残された時間はわずかしかない。それまで、彼女の身体がもつのかどうかも心配のひとつ。ユニヴァース的科学力なる謎の力で無理やり生き返った身体なのだ。時間経過とともに、なにか問題が起きるかもしれない。そう考えると、ウタは身体が死にゆく経験を思い出してしまう。できていたことができなくなり、足で歩くどころか立つこともおぼつかなる感覚は、あまり心地の良いものではない。あのときの自分は死ぬ覚悟を持っていたから乗り越えることができたが、沖田は違うだろう。

 

「大丈夫……あたしが沖田さんを助けるから」

 

 きっと、シャンクスも同じことをした。

 ルフィだって、彼女に手を伸ばしたに違いない。そう、ウタは信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、2人の少女はラスベガスに降り立った。

 降り立った、のだが……。

 

「甘っ! ソフトクリーム、激甘っ!」

「こっちのケバブも最高ですよ!」

 

 少女たちは食べ歩きに熱を上げていた。

 最初は違った。初めて降り立つ土地での情報収集をかねて、目についた店に立ち寄っていたのだが、いつのまにか美味いものめぐりになってしまっていたのである。

 

「ラスベガス、最高! 美味しいものだらけで、ここって楽園じゃない?」

 

 ウタは頬についたクリームを指でとり、ぺろんと舐めた。

 美味しいものにあふれた楽しい場所。ここにふわふわのぬいぐるみや玩具があれば、最高に素敵な場所なんだけどな、と思いつつ、次はどこへ行こうかと周囲に目を走らせる。

 

「なんだろう、あそこ? たくさん人がいるけど」

「人気の店でしょうか? 行ってみます?」

 

 近づいてみれば、そこにあったのは水で造られた宮殿だった。青々とした巨大なドーム状の宮殿、その入り口には大勢の人間が殺到している。

 

「ついに来たわね、カジノ・水天宮!」

「もうすぐ、ラムダ様のステージが観ることができるのね!」

「唯一無二の天上の美しさ……はぁ~うっとりしちゃう」

「楽しみだわ、水着剣豪のラムダ様をこの目で拝むことができるなんてっ!!」

 

 人々は熱気にあふれ、口々に水着剣豪ラムダなる人物のことを崇め奉る。

 

「「水着剣豪!!?」」

 

 ここで、ウタと沖田は顔を見合わせた。カジノ水天宮もラムダ様なる人物についても、2人の知識にはまったくないものだったが、水着剣豪という単語だけは知っていた。即座にどこか気の抜けていた二人の表情が引き締まり、本来の目的を思い出す。

 

「私……うっかりしてました。ついつい、美味しいものに釣られて寄り道を……」

「こっちこそ……沖田さん、ごめんなさい。忘れてた……」

 

 ウタはぱんぱんっと頬を叩いて邪念を振り払う。

 

「と、とにかく! 水着剣豪がいるなら、なかに入って戦わないといけないんだよね!」

「とりあえず、一番後ろに並んでみますか」

 

 しかし、現実はそう簡単にうまくいかない。

 最後尾に並ぼうとしたところで、プラカードを持つ黒服の男に門前払いされてしまったのである。

 

「入場チケットがないなら無理だな。チケットの買い方? 教えてやってもいいが、半年先まで完売してるぞ」

 

 黒服はそう言うなり、ウタたちをしっしっと犬でも払うかのように追い出したのであった。

 

「半年も待てませんよ。こっちは3日の命なんですから!」

 

 沖田がぷんぷんと怒りながら、行列を遠巻き眺める。

 

「こうなったら、上空からジェット突撃をしますかね……」

「うーん……チケット、譲ってもらう?」

 

 沖田が顎に指を添えて考え込み、ウタは腕を組みながら思案する。

 

「いやいや、ウタさん。そう簡単に譲ってもらえるはずないですよ」

「あたしのファンなら譲ってくれるかもしれない」

 

 ウタはそれだけ言うと、きょろきょろと辺りを見渡した。そして、行列のすぐ近くにベンチがあることに気づくと、軽い足取りでベンチに飛び乗った。

 

「ファンならって……この人たちは水着剣豪のファンであるわけで、あなたのファンというわけでは」

「だからさ、いまこの瞬間から、あたしのファンにもなってもらうんだ」

 

 ウタはにぃっと微笑み、沖田に耳栓を渡す。

 

「あたしが合図を出すまで、しっかりつけておいてね」

 

 ウタは沖田が半信半疑の表情で耳栓をつけたことを確認すると、大きく息を吸いこんだ。

 赤髪海賊団の音楽家の歌声が世界に響き渡る。

 

 

 

 カジノ・水天宮へ――絢爛豪華なラスベガスへ新時代の訪れを告げるように。

 

 

 

 

 

 

 

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