バーソロミューはメカクレ歌姫を救いたい   作:寺町朱穂

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3話 邪な想い

 

 

「舐めやがって!」

 

 ビッグ・マム海賊団の手下の一人が怒声をあげると、バーソロミューに殴りかかる。

 バーソロミューは涼やかな表情一つ崩すことなく、攻撃が当たる寸前で半歩後ろに下がり、優雅に避けてみせた。

 

「なに!?」

「いい拳だ。それなりの修羅場をくぐってきたとお見受けする」

 

 バーソロミューは称賛の言葉と共に、右手に握ったカトラスを手品師のように数回転させる。

 それを見た手下は拳では叶わないと悟ったのか、腰の剣を引き抜くと周りにいた数名の仲間と徒党を組んで襲ってきた。彼らは泣く子も黙るビッグ・マム海賊団の海賊だ。幹部にはかなり劣るも「新世界」にふさわしい実力者であることには違わない。数で押しかければ、手配書にすらなっていない無名の海賊など敵ではないはずだった。

 

 だが、相手が悪かった。

 彼らが倒そうとしたのは、元王下七武海「バーソロミュー・くま」の名前の由来となった大海賊「バーソロミュー・ロバーツ」であり、サーヴァントだ。悪魔の実の能力者でも覇気の使い手でもない海賊が、サーヴァントに太刀打ちできるはずもない。

 バーソロミューはカトラスを目にもとまらぬ速さで振るうと、立ち向かってくる敵の剣一振り一振りを弾き飛ばしていき、相手が何が起きたのか理解する間も与えず懐に入り、それぞれの腹にカトラスの柄や肘打ちを食らわしていく。

 

「お前、強ェな!」

 

 麦わらのルフィが面白そうに言ったときには、バーソロミューを中心とした放射線状に海賊たちが倒れていた。意識こそあるが、痛みで腹を抱えてうずくまっており、立ち上がるまでに時間がかかるだろう。

 

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴するよ」

 

 バーソロミューはそう言葉を返しながら、残りの敵を見渡した。数人まとめて倒したとはいえ、オーブンとブリュレを含めて四分の一は残っている。一気にまとめて倒してしまおうかと拳銃を取り出そうとするも、ふとあることが思い至り、手が止まってしまう。バーソロミューが思案した一瞬のスキを突くように、海賊の一人が攻撃をしかけてきた。

 

「もらった!!」

 

 しかし、その攻撃も通らない。

 なぜなら、ウタとライブを守ろうと志す強者は、バーソロミュー・ロバーツだけではないからだ。

 

「おいおい! ウタちゃんを狙うなんてクソどもは、おれが相手してやる」

 

 金髪の青年――サンジがステージに飛び移り、襲ってきた海賊を軽く避けると、そのままの勢いでまわし蹴りをさく裂させる。海賊はかわすこともできず、そのまま客席近くまで吹き飛んでいった。

 サンジの参戦を皮切りに、「麦わらの一味」の面々が動き出す。

 

「素晴らしいステージを汚す不届き者を放ってはおけませんね」

「ようやく面白くなってきやがった!」

 

 骸骨のブルックと三刀流の剣士のゾロがそれぞれ剣を抜き、ステージに降り立つ。

 ビッグ・マム海賊団の面々は、ここで標的をバーソロミューから因縁の敵「麦わらの一味」へと変えた。しかし、手下の海賊たちでは二人の剣士の足元にも及ばない。ゾロの剣さばきは海賊たちの攻撃を難なく弾き返し、ブルックは愛刀「魂の喪剣」をひらつかせながら、海賊たちの間をすり抜けていく。

 

「掠り唄――吹雪斬り」

 

 チンっと刃を鞘におさめると、次の瞬間、切られた傷口が凍りつき、海賊たちは花びらが散るようにその場に倒れた。

 

「しょうがないわね!」

「ライブはまだ始まったばかりなんだ!」

「やるぞ! ウタを守るために!」

 

 ナミ、チョッパー、フランキーも口々に言いながら、ステージへと向かう。

 そんな彼らを追い越すように、巨大な波が生き物のようにうねりをあげてステージに襲いかかる。否、ただの波ではない。麦わらの一味に加入した魚人のジンベエが操る水だった。

 

「魚人空手、槍波!」

 

 ジンベエの操る水は槍のように鋭く尖り、いままさに攻撃のため過熱途中だったオーブンの右腕と衝突する。水は瞬く間に蒸発し、ステージはさながらスモークが立ち込めるかのように真っ白な水蒸気に覆われてしまった。

 

「あとはスーパー任せとけ!」

 

 水蒸気から飛び出してきたのは、フランキーだった。右手の拳を突き出し、オーブンも負けじと迎え撃つ。両者の拳は激突し、拮抗状態に陥った。続けざま、ルフィが高らかに飛び上がると、眼下に残された海賊たちに向かって技を放つ。

 

「ゴムゴムの! JET銃乱打!!」

 

 海賊たちにこの攻撃が避けられるはずもなく、ゴムの打撃を喰らった彼らは軽々と吹き飛んでいった。そのまま海に落ちるかと思いきや、海賊たちの落下地点を先読みしたロビンが能力を発動させる。

 

「百花繚乱――蜘蛛の華」

 

 床から伸びた無数の手と手が絡みあい、ネット上になって落ちてきた海賊たちを捕まえる。

 その海賊たちめがけて、ウソップがスリングショットを引き、とどめの一撃を与えようとした、そのときだった。

 

「はーい、そこまで!!」

 

 乱闘とは無縁極まる明るい声が、会場に響き渡った。

 

「ルフィとバーソロミューとみんな! 守ってくれてありがとう! でも、喧嘩はもうおしまい!」

 

 海賊に狙われてた張本人にもかかわらず、ウタは無邪気な笑顔で呼びかける。

 このことに一番ひっかかりを覚えたのは、オーブンであった。海賊同士の戦いを「喧嘩」呼ばわりされ、心外そうに片眉をあげる。

 ウタはそんなオーブンの様子を気にすることなく、にこやかに語りかけるのだった。

 

「みんな、私のファンなんだから。仲良くライブを楽しんで!」

「いやでもこいつら、プリンセスウタを連れ去ろうとしてるんだぞ?」

 

 ウソップは困惑の色を隠せない。

 

「それに、話して分かる相手じゃねェ」

「おれたちは欲しいものがあったら戦って奪う。海賊だからな」

 

 フランキーとオーブンが拳をぶつけ合いながら言った。

 誰の眼から見ても、戦いに決着がつかない限り、ライブが再開されるのは難しいと思えた。ところが、ウタは笑顔を崩さない。

 

「じゃあ、海賊やめちゃおう! いままでやった悪いことは、私が許してあげる!」

 

 彼女はそう言いながら、観客たちに向かって大きく両手を広げた。

 

「ねぇ、他のみんなも悪い海賊なんておしまいにして、私と一緒に楽しいこといっぱいの世界で過ごそう? 私の歌があれば、みんなが平和で幸せになれる!」

「この世に平和なんてものはない」

「バカなことを言うガキは顔を切り裂いてやろうか?」

 

 オーブンとブリュレが反論する。特にブリュレは長い爪をひらひらさせて脅しをかけるも、ウタは意にも返さない。

 

「私の歌を楽しみに来たんじゃないの?」

「おれたちは歌などに興味はない」

 

 オーブンたちがここまで来たのは、マムから命令されてこそ。

 ビッグ・マム海賊団の一員として、マムの四男と八女として、海賊を止めて楽しい世界で暮らそうなどという提案は到底受け入れられるはずもない。彼女の提案は、お花畑な歌姫様の語る甘ったるい世迷言としか思えなかった。

 

「……残念」

 

 ウタは長いまつげを伏せ、視線を一度落とした。

 

「なら、歌にしてあげる」

 

 ウタはにっこりと目を細めると、アニマルバンドに目配せする。

 そして、自信に満ちた様子で歌い始めた。

 

「――」

 

 彼女の小さな口から、力強い声が溢れだす。晴れやかでパワフルな曲は、まるで応援歌のようだ。そんなハイテンションな曲調に呼応するかのように、ウタの身体が光に包まれていく。彼女が着ていた清楚なワンピースの上に、金色に光り輝く鋼鉄の鎧が装着され、瞬く間に変身していく。

 

「な!?」

 

 皆が驚いている間にも、彼女の歌と変身は続く。

 これは不味いと感じたのか、わずかに残った手下の海賊たちが一斉にウタ目掛けて襲いかかる。すると、どこからともなく無数のカラフルな音符が現れ、ウタの盾になる。海賊たちが何度切りかかっても弾き返され、その間にウタは手のひらをかざす。彼女の手に収まるほどの小さな音符が出現したかと思えば、黄金の長い槍へと形状を変えた。

 

「――!」

 

 ウタは槍を高らかに掲げながら、実に楽しげに歌う。

 すると、槍の先から五本の黒い線が現れた。楽譜に使われる五線譜のような線は意思のある生き物のように伸び始め、近くの海賊たちをからめとり始める。そのうちの一本は、先ほどロビンが作り出した「蜘蛛の華」にもしゅるしゅると巻きついていった。

 黒い線は海賊たちをからめとった状態のままゆっくりと上昇すると、パンっと風船が割れるような音と共に弾ける。すると、空に五線譜が浮かび上がった。線と線の間には、海賊たちが粘着シートのトラップにかかったネズミのように張りついていた。

 

「ち、ちくしょう」

「う、うごけねぇ……!」

 

 海賊たちがもがいても、五線譜はまったくもってビクともしない。

 

「っ!」

 

 手下の海賊たちの様子を見てか、オーブンはフランキーを押し返すと、標的をすぐさまウタに変更した。フランキーが止める間もなく、オーブンはウタに熱風を打ち込みにかかる。

 

「――」

 

 だが、ビッグ・マム海賊団でも屈指の実力者の攻撃は、ウタにはそよ風も同然のようだ。軽やかに歌い続けながら、音符でたやすく弾き飛ばしてしまう。音符はしゅるしゅるっと長く伸びて一本の線になると、オーブンを巻き取って上空に浮かび上がると、ぱんっとはじけた。先程の海賊たち同様、オーブンも空に捕らわれてしまう。

 

「オーブンお兄ちゃん!」

「逃げろ! ブリュレ!」

「待ってて、海賊団の援軍を連れて――……っ!」

 

 ブリュレはあわてて鏡のなかに飛び込もうとするも、時すでに遅し。ウタが人差し指を向けると、あっというまに五線譜が彼女をからめとり、兄の隣にべたりと貼りつけられてしまった。

 

「すげェ強くなったな、ウタ!!」

 

 ルフィが驚くと、ウタは歌いながら彼に向って嬉しそうに微笑をする。そして、今度は観客に向けて槍を突き上げ宣言するのだった。

 

「みんな! 悪い海賊たちは、楽しい歌になってもらったよ! これで平和になったから安心してね!」

「うおおおお!!」

 

 観客たちから割れんばかりの声援が盛り上がる。

 

「そうだよ! 親子でもシャンクスとウタは違うんだ!!」

「よかった! よかった~!」

 

 観客のなかには歌姫が大海賊の娘であると動揺した者も多かったが、海賊たちを一掃した力強さに安堵する。

 これで、ライブも無事に再開できるだろう。

 

「ウタ姫のヒットナンバーのひとつ! 自身とファンに向けた応援歌! まさかこの距離で、しかも、生で聴けるとは!」

 

 バーソロミューは感極まった早口で言う。いつのまにか、カトラスは鞘に納められ、代わりに6本のペンライトを振るっていた。

 

「バカヤロー! さっさと席に戻るぞ!!」

 

 バーソロミューがウタの目の前に座り込み、ペンライトを振るっていると頭の上に拳骨が落ちる。嫌そうに眉をひそめ顔を上げると、ぜえぜえと肩で息した黒髭の姿があった。

 

「おめぇがいたら邪魔だろーが!」

「お前に言われずとも分かってる。それでは、レディ。私はこれで」

 

 バーソロミューは立ち上がると、優雅に一礼する。

 

「……もし、ライブの後に時間がよろしければ、私の船でディナーでも? あなたの創り出す素晴らしい歌について、ぜひ話をお聞きしたい」

「あはは、ありがとう。お話しする時間はあとでとってあげる。でも、ライブの後はちょっと難しいかな」

「ん? ライブの後も予定が立て込んでいるのかい?」

「ライブの後なんてものはないよ。せっかくだから、ここでみんなに嬉しいお知らせをしちゃおうかな」

 

 ウタはそう言いながら変身を解いた。元のワンピース姿に戻り、客席の方と向きなおった。

 

「いつもの映像電伝虫をつかった配信ライブは、私が疲れて眠くなっちゃうからすぐに終わっちゃうけど、今回のライブはエンドレス! 永遠に続けちゃうよ!」

 

 永遠に続けると聞き、映像電伝虫まで目を丸くする。

 これには思わず、バーソロミューも黒髭と互いに顔を見合わせた。

 

「みんなとずーっと一緒にいられるってこと! 配信で楽しんでくれてるみんなも! この会場にいるみんなも! もっともっと楽しんじゃおう!!」

 

 ウタが声高々に宣言すると、おおーっ!と会場にどよめきが走った。

 

「すげぇ! 一人でライブをやり続ける気かよ!」

「最高かよー!」

「UTA! UTA! UTA!」

 

 観客たちは声をそろえて声援を送る。

 

「それとね、大事なお話。海賊のみんな、それに海軍、世界政府の人たち。このライブの邪魔をしないで。みんな、楽しいこと、幸せなことを探してるの。ひどいことをやったら、覚悟してもらうから」

 

 ウタは先ほどまでの笑顔とは一変し、どこまでも真剣な顔で訴えかける。

 

「私は新時代を作る女、ウタ! 歌でみんなを幸せにするの!」

 

 彼女の宣言に、観客は嬉しい応援を口々に叫ぶ。盛り上がる観客たちの声を全身に浴び、ウタはすっと背筋を伸ばした。

 

「じゃ、次の曲……いくよ」

 

 客席の照明が落ち、ステージを照らすライトが黄色から緑へと変化する。真っ暗になった客席でペンライトの光が揺れ、次の歌にそなえて声が静まり返った。

 

「ほら、いまのうちに移動すっぞ」

 

 黒髭とバーソロミューはステージを後にする。

 

「……ああ、そうだな」

 

 バーソロミューは一度、何か考え込むような表情でウタを振り返る。

 

「……考えすぎか」

「なんか言ったか?」

「いや、ちょっと気になったことがあってね。黒髭、行きたい場所がある。いいかい?」

 

 バーソロミューは客席に戻るため、海の上に渡された花道を歩いた。

 

「行きたい場所ぉ?」

「ああ、見つけたんだよ…………もう一人、麗しのメカクレボーイを!!」

 

 バーソロミューの視線は、彼らの先を歩く一人の男性――サンジの背中に向けられていた。

 

「メカクレなら誰でもいいんですかい! って、はやっ! もう隣まで行ってる!」

「金髪の君、私たちはライブを守るため共闘した仲だ。せっかくだから、この縁を大事にしたい。どうだろう、ステージを一緒に観戦しても?」

 

 バーソロミューは上品な顔に邪な思いを隠しながら、サンジに語りかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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