バーソロミューはメカクレ歌姫を救いたい   作:寺町朱穂

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6話 夢の世界

 

 

 彷徨海カルデアベースの管制室。

 いつも増して深刻な空気が漂うなか、マシュ・キリエライトは青ざめた顔でモニターを見下ろしていた。

 

「先輩! 先輩! 大丈夫ですか!」

 

 モニターの画面に映るのは、藤丸立香、エドワード・ティーチ、バーソロミュー・ロバーツの3名が倒れた姿だ。数分前、ようやく通信が繋がったというのに、まったくもって動く気配がない。まるで、3人が3人とも死んでしまったかのように固まっていた。

 

「せっかくシステムが復旧し、通信が繋がったというのに……!」

「バイタル結果出たよ。値は正常。どうやら、眠ってるみたいだ。だけど……」

 

 ふむ、と、ダ・ヴィンチも首を傾げる。

 

「波長がただの眠りには見えないんだよね。レム睡眠ともノンレム睡眠とも違う」

「うむむ、つまりただ寝てるわけではないと?」

 

 新所長のゴルドルフ・ムジークもマシュの隣からモニターを見下ろす。

 

「システムが完全復旧すれば正確な状況もつかめるのかね?」

「おそらくは。ただ、完全復旧には最低でもあと4時間はかかりそう」

「計算外でした……まさか、レイシフト実行した直後、サーヴァント項羽が来襲。通信に関する機能だけ破壊しつくして去るとは」

 

 シオンもダ・ヴィンチと一緒に、がっくし肩を落とす。項羽が理由も言わずに破壊しつくして以降、昼夜を問わず復旧作業に勤しみ、やっと一部通信が回復できたと思ったら、藤丸たち3人は原因不明の眠りに侵されていたのだ。

 

「項羽さんは未来予知にもとづいてされています。一見、意味不明な行動にもきっと意味があるのかと……ですが、これでは……」

 

 こちらの音声は聞こえているはずだが、まったく反応はなし。かといって、向こうの状態を多少サーチすることはできても音声を拾うことはできない。モニタリングできていたとしても、これでは意味がないようなものだ。

 

「そうだね、このままではらちが明かない。イアソンが見当たらないことも気になるし……」

 

 ダ・ヴィンチが考え込んだ、そのときだった。

 

「失礼する」

 

 管制室の扉が開き、入ってきたのは異形のサーヴァント。ケンタウロスのような下半身、何本も生えた腕、3mを越える巨体という人間とは思えない恐ろしげな風貌――管制室の通信装置を壊しに壊しまくった項羽その人である。

 当然、管制室のメンバーは誰もが緊張を強めた。

 

「これが役に立つだろう」

 

 項羽は機械的な声で言いながら、手にしていた白くてふわふわした塊を床に落とした。そして、そのまま何も言わずに退室してしまう。

 

「行ってしまいました……」

「うぐ、痛たた……もう少し丁寧に扱ってくれないかな?」

 

 白い塊がもぞもぞと動き始め、のっそりと立ち上がる。

 これこそが、マーリン。花の魔術師が今回の特異点にお邪魔するきっかけになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、これが一時間くらい前のことだ」

 

 ライブ会場に急ぎながら、マーリンは藤丸にした説明を繰り返した。

 

「すごいな、項羽は」

 

 藤丸はマーリンの説明を再度聞きながら、項羽の行動が未来予知に基づいたものだったということを改めて理解した。

 

「ヘルメッポさんの話だと、ウタの能力は歌を聞いた相手をウタワールドっていう夢の世界に引きずり込むらしいんだ。つまり、通信装置が正常に繋がった状態だと、カルデアまでウタワールドの支配が及んじゃう」

「なるほど。だから、項羽氏は通信装置を破壊したってことか」

 

 黒髭の発言に、マーリンは頷いて返した。

 

「私がレイシフトすることは叶わなくても、一応はマスターと契約したカルデアの英霊だ。契約者の夢にお邪魔することなど簡単さ。なにしろ、私は夢魔だからね! まずは、マスターの夢にお邪魔して、様子を探ってこいというのがカルデアからの要請だ」

「フォウ、フォウ……」

 

 マーリンが得意げな表情で語るも、足元でフォウが不機嫌な声を出す。フォウの湿った視線を受けて、マーリンは笑うのだった。

 

「あはは、ひどいな、キャスパ……フォウ。他人様の夢のなかだと、ボクが十分に実力を発揮できない虫けら同然だなんて! まあ、事実なんだけど」

「事実なのかよ!」

「この世界において、招かれざる異物であることには変わりがないからね。ウタに存在を気づかれたが最後、ウタワールドに飲み込まれて戻れなくなってしまう」

 

 マーリンは「ボクも絶世の歌声を聴いてみたかったよ」と哀しげなため息をついた。

 

「ん? だったら、さっさとカルデアに帰還した方がいいんじゃねぇの?」

「おい、静かにしろ。もうすぐ、ライブ会場だ」

 

 黒髭が疑問を口にするも、ヘルメッポが制した。

 ライブ会場に戻って来てみたが、ウタはおろか観客すら誰も残っていない。しんっと静まり返った空間のはるか上空には、ビッグ・マム海賊団とルフィを除く麦わらの一味、バーソロミューが五線譜に貼りつけられて浮かんでいた。

 

「え!? ええ、ええええ!! 麦わらの一味だ!!」

 

 ここで、藤丸立香の眼の色が変わった。

 麦わらの一味を見上げながら、ライブの花道を走り出す。

 

「うわっ、すごい! かっこいい! 2年前より強そう! というか、ジンベエもいる! もしかして、ジンベエも仲間に加わったの!?」

「? どこかで会ったことあったかのう?」

「アニメと声が同じだ!!」

 

 藤丸は五線譜の真下まで来ると、青い瞳をきらきらと輝かせた。

 

「マスター、マスター、おちついておちついて」

「もしかして、黒ひー。別れたあと、ずっといっしょに行動してたの? まじか! ショックだ……俺も残ってライブ観戦していれば……!」

「君がライブを観戦してたら、私もウタワールドの一員になってたけどね。なにせ、君の夢を頼りに潜り込めたのだから」

「……そうだけどさ、そうなんだけど!」

 

 マーリンの声で、藤丸は若干の冷静さを取り戻した。自分の気を入れなおすように両頬をぱちんと叩くと、もう一度、今度は冷静に五線譜を見上げた。

 

「バーソロミュー、大丈夫?」

「やあ、マスター! おかげさまで」

 

 バーソロミューは自身の左半身が五線譜に張りついているというのに、比較的明るい返事が返ってきた。思った以上に元気そうで、藤丸は少しだけ安心した。

 

「それ、外れないの?」

「無理だね。ビクともしない」

「つーか、バーソロ。お前、なんで逃げなかったんだよ」

 

 黒髭が腕を組みながら問いかける。

 

「サンジ氏を助けようとするのは分かるけどさー、お前ならウタたんの初撃くらい防げるだろ」

「分かってないな、黒髭」

 

 バーソロミューは鼻を鳴らした。

 

「私は金髪の君を助けたかった。だが、前髪が素敵な歌姫に手を上げることなどできるはずがない! むしろ、麗しい歌姫の攻撃を受けたい!! 彼女の五線譜になりたかった!!! 後悔はない!!!!」

「うわぁ……」

「唯一、残念な点があるとするなら、逆向きになりたかったことくらいか。この位置からだと、料理人君の素晴らしい顔が見えないのが惜しい……実に惜しい……!!」

「そこまでにしとけよ、バーソロミュー」

 

 藤丸は冷めた目でバーソロミューを見上げる。彼の顔だけ見れば、道行く女性が目で追いかけてしまいそうなほど整っている美男子なのに、口を開けばこの調子。バーソロミューの全身から漂う残念感に、こいつは放っておいてもいいんじゃないかとさえ思ってしまう。心なしか、五線譜に貼りつけられた海賊たちも諦観しきっているのが伝わってきた。

 

「いやー、あそこまで開き直ると、すがすがしいね!」

「マーリンも大概だけどね……って、そんなことしてる場合じゃない。大変なんだ! このままだと、数時間以内に俺たち含めたみんな死んじゃうんだ!」

 

 藤丸が叫んだ瞬間、どんよりとしていた海賊たちが一気に引き締まる。

 

「どういうことだ、それは!」

「死ぬって、どうして!?」

 

 オーブンとナミがまっさきに尋ねてくる。

 藤丸が口を開く前に、ヘルメッポが咳払いをした。

 

「おれたちがいる世界自体は、ウタが『ウタウタの実』の能力で作り出した架空の世界だ。つまり、全員でウタの作り出した夢を見ている状態に近い」

「だ、だけどよ、夢ならいつか覚めるだろ!?」

 

 ウソップが焦った口調で突っ込みを入れる。

 

「夢から覚める方法はねェのか!?」

「ウタが疲れて眠れば能力は解除される。だが、ウタはライブが始まる前にとあるキノコを食べた。食べたものは眠れなくなる。代わりに、接種後数時間で死に至るがな」

「なら、話が早いじゃないか!」

 

 ブリュレがちょっと子馬鹿にしたように笑った。

 

「ウタが死ねば能力が消える。そうすれば、ここから解放されるということだろ?」

「違う。ウタが死ねば、この『ウタウタの実』による世界は閉ざされる。そうなったら最後、おれたちの意識は永遠にこの世界から出ることはできない」

「そ、そんな……!」

「ウタが食べた毒キノコって、なんて名前なんだ?」

 

 見るからに落ち込むブリュレとは反対に、チョッパーが身を乗り出すように尋ねてくる。

 

「解毒剤を調合して投与すれば、ウタは眠ることができる!」

 

 チョッパーが必死に叫ぶも、ゾロがため息交じりで否定した。

 

「現実世界で投与しねェと意味ないんじゃねェか?」

「そうだったー!!」

「いや、俺、それとってもいい案だと思う!」

 

 藤丸は落ち込むチョッパーを励ますように言った。

 

「夢魔のマーリンなら現実世界に戻れる。現実世界と連携することもできると思うし、解毒剤の調合もたぶんできる。問題は、そのキノコが具体的にどんな形で色をしているのか分からないんだよ」

「すまない。『ネズキノコ』という名前は知ってるんだが、おれは見た目まで知らなくてな……コビーなら知っていたと思うが」

「ん? ネズキノコだって?」

 

 すると、サンジが思い出したように口を開いた。

 

「ピンク色した小さなキノコだろ。たしか、ウタちゃんが用意してくれた食材に、1つだけ紛れ込んでいたような気が……」

「本当!?」

「たぶん、まだゴミ箱に入ってるはずだ。せっかく貰った食材を無駄にはしたんくねェんだが、ネズキノコを無毒化する調理法はいまのところ知らなくてな」

「よしきた!」

 

 サンジの言葉を受け、黒髭が麦わらの一味がいた升席に駆けのぼる。

 

「ありました! ありましたぞ!」

 

 黒髭ははしゃぎながら、ひょいっとステージに降りて来る。彼の手には、手のひらにすっぽりとおさまるほどのピンク色のキノコが握られていた。

 

「うむうむ、これだね。覚えたよ。それじゃあ、これを現実世界で探すとしよう」

「よろしく、マーリン」

「それから、言い忘れてたけど……この近くに聖杯の反応がある」

 

 マーリンは藤丸にのみ聞こえる囁き声で語りかける。藤丸は驚きのあまり大声を出してしまいそうになったが、口が縫い付けられたように動かない。マーリンの魔術だろうか、と思っている間にも、彼は静かに言葉を続ける。

 

「海賊たちは強欲だからね、聖杯のことは言わない方がいい。具体的な場所は分からないが、この島のどこかに聖杯があることはたしかだ。大変かもしれないが、君にはそれを探してほしい」

「……!」

 

 分かった、と小さく頷いてみせる。

 マーリンは藤丸の表情を見ると、にっこり笑って杖を軽く振う。すると、マーリンの姿はみるみる間に薄くなり、空間に溶けるように消え失せた。

 

「……頼んだよ、マーリン」

 

 藤丸はマーリンが立っていた場所を見つめるのだった。

 

 

 

 

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