バーソロミューはメカクレ歌姫を救いたい   作:寺町朱穂

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7話 大切なものは目に見えない

 

 

 ウタワールドの空は雲一つない晴天だが、現実の空は違う。

 どんよりとした灰色の雲が空一面を覆いつくし、時折、湿った空気が鼻を差す。おそらく、そろそろ雨が降り出すのだろう。

 

 しかし、イアソンには関係なかった。

 「仲間外れにされて寂しいとか、まったく思ってないんだからな!」という意地と共に船室に引きこもり、音をシャットアウト。酒をたらふく飲んだあとはベッドに転がり寝たふりをしていたのだが、だんだんと瞼が重くなり、いつのまにか眠りに落ちてしまう。

 

 

 だから、イアソンは気づかなかった。

 

 鍵をかけたはずの扉が、音もたてずに開いたことに。

 侵入者は足音を立てずに近寄ると、彼の枕元にたたずんだ。

 

「……」 

 

 その人物は、イアソンを見下ろすとしばし黙り込む。細い指でつんつんと肩を叩いてみるが、相当深い眠りなのかまったくもって反応がない。ふむ、と首を傾げると、侵入者はイアソンの耳元に口を近づけ、大きく息を吸いこむ。そして――

 

 

「ぐっもーにんぐ!!!」

「うぎゃあ――――!!」

 

 耳元で叫ばれ、さすがにイアソンは飛び起きた。その拍子にベッドから身体がずれ落ち、足元に転がっていた酒瓶を踏みつけてしまう。当然、瓶は滑り、イアソンの身体は後ろめり。激しい音と共に、彼の身体は硬い床に打ちつけられてしまう。

 

「あいたー!? だ、だれだ!? 俺の安眠を妨げたのはー!!」

 

 イアソンは両耳を塞ぎながら、涙目で起き上がった。

 

「こんな起こし方、あんまりだろ! って……」

 

 イアソンは侵入者に気づき、はたっと言葉を止める。

 侵入者は青い瞳を丸く見開き、心の底から心配そうに彼を見下ろしていたのだ。

 

「だいじょうぶ、ジェイソン?」

 

 ちいさな少年がぷかぷかと浮かんでいる。

 彼の名前は、ボイジャー。見た目は8歳ほどのゆるふわっと世間離れした雰囲気の少年だが、れっきとしたサーヴァントである。

 

「ごめんね。ねむってる、ジェイソンをおこすなら、みみもとでさけぶのがいちばんって、メディアがおしえてくれたのだけれど……うまく、いかなかったかしら」

「うげ!? メディアのやつ! 坊主になんてこと教えてんだよ」

『これでも害の少ない起こし方を教えたのよ。殴ってでも起こしなさい、って教えたのだけど、それは痛そうだから無理だって言われてしまって』

 

 イアソンが顔を青ざめていると、メディアの低い声がどこからともなく聞こえてくる。

 

「げぇ!? お前まで特異点に来てるのかよ!?」

「つうしんだよ」

 

 ボイジャーは落ち着いた口調のまま、ホログラムを指さした。

 

『その子がレイシフトするとき、改めてカルデアとの通信装置を持たせたの』

『でもよかったです。やはり、イアソンさんはウタワールドに取り込まれていなかったのですね』

 

 メディアの映像が切り替わり、マシュの画面に変わる。

 

「な、なんだ? ウタワールドって?」

『ウタワールドとはですね――……』

 

 マシュがこれまでの事情をかいつまんで説明する。

 マシュの話を聞くにつれ、イアソンの顔は心底嫌そうに歪みだした。

 

『イアソンさんとボイジャーくんには、ネズキノコを見つけてもらいます。ウタが持っていると思われるウネズキノコを発見し次第、ボイジャーくんはカルデアに帰還。成分を分析し、解毒薬を作成。再度レイシフトを行い、ウタに薬を投与するという作戦になります』

「まった! まった! なんかよく分からねぇが、そんなやばい能力者相手に、俺と坊主だけで立ち向かえと!? もっと戦力になるサーヴァントはいなかったのか!? たとえば、ヘラクレスとか!!」

 

 イアソンが焦りながら画面に叫ぶと、メディアが冷たい目で見返してくる。

 

『相変わらずそちらの声は聞こえないけど、なにを言ってるのかは分かるわ。どうせ、ヘラクレスを寄こせと言ってるのでしょう?』

「うぐっ」

「すごいや! めいたんていみたい!」

 

 イアソンがお腹が痛そうな顔をする反面、ボイジャーは目をキラキラと輝かせた。メディアは手のひらで額を痛そうに押さえると「マシュ、あとは任せた」とだけ言い、画面から姿を消した。

 

『今回の特異点、レイシフトできる条件のサーヴァントは数名。いずれも“船”を所持していたサーヴァントです』

「ぼくは、ふねそのものだけどね。でも、ぼくみたいなさーばんとは、めずらしいから」

『現在、ボイジャーくんを除くレイシフト可能サーヴァントは、ドレイクさんとコロンブスさんになります。ですが、トリスメギストスⅡの解析では、ドレイクさんは現状避けた方がいいと出まして。かといって、コロンブスさんをワンピース世界に送り出すのは、ちょっと……』

「あー、そりゃ消去法で坊主になるわけだ」

 

 イアソンは納得した。

 コロンブスがこの世界に来たが最後、なにをしでかすか分かったものではない。特異点解消後も密かに干渉をし続け、植民地化計画を進行してもおかしくなかった。なんなら、ウタを無力化した後、なんやかんや理由をつけて奴隷の如く働かせて、がっぽがっぽ稼ごうとする姿がありありと浮かんでしまった。

 

『ボイジャーくんに遮音機能付きのヘッドホン型を渡してあります。ウタと遭遇しそうになったときは、すぐにつけてください』

「あーはいはい、分かったよ。しかたねー。さっさとネズキノコとやらを探しに行くか」

「うん! よーそろー!」

 

 イアソンはヘッドホンを首にかけると、ボイジャーを連れで外に出る。

 

「……まじかよ」

 

 いまにも雨が降り出しそうな曇り空とと風を肌で感じながら、イアソンはライブ会場だと思われる場所へと足を運ぶ。エレジアに着いたばかりのときは霧が濃くて気づかなかったが、ライブ会場に続く道も柱も遠くに見える家々も廃墟としか思えない。

 

「らいぶって、もっときらきらしたばしょで、やるんじゃないのかしら?」

「ウタウタの実とやらの能力で誤魔化してんだろ」

「あ、ジェイソン! みて!」

 

 ボイジャーが無邪気な声色で空を指さした。指の先を追ってみれば、UTAと描かれたきらびやかな風船がライブ会場の屋根部分に引っかかっている。

 

「風船だな」

「きれいだね。おおきいほしみたいだ」

「いま任務中だ。集中しろ」

 

 イアソンが言うと、ボイジャーは「わかったよ」と頷く。しかし、そう言いながらも、ちらちらっと青い瞳が風船を追いかける。イアソンはそんな相方を見下ろし、大きく息を吐いた。

 

「坊主、空から様子を確認してきてくれ。そうだな、あの風船が引っかかってるあたりなら、よく全体が見渡せるだろ」

「ふうせんのところまで、いっていいの?」

「ああ。せっかくだ。どんな風船か、俺も近くで見てみたいから取って来い」

 

 ボイジャーはぱあっと花が咲いたように笑い、元気に頷いた。

 

「ありがとう、ジェイソン!」

 

 ボイジャーはふわりと浮かび上がり、灰色の空高くへと飛んでいく。彼は曇り空のなか、ひときわ輝く風船の傍に難なく降り立った。

 イアソンの位置からでは、ボイジャーは点のようにしか見えない。ただ、ちょっともたもた動いたあと、風船をもってこちらに戻ってくるのが見えた。

 

「星型の風船か。坊主、大事に持ってろよ。ただし、戦闘の邪魔になるようだったら迷わず手放せ」

「うん! あとね、ジェイソン。あっちで、たくさんのひとが、ねてるのがみえたよ。たぶん、かんきゃくのひと」

「ウタウタの実とやらの力で眠らされてるってことか」

 

 会場の入り口に到着すると、屋台や物販の店主が寝息を立てるのが見えてきた。焼いていたであろう肉はすっかり焦げ、炭のように固まってしまっている。火は完全に消え、鉄板もすっかり冷え切っていた。

 

「ここから、とんできたのかしら?」

「あー、そこに風船の物販あるからな。風に飛ばされたんだろ」

 

 イアソンが言うと、ボイジャーは手にしていた風船を他の風船と一緒にくくりつける。

 

「わざわざ戻す必要はねーんじゃないか?」

「おかね、はらってないから。どろぼうになっちゃう」

「……ま、お前がいいならいいけどさ。ほら、気を引き締めろ」

 

 イアソンが会場に足を踏み入れると、ひときわ薄ら寒い気分に陥った。

 会場は外から見た以上にボロボロで、一人一人の席すらない。屋根もまだらで苔が生え、ひびが入っているのが見てとれた。人気絶頂の歌姫のライブ会場というより、廃墟の野外ステージと評した方が遥かに合っている。なにより異質なのが、観客全員がこんこんと眠り続けていることだ。

 

「ったく、不気味だぜ」

「ジェイソン! おきてるひとがいる!」

 

 ボイジャーはぷかぷかと浮かんだまま、すうっと前を指さした。すると、ちょうど前方の升席から一人の少女がステージに向かって降りてくるのが見えた。少女も声に気づいたのか、なんだろうと振り返る。左目が白い前髪で隠れている少女の姿を見て、イアソンは叫んでいた。

 

「っ、あれがウタだ! 気をつけろ!」

「気をつけろって言い方、ひどくない?」

 

 ウタは平然としている。片手には大きなバスケットを持つ姿は、買い物帰りの女子学生のようだ。

 

「それより、貴方たちは? 私の能力について知ってそうだけど、海軍でもなさそうだし」

「答える気はないな」

「そっか、残念。はーい、帰って」

 

 彼女はそう言うと、バスケットに手を入れた。

 

「どうせ、私はあと少しでこっちからは消えるし。私の新時代に来る気がないなら、邪魔しないでね」

 

 大きな麦わら帽子が被さっているせいで、バスケットの中身はよく見えない。ウタはそこから小さなピンク色のキノコを取り出すと、迷いなく口にした。

 

「それ、ネズキノコ!」

「ほんとうだ!」

 

 イアソンとボイジャーは顔を見合わせる。

 こんなに早く目的の物が見つかるとは、両者ともに思ってもいなかったのだ。

 

「ん!」

 

 ウタは、その通り! と、キノコを食べながら親指を立てる。

 

「まじで食う奴がいるか!? そのキノコ食べたら、死ぬんだぞ!?」

「あはは、死ぬってなに!?」

 

 イアソンが絶句すると、ウタは冷ややかに笑ってみせる。

 

「大切なものは身体より心じゃないの? 新時代は、みんな一緒に心で生き続けるものなんだよ」

 

 ウタが明るい口調で説明するも、イアソンの背筋は寒くなるばかりだ。

 

「やべぇ……こいつ、メディアと同じ目してやがる!」

「こころで、いきつづける?」

 

 イアソンがドン引きする一方、ボイジャーはきょとんとした表情を崩さない。

 

「たいせつなことは、こころなのはわかるけど……それが、しんじだい?」

「そうだよ! 大海賊時代は終わって、平和で自由な時代が来るの! 食べ物に困ることもないし、病気や苦しみもない、ひどいことをする人もいない! 新時代、いいでしょ?」

 

 ウタはボイジャーが新時代に興味を抱いていると思ったのだろう。ぷかぷかと浮かぶ彼と目線を合わせながら、楽し気に自身の計画を語った。

 ボイジャーは一通り彼女の言葉を聞き終えると、ちょっと寂しそうに眉を寄せた。

 

「しんじだい、とってもすてきなせかいみたい」

「坊主!?」

「でしょ!? 君も一緒に新時代を迎えよう!」

 

 ウタは弾いたような笑顔で言い、唄を歌おうと少しだけ息を吸いこむ。

 しかし、ボイジャーは白い指で彼女の桃色の唇をちょんっと触って制した。

 

「きみのうた、とてもききたい。きっと、ほしのようにきらきらかがやいているんだろうね」

 

 ボイジャーは一瞬頬笑みを浮かべるも、すぐに元の表情に戻った。

 

「だけど、とじこめるのはどうなんだろう?」

「は?」

「しんじだいのひとたちは、だれにみつけてもらえるの?」

 

 少年は心の底から不思議そうに口にする。

 

「見つけてもらう?」

 

 ウタはボイジャーの言う意味が分からなかった。あきらかに自分より年下に見える少年の言い分が分からず、ちょっとばかしいらだちが込み上げてくる。ウタはいらだちを押し込めるように、たんたんたんっとかかとをステージに打ちつけた。

 

「どういうこと? 楽しい世界で歌って踊って食べて遊んで暮らせばいいじゃん」

「きみのせかいに、ほうもんするひとはいない。みんながみんな、ずっとひとりぼっち」

 

 ボイジャーは哀しそうな顔のまま、つたない言葉で語り続けた。

 

「こころはたいせつだけど、さびしいな。ぜったいだれにもみつけてもらえないのに、ずっとひとりぼっちなのは――……」

「いい加減にして!」

 

 ウタはちょっと大きな声で叫んだ。

 

「孤独がなに? 新時代はみんな一緒なんだから、孤独とかそういうのは関係ないじゃん! ――ッ!?」

 

 ウタはボイジャーに言い返そうと言葉を重ねたとき、背後から忍び寄るイアソンに気づく。イアソンの手は、いままさにバスケットに入ったキノコをつかむべく、邪魔な麦わら帽子を退けようとしたところだった。

 

「やめて!!」

 

 ウタは目を見開くと、間一髪ターンをして避ける。イアソンが「やばっ、気づかれた!」と顔を歪ませるも、もう遅い。瞬間、客席から2人の影が飛び降り、ボイジャーには足技を、イアソンにはククリ刀の一撃を喰らわせにかかる。

 

「っ、な、なんだ!?」

 

 イアソンが戸惑うも、2人――海軍のコビーとヘルメッポから返答はない。それもそのはず、彼らはすやすや寝息を立てながら、ゆらゆらとたたずんでいる。

 

「まさか眠らせた相手、全員操れるだとー!? 卑怯だぞ!」

 

 ウタはにやっと笑い、数万の観客に向かって楽し気に叫ぶのだった。

 

「みんなー! 悪い人たちがいるよ! 新時代のために、みんなでやっつけよう!」

 

 ウタの呼び声に答え、倒れていた観客が一斉に立ち上がる。寝息をたてながら歩き始め、イアソンとボイジャーを襲いかかようとする姿は、さながらゾンビ映画のようだ。

 彼らの姿を見て、ボイジャーは目を丸くする。

 

「ほらーえいがみたい!」

「驚いてる場合か! 一度、空に逃げるぞ!」

 

 ボイジャーはイアソンをつかむと、空にむかって飛び上がる。

 普通の観客たちは、あたりまえだが空を飛ぶことなど夢のまた夢。万といる観客たちがボイジャーたちを見上げながら、ゆらゆらと揺れている。

 

「坊主、ヘッドホン!」

 

 イアソンは急いでヘッドホンしながら、ボイジャーにも装着を促す。ボイジャーも返事をすると、イアソンを片手持ちに変えて、空いている方の手でヘッドホンを付けようとするも、うまく耳に装着できず、もたもたしてしまう。その隙を逃すなとばかりに、コビーが跳び上がり、ボイジャーたちに向けて六式「剃」を放つ。

 

「うわっ!」

 

 ボイジャーはかろうじて避けるも、バランスを崩し、イアソンを落としてしまう。

 

「のわっ――!?」

 

 イアソンはステージに落下する。

 激しい衝撃音と煙がステージ立ち込め、イアソンは痛みにうめいた。とはいっても、地上5階立てのビル程度の高さから落ちたのに痛みにうめく程度ですんでいる。致命傷にすらなっていないのは、サーヴァントの頑丈の身体のおかげだろう。

 

「いてて……」

 

 イアソンが背中をさすりながら、顔を上げる。目に入ったのは、ヘルメッポがククリ刀を構えてこちらに駆けてくる姿だった。しかも、その後ろに地上に戻ってきたコビーの姿もある。2人して、まずはイアソンを片付けようとする算段らしい。

 さすがのイアソンも、白目をむいて悲鳴を上げる。

 

「ぎゃー! た、たすけてくれー!」

 

 イアソンが叫んだ瞬間だった。

 

「!?」

 

 イアソンとコビメッポの間に大きな人影が割り込み、大太刀で2人を追い払う。

 

「助けを求める声が聞こえたので来てみれば……コビー大佐? 観客たちまで……これは一体、どういうことだ!?」

 

 海軍中将のモモンガが、イアソンを庇うように立ちふさがる。

 ウタを討伐するため、エレジアに海軍が到着したのだ。

 

「海軍?」

 

 ウタは突然の乱入者に気を取られ、歌おうとをすることを止める。

 

「すきあり!」

 

 その隙をつくように、ボイジャーが急降下する。風を切るように落下すると、ウタが止める間もなく、バスケットからネズキノコだけを取り出した。そのまま、彼女の手が届かぬ位置まで後退する。

 

「みっしょん、こんぷりーとだね!」

 

 ボイジャーはそう言うと、カルデアに帰還する準備に入る。

 

「なにをやろうとしてるのか分からないけど、絶対にさせないよ!」

 

 少年の周りに金砂が舞い始めるのを見て、ウタは嫌な予感がしたのだろう。すぐに手を高らかに挙げて、民衆を操ろうとした。いままさに、ボイジャーの背後に黒いドアのような穴が開き、緑の服を着た巨体の男性が現れ、殴りかかろうとする。

 

「っ、させるか!」

 

 イアソンはモモンガの影から飛び出すと、ボイジャーに駆け寄った。

 とはいっても、イアソンにできることはない。せいぜい、ボイジャーの盾になることくらいである。

 

「ぐはっ!」

「ジェイソン!?」

 

 イアソンは男に殴り飛ばされ、その衝撃でヘッドホンが外れてしまう。ヘッドホンはかんからからっと音を立てながら転がり、そのまま海へと落ちてしまう。

 

「ジェイソン!」

 

 ボイジャーが慌てて海に落ちたヘッドホンを取りに行こうとするも、イアソンの表情を見て立ち止まった。

 

 イアソンは何も言わない。

 ボイジャーはイアソンの顔を見つめると、しばし黙り込む。そして、分かったと頷いて見せた。

 

「ジェイソン、かならず、もどってくるからね!」

 

 ボイジャーは自信に満ちた表情で笑うと、この世界から消失する。金の光は消え失せ、数秒前まで少年が立っていたようには見えなかった。

 

「……ここまでか。だが、大きな一歩だ」

 

 ネズキノコは手に入り、ボイジャーはカルデアに帰還した。

 これで、ウタワールドに放りこまれてしまったとしても、脱出のめどがたったというものだ。

 

「なに、アスクレピオスがいるんだ。あいつなら、確実に調合できる」

 

 イアソンは勝ち誇った顔で笑うと、ウタの口から紡がれる歌声を耳にする。トリッキーなメロディと中毒性のある歌声に耳を傾けながら、カルデアの面々に望みを託すように目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 残された時間は、あと2時間――……。

 

 

 

 

 

 

 

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