芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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『敗北』の権利

トレセン学園 構内

 

世間ではジャパンカップの激闘冷めやらぬ夜。

 

アスランの足はある場所へ向かっていた。

 

 

 

(…これを使う日が来るとは…)

 

校舎の裏手にある木のうろ。

レースで負けたウマ娘が、悔しさを大声で発散するところだ。

 

ブブっとスマホのバイブレーションが震える。

 

…見なくてもわかる。

トレーナーやスピカのみんなからの連絡だ。

 

…とてもじゃないが、今は合わせる顔がない。

 

『寝不足で調子崩して負けました』なんて口が裂けても言えない。

 

どの面下げてトレーナーに会えばいいのか。

 

 

「特に…テイオーには…」

暗闇に声が溶ける。

 

 

「呼んだ?」

「うぉぁッ!?」

 

思いっきりのけぞって声のした方を見ると、テイオーがいた。

 

「なな、なんでここに!?」

「アスランが居なくなったって聞いてね。多分ここじゃないかなーって」

 

ニシシと屈託ない笑顔を見せる。

こっちは物凄く心臓がバクバクしている。

 

「か、勝手にいなくなってすみません。

やることやったら、すぐ戻りま―」

「悪いけど」

 

テイオーの声色が変わる。

 

「今のアスランに、この木のうろを使う権利はないよ。」

「…え?」

 

いつになく真剣なテイオーを見て、思わず背筋が伸びる。

 

「ボクも、初めて負けた時はとっても悔しくて、イガイガして、涙が出てきて。

『ああボクはカイチョーにはなれないんだ』って、本気で思った。

 

でも、後悔はなかった。

 

戦わなければよかった。とかそんなことは思わなかった。

なんでだと思う?」

「それは…」

 

「全力で戦ったから。

しっかり準備を整えて、これで負けても文句ないって、心の底から思っていたから。

今のアスランはどう?」

「…」

 

言葉が出ない。

もし万全だったなら…

 

「…君の隣にいたハーツオブオーク…だっけ。

彼女がボクたちに教えてくれたよ。

『寝不足で疲労困憊みたいだから休ませてやってくれ』って。

『今日の彼女は私のデータにある本来の若獅子の走りではなかった』だって。」

「オークさんが…」

 

口では厳しく言っていたが、かなり心配させてしまったようだ。

 

いや、

俺が期待外れの走りをしたからこそ、厳しい態度をとっていたのか。

 

 

「『敗北』っていうのは、全力を尽くして、次に活かせるよう見返せること。

 

自分で自分の首を絞めて負けたのは『敗北』じゃない。

『自滅』っていうんだ。

 

この木のうろは敗北したウマ娘のためにあるもの。

自滅したアスランが使っていいものじゃないよ。

 

ここにカイチョーがいたらこう言うだろうね

『本末転倒だ』と。」

 

テイオーの正論が体を貫く。

黙り込むことしかできない。

 

 

…自分はなにをしているのか。

 

模擬レースで負けて、シリウスに諭されたあの頃から、

何一つ変わっていないじゃないか…!

 

 

「…どうすれば、よかったのか」

「そんなの決まってるじゃん。」

 

テイオーが肩に手を置く。

 

「ボクたちを頼って。」

「えっと…」

 

テイオーの目が合う。

 

「そりゃ、ボクはカイチョーやシリウスからいつまで経っても子供扱いだし、アスランに窘められたのも一度や二度じゃないし、頼りないかもしれないけどさ、

 

ボクは、君が憧れたトウカイテイオーなんだ。

 

アスランはマジメで頭いいからさ、自分で悩んで、解決しようとするけど、

ボクをもっと頼ってほしい。

 

何を考え、何に悩んでいるのか、それをもっとボクたちに教えて欲しい。

君から言ってくれなきゃ、今日みたいにボクたちだってなにもできないからね。」

 

ニシシとまた朗らかな笑みを浮かべた。

 

 

…ある意味、天狗になっていたかもしれない。

 

3冠ウマ娘になり、テイオーの夢をかなえ、

 

まだ上を目指せるはずとロマンを口実にJCへ突っ走って。

 

挙句一人で不安を抱え、レース研究で夜更かしして…

 

…頼るべき時に、相談せず…

 

…今日の負けは必然だったし、避けられたかもしれない。

 

 

「アスラン、改めて聞いていい?」

 

テイオーの目がまっすぐに俺を見る。

 

「また君に、夢を見ていいかな。」

 

木枯らしとは違う、快い風が吹いた気がした。

 

 

「…あっ!いた!」

「トレーナー!こっちにいましたわ!」

 

 

 

トレーナーとスピカのみんなが駆け寄ってくる。

 

「おま…勝手にいなくなるなよアスラン。いったいどうし」

「…た」

「うん?」

 

 

「…申し、訳、ありませんでした…!」

 

堰を切った様に涙があふれてきた。

 

失望され、見捨てられてもおかしくない失敗をしたのに

 

手を差し伸べてくれた。

 

情けなさ、悔しさ、恥ずかしさ

 

色んな感情が入り交じり、顔を上げられない。

 

 

膝をついて泣く俺に沖野トレーナーがタオルを渡す。

 

「…まあ、お前の不調に気づけなかった俺にも責任はある。

 

今日はしっかり休んで、また明日から勝ちにいくぞ、アスラン。」

「はい…っ!」

 

 

 

 

 

スピカのメンバーに慰められながら、心の中で誓った。

 

 

こんな情けない涙は、今日で最後にしようと。

 




目標達成!

ジャパンカップに出走する

次の目標

有馬記念で5着以内
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