JCにてデビュー以来初となる着外となった日曜日から一夜明け、
寝不足と焦燥感というデバフを抱えていたアスランは、
カポーン
山奥の温泉宿にいた。
昨夜 スピカの部室
「さて、アスラン。今のお前に必要なことは分かるか?」
沖野トレーナーがアスランに問いかける。
涙を流し切って落ち着いてはいるが、まだ目は充血している。
「はい、反省会ですね。覚悟はできてま―」
「いーや、それよりも大事なことがある。」
「はい?」
腕組をしたトレーナーがカッと目を見開く。
「ゴルシ!アスランのバック調べろ!」
「おうよ!」
「あっ、ちょ何を」
「テイオーとマックイーンはアスランを抑えておけ!」
「了解!」
「観念なさい!」
「ちょっとマックイーンさんどこ触って
あひゃひゃひゃひゃ」
「トレーナーさーん。アスランさんの部屋から回収してきましたー」
「おおスぺよくやった」
「せめて説明してくだs
テイオーさん遊んでるであばばばば」
10分後
「というわけでこれらはしばらく没収する。」
「は、はい…?」
テイオーとマックイーンのくすぐり攻撃から解放され、息も絶え絶えに机の上を見る。
「没収…ってそれは自分のスマホとタブレット!?」
「そうだ、今のお前に必要なのはデジタル機器じゃない。これらから離れてしっかり休養することだ。」
「デジタルデトックスってやつね!」
スカーレットが答え、「よく知ってるな」とトレーナーが頷く。
もちろん沖野トレーナーにはその目的もあるが、もう一つ意味合いがあった。
(今のアスランにマスコミの記事を見せるわけにはいかない。)
続けてトレーナーが封筒を取り出す。
「知り合いから教えてもらった良い温泉がある。
旅程表と切符がその中に入ってるから明日の朝一番に出るように。」
と言われたのが昨夜の出来事である。
そしてその翌朝
新幹線と私鉄を乗り継ぎ、バスで山道に揺られること計6時間。
(結構な山奥まで来たな…)
青森県の山間にひっそりと佇む青荷温泉
通称〈ランプの宿〉に辿り着いた。
山から吹き降ろす冷たい風にせかされるように館内に入ると、石油ストーブの様な香りがした。
『ランプの宿』はその名の通り、館内の至る所に灯油ランプが灯されており。
コンセントはおろか、非常口以外の電灯は一切ない徹底ぶりである。
当然の如く携帯の電波も飛んでいない。
不便ではあるが、そういった不便さや非日常を求めてやって来る者が大半なため、穏やかな時間が漂っている。
無敗の3冠ウマ娘として、行く先々で注目を集める普段とは全く異なる環境だ。
部屋に通され、荷物を置き、
フロントで頂いたコーヒーを飲みながら景色を眺める。
「…こんなにボーっとした時間を過ごすのはいつ以来か…」
ポツリとそんな言葉が漏れる。
日々仕事に励み、休日も資料作成に資格勉強にと忙しなく動いていた前世。
日々練習に励み、休日も自主練にレース研究にと忙しなく動いていた今世。
何もせず、ただのんびりと過ごす機会がこんなにもなかったものかと思う。
『お前は真面目過ぎるんだよ、もうちっと楽して仕事しろ。』
ふと前世で先輩から言われた言葉がよぎる。
自分でも気づかない間に疲労が溜まり、仕事中に脳貧血で倒れた時に言われたっけ。
(周りに迷惑をかけないよう頑張りすぎて逆に周りに心配や迷惑をかける…か。
前と同じ失敗してたんだな俺…)
ため息とともに乾いた笑いが出る。
そういやこの世界に来て最初に思ったのが『会社への連絡』だったな。
「いい機会だし十数年分の疲れをとるとするか。」
起き上がってタオルを手に部屋を出た。
この温泉宿には露天風呂含めて4つの温泉があり、景色と共に湯巡りができる。
早速滝が見える露天風呂に入ろうとする。
湯気でよく見えないが先客がいた。
頭の上に耳があったからウマ娘だろう。
「すみません失礼しま…
あぁっ!?」
「…あ」
風で湯気が飛び、視界が晴れた先にいたのは
「ほ、ホープ!?」
ダービーと菊花賞で死闘を演じたレスキューホープだった。