芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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ウマ娘3周年!
めでたい!


両雄の休息

「…」

「…」

 

湯舟に2人揃って浸かるも、会話はない。

サラサラと温泉が流れる音と遠くの瀑声だけが浴場に響く。

 

「…ホープは、なぜこの温泉宿に?」

 

沈黙に耐え切れなくなったアスランがホープに向かって口を開いた。

 

「…ケガの療養だよ。練習中に足をケガしてしまって…

ここなら静かに休めるだろうってトレーナーさんが。」

「…ケガって…大丈夫か?」

「大したケガじゃないさ。

ただ、いろんな人が大げさに大騒ぎするもんだから滅入っちゃって…」

 

ふうとホープが溜息をこぼす。

 

「…ジャパンカップテレビで見てたよ。残念だったね。」

「え?ああ…ありがとう。」

 

今度はホープの顔がアスランに向く。

 

「どうだった?」

「何が?」

「世界と戦うって…どんな感じだった?」

「そうだね…」

 

なめられたものだね。寝不足の状態で私やヴェニュスの末脚に挑もうなどと。

 

ハーツオブオークに言われたセリフがフラッシュバックする。

 

「…強かった。

ただ強いんじゃない。心の余裕や実力へのプライドを肌で感じた。」

 

目を閉じて自然と拳を握る。

 

「そっか」とホープが相槌を打つ。

 

「僕はそれを、菊花賞でアスランから感じたんだけどな。」

「うん?」

 

ホープがそう言葉をつなげる。

 

「…僕は、だれかと競い合うのが好きなんだ。

小さかった頃は裏山でうさぎと追いかけっこしたり、漁港に集まる海鳥を追いかけたりして過ごしてた。

 

盛岡トレセンに行って、もっともっと速いウマと競いたいと思って中央に挑んだ。

 

一番強いウマ娘である君と競ってみたかったから。」

 

ただ黙ってホープの話を聞く。

 

「菊花賞で負けて、会長に怒られた時分かったんだ。君は勝つために走っていて、僕は…

 

…僕は、失望されないために走っていたんだって。」

「失望?」

 

ホープがこくりと頷く。

 

「走っているうちに、会長やみんなからの期待が大きくなっていることに気づいたんだ。

 

…いや、気づかされたんだ。

僕は、地方のウマ娘として期待に応えなければならないって。」

 

ホープが湯舟の中で足をさする。

 

「…もしかしてケガの原因って」

「うん…ちょっと無茶してしまって…ね。」

 

力なく笑うホープを見る。

 

SNSにて『#ホープに続け!』は地方ウマ娘達の間で大流行し、度々目にするが、

その台風の目ともいえるレスキューホープには、期待という名の重しが積みあがっていた。

 

「…期待に応える、って一番単純で一番難しいよな。」

「え?」

「自分も似たようなもんさ。

 

3冠を達成して、先輩方やファンの期待に応え、

『自分ならもっと期待に応えられる』と過信して、

自分を心身ともに追い込みすぎて…結果は掲示板外だ。

 

挙句海外ウマ娘から呆れられ、チームやトレーナーに心配かけて…この温泉で休養中ってわけだ。」

「君も療養中だったんだ…」

「そうでなきゃ6時間もかけて山奥までこないさ」

「…青森(地元)をバカにするなら相手になるべさ?」

「い、いやいや!そんなわけないやないですかホープ殿」

「…フフッ」

「へへっ」

 

互いにクスリと笑い合う。

 

「案外僕たちって似た者同士なのかもね」

「そうかな」

 

笑ってごまかしたが、心の中では真逆のことを思っていた。

 

(…これほど正反対な存在なかなかいないと思うが…)

 

夢と期待に応えるために競い合うサクラアスランと、

実力に対して期待が後付けされたレスキューホープ。

 

根底となる自分の軸が全く違う者同士ではあるが、だからこそ気が合うのかもしれない。

会話を重ねるうちにそう思った。

 

「休養がすんだらアスランはどうするの?」

「自分は…トレーナーと相談の上でだけど、

有馬記念を目指す。

 

…同じ轍は踏まない…!」

 

ホープの問いかけにしっかりと答える。

 

「…僕は、東京大賞典と翌年のフェブラリーステークスを目標にするよ。

 

期待に押しつぶされない、強い自分になって、君へ()()()挑む。」

 

古の侍を彷彿させる力強い目を見せる。

 

「分かった。楽しみに待ってる。

土俵は違えどもお互い頑張ろう。」

「ああ!」

 

そして湯舟から手を出して互いに拳を突き合わせてグータッチをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あのーお嬢ちゃんたち。そろそろわしらも入ってええかの?」

「「?」」

 

脱衣所からおばあちゃんが顔を覗かせてくる。

 

「…気を遣わせちゃったみたいだね。」

「上がろっか」

 

2人そろってそそくさと湯舟を出た。

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