「「「アンコール!アンコール!アンコール!」」」
有馬記念のウイニングライブを終えてもなお観客の熱気は収まる気配はない。
舞台裏にまで響くアンコールにソティスは思わず身震いした。
「どうした。ビビッている時間はないぞ。」
シリウスがソティスの背中を雑に叩く。
後押しされたソティスが舞台へ続く階段を一段上がったところで止まり、シリウスの方を向いた。
「…シリウスさん。」
「なんだ」
「こんな私を支えて下さって、ありがとうございました。」
「ハッ、アタシは何もしてないぜ?お前が自分で意識を変えたからこそのこの歓声だ。
お前が礼を言うべき相手はファンと―」
ちらりと観客席を映し出すモニターを見る。
「―お前がグレても学費を出し続けてくれた親御さんにだろ?
「…」
「いつまでも意地張ってんな。
アタシに下げる頭があるなら、然るべき相手にも下げてこい。」
コクリと頷き、階段を駆け上がっていった。
階下に響く大歓声を感じながら、シリウスは少しほほ笑む。
(…あの甘ちゃんが立派になりやがって…)
少しだけ鼻を触ったあと、舞台裏から立ち去っていく。
「さて…
あとは
中山レース場 スタンド裏 選手控室
(なめてたわけじゃないが…あの高レベルのJCで掲示板内だったってことをもっと重視すれば良かったか…?)
そんなことを考えながら制服に着替える。
後から考えれば警戒すべきポイントは多々あったし、馬場も特殊だった。
そんな中での2着は『ようやってる』と言えるかもしれない。
だが
「…もの足りない…」
『
ディープインパクトがハーツクライに負けて大きなどよめきが起きたように、
コントレイルが馬券内を維持しているにもかかわらず不調だの弱いだの言われたように、
首座から僅かでも落ちれば、『期待外れ』の烙印を押される。
俺かて観客の立場なら同じことを思う。
大きなため息を吐いてから部屋を出る。
廊下にはアンコールのソロライブ中であるソティスの歌声が僅かに反響していた。
「おうアスラン。準備は済んだか?」
「はい、お待たせしましたトレーナーさん。」
部屋の外には沖野トレーナーとスピカのみんな、そしてローレルが待ち構えていた。
「アスランお疲れ!あまり気落ちしちゃダメだよ。はいマフラー」
「ありがとうございますテイオーさ…」
受け取ったマフラーが異常に熱いので片っぽ持って広げる。
「いやあのテイオーさんマフラーに貼るカイロびっしりだなんて見たことないですよ」
「えーそれやったのローレルだよー?」
「外は寒いからアスランちゃんが風邪引かないようにしないと!」
「低温やけどって言葉がありましてね…」
辟易しつつもいつものスピカの空気に安心感を覚え、笑みがこぼれる。
(大丈夫。いつもと同じように頼れるスピカと一緒なら、次は…)
「―なんて甘っちょろいこと考えてねぇよな?」
声のした方を向くと、不敵な笑みを浮かべるシリウスがいた。
「シリウスさん…!」
「あっ!聞いたよシリウス!今日勝った子シリウスの後輩なんでしょ!?
ボク達に黙ってあんな隠し玉を用意してたなんてひどいよー!」
「ハッ、アタシはただの一回も『アスランしかフォローしない』とは言ってないだろ?」
「それは…そうだけど。」
「だからお前はお子ちゃまなんだ」と笑いながら近づき、アスランを見下す。
「
まだお山の大将でいたいなら来年上半期が正念場だと思え。」
「…言われずとも。」
若干不貞腐れ気味に答えると、明らかに嘲笑と言える笑い声を上げ、アスランの顔前に人差し指を立てる。
「お前何もわかってないな。
今のお前には決定的に『
それを会得しない限り、今日みたいな結果が続くぞ?」
そう言ってシリウスは踵を返して立ち去った。
「…足りないもの…?」
思わずトレーナーの顔を見るが、心当たりがないといった顔をしていた。
(足りないものって…なんだ…?)
自分の手のひらを見つめながら、シリウスの言葉を反芻する。
ライブが終わったのか、廊下に響く歓声が少しだけ大きくなった気がした。
目標達成!
有馬記念で5着以内
次の目標
4月前半までにG1を1勝する