脳が焼けました。
その後映画観に行きました。
脳が焦げました。
12月31日 大晦日
大井レース場
年末最後のG1レース『東京大賞典』
ダート戦線における有馬記念とも言うべきレースであり、中央・地方問わず猛者が集結する。
『―先頭は飛ばしに飛ばす5番レッドビーチボーイ。4馬身ほど離れて3番メタルペガシスと1番ブレイブアンサー、その外側に10番ハルカゼステップと2番フリューゲルライン。15番レスキューホープはさらにその外回って3コーナーに入ります―』
舞い上がった砂塵が西日に照らされガラスのように煌めく。
砂ぼこりで視界が不明瞭ななかでも、ホープの朱色がかっただんだら羽織がはっきりと見て取れる。
ホープが空気を切り裂きながら走っていることの、何よりの証左だった。
『最終直線に入って先頭一気にレスキューホープに変わった!足色衰えず後続を突き放す!』
今まで先頭で砂塵を巻き上げていたレッドがホープの後塵を浴びる。
ジャリと歯ぎしりと共に砂を噛む音をさせた。
『レスキューホープ圧勝ゴールイン!
休養から帰ってきた地方の侍レスキューホープ!G12勝目っ!』
モノレールの車内にまで轟く歓声が上がった。
(…流石に別格じゃんねー…)
川崎所属のフリューゲルラインが息も絶え絶えにホープを見る。
圧倒的な実力差に畏怖すら追いつかない表情をしていた。
(本当に同じ地方バかと疑いたいぐらいじゃんね…
…ん?)
視線を幼馴染のレッドの方に向けると、立ち尽くしたまま涙を流す姿が映った。
「…レッド。お疲れじゃんね。」
「ライン…」
ラインがレッドに近づく。
レッドは涙をぬぐった後、ケホッと咳をした。
「…口の中がジャリジャリするジャン」
「まあ後ろから見て分かるぐらい砂被ってたから…
とりあえず水道で口ゆすぐじゃんねー」
2人そろって裏手の水道へ向かう。
いつもなら負けても元気なレッドだが、いつになく静かな様子にラインは違和感をひしひしと感じた。
「レッド…大丈夫じゃんね?」
「…」
「レッド?」
「…ダートダービーウマ娘じゃ、敵わないジャン。」
「え?」
「ダートダービーで戦えなくて、ようやく今日戦えるって思ってたジャン。
アスランも凄いけど、ダートはダートでレッドが強いジャンって示せると思ってたジャン。
…ここまで差がつくなんて、聞いてないジャン…っ!」
目に涙をいっぱいに貯めたレッドは拳を強く握り締める。
(…去年は負けても悔しがってなかったレッドが…)
レッドの心の成長具合に少しさみしさを覚えつつも、ラインは頭を少し叩いた。
「また強くなればいいじゃんね。
うちも…レッドに追いついてみせるから。」
同じ頃、ホープは足を触り、異常がないか確認する。
(…よし、大丈夫そうだ。)
確認を終えたホープは、観客に手を振って声援に応えながら裏手へと引き上げていった。
「お疲れ様。優勝おめでとう。」
そう声をかけられ後ろを振り向く。
「…えっと…」
「ああ、ちゃんと話すのは初めましてですね。
高知所属で今回3着だったハルカゼステップです。
ウイニングライブの立ち位置で確認が―」
そのままホープとステップの2人は軽く打ち合わせをする。
「―あとは2着のブレイブアンサーさんが来てから調整してもらって―」
「…」
「…あの、ハルカゼステップさん?」
「あっ、はい。ごめんなさい。ちょっとボーっとして」
「?」
「…ライブとは違うんだけど、一つ聞いても?」
「え、ええ」
「…どうして有馬記念には向かわなかったんですか?」
「どうしてって…」
ホープが困惑の表情を見せ、ステップが「変なこときいてごめんなさい」と慌てながら謝る。
「あれだけ強いのなら、有馬でもまっこといい勝負になったんじゃないかって。
ケガからの復帰戦というのは知ってますけど、なんでか聞きたいぜよ。」
(だっておまんが
本音は口に出さないまま、単純な興味という点で質問する。
「…それは…」
「あっ!ステップちゃん!ステップちゃーん!!!」
「ウララ先輩!?すみません失礼するきぃ!」
急いで頭を下げてステップがハルウララの下へ駆け足で向かう。
「どうしたんですかウララ先輩。」
「あのねあのね!今中央のトレーナーさんが来てね!ステップちゃんをスカウトしたいんだって!」
ステップが息を吞む。
(ついに…ついにここまで…!)
ステップの体が小刻みに震える。
「やったね!ステップちゃん!」
「はい!ありがとうございます!
夜ぉが明けたぜよぉぉぉ!!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを最大限に表現するウララとステップの師弟。
その光景を遠巻きに見ているホープは、ふと自分の手のひらを見た。
『…僕は、東京大賞典と翌年のフェブラリーステークスを目標にするよ。
期待に押しつぶされない、強い自分になって、君へ勝ちに挑む。』
温泉宿でアスランに語った自分の決意が頭をよぎる。
(…もしかして僕は、きれいごとを言ってアスランから逃げたんじゃないのか…?)
そんな思いがめぐる。
「…僕は…」
裏手までレスキューホープを称える歓声が届く中、
ホープは一人佇むほかなかった。