芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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出港! 三人称視点

高知トレセン学園 教室

 

「―えーというわけでハルカゼステップさんの中央への移籍が正式に決定したため、転校前にお別れ会を開きたいと思います。」

 

始業式が終わって早々担任の先生からステップの転校が伝えられ、教室内がざわざわする。

とはいえ生徒の多くは驚きの表情ではなく、「いよいよか…」といった納得の顔つきをしていた。

 

授業が終わり放課後となるとステップの周りに人だかりができる。

 

「ステップちゃんおめでとう!」

「前々から夢だっていってたからね」

「中央かー実力的にも距離的にも遠いなー」

「ウララさんなんてよほど嬉しいのかさっきから校庭走りまわってるし」

「なんで誰も止めないぜよ」

 

あははと和やかな空気が漂う。

 

しかしその空気を切り裂くようにスパァン!と教室のドアが開く。

 

「こりゃぁ!いつまでくっちゃべっておるかこのとねっこ共らぁ!」

「げっ!一条トレーナーだ!?」

「やべぇ一条のババァが来た!」

「逃げろ逃げろカツオのたたきにされちまうぞ!?」

 

蜘蛛の子を散らすように全員が一斉に逃げ出す。

 

「ステップはこっちだバカ垂れ」

「ぐえ」

 

逃げ出そうとしたステップだったが一条トレーナーに首根っこ掴まれてあえなく御用となる。

 

ほたえる(騒ぐ)んじゃないよまったく。こっちはお前さんに用があるんだから」

「な、なんですか?」

「さっき中央から電話があってな、提出した書類に誤りがあったから確認してくれって。」

「え!?まっこと(本当)ですか!?」

しょうまっこと(本当にほんと)じゃ!まったく…

だからおまんはとねっこのままなんちや。」

 

一条トレーナーがハァとため息をついて首元を掻く。

 

「おまんは一週間もしないうちにこの高知から()()するんだからごくどうせんと(なまけてないで)しっかりおし!」

「…え?」

 

ステップの動きが止まる。

 

「ほれほれ!ボーっとしてないですんぐに職員室へ電話とりに行くぜよ!

ワシはこの()()()()をババァ呼ばわりしたあのわりことし(わんぱく)共をカツオ節にせんといかんから」

 

そう言って御年90歳の一条トレーナーは元気すぎる足腰で逃げて行ったウマ娘達を追いかけていった。

 

(…卒業?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後

転校当日

 

中央からステップの新トレーナーがわざわざ迎えに来るということで、生徒たちは窓から覗いて今か今かと待ちわびる。

 

ステップもソワソワしているが、期待や不安とは別の感情からくるモヤモヤとした状態だった。

 

「…ステップちゃん大丈夫?」

 

その違和感を感じたウララがステップの顔をのぞく。

 

「…大丈夫ですよウララ先輩!私楽しみでしょうがないんです!

やっとあの山姥みたいなトレーナーから離れられるんですから。」

「ふーん?」

 

そう会話していると、校庭にハイヤーが1台入ってくる。

止まったハイヤーからは、シュッとした見た目の女性と、温厚そうなウマ娘が降りてきた。

 

「ハルカゼステップさんですね。改めまして、僕が貴方のトレーナーとなる奈瀬文乃です。」

「こんにちは~スーパークリークです。よろしくね!」

 

校舎中から「かっこいい!」「いいなぁステップちゃん」「王子様みたい…」「クリークさんもいる!?」と黄色い歓声が上がる。

 

「よろしく、お願いします…」

「では早速車へ。飛行機の時間も迫ってますので。」

 

奈瀬トレーナーに促されてハイヤーへ一歩を踏み出そうとしたそのとき

 

「あっ!!」

 

ハルウララが素っ頓狂な声を上げた。

 

「ねえねえ奈瀬トレーナーさん!ステップちゃんちょっと忘れ物しちゃったんだって。

だからちょっと待っててくれる?」

「ああ、ウララ君か」

「ウララちゃん久しぶりです~」

 

ウララが奈瀬・クリークペアに割って入って歓談し始める。

 

ウララはちらりとステップの方を向いてキング直伝のウインク

ーしようとして両目をつぶってしまったが―

をしてステップへ合図を送る。

 

ウララからのサインに気づいたステップは一礼して走っていった。

 

 

 

 

 

「…ふん。あれが奈瀬英人の娘ねぇ…

ワシもあれぐらいの年だったら負けないぐらいのべっぴんで―」

「一条トレーナー!」

 

校舎の端で奈瀬御一行を眺めているところへステップが駆けつけてくる。

 

「なんだいへんしも(急いで)こっちに来て。」

「あ、あの。えっと…」

 

一度深呼吸して落ち着いた後、少しずつ言葉を繋げる。

 

「と、トレーナーは以前高知から卒業だって言ってました。

けど、いつもトレーナーに られてばかりの私が、一人前になれたとは思えなくて。

だからその、本当に高知を卒業して中央へ行っていいのか心配で…」

「何を今更言い出すかと思えば…」

 

大きなため息を吐いた一条トレーナーは、バシン!とステップの肩をはたく。

 

「おまんが一人前になったとただの一言でもワシは言ったか?

ワシに言わせればおまんなんて未熟も未熟なとねっこそのものぜよ。」

「だったら…」

「でも、それと卒業は別ちや。」

 

先程とは違い、優しく肩を叩く。

 

「卒業ってのは何も一人前になることじゃないき。

新しい段階へ踏み出すっちゅうことやか。

 

お前さんはウララのおかげで中央へ行くって目標を決めてから、まっこと真面目に取り組んでがいに(強く)なったぜよ。

 

おまんはこのワシや高知で学んだことを活かして、中央へ旅立つ時がきただけじゃ。

 

この老い先短いババァに夢を見せてくれてありがとうな。いつまでも見守っとるき。

早く中央で活躍してこのワシに冥土の土産をたくさんもたせてくれ。」

「一条トレーナー…」

 

頭を軽く撫でたあと、「元気でおやり!」と再度校庭へ向かわせた。

 

 

 

 

「ステップちゃん!もう大丈夫?」

「はいウララ先輩。()()()は片付きました。」

「よかった!」

 

ウララの天真爛漫な笑顔がステップを迎える。

 

「ではそろそろ急ぎましょう。」

「はい!よろしくお願いします奈瀬トレーナー!」

 

奈瀬トレーナーに促されてハイヤーに乗り込む。

そしてハイヤーの窓を開けて元気に手を振る。

 

「じゃあねみんな!行ってくる!」

 

校舎中から「頑張れー!」「応援行くよ!」「中央を洗濯してこい!」と激励の言葉が飛び交う。

 

「いいお友達に恵まれてますね。」

「はい!高知は私の自慢ちや!」

 

クリークの言葉に全力で肯定するステップ。

 

(新しいステップ(段階)…力を付けて、必ず活躍して見せる!)

 

 

 

こうしてハルウララの弟子であるハルカゼステップは、

南国土佐から中央レース界へと漕ぎ出していった。

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