芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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私に出来ること 三人称視点

1月中旬の盛岡レース場。

オフシーズンのため観客はおらず、しんと静まり返っている。

 

…のだが今日は様子が違った。

 

「カメラ回します5秒前、4、3…」

「…さあ始まりました『Go!Go!みちのく特別編』!

今日はここ盛岡レース場にお邪魔しておりまーす!」

 

地元テレビ局の取材クルーがカメラを回し、MCがパチパチと拍手する。

 

「そして今日は大勢の生徒さん達がもう輪になって詰めかけておりますw

こんにちはー!」

「「「こんにちはー!!!」」」

 

山間のレース場に生徒たちの元気な声がこだまする。

 

「いやーそれにしてもグレートホープさん!今日はありがとうございます。」

「いやいや。こちらこそ取材に来てくださりありがたいべさ。」

 

MCの隣に立っていたグレートホープ会長が少し笑って頭を下げる。

 

「オフシーズンはどうしてもレースの話題が中央や南関東に集中してしまうのでね。

少しでも今のうちに岩手シリーズを盛り上げて、3月のレースから是非テレビの前の皆さんに水沢や盛岡レース場に足を運んでもらいたいべ。」

グレートホープの言葉に何人かがうんうんと頷く。

 

岩手シリーズの振興と発展に注力しているグレートホープにとって、1月から3月のオフシーズンは注目度が下がる一因であり、悩みの種であった。

そこでテレビで紹介してもらうことで地元のファンへのアピールを行うと同時に、レースがなくてどうしても鬱屈な気分になりがちな生徒たちへの刺激となればと考えて、人気の朝番組のロケが実現した。

 

「そして今日は…案内役がビックな方とお聞きしているのですが?」

「ええ、早速紹介するべ。

 

我ら盛岡のスーパースター

レスキューホープです!」

 

大きな拍手と共に勝負服に身を包んだレスキューホープが現れる。

 

「レスキューホープさん本日はよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

「いや~それにしても今をときめく双璧世代の代表たるレスキューホープさんに案内頂けるとは。

あっ、その前に…昨年の東京大賞典優勝おめでとうございます!」

「ありがとうございます。応援してくださるファンの皆さんのおかげです。」

 

物腰柔らかに対応するホープにグレートホープや生徒たちが満足そうな顔をする。

 

一見手慣れた感じだが、

 

 

 

〈昨夜 レスキューホープ・ヴィノロッソ部屋〉

 

「―ヴィノロッソ先輩大丈夫ですかね?明日カメラの前で嚙んだりしたら…」

「心配しすぎだって。ある意味明日は君も主役みたいなもんなんだからどっしり構えていれば」

「MCの点心さんが急に吟じはじめたら…どう対応すれば…」

「とりあえず笑っとけばいいんじゃない?」

 

 

 

…昨夜は終始この状態である。

 

(だ、大丈夫かなぁ…)

 

それを知るヴィノロッソはハラハラしながら収録を見ていた。

 

「それでは早速盛岡名物ジャンボ焼き鳥を紹介したいと思います」

「おおあの噂の!これは吟じがいありそうですな~」

「あはは」

 

その後もロケは順調に進んでいった。

 

 

 

「今日は物凄く楽しかったです。レース場で一日中過ごせますね!」

「それは良かったです」

「ちなみにレスキューホープさんの次走はフェブラリーステークスでしたっけ。

カメラに意気込みをお願いできますか?」

「あっ、はい。

フェブラリーステークスで勝利して、かのメイセイオペラ先輩に続きたいと思っています。

応援よろしくお願いします!」

「いやぁ素晴らしい!

…あの、ダメもとで聞いてみたいんですが…

折角勝負服を着てらっしゃるので、ちょっと走る姿を見せて頂けるってのは…」

「えーっと…」

 

ホープがちらりと保科トレーナーの顔を見る。

 

「ちょっとぐらいなら問題ないべ。」

「ありがとうございます!」

 

そう言ってホープはダートコース

 

ではなくその内側の芝コースへ入っていった。

 

「おーいレスの字!芝はダメだべ!傷みやすいから!」

「いやいいんでないか?ここしばらく使ってないし雪も積もってないべさ。」

「スイフト、だけんじょ…」

「…いいじゃないですか。芝ダート両方走ってのホープなんですから。」

「ヴィノロッソまで…

…まあテレビクルーもいるし今回は特別だべ。」

 

最終的にグレートホープが折れる。

 

そしてホープは深呼吸すると、盛岡の洋芝の上を駆けて行った。

 

クルーだけでなく、生徒たちからも感嘆の声があがる。

 

「いやあ流石はレスの字だべさ。あれだけ走れるなら今年のフェブラリーステークスは決まりだべ。」

うんうんと満足そうに呟くグレートホープ。

 

その隣にいたヴィノロッソは

 

(…楽しそう…)

 

レスキューホープの走りを見て率直に思った。

 

東京大賞典や普段の練習では見たことがない笑顔で走っている。

だが、あの顔は一度だけ見たことがあった。

 

「…あ」

 

 

 

 

『ついに横一線並んだ!併せウマで上がっていく!

 

譲らない譲らない譲れない!

両者全く譲らない! 

 

無敗の2冠か!地方バ初の快挙か!

 

『中央の獅子』か!?

 

『地方の侍』か!?

 

どっちだぁぁ!!!』

 

 

 

ヴィノロッソの脳裏にふと何時ぞやの実況がよぎる。

 

 

そうだ、ダービーだ。

 

純粋に強さを求めて走っていたときのホープだ。

 

生まれて初めてホープがライバルに出会った、あの日本ダービーだ。

 

 

 

「いや~レスキューホープさんありがとうございます!」

 

MCの声でハッとヴィノロッソが我に返る。

 

すでにホープはコースから引き上げており、改めてMCの隣に並ぶ。

 

「芝であれだけ走れるとはさすがはホープさん。

やはり目指すは『打倒サクラアスラン!』ですか?」

 

その言葉にホープがビクッと動きを止める。

 

そして一瞬ホープがグレートホープを見たかと思うと、少し息を吐いてカメラへ顔を向く。

 

「…いえ。今は地方ウマ娘の代表として目の前のレースに集中したいので。」

「そうでしたか!本日は本当にありがとうございました!

 

では最後に…吟じます!」

 

あははとクルーや生徒たちから笑い声が溢れる。

 

その輪の中にヴィノロッソはいなかった。

 

 

 

 

 

 

…間違いない。

 

間違いない!

 

ホープは今、相当無理をしている。

 

会長への気遣いや、地元への思い、

 

それらすべてががんじがらめになって、ホープを縛っている!

 

ライバル(アスラン)と戦いたいという思いを必死にかみ殺している!

 

 

あんな姿見てられない。

 

才能があるのに戦えないホープの姿なんて、

 

中央から落ちこぼれた私には見てられない!

 

 

あるはずだ…

 

脇役の私でも、主役のために出来ることが、

 

私に出来ることが…

 

 

()()()出来ないことがあるはずだ!

 

 

 

 

 

 

 

『同室の後輩のために出来ること』

 

それを成すために、ヴィノロッソは財布と携帯だけを持って、

盛岡レース場の外へと飛び出していった。

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