(まずい…このままじゃまずい!)
正月の浮ついた空気が流石に薄れてきた1月末。
高知から中央に移籍してきたハルカゼステップは、学園内で爪を嚙んでいた。
「…知名度がないっ!」
高知3冠を成し遂げ、ダートG1で度々入着し、高名な奈瀬文乃トレーナーに見いだされて中央入り。
『ハルウララの弟子』というネームバリューを活かしてSNSを積極的に活用して今やフォロワーは万越え…
と、一見すると順風満帆そのものに見えるステップだが、
「やっほーカレンだよー!今日はカレンの練習ライブ配信に来てくれてありがとうー!」
SNS関係では雲の上の存在のカレンチャンに圧倒され、
「高知から?わだすも岩手シリーズ出身なんだべ!」
「おおっ!地方から裸一貫出てくるとは粋だねぇ!」
地方出身の著名な先輩方の知名度の前には歯もたたず、
「ああ、あのハルウララの、名前はえっと…」
「ウララ先輩の後輩の子って名前なんだっけ?」
「どうしようレスキューホープのイメージ強くて他の地方の子分かんない」
目下最大のライバルであるレスキューホープのインパクトが強すぎてさほど注目されず、
結果として、『地元では抜群の人気だが東京では…』という上京直後の若手芸人状態となっていた。
一応、レスキューホープとは
『地方所属か否か』
『主戦場が芝かダートか』
『積極的に中央G1に出ていたか地方G1メインか』
という点で棲み分けは出来ているが、
玄人ならともかくライトなファンからはさほど違いは分からないレベルであり、
早い話が、『#ホープに続け!』でやって来た地方勢の一人、という認識にとどまっていた。
(完全に地元の知名度におぼれてたかな…ウララ先輩の弟子として知名度上げてレースに勝つことが私の目的なのに。
なんとかしたいきぃ…)
そう考えながら三女神像の方へ歩いて行く。
(…ん?)
ふと前を見ると2人の生徒が歩いている。
「―じゃーアスランちゃんまた寮で!」
「うん、スチームも練習頑張って。」
丁度アスランとスチームが練習場へ向かっているところであり、スチームがリギルの部室へと向かっていった。
(…あれはサクラアスラン!トゥインクルシリーズでは知らない人はいない3冠ウマ娘!
これはチャンスぜよ!)
「…よし、俺もスピカの部室行くかー」
「失礼します、サクラアスラン選手!」
「はい?」
練習に向かおうと少し伸びをしたところへ、ピンクの髪のウマ娘がにこやかに声をかける。
「初めまして!ハルカゼステップっていいます。
アスラン選手の3冠レースを見てファンになりました!
サインいただいてもよろしいでしょうか」
「え?ああ、いいですよ。」
(ファンの子かな?見ない顔だけど…
いやまあ2000人いるマンモス校ならまだ知らない子がいてもおかしくないか…)
若干疑問を持ちながらも特段気にせずスラスラと差し出されたノートにサインを書く。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます!こんな凄い同期からサイン頂けるなんて嬉しいです!」
「え?同期なんですか?」
「はい、ダートダービーにも出たことがあります!」
「なるほどダート勢…!道理で見かけないはずだ。
あ、同期なんですからそんなかしこまらないでいいですよ。」
頭を下げたステップにアスランが穏やかな顔で話しかける。
(思った通り!よくインタビュー記事で同期の話を出しているからそこをアピールすればいけると思ったけど予想的中ぜよ!
この調子で最強の同期を味方にするねや!)
ステップがアスランにバレないようにペロッと口を舐めて顔を上げ、
ウララ譲りの天真爛漫な笑顔を見せる。
「いえ、アスラン選手は地方出身の私からしたら雲の上のようなウマ娘ですので」
「地方出身なんですか?」
「高知シリーズ出身です。レスキューホープさんみたいに岩手もいいですけど…高知も負けてませんよ!」
「おお!高知!ハルウララやグランシュヴァリエもいますからね!」
〈アスラン攻略法1 同期(双璧世代)を大事にしている〉
〈アスラン攻略法2 地方レースや出身者に興味がある(ライバルが岩手所属だから)〉
「ぐらん…はわかりませんけど、ウララ先輩は私の師匠で、尊敬する先輩です。」
「え!?ハルウララ…の、後輩…?物凄く興味深い…」
〈アスラン攻略法3 トレセン生の師弟関係に興味がある〉
「ハルウララ先輩と一緒に練習にレースにと頑張っていたところを奈瀬トレーナーさんにスカウトされまして」
「あ、あのゆたかさ…じゃなくて奈瀬トレーナーに!?それはすごい!」
〈アスラン攻略法4 (なぜか)奈瀬トレーナーに一目おいている〉
(よし、とどめは…!)
「ウララ先輩の意思を継いで、弟子として活躍することが私の夢なんです!
…なんですけど上京したばかりで頼れる人も少なくて…
もしアスラン選手さえよかったら頼りにしてもいいですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます!」(ちょろーい)
〈アスラン攻略法5 『夢』や『ロマン』に弱い〉
「これからは自分のことを頼りにしてもらっていいですからね。
同期として共にレースを盛り上げていきましょう!」
アスランが目をキラッキラさせながらステップの手をとる。
「はい!
あ、写真一緒にいいですか?SNSで地元のみんなに自慢したくて」
「どーぞどーぞ、ついでに連絡先も交換しましょう。」
そして目論見通りに事が進んだステップと、思わぬ出会いに感動したアスランの2人は、お互い上機嫌で別れていった。
(…いやーあんな子がいるとは。架空世代なんでもありか。
母ハルウララとして父誰だろうな。
キングか…なんならライスか…
はたまた実際に話があったとかいうディープ…)
そんなことを考えながらアスランがスピカの部室に入る。
「お疲れ様でーす。」
「おうアスラン。お客さんが来てるぞ。」
「お客さん?」
沖野トレーナーの示す先を見ると、スーツを着た男性が3人ほど立っていた。
「えっと、こちらは…?」
「初めましてサクラアスラン選手。
私Aテレビの者でございます。」
「これはご丁寧に。
テレビというと…」
「はい、実はですね―」
…
「―トーク番組への出演依頼ですか。」
「はい。こんどゴールデンスペシャルで『レース大好き芸人』を放送予定でして、スペシャルゲストとして3冠ウマ娘のアスラン選手に是非にと。」
「なるほど…」
「近くにレースも控えてないしお前の意思次第だが…どうだ?」
「そうですね、自分でよければ喜んで。」
「おお、ありがとうございます!」
トレーナーも肯定的だったため、2つ返事で受け入れた。
スピカのメンバー達もうんうんと頷く。
「ではアスラン選手。具体的な出演契約のお話と、収録で使用するアンケートにお答え頂きたいので会議室にお越し頂けますでしょうか。」
「分かりました。トレーナーは…」
「ああ、俺もついていくよ。
…じゃお前ら、
「「「はーい」」」
そういってアスランとトレーナー、テレビ局のスタッフは部室を後にした。
「…行ったか?」
「うん。校舎に入っていったよ」
「よし、じゃあ
テイオーが確認すると、ゴルシが音頭をとり裏返しにしていたホワイトボードをもとに戻す。
「…じゃー収録当日の流れをもう一度確認するぞ。
MCが合図を出したら…」
「私たちがスタジオに入るんでしょ」
「作戦決行後の流れはテイオー?」
「うん、後はシリウスがなんとかするって」
「…よーし。」
全員があくどい笑みを浮かべる。
「よーしみんな!」
と、テイオーが机の上に立ってみんなを見渡す。
「アスランの『ビックリドッキリ大作戦!』
絶対成功させようね!」
「「「おー!!!」」」
「…あのー」
「「「うわぁぁぁ!!!???」」」
急にドアから声がしたので全員ひっくり返るような騒ぎとなる。
「な、なんだ、たづなさんか…」
「アスランかと思った…」
「ど、どうしたんですかたづなさん」
「い、いえ…驚かせるつもりはなかったのですが…
ああ、本題ですね、
スペシャルウィークさんにお客さんです。」
「え?私に?」