羽田から飛行機で約10時間。
どこぞの国民的俳優と同じ騙されっぷりをお茶の間に晒し、半強制的に飛行機に乗せられて着いた場所は、
「…あ、暑い…」
冬とは思えない強烈な日差しと気温
雲はないが砂塵で黄色く見える空
そしてどこまでも続く砂丘と、超高層ビルが建ち並ぶ砂漠の港湾都市
アラブ首長国連邦 ドバイ
中東随一の大都市に、アスランは降り立った。
「どうだアスラン、ゆっくりできたか」
「…まあ、それなりには…」
シリウスがハッと満足そうに笑う。
因みに飛行機の座席はどういうわけかまさかのファーストだった。
前世ではプレエコが関の山だったのに…
フルキャリアの座席とサービスに感動して騙しの呆れやら疲れやら吹っ飛んじまった。
「さて、もう
シリウスがキョロキョロと見渡していると、「もう着いてましたか」と声が聞こえた。
「すみません、お迎えが遅れまして。」
「み、南坂トレーナー!?」
「悪いなカノープスのトレーナー。飛行機が早着しちまってな。」
声の主はチームカノープスの南坂トレーナーだった。
この人がここにいるということは…
「あっ!アスラン発見ジャン!」
「…お疲れアスラン。あと明けましておめでとう。」
「その声はレッドとガーランド!久ぶ―」
カノープスに所属する同期のレッドビーチボーイとエイトガーランドの声がしたので振り返る。
「アスランお腹すいてないか?レッドがなんでも奢ってやるジャン。」
「…いやその前にヒジャブかアバヤ買わないと。何なら私が買ってあげるよ?」
「……誰?」
ヒジャブをしていてもわかるぐらい着飾ったレッドとガーランドに思わず突っ込む。
「誰とは失礼ジャン!?」
「アスランも着飾りなよ、楽しいから。」
「何さその典型的な成金みたいな恰好は」
「よくぞ聞いてくれましたジャン!」
レッドがビシッと指を立てる。
「この度レッドは…サウジカップ(G1)に出て優勝したジャン!!」
「おお!おめでとう!」
「そしてこのサウジカップは世界最高の賞金が貰えるジャン!
レッドは一夜にして大金持ちジャーン!」
明らかに有頂天という言葉が当てはまるレッドの様子に嫌な予感がする。
「そんで
お土産もたくさん買ったし満足ジャン!
中東って怖いイメージだったけどめちゃくちゃ良いとこジャン!!!」
「…もしかしてそれ全部、お店の人の
「うん!」
元気な返事にアスランと南坂トレーナーが頭を抱える。
値切り文化の中東で相手の言い値でホイホイ買ってたらそりゃ向こうからすれば良い
「…ちょっとガーランド」
たまらずガーランドにこそっと耳打ちする。
「どうしてレッドをあんな状態にするまで放置したのさ。
同じチームの君が止めてあげないと」
「…アスランさ」
「ん?」
「…私も…サウジアラビアでネオムターフカップ(G2)に出走して優勝したのね」
「う、うん。おめでとう?」
「そんで優勝賞金が200万ドル…日本円で3億円ぐらいなんだってね」
「が、ガーランドさん?」
「…すごいよね…同じG2の神戸新聞杯が5400万円だったのに海を渡ったら数倍のお金がポンって…
…私卒業したら中東に住もうかな…」
(アカン、ガーランドの目が『$』になってる)
比較的まとも枠だったガーランドまでこんな…
オイルマネー恐るべし…
「…話戻していいか?」
シリウスが軽く咳払いをして話を切り上げさせる。
そうだった、
中東までコントしに来たわけじゃねぇんだわ。
「さてアスラン、今回の海外遠征だが…実はテイオーからの提案だ」
「テイオーさんが?」
数週間前
トレセン学園 屋上
「―と、いうわけでシリウス!協力して!」
「断る」
「即答!?」
カフェテリアにてアスラン達が海外レースの話をしているのを知ったテイオーは、屋上で昼寝中のシリウスを叩き起こした。
「折角のシエスタを邪魔しやがって…大体なんでアタシなんだ。」
「だってシリウスは去年末まで直属の後輩の面倒を見てたんでしょ?
んでその後輩の子はトゥインクルシリーズから引退したんだから、
今度はアスランに手を貸すのが筋でしょ?」
「無理筋にもほどがあるぞ」
悪態をついて再度横になるも、
(…まあアスランを煽ったのは事実だしな…)
と思い直し上体を起こす。
「それに…」
「ん?」
「…ボクは分かったんだ。シリウスがアスランに言った『足りないもの』の正体。」
「ほう?」
テイオーが至って真剣な表情でシリウスに話を続ける。
「でも、ボクがアスランに口で伝えても意味がない。
頭では理解できるかもしれないけど、
ただ、ジャパンカップの後「ボクを頼って」と言った手前、ボクの方から引き離すのはあまりよくない。
だから…」
「なるほど、大体読めたぞ。
んで海外レースの経験が豊富なアタシに頭を下げにきた、か。」
コクリとテイオーが頷く。
「ボクはアスランの先輩で、ボクの夢をつないで叶えてくれた。
そんな後輩が壁にぶつかっているというのなら、ボクだけのうのうとしているわけにはいかない。」
「へえ…」
テイオーのしっかりとした受け答えにシリウスが興味を見せる。
そして体をテイオーの方に向き、鋭い目でテイオーを見る。
「なら聞かせてみろ。
お前が思うアスランの『足りないもの』を。
満足のいく答えだったなら協力してやる。」
「分かった。
アスランに足りないものは―」
…
「―ってのか話の流れだ。」
シリウスはテイオーの答えのところだけを隠してアスランに伝えた。
「そんなやり取りが…
テイオーさんには頭が上がらないです。」
騙された大賞入り確実な収録のことはすっかり忘れ、テイオーの自分を思いやる配慮に胸が熱くなる。
「そんでここからが本題だが…
お前にはここドバイで行われるG1レース
『ドバイターフ』に出てもらう。」
「ドバイターフ…!?」
G1 ドバイターフ
メイダンレース場にて開催される芝の1800m戦。
現地ドバイ勢をはじめ、欧州や日本からマイル~中距離の猛者が集結する、国際的な評価も高いレースである。
日本勢ではヴィブロスやアーモンドアイ、パンサラッサが勝ち星を上げている。
…ただ正直な気持ちとしては…
(…シーマじゃないのか…)
シーマとは『ドバイシーマクラシック』のこと。
ターフ同様芝のG1レースで、ドバイターフの次に行われる。
こちらは王道の2400m戦で、日米欧の中距離自慢達が鎬を削る。
日本勢ではジェンティルドンナやシャフリヤール、イクイノックスが勝ち星を上げている。
同日に行われる1800mと2400m。
中・長距離路線の自分にとってどちらが走りやすいかと聞かれたら後者である。
(東スポ杯以来の1800m戦か…調整と対策は万全にしないと。)
そう心の中で決意を新たにしていると、南坂トレーナーが前にでる。
「そしてアスランさんの今後の予定ですが…手続きや管理の観点から、しばらくの間カノープスの一員となってもらいます。」
「カノープスへ?」
「はい。日本と異なり海外では練習場所の確保も大変で、各個人がバラバラに行動すると効率が悪くなります。
安全確保の点からも、ある程度まとまった人数で動く方がいいのです。
もちろん、受け入れるにあたってスピカの沖野さんとの連絡は密に行いますので安心してください。」
「分かりました。しばらくお世話になります。」
深々と頭を下げると南坂トレーナーも頭を下げる。
「なお、今度のドバイのレースにはウチの2人も出走します。
レッドさんがドバイワールドカップ(G1)で、ガーランドさんが―」
南坂トレーナーが言い終わらない内に、ガーランドがアスランに歩み寄る。
「…私も、ドバイターフに出る予定だよ。
…よろしく!」
「おう!」
ガシッと互いに握手を交わす。
「そんじゃ、とりあえずホテルへ移動だな。」
「ええ、それではアスランさん行きますよ。」
「はい!」
シリウスと南坂トレーナーに連れられてバスへと移動する。
こうして砂漠の国の大遠征が始まった。
南坂「お二人とも随分と買い込んでますが…学園に在学中はレース賞金引き出せないのは分かってますよね?」(卒業時に振り込み)
アスラン「あと海外レースの賞金って日本と違って振り込みが遅いから…当然税金である程度持っていかれるし…」
シリウス「お前ら帰国時のことも考えているんだろうな。どうするんだこのアクセサリー類とお土産で買ったとか言う大量のラクダ肉ジャーキーは。税関で引っかかるぞ。」
レッド・ガーランド「「…そんなっ!?」」