芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

122 / 126
1番 7番人気 Alto-Scutum(FRA)
2番 11番人気 Always-Courageous(USA)
3番 5番人気 Battil-Dhow(ARE)
4番 4番人気 Boni-Optimus(FRA)
5番 13番人気 Camelopardalis(ITA)
6番 10番人気 Cuneiform(IRE)
7番 2番人気 Eight-Garand(JPN)
8番 16番人気 El-Capitan(ESP)
9番 8番人気 Jinn(ARE)
10番 12番人気 Mugunghwa-Ace(KOR)
11番 15番人気 Privateer(GBR)
12番 3番人気 Sakura-Aslan(JPN)
13番 14番人気 Salamander(DEU)
14番 6番人気 Semper-Paratus(USA)
15番 1番人気 Shadow-Serpens(ARE)
16番 9番人気 Who-Dares-Wins(USA)




ドバイターフ メイダン 芝 1800m 前編

3月19日

メイダンレース場

 

ドバイターフ当日

 

ドバイターフは6つのG1競走を含む9つの重賞競走が同日に行われる『ドバイワールドカップデー』を構成するG1レースである。

 

イスラム教の戒律で賭博が禁止されている他、そもそも前世以上にレースのエンターテインメント性が押し出されているのもあり、サッカーの国際試合のような熱気が会場に漂っている。

会場に併設されたホテルのバルコニーからもレースが観戦できるため、ヨーロッパ系やアラブ系のお金持ちたちがアラビックコーヒー片手に優雅にレースに酔いしれる。

 

大衆文化と化した日本のレース文化とは少し異なるアラブのレース文化。

 

異国ならではの空気に戸惑いつつ、新鮮味を感じていた。

 

(南坂トレーナーとの夜型トレーニングの甲斐あって違和感は少ない。

あとは実際に走ってみて…ってところか)

 

少し息を吐いてからパドックに出る。

 

 

『12番 3番人気サクラアスラン 日本 ゲート番号1』

『日本の3冠ウマ娘ですね。今回のレースが海外初挑戦とのこと。

負けが続いていますが鋭い末脚に定評があります。』

 

海外でも3冠の名声が届いているのか、驚きが混じった歓声が上がる。

観客の多くは外国人だが、ところどころ日の丸を持った日本人の姿が見える。

 

(…あ、あの人俺のぱかぷち持ってる。イェニチェリの方かな?)

イェニチェリと思しき人に軽く手を振ってから引き上げた。

 

 

引き上げた先ではエイトガーランドがプルプル震えている。

 

「ちょっと、大丈夫かガーランド。緊張しているのか?」

「……ついに」

「ん?」

「…ついに…人気でアスランを上回った…!」←2番人気

 

気合いのこもったガッツポーズをするガーランド。

 

どうやら現地の方々は隣国サウジアラビアで行われたネオムターフカップでの勝利を重視したようだ。

 

(まあ一足先に海外レースを経験している分、アドバンテージは向こうに分があるし…)

 

若干心の中で強がっていると

「お久しぶりです、アスラン。」

と、声を掛けられる。

 

「…ムグンファ!?

久しいな、いつぶりか…!」

 

かつてホープフルステークスにて鎬を削りあった韓国の優駿

ムグンファエースの姿があった。

 

互いに固い握手を交わす。

 

「あなたの名声は海を越えて我が国(ウリナラ)にも響き渡っています。

改めて3冠達成おめでとうございます。」

「なんの。そっちこそ噂は聞いてますよ。

コリアンダービーを制した後諸外国を渡り歩いているとか。」

「ええ、アメリカやオーストラリア。南アフリカとかに遠征しに行きました。」

「へぇ南ア!珍しい。

是非後で詳しい話を―」

 

楽しく談笑していると、自分の背後に人の気配がしたので振り返る。

 

「…」

「…あの、なにか…?」

 

背後に立ったウマ娘は、ヒジャブの中でも特に露出が少ない『ブルカ』を着用していた。

顔全体を覆っている(目元のみ網状)ため表情が読み取れない。

 

…確か15番のシャドウセルペンス(Shadow-Serpens)さんですよね。本日はよろしく―

―不快なり。

「は?」

 

開口一番敵意剝き出しの言葉が出てくる。

 

アスラン(Aslan)とはかのセルジューク朝の王族が使用した高貴な名。

異教徒の平民如きが軽々しく使う名ではない。

「は、はあ」

レースが終わったら己の無知蒙昧ぶりを恥じ、アッラーに懺悔するといい。

 

そう言い残して立ち去っていった。

 

「…なんだあいつ」

「…まあ海外は基本アウェーだから…気にしない方がいいよアスラン。」

 

ガーランドは片手をひらひらさせて返しウマへと向かった。

 

「…」

 

そして一連の光景を終始苦々しい顔で見ていたムグンファは、

そっと近寄って「アスラン」と耳打ちする。

 

「…奴には気を付けた方がいい。

私は…香港でやられた。」

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドバイワールドカップデーも終盤に差し掛かり、盛り上がりをみせております。

続いてのレースは芝の1800m戦。

G1ドバイターフが行われます。』

『注目は昨年のドバイダービー(G2)を制し、さらには仏国ジャック・ル・マロワ賞(G1)を勝利した15番シャドウセルペンス。

次いで先日のネオムターフカップを制した7番エイトガーランド。

日本のクラシック3冠を達成した12番サクラアスランと日本勢が続きます。』

 

煌々と照らすライトがダートと芝をきらめかせる。

起伏が全くないレース場のため、これから走るコースが遠くまで見渡せる。

 

(日本からもイェニチェリ達が見に来てくれているんだ。

恥ずかしいところを見せるわけには、いかない!)

 

 

『ゲート入り…完了!

スタートしました!』

 

バシャコンという金属音と共にゲートが開く。

 

『好スタートを切ったのは外側1番アルトスクトム(Alto-Scutum)、3番バティルドロー(Battil-Dhow)、10番ムグンファエース追走。

やや出遅れて11番プライべーティア(Privateer)、中段に12番サクラアスラン、7番エイトガーランド。

後方からは15番シャドウセルペンス、4番ボニオプティマス(Boni-Optimus)、16番フ―ダーズウィンズ(Who-Dares-Wins)

やや縦長かつ横に広い展開となっております。』

 

ドバイのウマ番はゲート番号と必ずしも一致しない。

そのため自分は12番だがゲート番号は1番と最内。

 

(府中なら早めに抜け出て先行できるけど…外側勢が早いか。)

 

ドバイ1800mの特徴は800m近い向こう正面の直線。

千直同様荒れの少ない外側の方が加速しやすく、直線が長いのでしっかりスピードを乗せたまま内に寄って来る。

 

しかもコーナーにはバンクがついているため、なおのこと外側が有利となる。

 

(…コーナー抜けた先で外出れるかなこれ…

領域のこともあるしあんま内行きたくないな…)

 

外に出たい理由はもうひとつ。

 

「…」

(…後ろからのプレッシャーが半端ない!)

 

毒蛇が獲物をジッと見つめるように、

シャドウセルペンスのプレッシャーがアスランをじわじわ苦しめていく。

 

 

 

 

 

 

『さあ先頭800m切って3コーナーから4コーナーへ。

各ウマ娘の動きが激しくなっていきます。』

 

位置取りを調整して外に出るタイミングを見計らっていたところへ

 

『後方動きがありました!15番シャドウセルペンスがスルスルとバ群を抜けて外側へ!

これはロングスパートの体勢かっ!』

 

僅かな隙間を、まるでヘビが獲物を目掛けていくように、

シャドウセルペンスが内ラチ側から中間へと抜け出した。

 

(あの視界であんな芸当ができるのか…!

ただの高飛車じゃないってことだな。)

 

相手の走りを素直に感嘆しつつ、自身も気持ちが高揚してくるのが分かる。

 

 

―この感覚だ

 

これなら『領域』を出せる!

 

『4コーナー抜けて400mの最終直線へ!

先頭10番ムグンファエースと6番キュニフォーム(Cuneiform)の追い比べ!

外からシャドウセルペンスも伸びてくる!』

 

 

4コーナーが終わるタイミングで外に出ようとしたその瞬間、

 

「…させるかぁぁ!」

「!?」

 

後方に控えていたエイトガーランドが一気に右斜め前につけ、進路を完全にふさぐ。

スパートをかけようとした瞬間だったため、すぐ目の前にいるバティルドローとの間隔が急激に狭まってしまったため、思わず最内に進路をとる。

 

(こ、これは…)

 

『後方集団も怒涛の追い上げにかかる!11番プライべーティアと7番エイトガーランド、さらには5番カメロパルダリス(Camelopardalis)が外から上がった!

3番バティルドローと最内12番サクラアスランは伸びが苦しい!進路が開かないか!』

 

 

(これは…この状況はまずい!)

 




アドマイヤベガ「ちなみにセルペンスはラテン語で『ヘビ座』の意味よ。」
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