大変長らくお待たせいたしました。
『3番バティルドローと最内12番サクラアスランは伸びが苦しい!進路が開かないか!』
スパートをかけるタイミングで進路を塞がれ、急遽内側に入ってしまったため進路が見つけられない。
さらに後方集団が上がってきたため、バ群が固まり壁の様相をみせる。
―ほぼほぼ『詰み』の状況である。
冷たい砂漠の風が、体中の冷汗を撫でまわしていく。
(くっそっ…!)
ギリと歯ぎしりをして再度回りを見渡すが状況は変わらない。
(真横のバティルドローは失速してるからそのポジションを奪えるのはいいとして…
先頭内側のムグンファとキュニフォームの間…はバティルの隣のセルペンスが狙ってやがるし…
ムグンファと内ラチの間…はダメだ開かない。
いっそジェンティルドンナのように横っ飛びして外側へ…はバ群が団子だから出来ない!
あああ展開が早いから落ち着いて考えらんねぇ!?)
マイル戦特有の展開の早さに頭が混乱する。
練習していたとは言え今まで2400mや3000mに慣れていたところへ急に1800mへと短縮されたのだ。
適応するのは容易ではない。
「…」
…一応、このままの状態でゴールを迎えた場合、
1着はムグンファかキュニフォーム。
3着にセルペンス。
バティルはかわせるからおそらく自分は4着で、
5着に彼女か、ガーランドといったところか。
初めての海外遠征で掲示板入りなら、健闘したと言っていいだろう。
これが『
(…けれども…違う)
今回の遠征は、テイオーが提案し、シリウスが計画したもの。
シリウスから言われた『足りないもの』を見つけるための、言わば課題解決のための荒療治。
サクラアスランというウマ娘の、『成長』を促す遠征だ。
この場合求められていることは、健闘でも、無難な結果でもない。
果敢に挑戦したかどうか。
課題解決のために、何をして、何を学んだか。
それを自分は求められている。
ここまで至れり尽くせりな環境に置かれていて、
「なにもつかめませんでした」は不誠実が過ぎる。
(―やるしかない)
一か八かの賭けに出る覚悟を固めた。
『さあ先頭はムグンファエースとキュニフォームのたたき合い!
200を切った!200を切った!
シャドウセルペンスとエイトガーランドも前を狙う!』
ムグンファとキュニフォームはすでに加速しきった上でのたたき合いであり、根性のみで足を動かす。
大外からガーランドが上がるも、心身ともに有利であったのは、
(その程度の隙間、私にとっては造作もない!)
冷静に状況を分析し、足を溜めていたシャドウセルペンスであった。
ムグンファとキュニフォームの間の、僅か1人入れるかどうかの隙間目掛けてスパートをかけた瞬間。
『シャドウセルペンスが再度加速した!最内サクラアスランもバティルドローを交わして前を懸命に狙う!3着争いも激戦!』
アスランもその隙間目掛けて再加速する。
(あの獅子を名乗る僭称者、まだ足色を残していたか。
…だが!)
一瞬セルペンスが驚いた表情をみせるも、優位なポジショニングをしていたセルペンスが先に抜け出す。
ムグンファも行かせてなるものかと斜行にならない範囲で外に寄るも、先にセルペンスが差し切る。
(ふん、他愛もない。香港でもフランスでも私のブルカを見て怪訝な顔されたが…勝ってしまえば皆黙る。)
セルペンスの口角が上がる。
敬虔なイスラム教徒でありアラブ貴族の娘でもあるセルペンスにとって、自らの格好は誇りであり、この格好で勝つことこそ至上の喜びであった。
(偉大なるアッラーよ、我が走り照覧あ…れ…!?)
セルペンスが後方を確認しようと振り返った。
だが、その目線は真横でピタリととまり、目を見開いた。
(―なぜだ
進路はふさいだはずだ
なぜだ、
なぜ
貴様がそこにいる!?)
『アスランだ!日本の獅子が最内から上がったぁ!!!』
差し切ったはずのアスランが横にいて、しかも差し返してくる。
セルペンスの全身から冷汗が噴き出る。
(ばかなばかなばかなありえん!?
何をどうやったらそうなる!?
幻覚でもみているのか!?)
狼狽するセルペンスを横目にアスランはさらに加速する。
ステップを踏むかのような軽やかかつ、豪快な走り。
その走りはまるで
「―
『シャドウセルペンス届かない!アスランだ!
サクラアスラン差し切ったっ!!!』