イン突き。
文字通り内ラチ沿いのインを突く走りである。
最短距離でゴールを目指せる反面、前を走る選手が障害となり所謂『壁』の状態に陥りやすい。
ハイリスクハイリターンな戦法として定着している。
一口にイン突きといってもその内容は様々だ。
ずっと内ラチに陣取って経済コースを抜けていく方法や、
空くと踏んで末脚使って僅かな隙間に突っ込む方法、
そしてもうひとつが
インを『空けさせる』方法である。
200m時点で各ウマ娘の位置は
内←
先頭 ムグンファエース・キュニフォーム
2馬身差
中段 サクラアスラン・シャドウセルペンス
と、アスランは内側に押し込められている。
この段階でまずセルペンスが先頭2人を交わそうとムグンファとキュニフォームの間に突っ込もうとスパートする。
そこへアスランまで間隙を突こうとする。
この場合、重要なのは間隙を突けるかどうかではなく、
選手の意識の方向である。
元々熾烈なたたき合いをしていたところに第三者が割って入ろうとする。
両者の意識は内側に向き、3人の併せウマ状態となる。
併走は馬にとって最も闘争本能をかきたてるものであり、ウマ娘も同じである。
先頭2人が閉まっていく扉だとすれば、セルペンスはそこめがけて駆け込む朝ラッシュの通勤客といったところか。
アスランとセルペンスを行かせまいと外にプレッシャーをかけるムグンファと、
アスランより早く間隙を突くことに集中したセルペンス。
両者の意識は外側へ向く。
その結果、
内ラチ側が僅かに空く。
(空いたっ!)
後は即座に舵を切り、ゴールをがむしゃらに目指す。
かつて名手と名馬がみせた『競馬版キツツキ戦法』とでも言うべきイン突き。
アスランはそれをやってのけた。
…
(な、なんとかなった…)
ゆっくり呼吸を整えながらスピードを落とす。
雲一つない砂漠の夜空に、満月が輝く。
一つでも条件がかみ合わなければ、失速して掲示板外に飛んでいた。
正に薄氷の勝利だった。
…とは言えやはり内容はあまり褒められたものではない。
外へ行くべきところでガーランドに阻まれ、
最終的に博打みたいな作戦に掛けるほかなかった。
はたから見ればガチャついた走りであっただろう。
『領域』を使ってしっかり勝ち切る理想の走りからはかけ離れてしまった。
「…領域?」
ふと足を止めて夜空を見上げる。
(…もしかしてシリウスが伝えたかったことって…)
シリウスがいるスタンドへ振り返ろうとしたところへ、「アスラン」と声を掛けられる。
「見事な走りでした。ホープフルからまたさらに凄みが増してますね。」
「あ、ああ、ムグンファか、ありがとう。」
互いに固い握手を交わす。
「インは抑えたつもりでしたが…やはり無敗の3冠ウマ娘の名に偽りなしといったところでしょうか。」
「いやいや、こっちだって一時はどうなるものかとひやひやしっぱなしで…」
桜と木槿が健闘をたたえ合っているなか、
少し離れたところでガーランドがうなだれていた。
(…完璧にアスランを抑えたと思ったのに…)
眉間にしわがより、苦々しい表情を浮かべる。
アスランの外差しは領域があろうとなかろうと非常に強力である。
4コーナーでそれを阻止し、後は自分のレースに専念するつもりであった。
しかし結果はアスランのイン突き。
ガーランドの目論見通りとはならなかった。
(…もう選抜レースみたいな作戦は通用しないってことか…)
似た状況に追い込んで勝った選抜レースの頃とは違う。
ガーランドはそれを痛感した。
(…サウジで大金貰って浮かれてる場合じゃなかったな。)
ガーランドが自分の膝を叩いて鼓舞する。
(…こっちも改めて鍛えなおしだ。
あのアスランに、無敗の3冠ウマ娘に初めて勝ったのは私なんだ。
…もう一度。
もう一度、あの傑物に勝つために―)
決意を新たに顔をパッと上げると、
「―アスラン後ろ!」
ガーランドの叫び声が響いた。
「「?」」
アスランとムグンファがそれに気づいて後ろを振り向く。
「…」
そこにはシャドウセルペンスがいつの間にか音もなく後ろに立っていた。
ブルカの奥の表情は読み取れない。
「うおぁ!?」
「なんだ貴様!?負けた腹いせか!友に手を出すつもりなら許さない!」
アスランがのけぞり、ムグンファがとっさにテコンドーの構えをとる。
「…惚れた」
「「はい?」」
「…惚れました!なんと力強いロック鳥のような走りか!」
「え、えっと…ありがとうございます?」
ブルカの奥からでもわかるぐらい目をキラキラさせてアスランの両手を握る。
ムグンファは口を開けてぽかんとする。
「幻覚でも見ているかの様な素晴らしい走り!極東ではしばしば内ラチ沿いをワープするウマ娘がいると聞くが…まさかこの目で見られるとは。
おお偉大なるアッラーよ。異教の教えを信じる彼女にも、その慈悲深き
…ついちょっと前まで俺のことを『平民』だの『異教徒』だの『僭称者』だの言ってた奴の姿か?
五体投地したかと思うと、再度熱を帯びた手でアスランの手を握る。
「私を初めて負かしたのはあなたです。
是非いつの日かリベンジを。」
「そういうことなら喜んで。再戦の日を楽しみにしています。」
新たなライバルができたことを自覚し、こちらも笑みを浮かべて握り返す。
「ところでアスラン
ずずいと情熱以上の熱でもってこちらに迫ってくるセルペンスの様子にだんだん危機感を持ち始める。
ちらりとガーランドに目線で助けを求める。
(…なんかめんどくさそうだから他人のふりしよう…)
(あいつ見捨てやがった!?)
『君子危うきに近寄らず』
流石は策士を目指すガーランドである(?)
「む、ムグンファ…」
次いで情けない声でムグンファに声をかける。
「こういうときに使う日本語って
『後は若い者同士で』って言葉だっけ?」
「どこで覚えたその日本語!?」
ムグンファも後ずさりしながら距離をとる。
「さあさアスラン様!」
「ピェッ!?」
もはや気分はメデゥーサに睨まれたカエルである。
「砂漠の夜は長ごうございます。私のお屋敷にてかの千夜一夜物語のように語り明かそうではありませんか!」
「待ってください待ってください落ち着いて。第一ムスリムは同性愛禁止でしょうが。健全な友情?そんなご無体n
きゃーーーーーーー!?!?!?」
こうしてドバイにブルジュ・ハリファより高いキマシタワーが出来たとか出来なかったとか。
目標達成!
4月前半までにG1を1勝する
次の目標
宝塚記念で3着以内
参考レース
1977年 皐月賞 ハードバージ(福永洋一騎手)
2019年 ジャパンカップ スワーヴリチャード(オイシン・マーフィー騎手)
など