必死のリハビリから2ヶ月。
ようやく退院することができ、頭の包帯もとれた。
髪色は少し黒味が入った茶髪…というか所謂黒鹿毛。
髪を左側に束ねたサイドテールに、テイオーやルドルフみたいな白い流線型の前髪がたれている。
そして右耳に葉桜をかたどった銀色の耳飾りが付いている。
ちなみに髪を片方に束ねるサイドテールになっているのは反対の右側に大きな傷を負ったからであり、本来人間の耳があるところから右眉毛の上まで大きな傷跡が残っている。
傷を縫う為に髪の毛が邪魔になるため一時的に剃っているのだ。
数ヶ月もすれば傷を隠すように髪が生えてくるだろう。
まあ眉毛の上は隠しようがないからあれだが。
足の具合は松葉杖で歩けるまでには回復した。
順調なら遅くとも年末までには普通に歩けるようになる…が、全力で走れるかはウマ娘専門の理学療法士さんと相談しながらとなる。
なんにせよ東京に行く条件はそろったので、両親同伴のもと府中のトレセン学園へ向かう事になった。
府中のどこにあんな広大な学園を置く場所があるんだと思っていたが、普通に東京レース場の隣にあった。
確かここ厩舎があったエリアだったよなぁ…
東京競馬場正門を彷彿とさせるシックなデザインの門に西洋チックな校舎。
そして目の前に広がる本格的な模擬レース場。
アニメやアプリで見た景色がそこにあり、改めてここが現実世界ではない、別世界なのだと実感した。
今日は秋の感謝祭、つまり学園祭の開催日であり、各模擬店がところ狭しと並び、各エリアでは催しものも行われている。
ステージで行なわれる『トウカイテイオーミニライブ』もその一つだ。
ミニライブと銘打っているが実質『引退会見』だ。
ステージに向かう客もそれを感じているらしく、「やっぱやめるのかな…」「最後の晴れ姿を目に焼き付けよう」と言った声が聞こえる。
もし俺も史実を知らなければそう考えてもおかしくないだろう。
と、あの後ろ姿はキタサンブラックとサトノダイヤモンドか。
心なしかずいぶん落ち込んでいるように見える。
しかしキタサンの手には一生懸命作ったあのお守りが握られている。
彼女は俺と同じ気持ちだ。
ライブ開始時間となり、テイオーが上手側からゆっくり登場し、大きな歓声があがる。
そしてテイオーの口から語られる『辞める理由』
史実を知っているとはいえ正直聞いていてつらい。
「テイオーさん!私、待ってます!」
堰を切ったように涙を流しながら叫ぶキタサン。
「エゴでもいい!わがままでもいい!もう一度走ってくれ!」
はちまきを巻きながら熱い本音を口にする沖野トレーナー。
そして口々にあがる復活を望むファン達の声。
そうだ。
ここで終わるような逸材じゃない。
世代ではないが、ウマ娘から実馬を知り、こんなドラマチックな名馬がいたのかと心震えた衝撃は今も覚えている。
「しっかりしろ!あんたは‘トウカイテイオー’だろっ!!!」
気付いたら声を出していた。
思ったよりも大きな声が出たためか、テイオーがこちらを向き、目線が合う。
そのとき
不思議な感覚が俺を襲った。
うまく言葉に出来ないが、テイオーから
もしかして:相思相愛?
いやまて厄介ヲタぶりを見せるんじゃない。
ウマ娘世界における『運命的ななにか』は『何らかの血縁関係がある』と同義だ。
マルゼンスキーとサクラチヨノオー・スペシャルウィークやサクラバクシンオーとキタサンブラック、そしてメジロマックイーンとゴールドシップが有名どころか。
てことはつまり、
俺…『サクラアスラン』と『トウカイテイオー』は
でもテイオーの産駒に『サクラ』の冠名がつく競走馬はいただろうか…?
確かだいたい『トウカイ』の冠名だったと思うが…
この点が気になってしまいその後のライブはあまり覚えていない。
ずっと考えごとをしていたためか親からも心配されてしまった。
「アスラン大丈夫かい?あれだけ楽しみにしていたのにずっと難しい顔して」
「やっぱりまだ調子が…」
「大丈夫だよ。ちょっと考えごとをしてただけ。」
そう言い繕い、出口に向かって歩き始めると。
「すまない。少しいいだろうか」
と、声を掛けられた。
そうだ…
サクラアスランがテイオーと血縁関係にあるということは、
自動的にこのお方とも血縁関係があるということだ。
「すみません親御さん。少しこの子とお話をしてもいいでしょうか」
トレセン学園生徒会長
‘皇帝’シンボリルドルフがそこにいた。