…はず
シリウスの説教が終わったあと、急いでガーランドの元へ向かう。
幸いまだレース場にいたので呼び止め、頭を下げる。
本人からは「特に気にしていない」と言われた。
改めて謝罪し、再戦を誓い握手を交わす。
こっちはなんとかなった。
後はテイオーだ…なんと言って謝れば…
今日の選抜レースの全プログラムが終わり、自然解散となる。
あちらこちらでトレーナーによるスカウトや生徒によるアピールが行われていた。
っと、よく見たらガーランドがカノープスの南坂トレーナーと話している。
カノープスに入ったら強敵になりそうだ…
てか寡黙で真面目なガーランドが
俺はレース場を後にし、スピカの部室へ向かう。
解散したら部室に来るよう言われているためだ。
ノックをして部室に入るとメンバー達が労いの声をかけてくれた。
そして沖野トレーナーが口を開く。
「アスラン、選抜レースお疲れ。体調に変化は無いか?少し目が腫れているように見えるが…」
そう言うとゴルシがトレーナーの脇腹にエルボーを食らわせる。
「グハッ!?な、何すんだおい!?」
「お前なー少しは察しろよ。」
「?」
ゴルシが俺に近寄り、「気にすんな、次勝てば問題ねえ」と頭をなでながら言ってきた。
ちょっと惚れそう。
いやこいつには宝塚の恨みが…
そんなことを思っていると沖野トレーナーが咳払いし、再度俺を見る。
「まあ、なんだ。レース時のメンタルトレーニングを教えてやれなかった俺にも非はある。申し訳ない。」
「…いえ、自分も…いかに自分が未熟なのかを知れたので、価値のある敗北だと考えます。」
「ほう?会長らへんからなんか言われたな?『敗北にこそ価値がある』ことが分かっているだけ上出来だ。」
沖野トレーナーが少しかがんで俺に目線を合わせる。
「出遅れようがマークがきつかろうが、速さ以外の要素も含めて『レース』だ。今日の結果がお前にとっての今の実力だ。ここからどうしていきたいかはお前次第だ。
俺はトレーナーとしてお前の選択を全力で支える。
さあ、お前の『夢』はなんだ?」
トレーナーだけで無く、メンバー全員が俺を見る。
俺は…
するとテイオーが「遅くなりました~」と静かな声と共に部室に入る。
またお前いなかったなそういえば。
「あら、遅かったじゃない。なにかあったの?」
「いや~ちょっと…色々あって…」
「??」
なぜか知らないが憔悴しているテイオー。
…謝るのが先か。
「…テイオーさん。」
「あっ!アスラン!レースお疲れ様!」
「…ごめんなさい。約束、守れませんでした。」
「え?」
「テイオーさんから託してもらった『無敗』の夢…もう破ってしまいました…」
トレーナーやメンバーが驚きの表情を浮かべる。
「おまっ、お前ら俺に内緒でそんなこと約束してたのか!?」
「あーそういえばトレーナーに言うの忘れてた。」
「テイオー…お前…」
がっくりとうなだれ、頭を抱える沖野トレーナー。
「そういうアスランの今後に関わる大事なことは俺にも伝えろよ…アスランもアスランでなんで言わないんだ…」
「てっきりテイオーさんが伝えているものと。」
「この二人は…っ」
盛大にため息をこぼす。
テイオーは頭を下げている俺に「…もしかして分かっていない?」と声を掛ける。
「『無敗』ってのはあくまで『公式戦』のことだよ?選抜レースは学園内のレースだから公式戦には含まれないよ?」
「…マジっすか」
「マジマジ。ごめんねボクそれ言いそびれてたね。」
一気に力が抜ける。
な、なんだ…
…待て、ということは
「だから、ボク達の夢はまだ終わってないし、始まってもないよ。前にも言った通り!『無敵のテイオー伝説第二弾』の本格始動だー!」
テイオーが拳を突き上げ、満面の笑みを見せる。
「…アスラン、それがお前の『夢』か?」
沖野トレーナーが静かに、そう問いかける。
俺の答えはもう、決まっている。
「…見てみたいんです。誰もが夢想した、ロマンの景色を。
親子三だ…ルドルフさん、テイオーさんと受け継がれてきた夢の形を。
夢を託してくれたテイオーさんのため、期待してくれている人達のため、
なにより、自分がその頂の景色を見てみたい。
まだルドルフさんしか成しえていない『無敗の3冠』の姿を、
自分は見てみたい!」
ルドルフ・テイオーと受け継がれた血脈を、架空馬のウマ娘とはいえ引き継ぐことになった。
競馬ファンとして、2人の後輩として、ワクワクしないわけがない!
この世界においての『史上2例目』はディープインパクトでも、コントレイルでもない!
この『サクラアスラン』だ!
「…よく言った!スカウトした甲斐があったってもんだ!」
沖野トレーナーが破顔し、俺の両肩に手を置く。
「その夢を俺にも支えさせてくれ。俺が、いや、俺たちスピカがついている!」
そう言って肩から手を離し、メンバー全員を見渡す。
「俺たちはチームだ。一人の夢は全員の夢でもある。一人では困難なことも、仲間で支えあえば大きな力になる。俺はそう信じている。
お前達が仲間から支えてもらったように、今度はお前達が新たな仲間を支えるときだ。
全員でアスランを大きくしていくぞ!」
全員が「はい!」と大きな返事をする。
もう泣きそうだ。
これだけ多くの人が、稀代の優駿が、俺を支えると言ってくれている。
この期待に応えずしてなんとする。
「よーしみんな気合い入れっぞ!」
と、ゴルシが円陣を組み始める。
俺やトレーナーもそこに入る。
「新生スピカ始動だ!いくぞ!!!」
「「「おう!!!」」」
こうして俺はスピカに正式加入した。
マックイーン「私もこの場にいたかった」
スズカ「私もいたかった」