(あーひどい目にあった…)
午後になり、練習の時間だ。
昼休みに起こった出来事に辟易とし、疲れた顔でスピカの部室に向かう。
「お疲れ様でーす…ってスペさん?」
そこにはスマホを横にして何やら話しているスペシャルウィークの姿があった。
「あっ!アスランさんお疲れ様です!ちょうど良かったです!今スズカさんとアスランさんの話をしていたところなんです!」
『スズカ』という単語を聞いて少し鼓動が早くなる。
今スペシャルウィークのスマホの画面に、
あのサイレンススズカがいるのか…?
荷物を肩にかけ直し、スペの元へ向かい、恐る恐る画面を覗く。
『…あなたがサクラアスランちゃんね?
初めまして。
サイレンススズカです。』
画面の奥には、綺麗な栗色のストレートヘアの持ち主。
『異次元の逃亡者』サイレンススズカがいた。
「…初めまして。サクラアスランです。」
画面越しとはいえあのサイレンススズカが目の前にいる。
感動と興奮、様々な感情が混ざり合い、胸がいっぱいになる。
『悲運の名馬』として、多くの競馬ファンに今もなお愛され、アニメやアプリのストーリーにて涙したファンも多いだろう。
『あなたのことはスペちゃんやトレーナーさんからよく聞いているわ。これからはスピカの一員としてよろしくね。』
「はい。こちらこそよろしくお願いします。スズカ先輩。」
その名馬とこうして話が出来る。
これを光栄と言わずして何と形容すればいいのだろうか。
「うーすお疲れー」
「スペ先輩お疲れ様です!」
「あっ!もしかしてスズカさんですか?」
「おおっ!スズカじゃねーか!」
話をしているとテイオー以外のメンバーと沖野トレーナーが部室に入って来た。
スズカの画面を囲むように輪が出来て、一気に賑やかとなる部室。
「今スズカさんにアスランさんのことを話していたところなんです!とっても速い後輩が入って来たって!」
「いえ自分はまだまだです。それこそスズカ先輩の足元にも及びません。」
『そ、そう…?
でもアスランちゃん?あまり自分を否定しちゃダメよ。
走りの意味や結果は後からついてくるのだから、深く考えず、自分の走りたいように走るのが大事よ。』
大逃げで名を馳せたスズカならではの金言だ。
「…その言葉。肝に銘じます。」
俺がそう答えると、スズカがクスリと笑う。
『あら…一瞬で『競技ウマ娘』の目になったわね。
強くなったら一緒に走りましょう?』
「ありがとうございます。」
スズカの目が少し鋭くなっていた。
『将来のライバルを見つけた』とでも言わんばかりだ。
「おっ、いいことだ。チーム内でドンドン競い合え!ターフに立ったら先輩も後輩も関係ないからな!」
後ろで見ていた沖野トレーナーがそう声を掛ける。
「だが、アスランはまずメンタルとスタートダッシュの鍛え直しからだな。」
「うっ…」
人が気にしていることを…
だが選抜レースで浮き彫りとなった弱点は潰していかないと…
「…そう言えばスズカ先輩はスタートダッシュが綺麗ですよね。大逃げのスタイルってのもあるとは思いますが…何かコツとかありますか?」
『コツ…?』
俺は少し身を乗り出して画面越しのスズカに質問する。
顎に手をつけ、「うーん…」と悩むスズカ。
この光景だけでも絵になるな。
『…楽しみだから…?』
「…と、言うと…?」
『ゲートが開くと、目の前いっぱいに景色が広がるでしょ?その景色の中に自分が一番早く飛び込みたい…っていつも思うの。だから私はゲートが開くのが楽しみなの。『どんな景色が待っているのだろう』って。』
そう答えるスズカの表情はとても満足げで、心から走ることが好きなのだと伝わってくる。
『…答えになったかしら…?』
「いえ、十分です。ありがとうございます!」
多分これ以上聞くと涙が出てくるので頭を下げてお礼を言った。
他のメンバーも「スズカさんらしいですね」と優しい顔をしている。
間違いなくサイレンススズカだ。
俺の心も晴れやかになった。
「そっかースズカらしいな!アタシもゲート開くの楽しみだぞ!アタシのスタートを待つファンの驚いた顔が見たいからな!いっそ開いた瞬間立ち上がってポーズをとったらもっと楽しんじゃね!?」
そう言って例のポーズをとるゴルシ。
「まーたゴルシはw」と笑いあうメンバーとトレーナー。
…プツン(アスランの何かが切れた音)
「だからアスランも…アスラン?」
…
「おっはよー諸君!テイオーさまの参上…」
勢いよく部室に入って来たテイオーが見たものは、
…簀巻きにされたゴルシ。
…何故か正座させられているメンバーとトレーナー。
…画面越しに「アスランちゃん!落ち着いて!」と慌てふためくスズカ。
…そしてウオッカの竹刀を手に仁王立ちするアスラン。
「…ああ、テイオーさん…お疲れ様です…」
そう言って満面の笑みを浮かべながらゆーっくりと顔をテイオーに向けるアスラン。
「ウワァァァ!?アスランガグレタヨー!?!?!?
カイチョー!カイチョー!?!?」
後にゴルシこう語る。
「いや恐ろしいのなんの。ものすごい怒気で詰め寄ってきて「俺の86500円返せぇぇぇ!!!」って大暴れしてきたんだ。アタシ悪くないよな?」
これ以降スピカでは
「アスランは怒らせるとヤベーやつ」という共通認識となった。
アスラン「途中から記憶ないんすけど何かあったんですか?」
みんな(マジかよ…)