芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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転生者の苦悩

「…どうして…?」

 

ライスシャワーが困った顔を向ける。

 

「…来週の宝塚記念が、京都開催に…」

「うん、さっき学園から連絡があったよ。

…でもそれと、出ないことがどう関係するの…?」

 

…言えない

 

『京都開催の宝塚記念にて、あなたは大怪我を負い、現役を引退する』

 

下手すれば…

 

いや、これは考えない方がいい。

 

スズカだって大怪我で済んだんだ。

 

…『大怪我で済んだ』って時点である種おかしいかもしれんが…

 

「…ライスにとって京都は特別な場所なんだ。」

 

俺が言葉に窮していると、ライスシャワーは静かに語り出した。

 

「ブルボンさんと戦った菊花賞。マックイーンさんと戦った春の天皇賞。そのどちらも京都だった。

 

つらい思いもした。

 

みんなを不幸にするぐらいならレースに出ない方がいいとも思った。

 

でも、ブルボンさんやマックイーンさん、テイオーさん、そしてライスのファンのみんなが、支えてくれた。

 

そして今年の京都の天皇賞で、みんなライスに『おめでとう』って言ってくれた。

 

『ありがとう』って声も聞こえた。

 

…ようやくライスは、みんなを幸せにするウマ娘になれたんだって思った。

 

宝塚記念でもみんなの期待に応えたい。

 

それが京都であるのならなおさら…!」

 

決意に満ちた瞳を俺に向ける。

瞳の奥に青い炎が揺らめいているような、そんな目を。

 

「…違う…違うんですっ…」

『あなたは幸せにするどころか、多くの人の心に決して癒えることのない傷を残してしまう』

 

この言葉が出てこない。

言えるはずがない。

 

「…もういいかな。宝塚に向けて練習したいから…」

「ライス先ぱ…」

 

呼び止めようとしたが、ライスシャワーの姿を見てやめた。

耳が後ろに倒れている。

 

「…アスランちゃんも自分の練習にもどりな?もうライスの練習につきあう必要ないから…」

 

そう言ってフードをかぶり、走りだす。

 

「これだけは!これだけは言わせてください!

 

あなたが走るのは『淀』ではなく『宝塚』です!」

 

…ライスシャワーの姿は見えなくなった。

 

伝わっただろうか…

 

「…どうすりゃいいんだ…」

 

橋桁の手すりを握り締めながら、無力さを痛感せざるを得なかった。

 

 

…そんな様子をテイオーは物陰から静かに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後

 

京都レース場に俺はいた。

テイオーをはじめとしたスピカの面々も一緒だ。

 

「さ、アスランのデビュー戦だ。お前ら、応援の準備は出来ているか?」

「「「おう!!!」」」

 

トレーナーのかけ声とともに声を揃えるスピカメンバー。

 

「アスラン。レースのコースは頭に入っているか?イメージトレーニングとアップはしっかりな。」

「はい…」

 

気の抜けた返事をし、俺一人控え室へ向かう。

 

「…なあ、アスランのやつ様子変じゃないか?」

「心ここにあらずというか…」

 

ウオッカとダイワスカーレットが心配の声をあげる。

 

「…やっぱり緊張していますね…」

「まあ阪神から京都に変更だからな…」

 

同じくスペシャルウィークとゴールドシップもアスランを気遣う。

 

「…教えられることは教えた。後はアスランが乗り越えられるかどうかだ。

それに…レース場変更で戸惑っているのはアスランだけじゃない。出走者全員同じ条件なんだ。あいつだけ不利という問題でも無い。」

 

沖野トレーナーはそう話しを締め。スタンドへ向かう。

 

「…トレーナー!ボクちょっとトイレ行ってくる!」

「あ、おいテイオー!?」

 

 

控え室で体育着に着替え、いすに座りコースをイメージする。

 

…だめだ。

 

どうしても宝塚記念が気になる。

 

歯がガチガチと震えはじめ、組んだ手も小刻みに震える。

 

ここにいていいのか?

 

今からでも止めるべきではないのか…!

 

「…レース以外のことを考えるなんて余裕だね。」

「…っ!?」

 

いつの間にかテイオーが目の前にいた。

 

考えすぎてドアが開いたことにすら気付いてなかった。

 

「…そんなにライスのことが気になる?」

 

静かに問いかける。

 

「…」

「…ボクから見たライスはね、一度覚悟を決めたらその信念を貫き通すとても強いウマ娘だよ。何度も一緒に走ってきたボクがそう思うんだから大丈夫だよ。」

「でも…」

「あのね、アスラン。」

 

テイオーはいすに座っている俺に目線を合わせる。

 

「レースでは色々なことを沢山考えなきゃいけないよ。

自分がいまどのあたりなのか、1000Mのタイムはとか、コースどりとか、スパートを掛けるタイミングだとか。

キミは今日が初めての公式戦なのだから、自分が思っていたよりもいっぱいいっぱいになると思うよ。

そこにレース以外のことまで…となると確実にパンクする。

勝てるレースも勝てなくなる。

ライスだって、そんなキミの姿は望んでないはずだよ?」

 

テイオーが俺の両肩に手を置く。

 

「シリウスも言ってたよね?『スポーツマンシップを忘れるな』って。今の状態でレースに挑んだら、他の子達に失礼だよ?みんな勝ちにきているのだから。

どうしても…と言うのなら、勝ってから心配しなきゃ!」

 

ニシシといつも通りの笑顔を見せるテイオー。

…少し心が軽くなる。

 

『お知らせします。京都レース場第5R出走者はパドックへお集まり下さい』

 

「さあ!行ってきなアスラン!『無敵のテイオー伝説第二弾』の幕開けだー!!」

「…はいっ!!!」

 

…テイオーの言う通りだ。

 

今悩んでなんとなる。

 

勝ってから悩めばいい!

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