「まあ…!シンボリルドルフさん!」
「おお…本物や…」
と感嘆の声をあげる両親。
皇帝 シンボリルドルフ
史上初となる無敗のクラシック3冠を達成し、
つい最近までG1最多勝利数を誇り、
『絶対がある』とまで称された
近代日本競馬を代表する名馬中の名馬。
その御仁がウマ娘の姿とはいえ目の前に立っていた。
見れば見るほど顔がいい…じゃなかった。
テイオーほどではないが、ルドルフからも
それは向こうも同じようで、「ふむ…」と顎に手を当てる。
「君はなにやら…どことなくテイオーに似ているな。初めてテイオーやツヨシに会った時を思い出したよ。」
「は、はあ…」
これはもう確定だな。
俺はシンボリルドルフ、トウカイテイオーの血を引く競走馬の魂を引き継いだウマ娘なのだ。
しかしテイオー産駒で『サクラ』の冠名を持つ馬なんて聞いたことがない。
力振るわず早々に登録抹消された子なのか、はたまた神様の気まぐれで生まれた『架空馬』なのか。
疑問が尽きることはない。
「おっと、話がそれてしまったな。すまない。」
ルドルフの言葉に俺も思考を戻す。
「気を悪くしないでほしいのだが…君のその足と頭の傷は…」
「ああはい、数ヶ月前に事故に遭いまして。」
「そうか、不躾な質問だった。軽々に聞くことではなかったな。」
「い、いえ!気にしないでください。」
耳を前に倒し、すごく申し訳なさそうな顔をしたため、あたふたと気にしてないことを伝える。
この人は普段からこんな感じなのか?
「私は一学園の生徒会長に過ぎないが、百駿多幸、全てのウマ娘の幸せを願い、微力を尽くしている。もし何か力になれることがあれば遠慮なく言ってほしい。」
…いや人が出来すぎてない?
なにこの超完璧な為政者は。
これで中身はダジャレ好きなのだからよく分からん。
しかし
「…あの、ルドルフさん。」
「どうした。言ってみなさい。」
「自分は今はこんななりですが、来年この学園に入ることを夢見てリハビリを続けています。」
「え?」と顔を向ける両親
ルドルフは黙って俺の話に耳を傾けている。
「テイオーさんにお伝えください。『あなたを目標とする後輩が、あなたと共に走れるよう奮闘している。有馬記念での復活を心待ちにしている』と」
そしてルドルフは目をつぶりながらこくりとうなずき、少し声色が優しくなる。
「分かった。確かに伝えておこう。テイオーも励みになるだろう。」
「ありがとうございます」と頭を下げると、軽く頭をなででくれた。
そして「おそらく知っているとは思うが」と前置きし、両親にも聞こえるよう話す。
「来年度の入学試験は年明けに行なわれる。内容は学力試験・面接試験・そして実技試験の3つで構成される。実技試験の比重が重いのは周知の事実だが、他の2つが考慮されないわけではない。将来有望と総合的に判断されれば入学は可能だ。」
なるほど、おそらく両親が怪訝な顔をしたのを見て、怪我が完治しなくても十分合格の可能性はあるということを伝えたかったのだろう。
両親が少し胸をなで下ろす。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったな。」
「はい、サクラアスランです。」
「ふむ…
と、再び頭をかるくなでる。
「おい、そろそろいくぞ。」
「ああ、ブライアンか。今行く。」
おおっ、ナリタブライアンだ。
この無骨な感じが格好いいんだよな。
「では私はこれで失礼する。サクラアスラン、君の怪我の完治と、再びこの学園の門をくぐる日が来ることを心より祈念する。」
そう言ってバサッという効果音が聞こえてきそうな身のこなしで踵を返す。
そしてふと立ち止まり、「そういえば…」と再び俺の方を向く。
「どうして君は『テイオーが有馬記念で復活する』と断言したんだい?」
アカン
「じ、自分がテイオーさんならそうすると思ったからです!」
「なるほど、得心がいった。しかし君は本当に不思議な魅力をもつ子だな。」
「あ、あはは…」
苦笑いするしかなかったがなんとかごまかせたようだ。
ルドルフも口に手を当てほほえむ。
「呼び止めて悪かった。では改めて失礼する。」
そう言ってブライアンと共に校舎の方へ向かって行った。
だいぶキモが冷えたが収穫の多い会話だった。
早く足を治してトレセンに入りたいな…
その前に年末の有馬記念か。
「…アスラン?お父ちゃんの知らない話があったんやが…」
…その前に両親の説得が先か。