地下誘導路にはコツコツと蹄鉄の音だけが響く。
心地よい冷えた空気と緊張感が入り交じる独特の空間を、漆黒のドレスを身にまとったライスシャワーは進む。
出口が近づくにつれ光が差し込み、外界の歓声が通路に響き始める。
(…これだけ多くの人がライスを待ってくれている)
気持ちを新たに少し息を吸い、一歩を踏み出そうとする。
「キャッ!」
と、不意に足が震え、転びそうになるが踏みとどまる。
「ライスさん?大丈夫?」
「うん。ちょっともつれただけ。」
後ろを歩いていたナリタタイシンが声をかけるも、気にしないでとライスは振る舞い、「気をつけてね」と言い残して先にターフに出る。
「―勝つんだ」
ライスシャワーはそう自分に言い聞かせるように呟いた。
…
『さあやって参りました!本日のメインレース!
G1宝塚記念!
開催地変更というアクシデントはありましたが、そんなものは関係ないと言わんばかりに気合いが入る各ウマ娘!ファンの熱気は最高潮に達しています!
おっと、ターフに今日の主役の一人と言っていいでしょう!
8枠16番3番人気ライスシャワーが出てきました!』
『遠目からでも分かるぐらい仕上がっています。私の夢は、ダンツシアトルですが、ライスシャワーもまた、みなさまの、期待に応えられるだけの実力者に違いはありません。』
返しウマが終わり、順にゲートに収まっていく。
目をつぶり、少し歓声を聞いたのち、目を開く。
『今年も、あなたの、そして私の夢が走る、宝塚記念。
ゲートが開いて一斉に飛び出しました!』
金属音とともに一斉に駆け出す。
『まず真ん中を割ってタイキブリザード。内からトーヨーリファール、さらにダンツシアトル。ネーハイシーザーは4番手。ダンシングサーパスも行きました。』
1コーナーを過ぎ、先頭はトーヨーリファールだが差はそこまでない。
後方集団のナリタタイシンは内側から虎視眈々と先頭を見つめ、ライスシャワーも同様に先頭を目指す。
3コーナーを過ぎ、坂にさしかかる。
タイシンが仕掛ける前にギアを上げ、坂を駆け上がり始める。
(いつもなら…いつもならここで…!)
と、さらにスピードを上げようと踏み込む力を入れ…
(―あなたが走るのは『淀』ではなく『宝塚』です!)
…急にそんな声がライスシャワーの脳裏に蘇る。
同時に足が一瞬震え、本能でスピードを緩める。
加速の機会は逃した…と思ったが、息を入れ落ち着いたところでもう一度先頭を見る。
先頭は変わらずトーヨーリファールだが、急いで追いかけるほど差が開いているわけでもない。
ゆっくりと、確実に差を詰めていく。
『第4コーナーをカーブし直線へ!先頭はトーヨーリファールからタイキブリザードへ変わった。内を突いてダンツシアトル!』
最終直線へ向き、5・6番手まで上がったところでもう一度力を入れる。
(…この京都で。
―咲かせてみせる!)
『おおっと、内からさらに一人来ている!
ライスシャワーだ!ライスシャワーだ!
3人まとめてかわしたかわしたかわした!
これはもう届かない!これはもう届かない!
黒衣のステイヤーが、京都に帰ってきた!
『淀の英雄』ライスシャワー1着!!!』
ゴールと同時に万雷の拍手と歓声が湧く。
『1着はライスシャワー、ライスシャワーであります!
淀の坂を乗り越え、見事グランプリに輝きました!』
もうそこに
…
「ライス先輩!!!」
「あ…アスランちゃん。」
全ウイニングライブ終了後、廊下にて俺はライスシャワーの元に直行した。
「完走…いえ、優勝おめでとうございます!!!」
涙とライブの汗でぐちゃぐちゃになった顔で頭を下げる。
「あ、ありがとう。そんなに泣かないで…?」
あわあわと慌てるライスシャワー。
すると静かに目をつぶり、「不思議な感じだった」と話し始めた。
「…レース中にね、君の声がした気がしたんだ。最初は分からなかったけど、そのおかげで落ち着くことができた。お礼を言いたいのはこっちだよ。」
少しはにかみながらそう答える。
「…いえ、自分は大したことをしていません。今日の勝利はライス先輩自身の勝利であり、これからもそうあるべきです。」
…自分がライスシャワーの運命を変えたなんておこがましい。
自分はただの競馬ファンで、その笑顔を受けるに値するもんじゃない。
その笑顔は陣営のみなさんと…ライスシャワー号に向けられるべきものだ。
でも…
「自分からすれば…またライス先輩と河川敷でランニングの練習におつきあい出来れば十分です。」
「…!うん!これからも一緒に走ろうね!」
先輩と後輩の関係は、転生者の特権として大目に見て下されば幸い…かな?
「…ところでアスランちゃん。」
「なんでしょうライス先輩。」
「そ…その…出来ればでいいんだけど…
ライスのこと、『先輩』じゃなくて…『お姉さん』って呼んでもらっても良い…かな…」
俺の方が身長高いので上目遣いで照れながら聞いてくる。
(かわいい)
率直な感想である。
しかし…
「…『お姉
「う、うん。ライスには直属の後輩がいなかったから…そう呼ばれるのが夢で…
だ、だめかな。」
…はっはーん(テイオー譲りのイタズラな笑み)
「もちろん断る理由はありませんよ。ライス『お姉
ライスシャワーの動きがぴたりと止まる。
(からかい過ぎたかな?)
「…もう一回。」
「え?」
「もう一回言って。」
「…ライスお姉…様…?」
「もう一回」
「ライスお姉様」
「もう一回」
「ライスお姉様!」
「もうひと声!」
「ライスお姉様は世界一!」
「アスランちゃん大好き!」
そう言ってライスシャワーがハグしてきた。
うーむ役得役得。
「あーーーーーーーーっ!!!!!」
と、そこへ中々着替えから戻ってこないアスランを心配してやってきたテイオーがその光景を目撃する。
「ちょっと二人とも!何やってんのさー!」
「て、テイオーさん!?ち、違うのこれはその」
「あ、テイオーさん、自分今日からライスお姉様の妹分になりますんで」
「ワケワカンナイヨー!」
…この後テイオーががち目に拗ねたので2人で宥めるはめになった…
目標達成!
メイクデビューにて1着
次の目標
ホープフルステークスにて1着