「取材…ですか?」
「ああ、アスランさえ良ければと思うんだが。」
無事にデビューを果たし、終業式を翌日に控えた7月上旬、沖野トレーナーから取材の提案を受けた。
「実は…アスランにはキチンと伝えて無かったんだが、レースが終わったあと、勝ったウマ娘はウィナーズサークルにてインタビューがあるんだ。」
前世で言う所の『口取り式』ってやつか?
「だが先日のデビュー戦ではインタビュー受けないでテイオーと一緒にダンスの練習に行っただろ?
まあ事情があるときは取材を受けないで引き上げるのは珍しい話ではないからそれは良いんだが…
『謎のベールに包まれたスピカの新人!』『スピカの新星は元不良娘!?』ってな感じで憶測の記事が飛び交う始末でな、放っておくとレースに支障を来すかもしれないし…」
そう沖野トレーナーは頭をポリポリ掻きながら困った顔をする。
…いやまあ勝ったら口取り式よろしくインタビューがあるなんて知らなかったてのもあるが…
有無を言わず圧をかけまくるハイパーテイオーに逆らえるとでも?(ムリ)
「…で、今日たづなさんから提案を受けたんだ。『そのままにすると噂に尾びれがついて収拾がつかなくなります。そうなる前にこちら側から正式にアスランさんの過去を公表してはいかがですか?』って。」
「なるほど…一理ありますね…」
取材か…
確かにこれから本格的にレースの世界で戦うことを考えると避けては通れないし、良い機会かもしれない。
「学園側が懇意にしている出版社で信用出来る記者がいてな、早ければ明日の終業式後でも良いと言っているんだが…流石に急か?」
「いえ、構いません。それでよろしくお願いします。」
…十中八九あの人だろうなあ…
翌日
終業式後 トレーナー室
「本日はお時間を取らせて頂きありがとうございます。月刊トゥインクルの乙名史と申します。」
「いやこちらこそ急な要請にも関わらず応じて下さりありがとうございます。サクラアスランのトレーナーの沖野です。で、こちらがウチのサクラアスランです。」
「初めまして、サクラアスランと申します。本日はよろしくお願いします。」
「丁寧な挨拶痛み入ります。こちらこそよろしくお願いいたします。」
深々とお辞儀をする乙名史記者。
予想通り乙名史記者だった。
挨拶もそこそこに椅子に座り、乙名史記者はメモ帳とボイスレコーダーを用意する。
「今回アスランは初めての取材なので私も同席しますが気にせず記者さんのペースで進めて下さい。」
「分かりました。」
沖野トレーナーは離れて座り、資料に目を通す。
「ではサクラアスランさん、改めて本日はよろしくお願いします。リラックスして頂けると幸いです。」
30分後
「…素晴らしいです!!!!
憧れのテイオーさんに勇気を貰って自身のエネルギーとし、困難なリハビリやトレーニングにも前向きに取り組み、中央に見事入られただけでなくそのテイオーさんと再会し、夢を引き継ぐとは…!
この乙名史、こんなバイタリティにあふれた子を見逃していたとは…生涯の不覚!
私は今猛烈に感動しています!!!」
いやバイタリティにあふれてるのはあなただと思うんだけど…
「と、言うことはアスランさんの目標はトウカイテイオーさんから受け継いだ夢である『無敗のクラシック3冠』で間違いないですね?」
「はい、まだデビュー戦を終えたばかりの身で大き過ぎる目標とは思いますが…」
「いえ、そんなことはありません。目標は高ければ高いほど実力は付いてきます。それは目標を達成するためになにが必要かを逆算して練習できるからです。
もっと言ってしまうと、クラシックは来年からですが『まだ1年ある』ではなく『もう1年しかない』と捉えることもできます。
夢に向かって進むのに『早すぎる』という言葉はありません。」
乙名史記者の言葉にハッとする。
そうか『まだ1年ある』ではなく『もう1年しかない』か…
この取材が終わったらそのまま合宿がはじまる。
合宿が終わって秋になるとジュニア戦線へ突入だ。
…今回の合宿を有意義なものにしなければ…
「では、アスランさんに最後の質問です。」
思考を戻し、乙名史記者の目を見る。
「『競技ウマ娘』としての大目標をお聞かせください。」
「…と、いうと?」
「つまり、『無敗のクラシック3冠』はあくまでテイオーさんやアスランさんの夢を叶えるという『手段』と推察します。その手段によってアスランさんご自身は何を求めますか?
歴史に名を刻むことですか?はたまた、より強いウマ娘と戦うことですか?
もちろん、これからレースで戦っていくなかで見つけたり、変化したりするとは思いますが…
今の時点での『サクラアスランとして何を成し遂げたいか』をお聞かせください。」
割と難しめ…アスリートとしての本質を問う質問だ。
やっぱこの人ただもんじゃないな。
ただ、俺の走る本質は決まっている。
「…一つは、恩返しのため。
送り出してくれた両親や、足を治してくれた先生。そして、いつも親身になって支えてくれた理学療法士さんに恩を返すため。
そしてもう一つは…」
顔を上げ、前を見る。
「師を超えることこそが、最大の孝行だと、俺は思います。」
乙名史記者の手からペンが落ちる。
「…師とはテイオーさんのことですね?」
こくりと頷く。
乙名史記者の身体がプルプルと震え出す。
「素晴らしいです!!!!!!!」
俺と沖野トレーナーは椅子から吹っ飛ばされた。
…十数分後
「し、失礼しました…少々興奮しすぎてしまうきらいがあるもので…」
「い、いや、ちょっと驚いただけです。だよなアスラン。」
「は、はい、そうです。あはは…」
とりあえず気を取り直して椅子に座る。
乙名史記者はトレーナーの方を向き、再びペンを手にする。
「差し支えないようでしたらサクラアスランさんの今後の予定…具体的な次走を教えて頂くことは可能でしょうか?」
「あーそのことなんですが…実はアスランや記者さんにも相談に乗ってほしいと言いますか…ちょっと意見がほしいところでして…ちょっと見て頂いてもいいですか?
アスランも一緒に見てくれ。」
そう言って机の上に『アスラン飛躍のジュニア期計画!(仮)』と書かれた紙を置く。
概要は次の通り。
7~8月
合宿
9月前半
トレーニング・調整
9月後半
芙蓉ステークス(OP)
中山(右)2000m(中距離)
10月前半
紫菊賞?(Pre-OP)
京都(右内)2000m(中距離)
10月後半
休養・調整
11月前半
百日草特別(Pre-OP)
東京(左)2000m(中距離)
11月後半・12月前半
トレーニング・調整
12月後半
ホープフルステークス(G1)
中山(右)2000m(中距離)
『ホープフルステークス(G1)』の文字を見て全身がゾワッとする。
(文字だけでこの緊張感か…)
年末最後の大一番に出るかもしれないと思うと鳥肌が止まらない。
「あくまでこれは仮です。」
トレーナーの声で我にかえる。
「アスラン。お前が三冠を目指していることは十分理解しているし、無敗も同様に目指すに値するものだ。
しかし、無敗にこだわって勝負しないというのは不幸な話だ。
『負けてもいい』とは言わん。
だが、どんな結果になってもクラシック期の糧となるようなレースを選んだつもりだ。」
沖野トレーナーは真剣な眼差しでこちらを見る。
すると乙名史記者は「なるほど…」とレース計画を見て呟く。
「中山・京都・東京…
クラシック3冠で使うレース場で経験を積ませる…という意図ですね?」
「ええ、その通りです。中距離に絞ったのは最大の難関である長距離の菊花賞に備え、今のうちからスタミナとペース配分の底上げが目的です。」
「良い方針だと思います!」
ズババッとメモを取る乙名史記者。
確かに1本筋の通ったスケジュールだと思う。
「ただ…」と乙名史記者は少し顔を曇らせる。
「紫菊賞まではともかく百日草特別は出られない可能性があります。
芙蓉・紫菊両レースがOPであることから、仮に全勝した場合出走を見送るようURAから要請が出るはずです。
『他の選手達の芽を摘むな』といった感じで…
もちろん、芙蓉での結果次第ではありますが…」
確かにそうだ。
OPはグレードレースへ進む為のステップアップでもある。
そこに勝ちまくってる奴が居座れば反感を買うだろう。
…地方を荒らし回った
なんだかんだで愛されてるからヨシ!
「そこなんですよねー。いきなりG1ってのもどうかと思ってて…
もっと言うと京都は優先度は低いです。
デビューが京都だったのもありますし、年明けの若駒ステークスって選択肢もあるので…」
「なるほど…でしたら…」
乙名史記者はスマートフォンの画面を見せる。
「11月後半に東京スポーツ杯を目指してはいかがでしょう?
G3なのでまた一段レベルの違う子達と競うのはアスランさんにとってもプラスになると愚考します。
東京開催ですし、マイルではありますが1800mなのでトレーナーさんの狙いからもあまり逸脱しないと思います。
また、先ほどトレーナーさんもおっしゃったように、京都で経験をとお考えなら若駒も悪くありません。」
沖野トレーナーは「うーん」と腕を組んで少し悩み
「確かにその方がいいかもしれません」と、乙名史記者の提案を受け入れた。
「よし!これでいこう!
アスランはどうだ?何か走りたいレースや意見はあるか?」
「いえ、大丈夫です。よろしくお引きまわしのほどお願いします。」
「部外者である私の意見を受け入れてくださり恐縮の極みです。」
「いえ、頼んだのはこちらですから。」
とりあえず今後の方針は定まった。
まずは芙蓉、東京スポーツ杯と進み、そしてホープフルに挑戦だ。
改めて机上のスケジュールを見る。
「(ボソッ)…コントレイルみたいだな…」
「?何か言ったか?」
「いえ」
「本日はお忙しいなか取材を受け入れてくださりありがとうございました。」
帰り際、乙名史記者が深々とお辞儀をする。
「なんの。こちらこそ急な要望に応じて下さりありがとうございます。」
「ありがとうございました。記事楽しみにしています!」
乙名史記者はフフッとほほえみ、「ご期待に添えるよう精進します」と答え、握手を交わした。
そして乙名史記者が部屋から退出し、俺とトレーナーが残った。
「さあアスラン。これで後には退けなくなったぞ。
明日からの合宿、気合い入れていくぞ!」
「はい!」
なんにせよまずは合宿だ。
今日の内に車で移動する必要があるので、取材が終わり次第出発となっている。
「ちょっと取材が押したから急ぐぞ。
荷物持ってみんなのところに集合だ。」