芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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もう一人の王

感謝祭にてルドルフと会ってから4ヶ月。

ついに医者からのOKサインが出た。

約半年間の治療とリハビリを終え、ようやくウマ娘としてスタートラインに立てた事になる。

 

ちなみにトレセン学園への入試挑戦は母親が肯定的なのもあり許可してくれた。

 

残念ながらあの有馬記念は検査日と重なってしまい現地観戦はかなわなかった。

まあ病院でスタッフさん達と一緒になってテレビを食い入るように視聴したが。

 

そして年が明け1月後半。

入試の日を迎えた。

 

面接試験は就活時のことを思い出しながら行なった。

「御社」と言いそうになったのはここだけの話だ。

 

学力試験は社会科以外特に苦戦することなく終わった。

事前に試験対策のため歴史を学び直したが…この世界馬がいないだけあって歴史のいたるところが変わってやがる。

源義経やチンギスハン、果ては秋山好古*1までウマ娘になってたのは流石に面を食らった。

 

そして実技試験。

半年近く運動していなかったため両親からはやはり筋力や体力不足を心配され、「無茶だけはするな」と東京に向かう前に言ってくれた。

俺自身も一番の不安材料だったが、理学療法士さんと一緒にリハビリ中でもできるトレーニングメニューを組んで貰い、全快後は暇さえあれば走り込みと筋トレを行ってきた。

付け焼き刃もいいとこだがやれるだけのことはやり、試験を終えた。

後は人事尽くして天命を待つといったところだ。

 

全試験が終了し、受験生達が家路につく。

宿泊しているホテルに帰る前にもう一度トレーニングコースを見てこようと構内を散策する。

 

すると「おい」と不意に呼びかける声がした。

 

「サイドテールに大きな傷…お前が()()()()のお気に入りか。」

 

後ろを振り向くとそこには、腰まで届きそうな長い髪に白いワンポイントが入った前髪の持ち主。

シリウスシンボリがそこにいた。

 

ふーむやはり顔がいい…じゃなくて。

 

「ええと、皇帝さまのお気に入り、とは?」

「ハッ、天下の皇帝サマがテイオーに話していたのさ。『同じ境遇にあいながらも前を向き、目標とする後輩がいる』ってな。」

 

どうやらルドルフは本当に伝えてくれたようだ。

 

「『あのように目から活力があふれでる子はなかなかいない』とほざくからどんな奴かと見てみれば…案外間抜けな顔をしているのな。」

「なにが言いたいので?」

「おまえは十中八九合格が確約されているということだ。」

「つまり…ルドルフさんが自分の試験結果に口を出すかもしれないと?」

「もし仮にお前が落とされるようなことがあれば教職員に抗議しにいくだろう。『実技試験の結果だけを重んじて他の試験を含めて考慮しないのは学園側の怠慢だ』とでも言ってな。」

 

それはさすがに職権乱用…というか生徒会長にそこまでの権限があるのか…?

 

「あいつは昔からそうなんだよ。一度こうだと決めたことはなにがなんでも押し通す。反論しようとしてもあいつなりの『正論』で武装してくるから余計タチが悪い。お前はそんな皇帝サマに一目置かれたということだ。」

シリウスはそう吐き捨てるように言い切った。

 

「…自分の実力に応じた結果が出ることを祈り、それを受け入れるだけです。」

「ほう?自らチャンスをつかむ機会を投げ捨てる気か?」

「実力なきものが中央に入っても待っているのは残酷な現実だけですから。」

「…」

 

 

競馬をかじった者なら分かるはずだ。

中央…いや競馬の世界はどれほど過酷で残酷な、文字通りの『競争社会』なのかを。

勝ち上がれるのはほんの少数。

グレードレースに出られる競走馬は何千といる馬のごくわずかな上澄みであり、

その下には活躍できず登録抹消、引退という末路をたどる馬がごまんといる。

だからこそ未勝利戦や1・2勝クラス戦にて必死に前を目指す子の応援に力が入る。

『競馬は全員が主人公』とはよくいったものだ。

 

そんな魔境に中身一般人の自分がどれほど活躍できるのか。

名馬の血筋だからといってもそうたやすい世界ではない。

推しキャラ達と過ごす学園生活にはものすごく惹かれるが、

実力不足だというのなら別の生きる道を探す他ない。

 

 

シリウスは黙って聞いた後、俺の考えを知ってか知らずかこう言った。

「…勝手に皇帝サマの信者かと思っていたが案外()()()()の奴なんだな。」

「え?」

「お前ルドルフの理想を心から信じてないだろ。」

「それは…まあ。」

 

『ウマ娘全員の幸せ』

現実を知っている身からするとものすごい理想論であることが分かる。

まあ『夢無き者に成功なし』という格言もあるし、その理想が間違っているとも思わないし、むしろ必要なものだと思う。

ただ『理解』はすれども『同意』はしないな。

なんならシリウスのように、こぼれ落ちたものをすくい上げる姿にこそ好感がもてる。

…なんかこうしてみるとシリウスが某黄色いタコせんせーに見えなくもない。

 

「ハッ、お前気に入ったよ。教職員のお眼鏡にかなったら歓迎してやる。」

そう言ってどこかへ去ってしまった。

 

2週間後。

9時のホームページ更新とともに『合格者番号一覧』を家族とともに見る。

 

どうやら教職員のお眼鏡にかなったようだ。

 

そして4月。

満開の桜並木に迎えられ、入学の日を迎える。

 

同時にとんでもない事実に気付く。

 

 

 

 

「…キタサトがいない…!?」

 

 

*1
旧大日本帝国陸軍大将。日露戦争にて騎兵隊を率いて奮戦。「日本騎兵の父」と称される。

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