芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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*この作品はフィクションであり実在の人物・団体・国家・民族・その他全てを貶める意図はありません

アスラン「注釈出すの遅くない?」


ジュニア戦線異状あり

「それじゃアスラン1着を祝って乾杯!」

「「「かんぱーい!!!」」」

 

東京スポーツ杯終了後初グレード制覇を記念して祝勝会が開かれた。

 

「アスランちゃんの末脚格好良かったです!みんなと競ったダービーを思い出しちゃいました。」

「さすがスペちゃん見る目があるね!

ま、ボクの後輩なんだからとーぜん!」

 

和気あいあいとした賑やかな空気が流れる。

 

「この調子ならホープフルステークスも大丈夫だよ!『無敵のテイオー伝説第二弾第一章』も問題なくフィナーレだ!」

「長い長いwww」

 

 

…そんな楽観ムードは翌週には消え失せた。

 

 

 

 

 

『…なんとなんと大波乱!

 

京都ジュニアステークス(G3)を制したのは7番ムグンファエース!

()()からやってきた超新星!

居並ぶ日本バ達から逃げ切り、祖国に捧げる大金星です!』

 

京都ジュニアステークス(G3)にて韓国から遠征してきたムグンファエースが2分を切る超好タイムにて圧勝し、さらに直後のインタビューにてホープフルステークスへの挑戦を表明したことでレース界隈は上へ下への大騒ぎとなった。

 

『ホープフルはサクラアスランの独壇場』という前評判は一転。

 

『獅子を止めるのは異国の志士か!?』

『事実上の日韓戦』

『中山に花の嵐到来!』

そんな見出しのスポーツ新聞が飛び交い、普段レースを報じないお堅いメディアまで触れ、国内は異様な熱気に包まれ始めていた。

 

各新聞を買いあさり、部室にて読み込む。

 

 

…ムグンファエース。

 

韓国国内での戦績は2戦2勝(共に混合戦)。

デビューが少し早めの5月ということを除けばごくありきたりの子だ。

 

そんな子が突如日本のレースに出て結果を残している。

正に青天の霹靂だ。

 

一部の記事によると彼女は8月に来日し、中山・京都にてスクーリングを行ったとある。

恐らくその時に日本レースでも戦えるという確信と自信を得て、帰国したのち京都ジュニアステークスに出走といったところだろう。

外国バに対し破格とも言える対応だ。

 

だがまあ分からない話ではない。

 

(韓国か…)

 

日本競馬と韓国競馬は密接に関係している。

戦前に日本から近代競馬が持ち込まれ、戦後はJRAがKRAに対し技術支援を行っている。

一昔前までは頻繁に日韓の交流戦が行われていたし、日本の競走馬が韓国にて種牡馬となるケースも多い。

1974年の日本ダービー馬『コーネルランサー』や2004年の天皇賞(春)勝利馬『イングランディーレ』

そして1999年のフェブラリーステークスを制した東北の英雄『メイセイオペラ』などが有名どころか。

 

だが世界的に見れば韓国競馬は発展途上の段階だ。

確か国際格付けでパートⅡだったような…

(参考 日本はパートⅠ)

 

この世界でも同じかどうかは分からないが、おおよそは似た感じだろう。

 

そして彼女は国際招待レースではなく、通常のG3に出走し、次もホープフルに出ると言っている。

確かに日本は地方重賞以外(東京大賞典を除く)全て国際グレードだし、2010年から国際競争になっているから出られないわけではないが…

費用や調整面など、日本バ以上に苦しい条件なのは明らかだ。

 

つまり

 

(…本気だ…)

 

彼女…ムグンファエースとその陣営は本気で日本レースに勝ちに来ている。

恐らく国の威信や韓国レース界の誇り等も背負っていることだろう。

そう思った瞬間、全身に鳥肌が立った。

 

(そんな外国の英雄に…背負うものが違う奴と正面から戦えるのか…?)

 

ここ最近順調過ぎて忘れていたがここは『架空世代』だ。

何が起るか分からない魔境に競馬民がどこまでいけるのか。

久々に現実を突きつけられた気がした。

 

 

 

「…おっ、熱心だな。」

「トレーナーさん。」

 

声がしたので顔を上げると入り口に沖野トレーナーがいた。

彼も資料を沢山抱えている。

 

「まあレースは始まる前から何が起るか分からん。こんなこともある。」

そう言いながら資料を机の上に置き、俺の目を見る。

 

「…トレーナーさん?」

「…アスラン。

『回避』という選択肢もあるぞ。」

「え?」

 

沖野トレーナーの口から意外な言葉が出てきた。

 

「確かにホープフルステークスはお前の成長の糧となればと思い俺が目標に設定した。

もしそれが…ムグンファエースと戦うことが重荷となっているのなら、出走を回避することもまだ可能だ。

批判の矢面には俺が立つ。」

「で、でもそれは…」

「お前の真の目標は『無敗の3冠』だろ?

目標の為に引くことも重要だ。

 

『立ち向かう』ことだけがレースじゃない。」

 

真っ直ぐな目で俺を見つめる。

 

…確かに一理あるだろう。

だが…

 

「…お気遣いありがとうございます。

ですが、あえて『立ち向かいます』」

「アスラン…」

「相手は本気で日本に…日本バに勝ちに来ています。

恐らく俺を…ジュニア世代の代表と目されているサクラアスランを最大のライバルとして見ているはずです。

 

そのような状況で俺が退(しりぞ)けば、「ジュニア世代は腰抜けばかり」とそしられるでしょう。

 

曲がりなりにもこの世代の長を預かるものとして…退()くわけにはいきません!」

 

そう言い切った。

そしてこの瞬間、俺はホープフルステークスに出る覚悟を固めた。

 

「…分かった。試すようなことをして悪かった、この通りだ」

そう言って沖野トレーナーは頭を下げる。

 

「いえ、こちらこそ頼りにさせてもらいます。」

「おう!

じゃー改めて中山のコースを頭にいれよう」

 

そのまま対ホープフルステークスの講義が始まる。

 

そんな様子をテイオー達スピカメンバーは入り口の物陰から見守っていた。

 

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