年末の一大レースである有馬記念。
レース後の余韻覚めやらぬ中山レース場を気怠い顔で歩くウマ娘がいた。
ピンクの髪に山桃の髪飾りを左耳に付けている。
(…かったるいなあ…)
そう心の中で愚痴をこぼすのは、先日の全日本ジュニア優駿にて4着だった『ハルカゼステップ』だった。
なぜ高知トレセン所属の彼女が中山にいるのかと言えば…
『―そして今ハルウララ!ハルウララがゴーーールイン!
16着という結果にはなりましたが、今笑顔で完走しました!
スタンドからは大きな歓声が上がっております―』
モニターにてさっき行われた有馬記念のリプレイ映像が流れる。
ハルカゼステップは同郷の先輩であるハルウララの応援と挨拶をするべく中山を訪れていた。
といってもステップは自ら進んで志願した訳ではなく、
『川崎への遠征経験がある=都会慣れしている』
という理屈で高知トレセン生徒の代表に選ばれただけだった。
(…だいたい応援も何も、ハルウララ先輩はビリだったじゃん…
しかも負けたのにへらへら笑って手を振って。
あれじゃ高知の恥をむざむざさらしただけぜよ…)
ステップから見たハルウララの印象は『最悪』だった。
ハルカゼステップは兵庫ジュニアグランプリ(G2)を制するぐらいには優秀な生徒である。
一方何度負けても元気に笑い続け、挙げ句それが話題を集めついには有馬記念にまで出走したハルウララは『高知の顔』とも言える存在となっていた。
『勝った方より負けた方が話題になる』
このあべこべな状況をステップは我慢出来なかった。
『負けて有名になるのなら日々の練習はなんの為にやっているのか』とやる気を失うぐらいには。
入館証を見せ、ハルウララの控え室前まで来る。
ノックしようとすると部屋の中から声が聞こえる。
「…グスッ…ヒック…」
嗚咽の主はハルウララだった。
(…まあ今日で引退だからねぇ…最後に有馬で思い出作れてよかったじゃん。
あー『お疲れ様でした。残念でしたね』とでも言えばいいか)
そう思いドアノブに手を掛ける。
「…勝ちたかった…」
「…えっ!?」
想像もしていなかった発言がハルウララから出たことに驚き、勢いそのままにドアを開ける。
「…ヒグッ…あなたは…だあれ…?」
「えっ、あっ、その」
一旦泣き止んだハルウララがしどろもどろのステップに声を掛ける。
「こ、高知トレセン学園中等部のハルカゼステップです。
学園代表として先輩にご挨拶に」
「えっ!高知の子なの?
わたしとおんなじだねー!」
(…さっきの涙は???)
困惑するぐらいの気持ちの切り替えの速さに思わずツッコミが出る。
「あの…先輩…」
「ウララでいいよー!
あっ、今日のレース応援してくれたの?ありがとう!
どうだったー?」
(どうだった…って…)
言葉に窮しているとハルウララは嬉しそうに語り出す。
「1着の子とても速かったよね!バビューンって鳥さんみたいに前を走ってたんだよ!
追い抜こうとしたんだけどあっという間に走っていったんだ!
後ろから見ていてとてもワクワクしたんだ!
ワクワクしたし、楽しかった、ん、だ…
でもね…
なんだか、もやもやするの
胸の奥が、ギューって苦しいの
とっても楽しかったのに、なんだか苦い味がするの
楽しかったのに…
ワクワクしたのに…
涙が止まらないの…!」
はらはらとハルウララの目から涙がこぼれ出る。
ステップはずっと聞きたかったことを聞く。
「先輩。
『負けて悔しい』のですか?」
「くやしい…?」
ステップの発言をかみしめるように復唱する。
「そっか…これがくやしいって気持ちなんだ…
そっか…キング、ちゃんはす、ごいな、あ…
こんな、気、持ちに、ずっと、耐え、て…っ!」
堰を切ったようにハルウララが号泣する。
レースを走って楽しさが先行していた子が、最後の最後に悔しさを知った。
ここまでくるとステップもハルウララに対する認識を変えざるを得なかった。
(…なんて走りに純粋な先輩なんだ。
そう自覚した瞬間、今までの発言や思考を振り返り、とてつもない恥ずかしさを感じる。
人気が出るのも頷ける。
色んな人が「ステップもウララを見習え」と言っていた理由が分かる。
人気や実力が出ないのを
すると部屋の外から足音と話し声が聞こえる。
「―いやーウララちゃん頑張りましたねーww」
「ほんとほんとwww正直勝たないで良かったよ。
なんてったって『負け組の星』なんだから」
「負けたら良いのだから気楽なもんですよwww」
「違いないwww」
恐らくここがそのハルウララの控え室だということを失念(あるいはわざと)しているのか、
2人の中央の職員がそう談笑しながら歩いて行った。
「…っ!」
ハルウララは泣くのを辞め、拳をキュッと握る。
うつむいているため表情は見えない。
(…私にはあの職員達を叱る権利はない。
数分前まで自分もそう思っていたのだから…)
ステップはそう暗い顔をし、改めてウララを見る。
(…少し前の私や、あの職員のように、ウララ先輩を誤解している人は少なくない。
先輩は今日で引退だが、私は
私に出来ることは、ないだろうか。)
数分前とは正反対の思考を持つようになったステップは「先輩」と声を掛ける。
「私…同期の中では速いほうだって自覚はあります。
でも、レースや練習をしてきて、なにか違うような、もやもやした気持ちなんです。
私に、『走る楽しさ』を教えてくれませんか?
そして、活躍して、重賞も勝って、みんなに紹介したいんです。
「ハルウララが私の自慢の先輩」だって!」
ハルウララは泣きはらした顔を上げる。
まだ涙のあとはあるが、しっかりとハルカゼステップを見る。
「お願いします!一緒に高知に来てください!」
「難しいことはよくわかんないけど…わたしと一緒に走りたいってこと?」
「はい!お願いするきぃ!」
ハルウララは満面の笑みを浮かべ、ハルカゼステップの手を取る。
「わかった!一緒にがんばろうねー!」
ハルカゼステップ。
のちに『土佐の春一番』と呼ばれる優駿は、
こうして第一歩を踏み出した。
その後の顛末
スカイ「へぇ…ウララちゃんをバカにしたんだ…
へぇ………………?」
エル「極刑デース!」
スペ「大丈夫!ちょーっと北海道で永遠に木を数える仕事に」
グラス「日本男子なら潔く腹を切って詫びたらいかがです?」
ツヨシ「もしもし会長?かくかくうまうま
え?加勢する?ありがとうございます!」
キング「さて…
覚悟はいいかしら」
みなみ「中央で欠員が出て職員を2名募集するそうだ」
ますお「どうした急に」