芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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第2章 クラシック期~日本ダービー
養育権争い


「脚の骨に特段異常はありませんが軽い炎症を起こしています。

1ヶ月程は安静が必要でしょう。」

「そうですか…」

 

激闘のホープフルステークスを終え、怒濤の取材を乗り切った翌日、沖野トレーナーに連れられ病院へ向かい、そう言われた。

 

トレーナーとしては俺の発走前の様子や元々の脚部不安を鑑みて受診させてくれたらしく、医者の言葉を聞いて青ざめる。

 

「い、1ヶ月で直りますか…?」

「炎症自体軽度なので激しい運動等しなければ特に問題ありません。

少なくとも皐月賞には間に合うでしょう。」

 

トレーナーが胸をなで下ろす。

 

その後は医者から注意事項を聞いたり薬を貰ったりして学園への帰路につく。

 

「すまんなアスラン。俺がもっと注意していれば」

「いえ、トレーナーさんが謝ることではありません。

むしろ…謝るべきは自分です。無我夢中で自分の脚のことをすっかり忘れてましたから…」

 

左足がネックとなっているのは歯がゆい限りだ。

ガラスの脚とされたメジロアルダンやスーパークリークも似たような思いをしていたのだろうか。

 

『クラシックは来年からですが「まだ1年ある」ではなく「もう1年しかない」と捉えることもできます』

以前乙名史記者から言われた言葉が頭をよぎる。

 

年が明けたらもうそのクラシックの時期だ。

俺が1ヶ月間休んでいる間、他の子達は現状トップに立つ俺を追い越さんと力を付けるだろう。

オーケーハーンやエイトガーランド、あるいは他のライバルか。

 

「…ここでブレーキは痛いな…」

トレーナーにも聞こえない声でぽつりと本音が出る。

 

 

 

 

 

 

…

「あっ!アスラーン!」

部室に入るとテイオーが真っ先に駆けつけた。

 

「病院行ったって聞いたよ!?脚大丈夫?具合悪くない?お注射痛くなかった!?」

「落ち着いて下さいよテイオーさん、一遍に聞かれても訳わからないですって!」

 

滅茶苦茶掛かっているテイオーをなだめすかせる。

 

「トレーナー、アスランは…」

ゴルシがそう口を開き、他のメンバーも心配そうに見つめる。

 

「…軽い怪我だ、1ヶ月程は休養だな。」

「そっか…」

「…大丈夫ですよみなさん!早めに分かっただけでもありがたい限りです。

長めの冬休みだと思いますよ。」

 

暗い空気になってきたので声をあげる。

ゴルシが「生意気だぞー!」と笑いながら頭をうりうりといじる。

少し空気が緩んだところでトレーナーの方を向く。

 

「それで今後のスケジュールはどうなりますか?

流石に若駒は回避でしょうけど…」

「色々悩んだんだが…しっかり休んでクラシックに備える期間にしたい。

休養を終えたらトレーニングで基礎力を底上げして…4月に復帰だな。」

「4月ということは…」

「ああ、皐月賞直行だ。幸いアスランはG3とG1を勝っているからな、皐月の選考でもれる心配はないし…秘策もあるからな。」

「秘策?」

「怪我した後で言うのもなんだが―」

 

トレーナーからその『秘策』を聞く。

 

 

 

 

…

「―というわけだ。療養中は仕方ないが、その後はレースがないからといってサボって良い訳でもない。むしろ重要な期間だ。分かったな?」

「はい!」

「…来年もよろしくな。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

トレーナーと固い握手を交わす。

 

「それで?アスランは休養期間はどうするの?」

スカーレットが俺とトレーナーに質問する。

 

「ちょっと悩んでるんですよね…寮が現実的ですけど同室の子(タイキスチーム)も実家に帰省しちゃうんで何かあったときに困りますし、忙しいフジ寮長を頼るわけにも…

かといって実家は親が共働きで年末年始は忙しくしてるのでちょっと…」

 

ここにきて療養場所の問題が出てくる。

怪我している以上誰かしらいる方が安心なのだが…

 

「…ごめんねアスラン。出来ればボクが面倒見てあげたいんだけど…年明けにウィンタードリームトロフィーがあるからちゃんと見れないんだ。」

「いえ、テイオーさんに頼り切るわけにも」

 

 

「なら、私が君の面倒を見てあげよう。」

 

声のした方を向くと、部室の入り口にシンボリルドルフが立っていた。

 

「ルドルフさん!?いつからそこに」

「君たちが秘策の話をしているところからだ。実に興味深い。」

そう言いながら中に入ってくる。

 

「怪我の事は聞いた。そして療養する場所に難儀しているようだな。

それなら我がシンボリの屋敷を使うと良い。

レーストラックやトレーニング施設にプール、専門の医療スタッフも常駐しているから療養にはちょうど良いだろう。」

にこやかに微笑みながら頭をなでる。

 

「い、いやルドルフさんにそこまでしてもらう訳には…」

「なに、遠慮は無用だ。君はテイオーの弟子…つまりは私の孫弟子だ。

後輩の面倒を見るのは先輩として当然の行いだ。」

「いえあのそうではなく…」

 

 

「…それぐらいにしておけ。『皇帝サマ』?」

 

今度はシリウスシンボリが入り口から入ってきて、俺の肩を抱く。

 

「こいつはあたしのお気に入りだ。シルバーブレッドたるこいつをむざむざあんたにくれてやるわけにはいかないな。」

「シリウス…冗談を言っている場合ではないぞ。怪我のことは聞いただろう。」

「ハッ、当然だ。だからあたしがこいつの面倒を見ると言っているのさ。

第一あんたも年明けのウィンタードリームトロフィーに出る身だろ?アスランと遊んでいる暇はあるのか?」

「心配無用。レースと後輩…どちらも大事だからこそ手元に置くと言っているのだ。」

「片手間で怪我した後輩の面倒をみるつもりか?」

「片手間とは片腹痛い。どちらも完璧にこなしてみせるさ。」

 

するとシリウスはハァとため息をついたかと思うと、ルドルフに詰め寄り耳打ちする。

 

「…少しは自分の立場ぐらいわきまえろよ。『公(・)正(・)公(・)平(・)』な『生(・)徒(・)会(・)長(・)サ(・)マ(・)』?」

 

シリウスの言葉を聞いたルドルフははっとした表情を見せたかと思うと、

非常に渋い顔をする。

 

そしてシリウスは「決まりだな」とどや顔をして、俺とトレーナーを向く。

 

「と、いうわけだ。アスランはうちで預かる。

文句はないな?」

「あ、ああ。アスランがいいなら…」

「…どうせ断ってもごり押ししてくるのが目に見えてますんでもう好きにして下さい。

しばらくお世話になります。」

 

こ、このブルジョアどもめ…!

…まあいいか

正直ちょっと気になるし。

 

「…仕方ない。今回は退こう。

だが様子は見に行っても良いだろう?

幸いレース会場は中山だ。レース前に顔を出すぐらい訳はない。」

「誰がお前のいる『千(・)葉(・)の(・)本(・)邸(・)』に行くっつったよ。それじゃ意味ないだろうが。

アスランは『岩(・)手(・)の(・)別(・)邸(・)』に連れて行く。」

「」

「じゃ、アスラン。明日の朝学園前に車を用意させるからそれに乗ってくれ。」

「えー。いーなーアスラン。

シリウスシリウス!ボクも連れてってー!」

「お前もレースに出る身だろうが…

大人しく皇帝サマと遊んでな。」

「ケチー!」

 

 

シリウスがすっかりスピカ面子とわいわい話しているなか、

ルドルフは棒立ちするほかなかった。




没ネタ

ルドルフ「や!ルナもアスランと遊ぶの!」
シリウス「ええい幼児退行すんな!めんどくせぇ!」

テイオー「カイチョーがこわれちゃった」
アスラン「お労しや会長…」
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