芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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名門たる軸

岩手県洋野町(旧種市町)

 

彼方に太平洋が望める丘の上に、シンボリ家の別邸がそびえていた。

 

「ようこそお越しくださいました。シリウスお嬢様。」

「悪いな、大晦日に手間かけちまって。

こいつが例の後輩だ。」

「サクラアスラン様ですね。お話は伺っております。

私はこの別邸を管理しております執事でございます。」

 

執事と名乗る身なりの良い初老の男性が頭を下げるのと同時に後ろのメイドさん達もお辞儀する。

メイドといってもアキバとかにいるメイド喫茶の様なものではなく、

地味な色合いのメイド服を着たおばさま達…

『超品の良いハウスキーパーさん』と表現するのが適当か。

 

そして目の前にそびえるバロック様式のお屋敷…

 

…すみませんどこのテーマパークでしょうか???

 

「ちなみに本邸はこの倍はあるぞ?」

「カネモチコワイ」

 

 

 

執事とシリウスの先導で屋敷内を案内…の前に医療スタッフの元へ連れられ、改めて検査される。

沖野トレーナーとビデオ通話を繋ぎ、スタッフも交えて療養中のトレーニングメニューを組み立てた。

そしてやたら広い屋敷内を案内してもらったり、

怪我を心配した両親から連絡があり、シンボリ家にいると伝えるとひっくり返ったりと…

 

なんやかんやで一瞬で日が暮れた。

 

「どうだ?別邸は。」

「凄すぎて疲れました。

流石名門というかなんというか…」

 

俺のくたびれた返事を聞くとシリウスがハッと笑う。

 

「初日はこんなもんさ。じき慣れる。」

ちらりと時計に目を移したかと思うと「まだ夕食まで時間あるな」と呟く。

 

「アスラン。最後に案内したいとこがある。ついてくるか?」

 

 

 

 

 

 

『資料室』と書かれた重厚なドアのカギを開け、シリウスに続いて入る。

壁際のスイッチを押し、電気を付ける。

 

「…おぉ…」

思わず感嘆の声が出る。

 

そこにあったのはフランス・イギリス・イタリア・ドイツなど…

欧州各地を転戦し続けたシリウスの写真や現地の新聞。

 

『競技ウマ娘 シリウスシンボリ』の功績の数々が所狭しと並んでいた。

 

「このあたりは全部本邸にあったんだがな、皇帝サマが7冠なんぞ取るもんだから向こうじゃ収まり切らなくなったってもんだ。」

シリウスが苦笑いしながらトロフィーを手に取る。

 

数多くの写真や資料に圧倒されていると、1枚の写真が目に入る。

 

『Prix de l'Arc de Triomphe』

 

「…凱旋門賞…!?」

 

写真には暗い顔をするシリウスと、シリウスの肩を抱くウマ娘が並んで写っており、隣の別の写真にはトロフィーを持ったウマ娘とシリウスが握手を交わす場面が写っていた。

 

…もしかしなくてもスピードシンボリとダンシングブレーヴかこれ???

 

「…ああ、凱旋門か。懐かしいな。」

釘付けになっていることに気付いたシリウスが額に入った写真を手に取る。

 

「日本ダービーをとってもいざ世界に出ればこの有様だ。

あたしが…いや、いかに日本が井の中の蛙かを思い知らされたもんだ。」

当時を思い出し、若干苦い顔を見せる。

 

そして写真を置き、こちらに顔を向け「アスラン」と問いかける。

 

「お前はさっき名門と言っていたな。

なにをもって名門と成すか分かるか?」

「…資産とか、伝統とかを色濃く残す家…ですか?」

「半分正解だ。それだけじゃ足りない。

 

あたし達シンボリやメジロなんかの『名門』にはある種のこだわり…

いわば『軸』がある。

 

例えば…そうだな。

それこそメジロ家なんかは、クラシックレースよりも天皇賞(盾の栄誉)に重きを置くといった具合だな。」

「…では、シンボリ家の軸というのは…」

「あたし達シンボリの軸は、『先駆者』たることだ。

 

現当主が先陣を切って世界に挑んだように、あらゆる面において一番槍を務める。

それがシンボリの名家たる誇りだ。

 

たとえ今現在において評価されずとも、その獣道を通るものが増えれば、やがて大きな街道となる。

街道となって初めて、獣道を切り拓いた先駆者が、象徴として称えられるということだ。

 

…まああたしはばあさまの作った獣道とも言えない何かを踏み固めただけに過ぎないがな。」

 

シリウスは俺の肩に後ろから手を置く。

 

「お前はシンボリの者ではない。何を目指すかはお前次第だ。

だが…もしあたしの話を聞いて何か感じたんなら、遠慮無く頼って欲しい。」

「シリウスさん…」

 

振り返りシリウスの顔を見る。

 

「そうなれば皇帝サマへの煽りの幅も広がるってもんだ。」

感動を返せこの野郎。

 

「失礼します。お二方。

ご夕食の準備が出来ました。」

そう言って執事が資料室にやってきた。

 

「先行っててくれ。片付けてから行く。」

「分かりましたシリウスさん。」

 

執事の後に続いて資料室を後にした。

 

 

 

 

 

…一人残されたシリウスはバーデン大賞典の写真を手に取る。

 

「…ルドルフも、後に続いて欲しかったんだがな」

 

広い資料室にシリウスのつぶやきだけが残った。




ちなみに夕飯はおよそ洋風の部屋には似つかわしくない南部せんべい汁と年越しそばでした。

アスラン「あれ急に庶民的」
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