芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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出過ぎた杭 三人称視点

1月2日 水沢レース場

 

新年最初に行われるクラシック戦である『金杯』

ダート1600mのマイルであり、来年度の岩手3冠を占う試金石のレースでもある。

また、岩手をはじめとした雪国では通年でのレース開催が難しく、この三が日が終わると3月までレースが無くなる。

 

クラシックレースに弾みを付けるには是が非でも結果を出す必要がある。

 

その重要なレースにて、

 

『―真ん中を割ってレスキューホープ!レスキューホープが馬群を突っ切って先頭に躍り出た!

レスキューホープそのままゴールイン!

 

盛岡が誇る『岩手のオグリキャップ』!

ここ水沢でも無類の強さを見せつけました!』

 

レスキューホープは2着以下に5馬身差という圧勝劇を繰り広げた。

 

ホープはそのままスタンドの一角に駆け寄る。

 

「トレーナーさん!勝ちました!」

「あ、ああ。お疲れ。」

 

ホープのトレーナーである保科トレーナーは若干引きつった笑みで労いの言葉を贈る。

 

―狂ってる―

 

保科トレーナーは正直な感想としてそう思った。

 

 

今回の水沢レース場は先日の降雪の影響で不良馬場である。

雨ではなく雪によって水分を含んだダートは田んぼ並にぬかるみ、氷の様に冷たい。

 

脚質が差しであり、しかも連勝しているホープを警戒し、包囲網が組まれていた。

 

結果、四方八方から蹴り上がった泥を被ったホープは全身泥まみれであり、目に入った泥を拭った跡が顔に残っている。

いくらなんでもここまでくればやる気を失うのが普通だ。

 

しかしこの芦毛のウマ娘は違った。

 

前のウマ娘が蹴り上げる泥を被り、一瞬笑ったかと思うと、先行する子にゼロ距離まで近づきプレッシャーを掛けたのだ。

 

包囲網を組み精神的に優位だった他のウマ娘の心境は一転。

このような状況下で笑い、間隔を詰めまくる様子に本能的な恐怖を感じ、

気付けばモーゼの様に道が開け、ホープはそこを豪快に突っ切った…

 

(…こん子に恐怖心はないのか…!?)

 

保科トレーナーは目の前で年相応の可愛らしい笑みを浮かべる教え子に戦慄すら感じた。

 

「…た、頼むから危ない真似はしないでくんろ…

怪我するだけでなく怪我させるようなことになったら目も当てられないべさ…」

「は、はあ」

「とりあえずその格好だとライブできないからシャワー浴びてもよってげ(身支度しなさい)。」

 

そう言われたホープはシャワー室へ向かう。

更衣室のドアに手を掛けると中から声が漏れてくる。

 

「―だから言ったしょ。レスキューホープに小細工は通用しないって」

「んだんだ。あんな狂った走りにつきあって怪我するくらいなら勝たせてあげるのがマシべさ」

「…あんたら盛岡勢の言う通りだわ…」

「あれは強いじゃない。怖い」

「よくあんなバケモンと走れるべな」

「多少汚れるのは覚悟してたけどあいつ(ホープ)のスパートで全員泥まみれでうんた(いやだ)。」

「もう()は走るの嫌だよ…」

「どうせライブのダンス覚えても意味な―」

 

ガチャリとホープが中に入る。

 

中にいた全員はホープを目視すると会話を辞めそそくさと出て行く。

 

「…とじぇんこだ…」

寂しいとも退屈ともとれる岩手弁が漏れる。

 

ふとテーブルの上を見ると誰かが忘れていったスポーツ新聞がおいてある。

全国紙のため金杯の記述は少なく、1面には中央のレースが載っている。

その中に『サクラアスラン 岩手にて療養か』という見出しもあった。

 

(…中央って、どうやったら走れるのかな…)

 

出過ぎた杭は打たれない。

待ち受けるのは、引っこ抜かれるか根元から折られるかの2択である。

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