芝の獅子帝―サクラアスラン奮闘記   作:シェルト

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策士策におぼれる 三人称視点

3月4日 中山レース場

 

皐月賞の前哨戦として名高いG2弥生賞。

皐月賞と全く同じ条件でのレースであり、ミスターシービー・シンボリルドルフ・ディープインパクトなど、のちの3冠馬達もこの弥生賞からステップアップしていった。

 

 

(…よし。)

靴紐を結び直して気持ちを新たにし、1人のウマ娘が馬場に出る。

 

『最初に馬場に姿を現したのは6枠7番エイトガーランド!

グレードレースではいまだ勝ち星のない実力者が皐月賞を見据えて初制覇を目指します!』

 

チームカノープス所属のエイトガーランドは前走のG3きさらぎ賞では2着と好走しており、この弥生賞でも3番人気に推された。

 

(…アスランがいないのは好機だ。

この弥生賞で無冠の返上を…!)

 

静かに闘志を燃やしながら返しウマに入る。

数瞬たったのち、スタンドからワッと歓声が上がりエイトが振り返る。

 

『そして先日の共同通信杯にて劇的な勝利を収めた『岩手のオグリキャップ』こと4枠4番レスキューホープ!

地元の期待を一身に背負った地方ウマ娘がこの弥生賞でも駆け上がるか!』

 

共同通信杯にて圧勝劇を繰り広げたレスキューホープは地方所属ながら前走が評価され2番人気に推された。

ホープが馬場に出ると歓声はさらに大きくなる。

歓声に応える等の素振りは見せず、ただ黙って返しウマに入る。

 

「あっ!この前のサムライジャン!

おーい!!応援してるぞー!!」

「レッドさん…ちゃんと名前で呼んであげて下さいね…?」

 

エイトを応援しに来た南坂トレーナー達カノープスのメンバーも声を上げる。

南坂トレーナーはレスキューホープをじっと見つめ観察する。

 

(…川崎や前走に比べると少し走りに力がないように見受けられますが…緊張しているのでしょうか…?

何にせよ…勝てない相手ではありません。

頼みましたよ、エイトさん!)

 

 

 

 

 

 

『お待たせしました。中山レース場本日のメインレース。

中山第11R 弥生賞G2 出走の時刻となりました。

皐月賞と同じ条件下で行われる前哨戦。

桜芽吹く弥生から新緑の皐月へ駒を進めるのはいったいどのウマか。注目の一戦です!』

 

ファンファーレが鳴り終わり、ゲート入りが進む。

サッと風が木々を揺らす。

 

『枠入り完了!スタートしました!』

 

一斉に横一列にスタートを切る。

 

 

『先頭を進むのは9番アイスナンバー、10番リトルウィングも追走。

1番パームポートと4番レスキューホープ、7番エイトガーランドは後方から。

1コーナー過ぎて2番イーストランドは大外から。

縦に大きく間延びした展開となっております。』

 

ガーランドはホープのすぐ後ろにつく。

ホープの一挙手一投足をつぶさに観察する。

 

(『後ろにつけば色々なことが分かる』

後追いになる差し・追込み勢の利点だ。

 

どこを見て、なにを判断して、どのように力をいれているのか…

見極めさせてもらう…!)

 

向こう正面に入り下り坂となり加速する子やまだ脚をためる子など駆け引きが繰り広げられる。

 

 

『3コーナー入って各バの動きが激しくなる。

内を突くのは6番アラビカカフェ、先頭は依然アイスナンバー!

注目のレスキューホープはまだ動かない!エイトガーランドも動かないか!』

 

 

ここで南坂トレーナーが気付く。

 

「まずい…、先頭との差が開き過ぎている!

ガーランドさん!もう追い上げなさい!

間に合いませんよ!!!」

 

 

当のエイトも分かってはいるが…

 

(…追い上げるか…?

いや、彼女(ホープ)が仕掛けるのを待つか?

でももう追い上げないと…

しかしまだ何か奥の手を忍ばせてるかも…)

 

ホープを警戒するあまり、頭の整理が出来ていなかった。

 

『さあ中山の直線に入った!

アラビカカフェが先頭に躍り出た!アイスナンバー食らいつく!』

 

ここでようやくガーランドは我に返り、仕掛けないホープには脇目も振らず猛スピードで追い上げる。

 

『外からエイトガーランド!エイトガーランドが飛んでくる!

飛んでくるが届かない!

勝ったのはアラビカカフェ!

 

アラビカカフェがホープフルの雪辱を果たしました!

2着にアイスナンバー、3着に末脚が炸裂したエイトガーランド。

勝ち時計2:02.3。上がり3F34.6。

確定までお待ちください!』

 

ああッ…とため息が出る

一つはスタンドから、もう一つはガーランドから漏れ出る。

 

(結局彼女は仕掛けなかったか…

私まで巻き添えを、

いや、ホープさんを責めるのはお門違いか…)

 

ガーランドは歯がみしながらライブの控え室へ向かった。

 

 

「なんだ、あの地方の子大したことないじゃないか」

「この前は偶然だ偶然」

「やっぱ中央の壁って高いんだなぁ…」

 

観客からも落胆の声があちらこちらから聞こえる。

 

「なんだなんだ!川崎ではホントに強かったジャン!

今回こそ偶々ジャン!」

 

観客に腹を立てるレッドを南坂トレーナーはなだめすかせる。

 

「これがレースというものです。予想通り、展開通りにはいかないのがレースです。」

「でも…」

「また次に会うホープさんは敗戦を経て強くなっているはずです。

また次に期待しましょう。

さ、ガーランドさんを労いに行きますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

他の子が引き上げて行く中、レスキューホープはコース端のラチに手を掛け、荒い息づかいを見せる。

 

「ホープ。ここにいては次のレースの邪魔になる。

ひとまず引き上げるべ。」

 

見かねた保科トレーナーが駆け寄り、肩を抱きかかえる。

 

「熱っ!?え、ちょ、ホープ?」

 

言い終わらないうちにホープはそのまま保科トレーナーにもたれかかる様に倒れ、気を失う。

 

「お、おい!ホープ!!!なじょしたんだべ!?!?

誰か!誰か来てくれ!!!」

 

狼狽する保科トレーナーと、一部始終を見ていた観客から悲鳴が上がる。

すぐさま職員と救護スタッフが駆けつけ、一時騒然となった。

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